はじめに
「『海の命』を読み解く」は7つの記事からなるシリーズになっています。是非、下記リンク先の記事とともにお読みください。
① 並行読書(廃版「海鳴星」)
② 太一の前にいるクエは「お父を殺したクエ」なのか
③ クエ目線で考える【クエの無罪】
④ 「海の命」とは?
⑤ 「太一はなぜクエを殺さなかったのか」という謎
⑥ 太一は本当の一人前の漁師になれたのか
⑦ 「海の命たち」からのメッセージ
「海の命」は「一人の海」という題名の物語の短縮バージョンなのです。「海の命」の授業がしにくい原因は、「一人の海」を短くし過ぎたからなのではないかと私は考えています。できれば「海の命」と「一人の海」との関係が書かれた「① 並行読書」から順に読んでいただくと分かりやすいと思います。

本記事では引用文の末に【一人の海】または【海の命】、両方同じ場合は【一人の海&海の命】と記して、どちらの物語からの引用であるかを示すようにしています。
なおこのシリーズは、私の授業実践だけを元に書いているわけではなく、今までに見聞きしてきた授業や資料、教員仲間との対話を元にして書かれています。
太一=海の命?
前の記事にも書きましたが、何が「海の命」なのかを子供たちに問うと、「太一も海の命になったんじゃないかな」という意見が出てくることがあります。あまり早い段階で「太一=海の命」説を全員で考えると読みが深まらない子供がついて行けないので、単元の終わりの方でみんなで考えてみてもいいかも知れません。
【発問】「太一=海の命」と考える人もいました。それが、なんとなく分かる人、手を上げて下さい。・・・じゃあ、その理由を言ってくれるかな。
と聞きます。
・クエを殺さなかったから
・この物語の主人公だから
・「千びきに一ぴきしかとらないのだから、海の命は全く変わらない。」と書かれてある。太一は海の命を守っているから。
・本当の一人前の漁師(村一番の漁師)になったから
・お父をクエだと感じていて、瀬の主であるクエと仲直りして、海の命の一員になった
・クエに認められたから
等の意見が出てくると面白いですね。
太一はクエを殺さない選択(赦し)をしたことで、自分も神秘の海の世界に溶け込み、海の命の一部分となったのではないかと私は考えています。太一の成長物語としての到達点が「太一=海の命」です。
「一人の海」では大規模化して大量に魚を獲る「漁法」が主流になって、太一が本当に「一人」で太助の瀬で漁をする様子が描かれています。与吉爺さの教えを守りながらで一人で漁師を続ける太一を、立松和平は最後の最後に「村一番の漁師」という称号を贈っています。おそらく漁獲量と言う点では巻き網漁や遠洋漁業に比べて劣っていたのではないかと思われますが、海と共生する太一が「村一番の漁師」なのです。
海の命(父)からのメッセージ
【発問】クエは動かずに静かだったけど、「何か、太一にメッセージを伝えたのではないか」と考える人もいます。言葉ではなく態度、あるいはテレパシーのようなもので「海の命」からのメッセージを伝えたのかもね。みんなが考えてくれた「海の命」たち(思い出させて板書 → クエ・父・大魚・小魚・海全体・与吉爺さ等 → 海の命を読み解く③の記事をご参照ください)。最後に「海の命」たちから太一へのメッセージについて考えて(ノートに書いて)みましょう。
「海の命」が何なのかについては、下記↓↓↓リンク先で考察してみましたので、是非ご参照ください。

