はじめに
本記事は、山形県教育委員会が2023年度から実施している「新採教員育成・支援事業」について、担当者の方にお話を伺ったインタビュー記事の前編です。
新採の先生が無理なく学校現場に慣れていけるよう、時間的なゆとりをつくることを目的に始まったこの事業は、人員配置を工夫した全国的にも珍しい取り組みです。
前編では、この事業がどのような課題意識から生まれ、どのような考えのもとでスタートしたのか、その背景についてお話を伺いました。
(取材は2025年12月10日に、山形県教育局にて行いました)
後編はこちら
山形県「新採教員育成・支援事業」のリーフレットはこちら(https://www.pref.yamagata.jp/700026/bunkyo/kyoiku/kyoin/hatarakikata/shinsai_shien.html)
「若手が元気な学校であってほしい」――事業の出発点
- 「新採教員育成・支援事業」を立ち上げた背景には、どのような課題意識があったのでしょうか。
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教育委員会では以前から、「学校はみんなが元気で活気のある場所であってほしい」という思いを共有してきました。中でも、子どもたちと年齢の近い若い先生方には、特に元気でいてほしいという願いがあったといいます。
一方で、2022年頃から、山形県内では採用後おおよそ5年目までの若手教員の間で、早期に退職するケースが少しずつ増えていることが見えてきました。背景にはさまざまな事情が重なっていたのではと思います。特に小学校では、新採の先生が1年目から学級担任として全教科を担当することが一般的です。社会人としての経験がまだ十分でない段階から、学級運営や教科指導、事務作業までを一度に担うことは、負担になりやすいという声もありました。
こうした状況を受け、教育委員会では「まずは何らかの手立てを打ち、少しでも早期に退職する先生を減らしたい」という想いから新採の先生を対象とした育成・支援の事業づくりが始まりました。 - 支援事業の構想は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
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若手教員の早期退職が増えてきた状況を受け、教育委員会では「新採の先生が、少しでも無理なく学校現場に慣れていけるような仕組みが必要ではないか」と検討が進められました。
そこで大切にしたことが「まずは時間的、そして気持ちのゆとりを確保すること」でした。時間のゆとりを確保して、職場や教員という仕事に少しずつ慣れていけるようにする。そのための環境づくりとして、教育委員会では新採の先生の配置のあり方に着目しました。
時間的なゆとりが生まれることで、勤務時間内に教材研究や学級事務に取り組めるほか、他の先生の授業を見に行くといった行動につながるのではと考えました。また、こうした経験を通して準備に余裕が生まれ、子どもたちと向き合う際の安心感や自信につながることも期待していました。
空き時間を作る=人を増やす、という覚悟
- 業務過多や長時間労働が課題とされる学校現場において、本当に「空き時間」をつくることができるのでしょうか。
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事業の構想を進める中で、特に小学校の人員状況が大きな課題として意識されていました。小規模校では、学級数とほぼ同じ人数の教員で学校が運営されていることも少なくなく、確かに日常的に空き時間を確保することは簡単ではありません。
そこで私たちは、「空き時間を生み出すためには、人を増やすしかない」という考えに至りました。国の制度による加配教員を活用し、学校の人員状況に応じて、教科担任として配置するケースや、新採の先生が学級担任になる場合でも、非常勤講師や再任用の短時間勤務教員が授業の一部を担うケースなど、複数のパターンを設定しました。人的コストをかけてでも新採の先生を守りながら育てることが、未来の学校現場も守ることになると考えました。
一方で、事業に対して慎重な声があったことも事実です。これまで初年度から全ての業務を経験しながら育ってきた教員からは、「経験するからこそ学べるのでは」といった意見が聞かれました。また、新採の先生の業務を軽減することで、結果としてベテランの先生に負担が集中してしまうのではないかという懸念の声もありました。 - 現場の先生から慎重な意見も上がったのですね。他にはどのような反応があったのでしょうか。
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事業が始まった当初、現場からは戸惑いの声も寄せられました。特に小学校は「学級副担任」というポジションがあまりなかったので、副担任として配置された新採の先生の中には、自分の役割が分からず、不安や孤立感を覚える場面もあったとの声がありました。
また、新採の先生の成長がスローペースになるのではという心配の声も、新採の先生だけでなく校長先生などさまざまな立場の先生からお聞きしました。たとえば「2年目以降に課題を先送りしただけではないか」や、「1年目の支援が手厚い分、2年目以降に独り立ちできるのか不安だ」という意見が寄せられていました。初めての取り組みですので、1年目の負担を軽減する分の経験値や、支援が終わった後のギャップを懸念することも当然だろうと思いました。
「走りながら整える」というスタートのかたち
事業計画を進める中で私たちの中にあったのは、「完璧な形でなくても、まず一歩を踏み出す必要がある」という思いでした。多少不十分な点があったとしても、走りながら整備していこう。そのようなスタンスで事業をスタートさせました。
実際、初年度には事業への理解不足から、現場で戸惑いや行き違いが生じる場面もありました。そこで私たちは、事業の内容を分かりやすく伝えるリーフレットを作成したり、校長同士が情報交換を行う場を設けたりと、実際に合わせながら必要なものを整備していきました。
こうした取り組みを重ねる中で、少しずつ「学校全体で新採の先生を育てていこう」という意識が広がり、教職員同士のコミュニケーションのあり方を見直す動きも見られるようになりました。新採の先生だけでなく、学校全体の雰囲気が良くなってきたと感じる声も寄せられました。
現場の様子に変化が表れ始めたことで、私たちの中でも、この事業の方向性は大きく間違っていないのではないかという手応えを感じるようになっていきました。
前編のまとめ
山形県の「新採教員育成・支援事業事業」は「若い先生が元気に働ける学校であってほしい」という思いを出発点に、試行錯誤を重ねながら形づくられてきました。負担の大きい1年目のあり方を見直し、時間と気持ちのゆとりを確保するために、配置の工夫や人員の調整といった大掛かりな取り組みが打ち出されました。
一方で、現場からの慎重な声や戸惑いもあったことが語られました。それでも、走りながら整えていく中で、少しずつ現場の理解が広がり、事業の方向性に手応えを感じる場面が生まれてきたことを伺いました。
では、実際に事業を続けてきた中で、現場ではどのような変化が見えてきたのでしょうか。後編では、事業開始から3年が経過した今、学校や新採の先生たちにどのような影響があったのか、具体的な声とともに見ていきます。

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