全ての子どもが安心して学べる学校を目指して / 教育技術×EDUPEDIA スペシャルインタビュー | EDUPEDIA

映画「みんなの学校」に登場し、不登校ゼロの公立小学校として全国から注目を集める大阪市立大空小学校。その初代校長である木村泰子先生に、みんなが安心して学べる学校づくりについてお話を伺いました。

なお、本企画は小学館発行の教育誌『教育技術』とのコラボ企画となっております。『小一教育技術』~『小六教育技術』10月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。

——大空小学校はインクルーシブ教育の観点から高く評価されていますが、どのような学校なのでしょうか?

大空小学校(以下、大空小)では、障害のある子が特別な場所で特別な支援を受けることよりも、日常的にみんなと学び合うことの意義の方が大きいと考えています。

また、大空小は「自分のクラスはこのクラスだから自分1人で見なくてはならない」という教員のおごりは捨てている学校です。「先生が担当している子どもは何人ですか?」と聞くと、普通は「30人です」と1クラスの人数が返ってきますが、大空小学校の教員からは「260人です」と全校生徒の人数が返ってきます。教員たちの間では、「1人の子どもを全ての教職員で見る」ことが共通認識になっています。

——私も小学校に教育実習に行ったのですが、その時に教室の外に飛びだして行ってしまう子がいました。先生はその子を追いかけて走って行ってしまって、私1人で困惑した経験があります。多くの学校では教師1人でクラスを持っているため、そのような時に困ってしまうと思います……。

今の教育現場の大きな課題ですね。例えばそうやって出ていく子を先生が追いかける。追いかけていく間は授業が遅れ、クラスがぐちゃぐちゃになる。そうすると子どもが家に帰って「あの子のせいで授業が遅れた」と親に言いますよね。当然親も心配になって「先生どうなんですか」と言ってくる。

その結果、教室から逃げていく子どもを「排除」しがちになります。大空小学校では、しょっちゅう教室から子どもが出ていきますが、その時「教室から出ていく子が良くない」と言えば、この子に対する周りの見方に、差別と偏見を教えていることになります。

そこで「出ていく子どもが悪い」と決めつけないことが大切。「なんで出ていったのかな?」とみんなで安心して相談すればいいのです。子どもが出ていく原因を作っているのは“教員”です。私が授業をしていた時にも子どもが出ていきました。その時周りの子どもに「あーやっぱりなあ。先生ここまで良かったけど、あそこでこれやったでしょう? だからあの子は我慢できなくて出ていったんだよ」と言われました。私が「分かってるんだったら、もっと早く言ってよ(笑)」とその子に言うと、「いやまさか、本当に出ていくなんて思わなかった」と返されました。こういう会話が自然に教室内で生まれれば、その出ていった子は厄介者ではないですよね。

この子のおかげで自分自身(教員)と周りの子どもたちはその子について一生懸命考えることができた。こうしてクラスの雰囲気や授業のやり方が変わる。その子はまさしく“教員を変える学びのリーダー”だと言えます。

木村先生
教室は、全ての子どもが安心して学びを保障される場です

そんな風に考えていったら、教師ができることは「自分の授業をどう変えるか」なんです。自分の授業を変えないで、先生の言うことを聞くのは当たり前だと思う教師がいればいるほど、“ユニバーサル”とか“インクルージョン”は成立しません。これでは、子どもたちに教師1人の価値観を押し付けて、「このスーツケースの中から出たらダメです」と言っていることになる。

しかし、「自分がその子の立ち場になったらどうだろう」と考えること、「人として自分がされたらいやなことをしない」ことは、人として当然のこと。だから、そんな風に「なんであの子は出ていったのかな?」「なんでいやだったのかな?」と常に出ていった子から学ぼうとする周りの空気があれば、「排除」には繋がらない。そういう空気が育てば育つほど、出て行った子もちゃんと落ち着いて帰ってきます。

そうは言っても、やっぱり子どもの中に教室にいてしんどくなる子はいます。もしクラスに30人子どもがいたら、30人全員が満足する授業なんて簡単にはできない。だから教室から出ていく子がいても、担任はダメではない。出ていく子がいることは当然起こり得る、想定内の出来事なんですよ。この想定内の出来事にどう落ち着いて、互いに良い空気をつくるかが大切です。

