7月号 ステップ1
通信簿を見て思わず涙を流すお母さん・・・
親子の励みになる通信簿を渡すのが担任の役目です
初任者の担任が個別懇談で保護者に通信簿を渡しました。
D君のお母さんです。
D君のお母さんは通信簿を開き、無言・・そしてうつ向いて、ハラハラと涙をこぼされました。
「先生、うちの子には、よい所は一つもなかったのでしょうか?」
確かにD君は学習面でも「努力しよう」のつかない教科はありませんでした。
生活面でも目立たない子でした。
通信簿にも、それがはっきりと出ていて、せめて一つぐらいは・・というお母さんの願いは、かなわなかったのです。
担任は、お母さんの悲しそうな涙に驚き、とっさにフォローする言葉、D君をほめる言葉を言いましたが、言葉はその場で消えていきます。
通信簿はずっと消えません。
ずっと残ります。
お母さんは早々に帰って行かれました。
担任は正直に、ありのままを通信簿に表したつもりでした。
間違った評価はしていなかったつもりでした。
しかし、あまりにも配慮する「心」が足りなかったのです。
それは、D君もお母さんも、その通信簿を見て、
「なぁ、D男。次はがんばろな」
「うん、お母さん。ぼく、今度はがんばるわぁ」
という親子の会話に結びつく内容が、一つもなかったからです。
つまり、来学期への意欲喚起をうながすのが、通信簿の大切な役割だということを担任は忘れていました。
テストの点数がよくなかった子だって、たった一つでいいから、よかった所を伝える『親子が元気の出てくる通信簿』でなければ、通信簿をもらう値打ちがないということなのです。
それ以来、その担任は、所見の言葉に「心」を込めるようになりました。
学習面と生活面の具体的なよかった点を書き、最後に、その子を丸ごと(ざくっと)捉えた言葉を書くようになりました。
いつも、親子が元気の出てくるような所見の結びを心がけたのです。
たとえば、
「ていねいにじっくりとやれば、力を出すことができます。」
「ねばり強く取り組むぞという気持ちでやれば、よい結果がどんどん出せる子です。」
「あせらず落ち着いてやれば、きっと力を発揮できます。」
「こつこつと真面目に取り組んだことが、徐々によい結果につながってきました。」
「やればできるんだという自信を、いつも持ってほしいと思います。」
上記の通信簿の所見【親子が元気の出る「そのひと言」文例集139】(学習面64文、生活面75文)は、EDUPEDIAスタッフさんがエデュペディア5月24日の記事に掲載してくださっています。
所見に悩む先生方の、参考になる文例が1つでもあれば、幸いです。
7月号 ステップ2
子どもが突然キレて暴発してしまった時は
入り授業の後、教科書をビリビリ破り始めた子
理科の入り授業が終わったので、担任が教室へ戻ると、A君(高学年)が理科の教科書をビリビリと破り始めていました。
目はすわっていますが、涙もにじんでいます。
「何かイヤなことを言われたんか?A君が教科書を破るなんて、よっぽどや」
教科書を破っていることを頭ごなしにしかられず、優しく声をかけてもらって、A君は破る手を止め、涙をポロポロとこぼしました。
そして、泣きながら理科の先生に言われたことをしゃべりました。
A君に非があり、理科の先生に注意されたことがわかりました。
その頃、友達関係で過敏な状態になっていたA君には、理科の先生の言葉は、一方的に責められているとしか受けとめられなかったのです。
担任は、A君には、理科の先生がA君のことを心配して注意してくださったことを話しながら、三分の一ほど破れた教科書を預かりました。
理科の先生には、A君の現状を伝えていなかったことをわびて、配慮をお願いしました。
翌日の朝、登校して来たA君に、セロテープでベタベタに修理した教科書を手渡すと、A君はにっこりと受け取りました。
「先生、ありがとう。もう破らへん。大事に使うわぁ」
いきなり90点のテスト用紙を破り捨てた子
算数のテスト返しの時間でした。
順番に名前を呼びながらテストを返していきました。
すると、B君(高学年)が突然テストをビリビリに破ってしまいました。
B君の目は真っ赤です。あっという間の出来事です。
B君のテストは90点でした。B君に訳を聞くと、
