小学校の先生へ、英語の授業で意識してもらいたいこと

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作成者:野口 早紀 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は2021年6月7日に行った、愛知県立大学の池田周先生へのインタビューを記事にしたものです。
平成29年告示の新学習指導要領によって実施されている小学校の新課程の外国語教育では、中学年に「外国語活動」、高学年に教科としての「外国語」が導入されました。
その中で新たに注目されている、「目的・場面・状況等」を設定した言語活動を通してコミュニケーションを図る資質・能力を育成する授業実践などについて池田先生にお話を伺いました。

2 先生の研究内容について ~読み書き習得に必要な「音韻認識」の発達~

私は学生時代から「読むということ」に関心がありました。英語教育を専攻するようになって、しばらくは「英語でテキストを読んで理解するとはどういうことか」、「どのような状態になったら読んで理解したと言えるのか」について学んでいました。つまり「読むこと」の結果に視点がありました。しかし、そのうち「そもそも英語で文や文章が読めるようになるのは、どのようなステップが必要なのか」という「読むこと」の始まりに関心が移ってきました。そのまさに最初の段階として注目したのが文字も扱わない段階である「音韻認識」の発達でした。
音韻認識とは「単語の音韻的内部構造への感受性」のことです。分かりやすく言えば、「音韻認識が発達している」人は、「単語が、さまざまな大きさの単位の音に分割できることが分かっている」、さらに「単語をより小さな音の単位に区切る」ことができます。例えば、日本語で「さかな」という単語を聞くと、日本語を話す私たちは、これが「さ」、「か」、「な」の3つの音に分割できると理解できます。そして、それぞれの音が「さ」、「か」、「な」という文字に対応しています。つまり日本語では、基本的に一つの仮名文字が一つの音に対応しています。英語の場合も、例えば "fish" という単語を聞いて、 [f]、[i]、[ʃ] という3つの音に分割し、それぞれの音が対応する文字を知ることで、単語の綴りを見て発音したり、書いたりすることができるようになります。しかし英語では、日本語のように一つの音が一つの文字に対応するのではなく、[ʃ] がshという二つの文字で表されることや、listenという単語のtのように発音されない文字もあります。こうした日本語とは異なる「音と文字の対応の複雑さ」が、英語の読み書き習得が困難である要因の一つになっています。
子どもたちが英語と初めて出会い、自分の慣れ親しんだ音を手がかりに聞こえた言葉を認識したり、綴りを見て自分で発音できたりするようになる。その過程の中に「音韻認識を発達させる」という一つのステップがあると考えています。このように、日本語を母語とする子どもたちが英語の読み書きを習得する過程で困難となる要因は何かを考えながら、できる限りその初期段階、つまり文字学習以前の段階で、どのような手立てを講じながら指導を行えば良いのかについて研究しています。今は特に、小学校英語教育で文字学習に入る前に、「音声言語を聞いて音を様々な単位で区切る」技能を発達させる段階が必要であることを、学校現場の先生方にお伝えしています。

3 各学年への英語指導に求められる工夫

◆「目的・場面・状況等」を設定して「思考、判断、表現」を促し、まとまったフレーズとして英文を理解し使えるようになる

まず小学校英語教育では、子どもたちの身近な世界に寄り添いながら、学んだ表現を使ってどのような内容を伝えることが期待されるかを子ども自身が理解している状態を目指すことが重要です。そのためには具体的な「目的・場面・状況等」を明確に設定し、先生と子どもたち相互でしっかりと理解することが求められます。
例えば、初めて会った友だちに「自分のことをよく知ってもらうために」英語で自己紹介するという設定では、子どもたちは「どのようなことを伝えれば、自分のことが印象に残るかな?」と考えながら内容を考え、自分の知っている英語表現をフル活用して伝えようとするでしょう。また、「初めて日本を訪れる」「日本の自然に関心がある」外国人向けに自分の町のおすすめスポットを紹介するという設定であれば、自分の町の自然豊かで日本らしい場所を考え、それについて調べてまとめたりします。単に新たに習った英語の語句や表現を用いて機械的な対話をするのではなく、意味のあるやりとりの中で子どもたちが「思考、判断、表現」しながら英語を使うことが期待できます。
また、英文を細かく分析せずに、まとまったフレーズとして理解させることも重要です。
例えば夏休み明けの授業の初めに、夏の思い出を話したりして状況を設定しておけば、先生が"I went to the mountain."というのを聞いて、子どもたちは「先生は山に行く」ではなく「山に行ったのだな」と理解できます。went toが過去形であるとか、現在形はgo toであるといった細かな解読はしません。過去の話をしている状況の中で 、“I went to ~.” というまとまりを何度も聞いたり言ったりしながら、これが「~に行った」ということを表すのだと理解して使えることが小学校で目指すべき学びです。
「目的・場面・状況等」を先生が提示することで、場面に合わせたまとまったフレーズの意味や使い方をイメージしやすくなります。そして自分が知っている表現を組み合わせたりして、より「目的・場面・状況等」に合う内容を子ども自身が思考して伝えられるようになることを、小学校の英語教育でも大切にしています。

