「 たずねびと」(光村図書 5年国語)~考えよう「誰をさがしているの?」物語の全体像を想像し、考えたことを伝え合おう~

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目次

単元で身に付けたい資質・能力

本単元では読むことを通して人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりする力を育てていく。また作品に登場する比喩や反復などの表現の工夫に気づき、それらの工夫があることで作品がより身近に感じられる効果を生んでいることにも気づける力を身に着けさせる。そして人物像を想像したり登場人物どうしの会話や場面展開から次の内容を見通して読み進めたりする力も養う。

同じ物語を読んでも心に響く言葉や内容の捉え方、深く考えた内容は人によって異なる。物語を読み、互いに考えたことを伝え合う活動も取り入れ、話し合う力や聞き合う力も養っていきたい。

考えよう「誰をさがしているの?」

物語の全体像を把握するためには、物語の世界に入り込み内容を粘り強く読むことが欠かせない。

読む力には個人差がある。そこで読みたくなる問い(課題)を設定する。今回の問い(課題)は「誰をさがしているの?」である

「たずねびと」は印象的な題名だ。そしてもう1つ注目したいのは物語の2行目にあるキーワードとなる言葉「さがしています」。この2つの言葉の示す対象は、途中から少しずつ変わっていく。

主人公の楠木綾は、ポスターにあった自分と同じ名前の楠木アヤをさがしに広島へ行く。楠木アヤをさがして歩くうちに、あのポスターの「さがしています」は、戦争で死んだアヤをさがしていたのではなく、アヤを知る人をさがしていたのだ、と気づく。そしてアヤのような子がたくさんいたのだ、という事実にも。

この物語では「悲しんだ」「喜んだ」「驚いた」という言葉はほとんど書かれていない。綾の心情の揺れ動きは情景や心情の描写で表現されているこれらの表現を丁寧に読み、綾の心情がどこでどのように変化していったか、子どもたちと一緒に丁寧に読み取りたい。

単元の評価基準

  • 人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすることができる。(思考・判断・表現)
  • 比喩や反復などの表現の工夫に気づくことができる。(知識・技術)
  • 考えたことを伝え合うことができている。(主体的に学習に取り組む態度)

単元の展開【全6時】

第1時 学習の見通しをもつ

  • 題名に着目させ「「たずねびと」という言葉の意味がわかりますか?」と全体にたずねる。子どもたちは「誰かがさがしている人。」答えるだろう。そこで教科書115ページの挿絵を見せ、「このポスターには『さがしています』と書いてあるけど、いったい誰が誰をさがしているの?」と問い、「誰をさがしているの?」を単元全体の問いとして立てる。
  • 物語全体を読む。
  • わからない言葉の意味や新出漢字の読みを確認する。

第2時 読み込む

場面を分けて読み込む

①広島に出発するまでの場面、②広島について平和祈念館を見学している場面、③原爆供養塔での場面、④供養塔を離れ、兄と2人で川土手を歩く場面、の4場面とし、それぞれの場面で「綾」が出会ったものや、登場人物を確かめる。

さがしているのは誰? ~出発前~

①広島に出発するまでの場面を読み、「楠木綾は誰をさがしているのか」「なぜさがそうとしているのか」を話し合う。綾の行動や会話、心情や情景を表す言葉を話し合う手がかりとする。

例えば、ポスターで見た自分と同じ名前の「楠木アヤ」、夢に出てきた羽虫のように飛ぶポスターの文字、紙があごをかすったような感触、118ページ8行目「「行こうよ。」とわたしは~お兄ちゃんにせがんだ。」など。

それほど気に留めていなかったポスターが、だんだんと気になる存在にかわっていく様子をとらえさせ、「さがしにいく」までの経過をつかませる。綾の話す言葉は多く書かれていないが、多くの比喩表現に綾の心情が表現されていることに気付かせる

第3時 さがしているのは誰? ~②平和記念公園で~     

②広島について平和祈念館を見学している場面で、綾の心情がどう変化をしたかを考える。

第2時と同じように綾の行動や会話、心情や情景を表現する言葉をてがかりとして考える。教科書に線を引いたり色分けをして印をつけたり、デジタル教科書に書き込んだりと学級なりの方法で見つけた言葉を忘れないように工夫させる。

原爆ドームの前は「明るくて晴れ晴れした景色」だったが、資料館を見て回るうちに「頭がくらくらしてきた」「うちのめされるような気持ち」になった綾、次に足を運んだ追悼平和祈念館の描写「ひっそりと静か」、そしてモニターに現れる子どもたちから「どうしても目がはなせなかった。」綾の姿など。少しずつ綾の気持ちが変わっていく様子が比喩的に描写されている

