はじめに
「いなばの白うさぎ」をご存じだろうか。若い先生方の中では知らない方もいるかもしれない。しかしイラストを見れば「ああ! 」と思い出す方も多いだろう。出雲の国、耳慣れない神々の名前、サメの背中を渡るウサギ・・・・・・。一見不思議だが印象に残る物語である。
本教材は、日本に伝わる「神話」である。文学教材としてじっくりと学ぶというより、神話に親しみ読み聞かせを聞く楽しさを味わったり、感想を伝え合ったりすることを目的として教科書に掲載されている。
本単元は、日本の伝統的な言語文化に親しむ知識と、読み聞かせを聞いて感想を伝え合う力の2つを身につけることを目的としている。本指導案では「いなばの白うさぎ」の学習をきっかけに、さらに他国の神話にも親しめる授業展開を提案する。
外国につながりのある児童がいる場合の本教材の扱い方について
「いなばの白うさぎ」は「我が国の神話」と指導書や年間指導計画に記載されているとおり「古事記」に登場する神話である。日本で生まれ育った子どもにとって日本は「我が国」として、日本以外の国で生まれた子どもや複数の国につながりがある子どもにとっての「我が国」は、いったいどこだろう。
学校によっては外国籍の子どもや外国につながりのある子どもがいる場合も多いだろう。そのような子どもたちにとって、「我が国」は日本ではなく自分の生まれた国や祖父母のいる国であると考える子もいる。複数の国が「我が国」である子どももいる。
全ての子どもたちのルーツを大切にするためにも「いなばの白うさぎは日本の神話である」として学ばせてやりたい。そして、単元の最後に日本だけでなく他の国の神話も楽しめるような時間を取り、全ての子どもたちが自分の国の神話や昔話を知り、自分の国に誇りを持てるような授業を展開してほしい。
本単元で身に付けたい資質・能力
本単元では神話の読み聞かせを聞き、日本の伝統的な言語文化に親しむことができる知識や技術を養うことを目的としている。また、読み聞かせを聞いて感想を伝え合う力を育てることも本単元の目的である。
さらに道徳科の観点から、郷土への愛着を養う題材として扱うこともできる。本教材の学習後、図書館で昔話や神話の本を探して読むことで、図書館の使い方や活用方法を身につけさせる時間とする。
単元の評価基準
【知識・技術】
・神話の読み聞かせを聞き、我が国の伝統的な言語文化に親しんでいる。
・日本の神話や昔話を楽しむことを通じて、日本以外の国の神話や昔話にも親しもうとしている。
【態度】
・進んで神話の読み聞かせを聞き、これまでの学習をいかして感想を伝え合おうとしている。
単元の展開【全3時】
1時 神話の読み聞かせを楽しんで、友だちとおもしろかったことを伝え合おう
これまでに読んだり聞いたりした神話や昔話を紹介し合い、教材文に興味をもつ。
授業冒頭「みんなの知っている昔話は何? 」と問いかける。「ももたろう! 」「かぐやひめ! 」「いっすんぼうし! 」「さるかにがっせん! 」などの言葉がかえってくるだろう。続いて「しんわ、てしってるかな? 」と問う。
学級によって子どもたちの反応はずいぶんと差があると思われる。
入学前に保育園や幼稚園で読み聞かせをしてもらって神話を知っている子どももいれば、神話という言葉もはじめて聞く子もいるだろう。
昔話は昔から語り伝えられている物語、
神話は神様が主役で地域に伝わる物語であることを、簡単に説明しておく。
挿し絵からお話の内容を想像し、読み聞かせを聞く。
教科書62~63ページの挿し絵を見せる。このページに物語の本文は書かれておらず、「題名・作者・絵・挿し絵」のみである。子どもたちの想像力が発揮できる場面である。「どんなお話かな? 」と問いかけ、自由に出させる。サメの背を渡ろうとするウサギのイラストは子どもたちにとってインパクトがある。「渡ってどこに行くのかな。」「サメがたくさんいる。」「いなば、って何だろう? 」「ウサギがこけてるよ。」などの言葉がかえってくることだろう。子どもたちの興味を大切にし、その後に教師による読み聞かせを行う。
*場合によってはデジタル教科書の読み上げ機能を使うのもよい。ただし、子どもたちが字を追うのではなく物語を追えることを大切にしたい。
登場人物や出来事、お話の結末を確認し合い、おもしろかったことを伝え合う。
「ウサギがかわいそうだったね。」「でも、ウサギもわるいよ。」「ワニの上を歩くなんてびっくりだ。」などの発言が想像できる。登場人物を把握させるというより神話に親しむことが目的であるため、話の内容や結末を確認し合う程度でよい。
物語では「ワニ」だがイラストはサメであることに気がつく子どもがいる。
この時代の「ワニ」はは虫類のワニではなく現代でいうところのサメである、と簡単に押さえておく。
いなばの白うさぎは明治時代以前の書物ではウサギが渡るのはサメで書かれたり、ワニで書かれたりしていた。そのためワニのイラストで知っている子がいるかもしれない。その場合はその知識をしっかりと褒めてあげる機会とすればよい。
次の時間に図書館に行き、神話や昔話の本を読むことを伝え、期待を持たせて授業を終える。
2時 学校の図書室で、神話や昔話の本を楽しんで読もう
P64「この本、読もう」を参考に、図書館で自分の住む地方に伝わる昔話や神話を探して読む。子どもたちは教師に読み聞かせをしてもらうのが大好きである。自分で読むことが大変な子どももいるので、ぜひ実践してほしい。
教師は図書室のどこに神話や物語が配架されているか調べておく。自分たちの地域の神話や昔話の絵本が図書室にあれば、それも子どもたちに紹介する。
あらかじめ地域の図書館に依頼をして神話や昔話を借りてきたり、司書さんに来てもらってブックトークをひらいたりして、より神話や昔話に親しめる機会を意識して設けることも大切である。
3時 「しょうかいしよう」の会を持つ
この教材は本来2時間の単元である。だが、せっかく神話を知る機会を得た子どもたちである。3時は1学期末や学級活動の時間を活用するなど工夫をして、自分の学級にいる外国につながりのある友だちの国の神話や昔話を知る時間を設けたい。
該当の子どもがいた場合、その子どもが自分の国の昔話などを紹介できるのが一番よい。難しそうならば学級を3人程度グループに分け、一つのグループで一つのお話を紹介する、という形式をとるのも面白い。外国につながりのある子どもがいるグループは、その子どもの国の物語を学級に紹介するやり方なら難易度は下がるだろう。
参考URL:https://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/s-kokugo/material2nen
(光村図書webサイト)
執筆者プロフィール
もりはな先生
元公立小学校教諭。「みんなで聴き合う・つながる授業」をモットーに、考えたくなる課題作りに取り組んできた。現在は、忙しい先生たちや子どもたちを応援するwebライターとして活動中。
コメント