「お母さんが100点とらな、おこらはるもん」
と大きな声でわめきました。
学級のみんなも聞いています。
90点以下の子がほとんどです。
担任は、わざとみんなの前でB君をしかりました。
「B君が一所懸命がんばったことに値打ちがあるんや。結果が何点でも、また次がんばったらええんや。100点しか認めへんお母さんが間違ってはる。今日の夕方、家へ行って、先生がお母さんをしかったるさかい、もう泣かんとき」
担任もでっかい声で一気に言ってから、クラスのみんなに言いました。
「みんなも、親にそんなこと言われたら、先生が親をしかったるさかいな。自分が一所 懸命がんばったテストや。破ったらあかんで。くやしかったら今度がんばったらええ」
すると、B君も落ち着いたのか、破ったテストを拾い集めながら言いました。
「先生、お母さんを家まで、しかりに来んといて。破らへんて約束するさかい」
後日、お母さんには結果だけでなく努力した過程を認めたってほしいとお願いしました。
7月号 ステップ3
担任が「困った子やな」と思うと、ほめる瞬間を見逃します
いつも「連絡帳なんかぜったいに書かない」と言っている子供が
C君(低学年)は、なかなかじっとしていません。
面倒な学習の時は走り回ります。
教室の外へも逃げます。
でも、教師が追いかけてくると、うれしそうな表情で逃げる子でした。
テストの時は仕方なさそうに机にべったりダラ~ンと、うつ伏せになります。わからないから、教師につきっきりで世話をやいてほしいのです。
昼休みは、友達と外で元気いっぱい遊べる子でした。
お母さんが忙しくて、来ることができない参観日は、さびしそうな表情を見せるE君でもありました。
発達検査が必要な子ではないのです。
クラス全体も落ち着かず、立ち歩く子が数名います。
担任の先生には、C君は「困った子」に思えてしまいました。
C君と担任との間に細くてもいいから何かつながりが出来てきたらよかったのですが、なかなかきっかけがつかめませんでした。
教務部からフリーの教師が交替で応援に入ることも増えてきました。
ある日のことです。
帰りの会です。
C君が、なんと連絡帳を書いているではありませんか。
応援に入っている教務部の教師はびっくりして、思わずC君のそばへ行き、
「C君、えらいなあ。連絡帳を書いてるやん。先生うれしいわぁ。」
と、頭をなでてあげました。
C君、とびっきりの笑顔です。
応援の教師はすぐに、教卓の所で、別の子の連絡帳に保護者への伝言を書いていた担任に知らせに行きました。
てっきり担任の先生もC君をほめてくださると思ったからです。
担任の先生はC君のそばへ行きました。
そして、声をかけました。
「C君、連絡帳書いてるの、めずらしいわね」
応援の教師はあ然として、絶句してしまいましたが、
「先生、ほめたってください」
とお願いしました。担任の先生は、
「かしこいね。やったら出来るやん」
としか言ってくれませんでした。
担任は無表情でした。
C君は知らんぷりをしていました。
この担任の先生は、細い糸でもいいから、C君の心と自分の心のつながりをたぐり寄せる、絶好のチャンスを逃してしまったのです。
応援に入った教師もフォローの仕方を間違えた、C君にすまないことをしたと反省しました。
応援に入る教師は、とりわけ気になる「困ってる子」と担任の先生との信頼関係を、再構築するお手伝いをするのが役割だと思うのですが、この担任の先生は「困った子」のお守り役と勘違いされていることが、わかりました。
7月号 ステップ4
安心感あふれる教室にするための「ひと言」
子ども1人ひとりの安心感が深まる時間と空間にするため、担任が大事にしたいこと
①子ども一人ひとりの、その時その時の気持ちをまず受けとめることから関わることを、基本としましょう。
「○○がくやしかったんやね」
「○○がつらかったんやね」
と担任が代弁してくれ、自分の気持ちをわかってもらえたと感じた時、子どもは担任の語りかけにも耳を傾けるようになります。
②子ども一人ひとりの自尊感情を高める関わり方を大切にしましょう。
「あなたがこの教室にいてくれてうれしいよ」
「きみが今日来てくれたことがうれしいで」
をベースにして、日々、子どもが自分は大事な存在だと思ってもらっているんだと感じられるようなメッセージを伝えることを、くり返します。