  • 授業の最後に「綾はアヤをさがしに来たんだよね。アヤをさがすことができた?」とたずね、子どもたちを少人数で話し合わせる。子どもたちからは「さがせない。」「見つからない。」という意見が返ってくるだろう。なぜ「さがせない。」か。この言葉を次時につなぎたい。

第4時 さがしているのは誰? ~③原爆供養塔の前で~

③原爆供養塔での場面で、綾の心情がどう変化をしたか考える。

第2・3時と同じように綾の行動や会話、心情や情景を表現する言葉をてがかりとする。教科書に線を引いたり色分けをして印をつけたり、デジタル教科書に書き込んだりと学級なりの方法で見つけた言葉を忘れないように工夫させる。

供養塔で会ったおばあさんは、綾の名前を知ったとたん顔をかがやかせる。そして綾がアヤの知り合いではないと分かったとき、おばあさんは悲しむのではなく「この楠木アヤちゃんの夢やら希望やらが、あなたの夢や希望にもなって、かなうとええねえ。元気で長う生きて、幸せにおくらしなさいよ。」と泣き笑いみたいな表情で言う。おばあさんは綾とアヤを重ね合わせ、綾にアヤの幸せをたくしたのだ。

子どもたちに「アヤちゃんは見つかった?」と問いかけ、少人数で話し合わせる。子どもたちは「見つからない」「見つからないけど……」「さがせないけど……」「だって、戦争で死んでいるから見つからない…」「でも、おばあさんは嬉しそうだったよ」などの発言が出るだろう。

子どもたちが戸惑ったままなら「あのポスターにのっていた名前はみんな戦争で亡くなった人だね。じゃあ、誰をさがしているの?」問う。

あのポスターは亡くなった人をさがしているのではない。亡くなった人を知っている人をさがしているのだ。綾はおばあさんと出会い、あのポスターがさがしていたのは楠木アヤではなく楠木アヤを知っている人なのだ、と理解していく。そしてこの土まんじゅうの下にはアヤと同じように自分を知っている人を待っている人がたくさんいる、ということにも。

この気づきこそがこの物語の最大の山場である。綾とともに、学級の子どもたちとじっくりと読み込みたい。

第5時 さがしているのは誰? ~④供養塔からの帰り道~

平和祈念館近くの「きれいな川」やポスターで見た「ただの名前」は、帰り道の「綾」にとってどんなものに変わったか、原爆や戦争に対する「綾」の見方がどう変わったかを考える。

半日で綾の戦争に対する認識は大きくかわった。川やポスター、そして戦争も遠い世界のものではなく現実味を帯び、今の生活とつながっているのだと知る

広島についたときときは「秋の空は高く青くすんで、ゆったり流れる川にも空の色がうつる」だったが、帰り道では「静かに流れる川、夕日を受けて赤く光る水」となっているのはなぜか。夕方になっただけではなく、これもアヤの心情変化の比喩である。

第4時の板書例

第6時 まとめ

学習を終えて自分の考えをノートにまとめ、考えたことを友だちと伝え合う。ノートに書いたことを少人数、または学級全体で交流する。ノートを読ませてもよいし、タブレット等に書かせたならば学級全体で共有して見られるようにしてもよい。学級にあった方法で互いの考えを伝え合わせる。

おわりに

本教材は9月末から10月にかけて学習する教材である。夏休みに戦争関連のテレビ番組がたくさん放送されてはいるが、子どもたちにとって戦争は遠い昔の話だろうし、外国の話と思うかもしれない。そして教える側も戦争を経験していない。

本教材は戦時中を直接描いておらず登場人物の楠木綾も現代を生きる小学5年生である。学級の子どもたちも綾と一体となり、平和について考えられる教材である。

私たちはかつて日本が戦争を経験したことや、今も世界のどこかで戦争が行われていることを子どもたちに伝えなければならない。この教材の学習を通し、昭和20年(1945年)8月6日、8月9日、そして8月15日は何の日なのかを子どもたちに伝え、6年生での歴史学習につなげてほしい。

参考URL:https://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/s-kokugo/material2nen(光村図書webサイト)

執筆者プロフィール

もりはな先生

元公立小学校教諭。「みんなで聴き合う・つながる授業」をモットーに、考えたくなる課題作りに取り組んできた。現在は、忙しい先生たちや子どもたちを応援するwebライターとして活動中。

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