1 はじめに 「勤労、公共の精神」の授業のポイント・注意点
本教材「ぼくの しごと」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目C「勤労、公共の精神」に該当する教材です。
「勤労、公共の精神」を扱う教材は、他の活動と結びつけて考えることが重要です。
理由は2つあります。
- 他の活動で体験した働く喜びやうれしさを話し合うため
- 実生活での活動をふり返ることで、自己を見つめるため
学校生活における「仕事・勤労」は、当番活動や係活動、高学年であれば委員会活動などがあります。
「活動」とついていますが、「人のために働く」という意味では立派な勤労です。
また、家庭で役割や仕事を与えられている児童もいます。
日常生活で児童が働いている場面を想起させると、「勤労、公共の精神」という道徳的価値を話し合いやすく、深く考えやすくなります。
授業の着地点(授業のねらい)は学年やクラスの実態に応じて設定しますが、どんな授業のねらいであれ、児童が自己の働きを見つめられる授業展開を構想しましょう。
次のような授業展開が考えられます。
- 当番活動や係活動、委員会活動の仕事をしてうれしかったことを話し合い、「働くよさ」を理解する
- 自分の仕事が人の役に立った体験を通して、自己の成長を感じられるようにする
また、「勤労、公共の精神」の授業では、働く喜びやうれしさを児童が感じ、成長を実感できる授業展開もポイントです。
高学年であれば「学校内にとどまらず、家庭や地域社会に働きを広げる授業展開」を構想できるとよいです。
自分が取り組んでいる当番活動や給食当番などの仕事が「クラスのみんなに役立っている」と児童が理解した時、働く喜びやうれしさを実感し、自己の成長も実感できるでしょう。そして、「もっと多くの人に役立つ仕事をしたい!」という、新たな自分を形成していきます。
さて、1年生は小学校に入学してから、多くの役割(当番活動や給食当番)を与えられて生活しています。
初めて経験することが多く、児童の中には「失敗したらどうしよう……」「面倒くさいな……」「やりたくないな……」という「本音」があります。
本教材「ぼくの おしごと」にも「ぼくにできるかな?」という主人公の気持ちが見え隠れしており、児童が「自我関与※」しやすい内容です。
「児童の感情(本音)」と「主人公の感情」を行ったり来たりして、「働くよろこび・うれしさ」を理解できるようにしていきましょう。
※自我関与とは
「教材との対話」、「他者との対話」、「自己内対話」を通して、自分とのつながりの中で道徳的価値について考えること。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名 「みんなの ために、はたらくと……」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「16 ぼくの しごと」
- 内容項目 C-(12)勤労、公共の精神
あらすじ
お風呂掃除のやり方をお母さんに教えてもらったぼく。最初は不安でしたが、掃除をやり終えると、お母さんが褒めてくれます。さらにお風呂掃除を続けていくと仕事のコツをだんだんとつかんでいきます。ある夜、お風呂に入ったお父さんに褒められ、お風呂掃除が「ぼくの しごと」になるお話です。
ねらい
みんなの役に立つ喜びやうれしさを感じ、みんなのために進んで働こうとする態度を養う。
3 授業の工夫
教材から離れ、自己を見つめる発問
自我関与中心の授業展開では、教材から離れて自己を見つめる時間が重要になってきます。
授業の導入に始まり、授業の展開前段は自我関与、展開後段は自己を見つめる時間と大まかに設定するとよいです。
教材「ぼくの しごと」では、主人公の「ぼく」が次のような体験をします。
- お母さんにお風呂掃除をやろうと言われ、「どきっ」とした体験
- 「お掃除のプロになったかな」という成長に気づく体験
- 自分の仕事を褒められて喜ぶ体験
おそらくクラスの児童も体験したことがある内容ですので、自我関与しやすいです。
つぎのような発問で、主人公「ぼく」の感情と、児童が体験した時の感情を行ったり来たりして自我関与できるようにします。
T「主人公のぼくと同じ体験をしたことはありませんか?」
T「なぜ主人公のぼくは『どきっ』としたのだろう?」
T「みんなのために仕事をした時、どんな気持ちでしたか?」
T「当番のお仕事で褒められた時、どんな気持ちでしたか?」
そして、以下の例を参考に展開後段で使う「自己を見つめる発問」をいくつか用意しましょう。
T「みんな※のためにどんな仕事をしていますか?」
※「みんな」には「友達、先生、家族」が含まれることを補足
C「係のお仕事をしています」
C「お家で玄関の掃除をしています」
この発問は授業の導入にも活用できます。
T「お仕事ってどうして大切なんだろう?」(道徳的価値の大切さに気づかせる発問)
C「お仕事をしないとみんなに迷惑がかかる」(少しマイナスよりな意見)
C「お仕事をするとみんなが助かる」
C「お仕事はみんなを笑顔にする」(1年生で気づけたらすごい意見ですね)
1年生にとってはとても抽象的な発問です。
しかし、1年生なりに勤労観を考えます。
展開前段の自我関与で得たことを自己の考えに生かすと、驚くような意見が1年生からも出てきます。
T「今日、学んだことをどんなことに生かせるかな?」(道徳的価値の実践)
T「これからみんなのためにどんな仕事ができそうですか?」
C「任されたお仕事は最後までやる」
C「みんなに喜んでもらえるようにお仕事をする」
授業のふり返りとしても活用できる発問です。
過去の体験と自我関与での気づきから、未来に向けて自分はどうすべきかというベクトルの発問としても有効です。
道徳の授業は発問が生命線です。
一つの発問で授業のねらい・流れが大きく変わります。
ですので、
「なぜこの授業のねらいを設定したのか?」
「ねらいの達成に向けてどんな授業展開が考えられるのか?」
「授業展開のそれぞれの場面でどんな発問が効果的か?」
をよく考えて授業を設定しましょう。
「仕事のプロ」ってどういう人?
NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」のような問いですね。
1年生にはとても難しい発問かもしれません。
しかし、私が授業者であれば児童に聞いてみたいです。
なぜなら、自分のクラスの児童が「『仕事のプロ』をどのように考えているのか?」という現時点の価値観(勤労観)を知りたいからです。
児童のレベルを知りたいといってもよいでしょうか。
私は道徳の授業では少し背伸びをさせて考えさせることが重要だと考えています。
「当たり前のようなこと」を発問しても、児童は成長しません。
少し難しいことを問うから、児童は脳みそに汗をかき、真剣に考え、自分なりの答えを出そうとするのです。
「こんな答えを1年生で導き出すとは思わなかった!」という驚きは、「少し背伸びをさせて考えさせる」というチャレンジがあるからこそ得られます。
たとえ思うように児童が考えられなくても、「とても難しい問いだから答えられなくてOK!」と割り切りましょう。
きっと1年生なりに答えを見つけてくれます。
道徳の授業は、国語や算数などのように「単元」で学ぶのではなく、ほぼ「単発」の授業です。
その教材で学習するのは一度きりです。
同じ教材で2回目の授業をすることはほぼありません。
つまり、「仕事のプロってどういう人か?」という問いができるチャンスは一度きりです。
教師は、チャレンジ精神を心がけ、児童が少し背伸びをする授業を実践していきたいですね。
参考・引用URL
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/webmaga/jugyou/keywords/vol06
「光村図書」第6回「自我関与」とは より
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。
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