①中学年への英語指導の工夫

中学年「外国語活動」において一番大切なことは、先生自身が英語を楽しんで学んでいる様子を子どもたちに示すことだと思います。先生は、子どもたちにとって「英語学習の先輩、モデル」です。たとえ苦手であろうと楽しんで英語を話している、そのような先生の積極的な姿を見せてあげてほしいです。そうすることで、周りの目が気になってなかなか外国語活動に積極的に取り組もうとしない子どもも、先生の姿を見て、英語に関心が向くこともあるのだと思います。また、中学年の英語の学びは今後の子どもたちの英語学習において素地となるので、ぜひ英語を使った授業をしてみてください。
そうはいっても子どもたちに理解できる英語の語句や表現は限られています。中学年の段階では、プリントを配付するときに “Here you are.”、子どもたちの注意を引くときに “Listen to me.” “Are you ready?” など、繰り返し何度も用いられるクラスルームイングリッシュ(授業運営のための英語表現)のように簡単な表現から始めることで構いません。
新しい小学校の教職課程では「外国語の指導法」の科目が必修になりました。旧課程では、設置したとしても選択科目だった科目ですので、以前は「自分たちは教職課程で外国語の教え方を学んでいない」とおっしゃる先生方もいらっしゃいました。これを考慮して、これまで新学習指導要領の移行期間も含めて、多くの教員研修が行われてきました。最近では、英語の授業に一生懸命取り組んでくださる先生方も増え、嬉しく思っています。同時に、新しい教職課程で学ばれた先生方には、身に付けた指導法や英語力を活かした指導を行っていただきたいと期待しています。さらに、小学生の英語の学び方や発達段階を考慮すると、子どもたちの学校での学びや生活の様子を幅広く理解しておられる担任の先生方の指導の意義が、特に中学年では大きいと個人的には感じています。その一方でALTや専科指導教員の先生方、担任の先生方がそれぞれの長所を生かしながら子どもたちの英語の学びに関わっていくことで得られる成果も大きいと考えています。

②高学年への英語指導の工夫

小学校の英語の授業について、「英語の授業はとにかく楽しめるものでなくてはならない」とか、「子どもが英語嫌いにならないようにしなくては」とおっしゃる先生方は多いです。確かに私自身も、中学校入学時に “I don’t like English.” と自己紹介する生徒を生み出すような状況は残念ですし、避けねばならないと思うのですが、それでも高学年では「外国語」は教科の一つであり、他の教科と同様に観点別評価も行われることを意識しなくてはならないと考えています。英語嫌いを作りたくないから単純で楽しい活動やゲームばかりするのではなく、一つの教科として、学習指導要領の求める内容の定着を目指す必要があります。つまり「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性」の三つの観点から、外国語という教科で育成を目指す資質・能力をしっかりと育んでいくことが求められています。
また、小学校の授業は1時間当たり45分です。先生方にはこの限られた時間の中で、どれだけ子どもたちに積極的に思考し、英語で表現させるかということを意識していただきたいです。つまり、先生側の発話や問いかけに明確な意図をもたせつつ、今まで以上に積極的に子どもの学びに関与する必要があるということです。
先生が支援として提示した視点が子どもたち自身の考える力を引き出し、それを生かしてさらに学びが深まり、自律した学習者として成長していくというサイクルが学びの核であると思います。そのためにも個に応じた学びや支援を行う必要があります。皆一様に同じことをするのではなく、一生懸命アンテナをはって、子どもたち一人一人の学習状況に応じた支援やフィードバックをしていただきたいです。
しかしクラスの人数が多い場合、1時間の授業の中で個に応じた支援を講じるのは難しくなります。そこで、2〜3時間かけて子どもたち全体を見渡すようにしてはどうですか、と先生方にお伝えしています。それと同時に、何かサインを出している子は見落とさないように、先生側は授業中にたくさんの情報をキャッチするために、アンテナをしっかりと張っておくことが求められるのです

③観点別学習評価について

◆「知識・技能」の観点では、まとまった文として理解し、表現できているかを評価する

小学校英語教育では、まとまった文として英語の表現を導入することが非常に大事という話を先ほどしました。中学校で文法事項として分類されている過去形や現在進行形などは、小学校ではまとまりのある表現をまとまった文を構成する一つの要素なのです。小学校英語教育で文法事項を扱わないのは、一つの表現を文法的に解読し、説明して規則化するのではなく、状況設定がある中でまとまりとして音声で慣れ親しんだ表現をそのまま理解して使うことが目的だからです。
そのため、小学校高学年「外国語」で「知識・技能」の評価を行うときは、その単元の中で何度も繰り返して音声で慣れ親しみ、聞いたり言ったりした表現を「まとまりとして」使いながら実際にコミュニケーションを取っているかを見取らねればなりません。例えば、“What color do you like?”と尋ねられて、”Blue.”と答えるのは簡単ですよね。しかしそうではなく、日本語で「私は青色が好きです。」ときちんとした表現で答えるように、“I like blue.”というまとまりで答えられているか、という点に注目してほしいです。