その答えは、担任が1人で勝負しない学級をつくっていくことです。子どもが教室から出ていったときに「○○さん出ていきました」という連絡を職員室に入れたらそれで大丈夫なんですよ。例えばAくんが教室を出て図書館に行ったとします。図書館の中では地域の方が本の整理をしてくれている。その方が「一緒に本読む?」とAくんに声をかけ、2人麗しく読み聞かせをしている。そのうちチャイムがなったらAくんは教室に戻って来る。これがその子の“自分で選択したクールダウンの仕方”なんです。

こういうことが自然にできる学校現場であれば、全ての子どもが安心して学びの場を保障されると思います。「子どもが出ていくのは自分の力不足なんじゃないか」と不安に思う教員、「担任の力がないから子どもが出ていったんだ」と思う校長や周りの教員、両方とも間違いです。そこの価値観をまず変えていかなければなりません。

——地域の方のサポートのお話がありましたが、地域の方とは密に連携をとっているのでしょうか?

はい。子どもが安心して互いに学び合える環境を、地域の方と一緒につくっています。大空小では、地域の方が学校内にいることが特別ではないというエピソードがあります。映画の撮影カメラマンのお話ですが、撮影の際、カメラマンは自尊感情を砕かれたそうです。普段小学校などで撮影をしようとするものなら、子どもたちはカメラに興味津々で興奮しますが、大空小の子どもたちは普段から様々な人が出入りすることに慣れているので、カメラが「異物」にならなかったのです。

子どもたちはカメラの前で、ありのままの姿で映っています。撮影は40分のテープが600本撮られ、その中から真鍋監督の最も心が動いた部分が集められ、映画「みんなの学校」が出来上がりました。

——では、保護者の方々の理解を得るためには、どのような工夫がありますか?

学校の中でどれだけトラブルを経験したか、それをどれだけ学びに変えられたかが、子どもがこれからの社会で生きていく力を獲得できるかどうかを決めます。トラブルを学びに変えるサポートをするために教師がいるのです。

そのために、大空小ではトラブルが起きた時に、教師はどちらの子が悪いとジャッジをせず、子どもの話をよく聴きます。そこで大切なのが、子どものことを分かったつもりにならないことです。子どものことは分かって当たり前だと思って教師になると、自分の価値観に当てはまらない子どもを受け入れられなくなってしまいます。

しかし、教師自身が、「自分には子どものこと全ては分からない」と言うことを知っていれば、目の前の子を理解しようとしますよね。そのような思いで子どもと接することができれば子どもたちは安心して、先生を信頼し始めます。子どもが先生のことを信頼したら、保護者からのクレームもなくなります。

木村先生の写真
インクルーシブ教育は学校全体で行う。1人で抱え込まないことが大事。

——インクルーシブ教育を行う上で、他に大切なことはありますか?

まずは担任の先生が、子どもが暴れることがダメなのではなくて「どうすれば暴れない授業ができるか」、「自分をどう変えていくか」を考えること。ただ、1人では難しいので教室に色々な人が入れ替わり立ち代わり入っていくことが必要です。教科担任制という形はとっていませんが、あるクラスの授業を一日中同じ先生が教えることは無いようにしています。例えば、4年生のこの学級がしんどいとなったら「6時間6人先生を変える」といった実践をしています。みんなが授業の中にどんどん入っていくのです。

間違えてはいけないのは、学校現場は教師の授業力を向上させるためにあるのではなく、子どもが育つためにあるということです。教員も自分の得意なことをどんどん生かしていくことが必要です。例えば、音読の苦手な先生が自分のクラスの授業を校長先生に任せて、音読が上手な先生の授業に参加して子どもと一緒に学ぶ、ということがフリーにできるようにしています。教員が各々の得意なことをみんなの分までやれば、苦手なことを他の得意な人がやってくれている間にやりたいことができて、それをまたみんなに還元することができます。そうしていくことが、結果的には1人の子どもに対して学校がチームとして関わることに繋がるのです。

また、担任以外の教員や地域の人たちなど、価値観の違う大人がフリーで現場に入ることで、1人1人の子どもが安心して互いに学び合える環境を作り出す。これが「チーム大空小学校」です。

——そのような体制の中でも、「ミスしちゃいけない」「周りを困らせたくない」、と思い、1人で抱え込まれることもあると思います。また、「クラスは自分でつくっていくんだ」と考える方もいらっしゃるかもしれません。そのような先生方に対して、木村先生はどのように関わっていたのでしょうか?

