感謝力・人間力を身につけてきた8年間~1000万円街頭募金活動の取り組みを通して~(佐藤佐知典先生、津田孝先生)

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。
http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/
また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。
第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文 まとめのページ
https://edupedia.jp/entries/show/1730

2 感謝力・人間力を身につけてきた8年間~1000万円街頭募金活動の取り組みを通して~

3 はじめに

2011年の東北大震災、当時現地では学校の教室や体育館が壮絶極まる遺体安置所となった。突然の津波に流され、空気を吸いたかったであろう、もっと生きたかったであろう、家族に苦悩を伝えたかっただろう人々の気持ちを、何度も思い出しては忘れてしまう日々を私達は繰り返している。戦争で犠牲になった方々や、今日この日この時この瞬間も異国の地で飢えや病気で亡くなっていく人々についても同様だ。

ところで今の若者達は日々、命の問題について心からどれ程真剣に考えているだろうか。殺人事件や生命を軽視する言動・低俗なテレビ番組も絶えない。深刻な事情があるとはいえ、自ら命を断つ人も国内で月2000人以上いる。

無念にも理不尽な最期を遂げた方々は、現代の私達へ今何を訴え伝えようとしているだろうか。挫折に負け、犯罪に手を染め、天命を放棄しようとしている人達に考えてもらいたい課題、そして日本人全体への必須たる人生の宿題ではないだろうか。

命を大切にする心は、見て聞いて感じるだけではなく、どんな小さな事でも体験・行動を繰り返して育まれていく。本校での数多くある実践の1つが、これから紹介する「東京街頭募金活動」である。

4 具体的な取り組み 

本校では生徒会活動の一環として募金活動を8年間継続してきたが、今までに立川・八王子・国立・吉祥寺・新宿・渋谷・原宿・二子玉川・有楽町・御徒町・秋葉原・品川・東京・上野、計14箇所の各駅周辺で繰り返し行い、春夏秋冬、毎年100万円以上集めてきた。世界各地で厳しい境遇に苦しむ子供達がいることを、授業で学んだ生徒会の生徒達が中心になって企画したのが始まりだ。

「世界では数秒に1人の割合で、5歳未満の子供達が飢えや病気で命を落としています。尊い命の入場券を活用できずにこの世を去らなければならないのです。」「日本にいれば助かるはずであるアフリカの子供達の泣き声に耳を澄ませて下さい。」「アジア100万人の1日分の食糧が東京都だけで毎日捨てられています。」「世界22億人の子供達の半数近くが極度の貧困、充分な居住環境が無い、安全な水が無い、医療を受けられないなど非常に厳しい環境にいます。皆さんの温かいお心遣いを宜しくお願いします。」冬は寒風が吹く路上で、氷点下になってもコート・マフラー・手袋を着用せず、制服姿で毎日4時間立ちっ放しで声を張り上げる。ポケットに手をつっこんで無視して通り過ぎる人、ビラを皺くちゃにして目の前で捨てる人、舌打ちして「邪魔だ、どけよ」と怒って去る人、「こっちの方が募金してほしいよ」と愚痴る大人、「声が大きくうるさい」と駅員に苦情を訴える人など心無い言動も多かったが、世間の冷たい風に負けずに街頭で訴え続けてきた。

私達有志教員達も、生徒達と共にビラを配りながら募金箱を持って大声を張り上げたが、小額でも小銭を入れてくれた瞬間は、生徒同様いつも喜びと希望の心で溢れた。反面、頻繁に捨てられるビラが宙に浮かび北風と共に路上を舞う中、雑踏を急ぐ多くの通行人の足元を見つつ、上から邪魔だよと見下ろされながら身を低くして残骸を拾い集めた。そして「アフリカの子供達や内戦で追われる人々の事を考えると、辛い、休みたい、疲れたなどと愚痴を溢している場合ではない」と生徒と共に励まし合ってきた。毎年必ず100名以上の生徒達が弱音も吐かず努力してきたが、「千里の道も一歩から」の言葉通り、彼らの涙ぐましい努力や、壮絶な自分との闘いの連続には、いつも頭が下がる思いであった。

