はじめに
本記事は、2025年3月に発売された
『「聞き合う力」「考え合う力」を鍛える授業』(小学館)
(リンクはこちら:「聞き合う力」「考え合う力」を鍛える授業 | 書籍 | 小学館)
を基に、著者である菊池省三先生にお話を伺った内容をまとめたものです。
インタビュー後編では、菊池省三先生の考える、学校で育てるべき集団のありかたについて語っていただきました。(取材日:2025年7月19日)
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理科の授業の場合
コミュニケーション力を育てる指導は、どの教科の授業でも可能です。
例えば理科では、今までの学習経験や生活経験を基にグループや全体で仮説を立てて議論し、その後実験や観察によって確認する、という流れの授業をつくると良いのではないでしょうか。理科ならば、座学の中でそうした議論や話し合いを組み込むことが比較的容易だと思います。
より深い議論ができるように、授業以外の日常の場面で経験をたくさん積ませておくことが、各教科の授業にも対話を取り入れるために必要な要件ではないでしょうか。
菊池先生の目指す集団
私は、一人一人のユニークな発想や意見が活きるような集団をつくりたいと考えています。
さまざまな意見があってこそみんなが生き生きと学ぶことができる、まずはそのように学級全員が実感しなければいけません。
話し合いの中で教師が、いわゆる「気になる子ども」のユニークで、一見突飛にも感じられる発言を否定してしまうと、学級の消極的でおとなしい子どもたちは、「先生が正解を求めていること」を敏感に察し、心を閉ざしてしまいがちです。
教師が正解を求めず、気になるこどもも含めた一人一人がユニークな発想を出し合い、全員が参加できて活気にあふれた話し合いの経験を重ねると、おとなしい子どもたちも徐々に自分を表現して良いと気づき、全体の学びがさらに豊かになっていきます。
気になるあの子ども、ユニークな発想をする子どもに触発されて、周りのおとなしい子どもたちも必ずや変わっていくでしょう。
小さな変化を見逃さない
学びの時間の中に、消極的でおとなしい子どもの変化や成長は、必ずあるはずです。教師はそれを見逃さないことが大切です。小さな変化を見逃さない、あるいは、小さな変化が生まれるようにこちら側が仕組む必要があります。
一斉指導の授業では、ほめどころというのは極端に言えば、正解を言ったか言わないか、100点を取ったかどうかしかありません。しかし、子どもたちが隣同士やグループで話し合い、自由に交流できる時間をつくれば、一人ぼっちになっている子どもに声をかけたり、困ったときに友達に「助けて」と言ったりする場面を見取り、非言語の良い面をほめることができます。
授業の中に対話や話し合いを取り入れることで、こどもたちをより多くほめることができるようになるのです。もちろん、教師がほめる視点を多く持てば持つほど、より多く子どもをほめることができます。
例えば子どもが頷いた姿一つをとってみても、「今のタイミングで頷くんだ!話す人と呼吸を合わせているんだね。なかなかできないことだよね」などと、いろいろなほめ方ができるのではないでしょうか。
話し合いをより活発で豊かなものにするために
話し合いが終わった後は、延々と話題を広げたり深めたりしているグループや、リアクションの素敵なグループを取り上げて、たくさんほめましょう。そして、「彼らを真似してやってみようね」と全体に伝え、もう一度話し合いをさせます。そして、できたらまたほめます。例えば「気になる子ども」を伸ばすうえでも、このように、周りの児童の力をうまく活用することが大事なのではないでしょうか。
ペアでの話し合いがうまくいかない時、違う友達とだったら、あるいはテーマが違えば、うまくいくのかもしれません。また、うまくいっている時も、相手やテーマが変わればそうはいかないかもしれません。つまり、「聞き合う力」「考え合う力」の指導に正解は無いと肝に銘じましょう。
相手、時間、テーマや場所が変われば、うまくいくかどうかも変わる。それが教科書など無い、実際のコミュニケーションの活動です。教師が根底でそこを認識していないと、「またあのグループは盛り上がってないなぁ」などと、子どもを決めつけて見てしまう危険性があります。
コミュニケーション活動に関する指導に百発百中はありませんので、うまくいかなかった時こそ、どう次のプラスに結び付けていくかを考え、自分自身も子どもたちも成長するチャンスだと捉えることが、特に大切だと言えるでしょう。
なぜ、あえて手で持って写真を見せるのか
私は、全国各地で行っている飛び込み授業の導入において、「元気な挨拶を交わす」「子どもたちに拍手をしてもらいながら教室に入る」「子どもに短い問いかけをし、答えてもらう」「ペアで話し合いをしてもらう」といった、関係性をつくるための働きかけを行っています。
そうした働きかけの一つとして、「授業の中で写真を見せる」ことがあります。写真を手で持ちながら子どもたちの机を回ると、「自分の番はまだかな」と一生懸命見ようとしてくれます。もし、これを教室全面のモニターに映し出してしまうと、子どもたちは受け身の姿勢になってしまいます。あえて手持ちで歩き回りながら写真を見せることで、授業に良いリズムやテンポが生まれるのです。
中学校・高校での学びについて
中学生や高校生は思春期に入るため、小学校時代と違い、教室で一体となって話し合う機会が減ってしまって当然、という意見もあるかもしれません。しかし、私は「話し合いによる学びの必要性は、対象となる子どもの年齢が上がるにつれて高まる」「そうした学びをつくるために、一人一人の良いところをほめ・認め・背中を押すための技量も、より高いものが必要になる」と考えています。
中学校や高校でこそ、豊かな話し合いの体験を通じ、世の中に出ていくための成長した集団を教師と生徒たちが一丸となってつくり上げていくことが、より重視されるべきです。私が知る少なからぬ民間企業の研修では、大人に対し上手にほめる技術を教えているのに、なぜ中学校や高校では行われないのかと、かねてから疑問に思っています。
どの校種においても、教室の中における教師の役割は重要です。思春期の生徒を相手にするからこそ、そこで一歩引かず、率先して生徒に働きかけ、一人残らず成長できると強く信じて関わることが大事だと考えます。
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プロフィール

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰 菊池省三先生
「ほめ言葉のシャワー」「成長ノート」「白い黒板」「価値語」などの独自の実践により、児童の自尊感情を高める学級づくりをめざす。「菊池道場」主宰。文部科学省「『熟議』に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会」委員、高知県いの町教育特使、大分県中津市教育スーパーアドバイザー、三重県松阪市学級経営マイスター、岡山県浅口市学級経営アドバイザー、富士河口湖町立教育センター教育アドバイザーなどを歴任。主な著書に「学級崩壊立て直し請負人」(新潮社)「菊池先生のことばシャワーの奇跡」(講談社)「菊池省三流 奇跡の学級づくり」(小学館)「日本初!小学生が作ったコミュニケーション大事典 復刻版」(中村堂)「授業がうまい教師のコミュニケーション術」(学陽書房)「ほめ言葉手帳」(明治図書)ほか多数。
編集後記
菊池先生が大切にされている視点や対話の大切さなど、とても興味深いお話を伺うことができました。直接顔を合わせなくてもコミュニケーションが取れる時代だからこそ、学校現場での対話や関わりの重要さを改めて感じました。
(編集:EDUPEDIA編集部 底紗也華)

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