◆「思考・判断・表現」の観点では、「目的・場面・状況等」に応じた言語運用を評価する

言語活動における「目的・場面・状況等」の設定の意義と必要性については先に述べましたが、評価においても、それらに応じた言語運用が適切に行われているかを評価します。しかし小学校段階で扱う語句や表現、さらに子どもたちの発達段階を考慮しても、複雑かつ高度な「目的・場面・状況等」の設定は現実的ではありません。「~するためには、どんなことを伝えればよいかな」、「~だから、どうすれば相手に分かりやすく伝わるかな」、「(自分が知っている)どんな表現で伝えられるかな」、「(視覚情報をもとに)~という意味かな」などと、子どもたちが様々に考えるための支援を先生が適切に提示し、その様子を見取っていくことが大切です。

◆「主体性」の観点では、「粘り強い取組」と「学習調整」の二つの側面から評価する

「主体性」の観点の評価方法です。積極的に学ぼうとしている、粘り強く学びに取り組んでいるという側面からだけでなく、今自分が目標に対してどのくらいまで達成できているのか、目標に向けてどのように学びを調整しようとしているかという側面からも評価することが必要です。目に見えて分かる積極性だけにとらわれず、その先の学びまで評価します。こうすることで、子どもたち自身も学びを継続する自律性を身に付けていくことができるのだと思います。

4 文法学習の意義と中学校への学びの接続

中学校英語科の先生方には、小学校での英語の学びがどのようなものかをまず知っていただきたいです。子どもたちは音声での慣れ親しみや、文としてのまとまりで表現を学んできているので、文を分解することもしませんし、過去形の概念や機能なども知りません。例えば “I went to Italy. It was fun.” と言えたとしても、文法規則に従って文を作っていることとは全く違います。既に子どもたちが音声で慣れ親しんでいる表現の中に規則性があることに気づかせ、それを整理していく指導をするのが中学校英語科の役割です。

また、小学校がまとまりのある表現に音声から慣れ親しむのに対し、中学校では文法構造や規則などについて明示的、体系的に学ぶようになります。ここで、文法規則を知識として学ぶことの目的を考えてみましょう。そもそも文法を学ぶ目的とは、私たちがクリエイティブ、つまり「創造的に」に文章を作れるようになることです。日本語母語話者は、自分や相手の話した日本語に対して、文法規則に合っていない部分があったとしても、文全体として意味が通じれば、違和感を抱くことはあまりないでしょう。また、これまで一度も口にしたことのない表現を産出するとしても、それが母語である日本語であれば、聞き手にきっと伝わると自信をもつこともできるでしょう。しかし日本語を母語とする英語学習者が英語を話す際は、自分の発話の意味が相手に正しく伝わっていないように感じてしまうことがあるのではないでしょうか。しかし文法規則を知っていて、それに従って、自分の伝えたいことを表わす文を組み立てれば、自信をもって発することができるようになります。母語習得では、大量のインプットがあるため、文を産出するための規則性を何となく習得していきます。しかし英語のような外国語ではそれが難しいため、意識的かつ明示的に規則性を「文法事項」として身に付けることによって、自分が表したいことを適切に表現できるようになります。小学校で文をまとまりとして分解せずに慣れ親しんできた子どもたちは、英語の表現に含まれる規則性を知識として学ぶことに意味が見出せないことがあるかもしれません。
だからこそ、子どもたちが何か新しく規則を学んだときは、その規則を「文字で読む」という一つの領域だけでなく、聞いたり、話したり、書いたりなど様々な場面で実際に応用してみる経験を多く積ませることが大切です。

5 全国の先生方へのメッセージ

小学校の外国語教育、特に中学年「外国語活動」を引き継ぐ高学年「外国語」はまだ始まったばかりで、何が正しくて何が間違っているかはまだ分からない、生まれたばかりの教科です。その歴史を今から皆さんが作っていくことになります。学習指導要領や研修から得た知識や技能を発揮して、思い切った授業をしていただきたいです。その時に大切なのは、小学校では小学校外国語教育で求められていることを、しっかりと具体化するということです。音声による十分な慣れ親しみから始まり、コミュニケーションの基礎となる資質・能力を育成します。そこから先はしっかりと中学校英語科の先生方が引き継いでくださいます。ですから小学校では安心してここまで述べてきた「小学校の英語の学び」を実現していただきたいと思います。

6 プロフィール

 池田 周(いけだ ちか)
ウォーリック大学大学院博士課程修了。現在は愛知県立大学外国語学部教授。小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。
日本語を母語とする英語学習者の音韻認識発達から読み書き技能の習得を中心に、外国語教育の小中接続や指導のあり方について研究している。(2021年8月2日時点のものです。)

7 編集後記

 私自身とても興味のあった小学校英語の授業について、授業内で意識するべきことを詳しく教えていただきました。この記事が小学生の先生だけではなく、英語教育に関心のある様々な方に参考になることを願っております。

(編集・文責 EDUPEDIA編集部 野口早紀)

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