「クエからのメッセージ=父からのメッセージ=立松和平からのメッセージ」と考えてもよいかもしれませんね。立松和平のことまで子供には言うかどうかはお任せします。子供たちに「作者の意図」や「作品のテーマ」について語らせようとするとどうしても小難しくなって、子供たちの言葉は出てきにくくなるかも知れません。記事④で考えた「海の命」からのメッセージであれば、子供たちも考えやすいかと思います。
メッセージは
①「海の命」たち(クエ・父・与吉じいさ・小魚・アワビ・サザエ・ウニ)の誰からのメッセージなのか
②メッセージの内容(誰へのメッセージ?)・・・太一へのメッセ―ジでも読者へのメッセージでもいいと思います。
という形で書かせるといいと思います。以下、子供たちの考えに私が書き足した「海の命たちからのメッセージ」です。
クエ:お前のお父は立派だった。死んでしまったのは残念に思っている。
クエ:お前のお父を破ったクエはもう死んだ。立派なクエだった。ワシは、そのクエから瀬の主の座を譲り受けた。
クエ:長い間、待っていたぞ。戦うのか、戦うのか。お前が決めろ。
クエ:お前と勝負する気はない。もしもワシを殺したいのなら、殺して行け。
クエ:お前は立派な漁師だ。オレたちは、殺し合うこともあるが、仲間なんだ。海の命なんだ。
クエ:千匹に一匹、必要な分だけ獲って後は海に返してくれるお前は仲間だ。一緒に海を守ろう。
お父:立派な漁師になったな、太一。本当に一人前の漁師だ。
お父:俺はクエに敗れて死んだが、クエを恨んではいない。海で死んだのは幸せだ。
お父:俺はクエに破られた。しかし、それは命のやり取りなんだ。クエが悪いわけではないからもう敵討ちなんてしなくていいんだよ。人生には赦しが必要なんだ。
お父:成長したな、太一。もう、クエの事はいいんだよ。魚は必要な分だけとればいい。余分な殺生は悪なんだ。
お父:おまえも海の命の一員になれたよ。
※「一人の海」の母の言葉を借りると、海で死んだ父は幸せ者であって、クエになって泳いでいる。(記事⑤参照)
小魚:私たちを無駄に殺さないでくれて、ありがとう。私たちだって海の命なのだから。
小魚:大きな船が来て、仲間たちがみんな連れていかれたぞ。無茶苦茶だよ。
与吉爺さ:「千匹に一匹だけ」を守っているんだな。頑張れ。
与吉爺さ:余計な殺生をしない生き方を選んだおまえは偉いぞ。
海全体:魚を獲って食ってもいいからごめんなさいという気持ちを忘れないで。
海全体:海がプラスチックで汚れている。美しい海を守ってくれ。
太一:憎んで探し続けてきたクエだけれど、クエは生命力にあふれていた。とても殺せない。
太一:お父に会えてよかった。お父はきっと海で死ねて幸せなんだと思いたい。これからも海で生き、海で死んでゆきたい。
太一:海をいつまでも大事にしたい。最近は海が汚れてきているし、魚も少なくなった。海の美しさをみんなにも分かって欲しい。
作者からのメッセージを加えるとするなら・・・
立松和平:命を食べずに(菜食主義で)生きていくことは難しくとも、殺生は最小限に留める。「海は厳しく、美しく、優しくもある」
授業はオープンエンドにしてみんなが考えた「『海の命』からのメッセージ」を共有しながら閉じることにしました。
全7回、「海の命」を読み解く試みをしてきました
シリーズ「海の命を読み解く」は長い記事になってしまいました。「『海の命』を読み解く」と称してはいますが、さて、どのくらい立松和平の想いに近づくことができたでしょうか。
教科書の「海の命」が30年にわたって掲載され続ける一方で、「海鳴星」は廃刊~超高値の古書となってしまって教師の手にはきわめて届きにくくなっているのはとても残念です。
このシリーズには多くの推論が含まれています。たまたま近くの図書館に「海鳴星」があったので読めましたが、そうでなければこんな考察をしようとは思わなかったです。「海鳴星」を読んだとて、どうやって子供といっしょに行間を読み取って授業を進めていくのかについては未だに五里霧中の状態です。
「はじめに」にも書いたように、このシリーズは私が授業をした経験や私の考えだけではなく、多くの方々との対話を元に書かれています。多くの教員が「海の命」の授業をよりよくしようとトライしてきたことに、敬意を表したいと思います。そしてこのシリーズ記事を読んで、少しでも何らかの「気付き」をみなさんが得てくださることがあれば幸いです。
子供たちは「一人の海」の存在さえ知らないでしょう。「海の命」の文章表記と行間から推測できる範囲で考えるしかできませんから、あまり深堀をするとついてこられなくなる子供が出てきてしまいます。小学生として残された時数を上手く調整しながら、あまりだらだらと引っ張り過ぎないように授業計画を立ててみてください。

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