5 印象的だった出来事

(1)年末の活動を終え、50以上ある手作りの募金箱の修理などを行っていた休日、2人の3年男子生徒が複雑な顔つきで登校してきた。どうやら原宿での募金活動中、交通費が自費負担だったからという言い訳と誘惑に負け、数千円をくすねてポケットに入れてしまったらしい。しかし罪悪感に苦しみ、謝罪し返却したいとの事だった。主犯の1人は普段、バイク盗・暴力事件など問題行動を繰り返していた。そこで翌年3学期始業式、盗んだ行為は要反省・指導対象だが、正直に申し出る勇気と行動は素晴らしいと全体の場で褒めた。彼はその後落ち着き、卒業式では最も大きく爽やかな返事をして巣立っていった。

(2) 数年前のある日、窃盗・薬物・虞犯で少年院に入った女子生徒から手紙をもらった。彼女の中学校生活の大切な思い出が、厳冬期に体験した立川での募金活動だったと書いてあった。「心から参加して良かった」と綴っており、人と接し人に尽くす事が人生の喜びの1つだと、生まれて初めて気づいたと推察できる。今は立派な社会人である。

6 得られた成果と今後の課題 

不景気の煽りもあり、年を追う毎に100万円を集めるのに費やす時間が増えていったが、念願の1000万の壁を越え、常に全額を送金・寄付している我中学校としても少なからず達成感と自信を掴む事ができた。最近、学力の低下が叫ばれているが、「人間にとって本当の教育とは何なのか」原点に帰って考えさせられる貴重な経験にもなった。

「偽物ではないのか」「こんな事やって何の意味があるんだ」と通行人に言われ、その他辛い仕打ちに何度も耐えた生徒達は「それでも最後は人の心の温かさが身に染みる」と感想を述べ、人の善意こそが彼らの成長と貴重な糧となり、今後も引き続き頑張りたいという強い意欲を繰り返し再燃させてきた。毎年良き先輩達を見習い、先進国と途上国の経済格差、貧困に喘ぐ子供達の環境を学ぶ伝統が築かれてきた事は自明の理である。

「世界有数の安全かつ恵まれた街・五輪開催地東京から、危険で貧しい世界各国へ心の募金を!」を合言葉に、東京オリンピックが開催される2020年までに何としてでも必ず「累計2020万円を達成させるぞ」と生徒が意気込む姿・伝統は、本校の誇りである。

7 5.最後に

裏社会では、この様な慈善活動が無意味な自己満足的・偽善行為だと誹謗中傷する者が必ず出現する。しかし私達は、ネット社会という狭い世界ではなく、正真正銘たる「現実社会」に本来生きている。「飢餓状態の子供達救済のために」という一心で、有志の中学生達が流し続けてきた汗と涙の結晶にこそ真実があると考えている。

「地球の裏側で起こっている悲劇に対するアンテナをいつも張っていなければ」「飛行機が落ちて500人が命を失うと世界中の大事件になるが、1時間足らずで500人のアフリカの子供達が飢えや病気で亡くなってもその都度報道はされない」「体と心の中をありがとうの心で満たす事が人生」「今あの世にいたら何を後悔する?」「小さい事でも感謝できる人が真の自由人だ」「欲望が多いと幸せは永久に来ない」「君が過ごした無駄な今日は昨日もっと生きたいと叫び壮絶な命の闘いをした人にとっての明日だ」「神様からお借りしたこの大切な命をいつかお返しするその日まで必ず全うする」

以上は、生徒達がこの8年間で標語や日頃の作文に表現したものである。これらは募金活動をはじめ全教員による日々の様々な教育実践の積み重ねを通し、彼らの命に対する感性、今日この世に生かされている事は奇跡だという感謝力・人間力が成長してきた証であると確信している。


8 実践者プロフィール

立川市立立川第七中学校 生活指導主幹 佐藤佐知典、教諭 津田孝
第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

9 引用元

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『感謝力・人間力を身につけてきた8年間~1000万円街頭募金活動の取り組みを通して~』(立川市立立川第七中学校 生活指導主幹 佐藤佐知典、教諭 津田孝)より引用
「がんばれ先生!東京新聞教育賞」
( http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/)

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。
他の受賞論文はこちら→( https://edupedia.jp/entries/show/1730

10 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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