自分だけで上手にクラスづくりをして学級王国をつくりたい人は、みなさん大空小の体制に反対します。自分のクラスだけうまくいって、周りから「あの先生は良い先生や」と言われると、保護者の評価も上がるじゃないですか。そのようなスペシャルティーチャーがスペシャルであるためには、子どもがみんなその先生の価値観の中に入っていないといけない。でも、それは子どもの将来にとって大事なことじゃないと思います。

大空小では、何か問題があった時に、先生が1人で解決することはありません。例えば、私が廊下で何か揉め事に出合って、私だけが解決の現場を見ても、本当にそれで解決したのか判断する自信がありません。だから、その後に職員室で「こんなことがあってん。」と報告すると、「じゃあ、私がみてきます。」と言って、別の先生がまた話を聞きに行きます。そして戻ってきたら「行って良かったです。校長先生の悪口たくさん言ってましたよ。」と言ってくれます。そして、校長室でやり直しをするのです。

このような体制に最初は疑問を持っていた先生も、子どもが育つ事実を見ていく中で、考え方が変わっていきます。

——校長室の「やり直し」について、教えてもらえますか?

大空小学校には「自分がされて嫌なことは、人にしない、言わない」という、たった1つの約束があります。もしその約束を破った子がいたら、後に待っているのは説教でも罰でもない。校長室で自分のために、「やり直し」をするだけです。

その時に、校長先生を満足させたり、悪いことを言った相手を安心させるための解決の仕方は、やった本人の力にはつながりません。やってしまった本人が「自分がされて嫌やからやめる」と、自分のためにやり直すことが大切なんです。それが、やられた相手も一番安心するでしょう。こういう関わりを、みんなで丁寧にやっていこうとしているだけです。普通の学校ですよ。

このようなチーム学校ができている理由は何かというと、「自分1人では絶対にまともな仕事ができない」ということを全員が認識していることでしょう。

——誰か特別な力を持った先生が活躍するのではなく、1人1人の先生方が自分のできることで、子どもと丁寧に関わっていらっしゃるんですね。最後に現場の先生方や、これから先生を目指す方へ向けてメッセージをお願いします。

私たち教師の仕事は、「良い先生になること」ではありません。どんな個性や特性を持っていても、全ての子どもが安心して学校で学べる場を保証する。学力保障ではなく、学習権の保障です。そして、そのためには手段を選ばず、困っている子に対して必要なサポートが出来るように柔軟な体制をつくっていく。また、子どもに学んでほしいと思うならば、何よりも先生が学びの達人になることが大切です。

全ての子どもの学習権を保証する。学びの達人になる。これが教師の仕事です。

取材/編集:EDUPEDIA(大和・石橋・野口・加藤)

木村泰子

大阪市立大空小学校初代校長。

「みんながつくる みんなの学校」を合い言葉に、すべての子どもを多方面から見つめ、全教職員のチーム力で「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことに情熱を注ぐ。

学校を外に開き、教職員と子どもとともに地域の人々の協力を経て学校運営にあたるほか、特別な支援を必要とされる子どもも同じ教室でともに学び、育ち合う教育を具現化した。

2015年春、45年間の教職歴をもって退職。現在は全国各地で講演活動・取材対応などでご活躍。

木村先生の著書

大空小の子どもたちと教職員、保護者、地域の人々が学び合い、成長していく感動の姿や、「みんなの学校」の手法を踏まえた、実践的教育論などが紹介されています。

ぜひご覧ください。

『小一教育技術』~『小六教育技術』10月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。

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