③スモールステップを与えて、ほめることを、授業中も掃除中も、いつも意識的に取り組みましょう。
「○を手伝って」「○をしてごらん」「○をたすけて」
→やりきらせる(少しでもやろうとしたら)→
「よくやったね」「すごいやん」「助かったわぁ」
の積み重ねによって、子どもの中に自信と意欲がじわじわと生まれてきます。
④子どもたちの瞳が輝くような、活動の導入をひと工夫しましょう。
「今日はね、こんなことをやるよ」
1人ひとりの目を見ながら、表情豊かに柔らかな口調で、静かに語りかけます。
「○○君、教科書とノート開けてね」→「かしこいやん」、
「○○さん、こっち見てね」→「うれしいな」、
「さあ、書いてごらん」→「すばやいなあ」
などと、できて当然のことでも、そう思わずに、ほめ言葉をかけながらです。
⑤自分を大切にするための最小限のルールは、その都度伝えましょう。
「ここまではOK」「これ以上はダメ」
という、どっしりと、ぶれない姿勢(目はつり上げないこと)を示します。
授業中なら、注意の言葉をかけるその子には、
「あなたが大好きだから言うよ」、
クラスのみんなには(これは必ず)、
「○○君一人に言っているんじゃない。きみたち全員に言っているんだよ」
と言い添えながら伝えることで、教室の仲間意識(クラスの一体感)を高めます。
⑥何故この子はこんな言動をするのだろう、何がこの子をそうさせるのだろうということを語り合い、今のこの子をどう観るのかを教師集団で共有しながら関わりましょう。
子どもの課題を、担任一人で抱え込まないことです。
もちろん、その子がステキな面を見せてくれたら、
「こんなことしてくれたんですよ」「こんなこと言ってくれました」
と喜びも分かち合える教師集団でありたいものです。
⑦家庭との連携については、まず、保護者に
「うちの子のことを大事に思ってくれてはる」
と感じてもらえるような信頼関係をつくりましょう。
「○○さんはこんなええとこありますよ」
「○○君はメッチャやんちゃやけど、大好きですねん」
「○○君はおとなしい子ですけど、今日、こんなことしてくれたんですよ」
などという『ひと言』を伝えることなしに、課題や要望だけを伝えても、保護者との心の距離は縮まりません。
もちろん、その『ひと言』が本音じゃなければ、保護者の心には響きません。
⑧その子が本来持っている力を出したくなる、人的環境づくりをしましょう。
朝の出会いを大切に。笑顔ですてきな「おはよう」を。
- 子どもと掃除・給食・遊びを共にしながら、気軽な世間話を。
- 担任の失敗談・ズッコケ経験話を明るく語ってあげよう。
- 子どもと共に野菜や花を育てる活動を、毎日少しずつでいいから楽しもう。
- 気になる子にこそ、何かを頼んで、「ありがとう」をその都度言おう。
- 帰りの会、日記の返事、連絡帳、電話、退勤時のちょこっと訪宅などで、その日に、自分では気づいてない、その子のキラリと光る姿を、具体的に伝える労力を惜しまない。
おまけ「格言」1,2,3,4,5
「人間は教えている間に学ぶ」
ルソー(フランス)
「よい問いは、答えより重要だ」
リチャードソン(イギリス)
「学ぶとは誠実を胸に刻むこと、教えるとは共に希望を語ること」
アラゴン(フランス)
「人間は理性の生き物でも、本能の生き物でもなく、習慣の生き物である」
デューイ(アメリカ)
昔は、もう少し思い出せたような気がします(この記憶もあやしいです)が、今、パッと浮かぶのは、1,2,3,4‥これでおしまいです。
それも、間違えて覚えているかもしれません。
ひとつ思い出しました。
「ユーモアのない1日は、さびしい1日である」
島崎藤村(日本)
この格言は、含蓄があります。
ユーモアは教室をほっこりさせる潤滑油にもなりますが、「受け」ばかりをねらうと信頼を失うこともあります。
新聞で時々のっている「とんでもない発言」が、それです。
しかし、マジメ一筋だと、島崎藤村の言うとおりになります。
自然体で、自分の失敗談(子どもの頃のドジった話も含めて)をしてあげるのがよいのではないでしょうか。
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