【氏岡真弓さんインタビュー】教員不足の「今」と「未来」〜日本社会とその未来を担う現場をつなぐ〜

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目次

はじめに

昨今、教育現場では教員不足をはじめとする厳しい現状が多く存在しています。そんな中、朝日新聞社の編集委員である氏岡真弓さんは、その現状を取材し、世に伝え続けています。

今回は、教員不足の現状や現場の声に加えて、学生の教職離れや”足し算”の教育などの教育現場が抱える様々な問題についてお話を伺いました。

(この取材は2025年9月2日にオンラインで行いました。)

①教員不足の現状と、その原因

教員不足問題の実態とその難しさとは

氏岡さんが取材をされてきた教員不足の現状と、その原因について簡単にお聞かせいただけますでしょうか。

実は簡単にいかないのがこの問題の特徴である気がします。

教員不足は、需要と供給の双方が複雑に絡み合った問題です。ここで言う需要とは学校が新たな教員を求めること、供給とは教育委員会などが各学校に教員を配置することを示します。その原因について、文部科学省が全都道府県の教育委員会に行った調査(*)において、需要面では「産休・育休取得者数が見込みより増加したこと」「特別支援学級数が見込みより増加したこと」「病休者数が見込みより増加したこと」などが挙げられています。特に、産休・育休は若い教員の増加に伴って増えており、9割以上の教育委員会が教員不足の原因として当てはまると回答しています。

また、最近は特別支援学級に子どもを入れたいと考える保護者が多いので、それが2月、3月の土壇場で分かると教員が手当てできないということが問題になっています。これは、 6人から8人の児童生徒で1学級となる特別支援学級において、生徒数のわずかな増加がクラス増加につながるためです。

一方、供給面では、「講師の登録名簿に載る人が少ない」「そもそも教員になりたい人が少ない」といった根本的な問題があります。さらに、ベテランが大量退職する一方で、少子化を見越して正規採用を抑える教育委員会も存在します。正規教員のかわりに臨時の教員で教員不足を担保しようとしますが、その臨時教員も不足しているのが現状です。また、教員採用試験に合格しても、他の学校や会社に就職してしまう人も多く、かつてのように「何年かかっても教員になりたい」という強い意志を持つ人が減っていることも、供給不足に拍車をかけています。

4月だけでなく9月や12月、1,2月など2学期、3学期に教員不足になる学校は結構多いと思います。実際に、私の同僚の子どものクラスでも、教員不足が問題となっているそうです。

(*)文部科学省、「「教員不足」に関する実態調査 令和4年1月」、10〜11頁〈https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf〉(2025年12月15日最終閲覧)。

厳しい状況は未だ、改善されていない

ー著書である『先生が足りない』の中でも、この問題について詳しく書かれていますが、本が出版された2023年から改善または悪化した側面はありますか? 

教員不足の現状はとても深刻で、改善したようには私には見えません。 

昨日もある小学校を尋ねていたのですが、体育の授業で教員がいない為、2クラスを1人の教員が見ており、ほぼ学級崩壊状態だと感じました。このような状況で、どのように授業を進めていくのか疑念が残りました。また、教員不足の問題は、より広範囲の自治体に広がっています。子どもの減少速度は地域によって異なりますが、東京都などの都市部だけでなく、いま、減少が加速している、あるいはこれから加速する地方の自治体でも、今後は深刻になる可能性があります。それに伴い、教員不足が地方でもいっそう厳しくなる懸念もあります。特に、地方では若い教員の採用が遅れているため、全国的に産休・育休の代替教員がいないという状況が広がりつつあるとみられます。

②-1 深掘り:現場の声

行政や教育現場からの声

これまで氏岡さんは、どのような現場の声を伝えてきましたか? 

教員不足の問題に関して、ほとんどのメディアは、教員の声だけを取り上げていますが、それで良いのか、と思います。

少子化が進む中、行政は臨時の教員の確保に右往左往しています。さらに、学校管理職は保護者と学校の狭間に立って、「担任がいないって、どうしてくれるんだ」という声に答えなくてはいけません。教員が何とかして不足の穴を埋めようとした結果、担当する授業のコマ数が増えています。ここまでは大人の事情です。 

しかし、今までなかなか伝えられてこなかったのは、一番の被害者の子どもの声です。 子どもたちは教員がいないという問題に関して全く責任はありません。 この子たちが学級崩壊を起こして教員を苦しめた結果、病休に追い込んだわけではありません。子どもたちの中には「なんで自分のクラスが」、「先生を確保するのは大人の務めではないか、なぜできていないのか」という怒りの声を口に出す生徒もいました。 

私は、この子どもたちの声が今までなかなか聞こえてこなかったことが、一番の問題ではないかと思います。ただ、現場の声を伝え続けることで、この問題の深刻さが一般の人にも伝えられたことは良いことだと思います。 そして、この問題がメジャーになりつつある今、学校側が保護者へ、その学校の現状を伝えやすくなったと思います。

②-2 深掘り:学生の教職離れ

学生の教職離れの原因と対策とは

ーどうすれば学生の教職離れを改善することができると思いますか? 

今までお話したのは非正規の教員の問題なので、ここでは切り分けて、正規の教員の問題として話します。 私は学生の皆さんに現場の状況を正確に伝えるというのが一番だと思います。

X(旧Twitter)では多くの教員が「#教師のバトン」で、教育現場の現状などをつぶやいています。 そして、学生の皆さんはピンポイントでその投稿を見て、自分にはできないと思いがちです。ただ、学校によって差があります。全ての教育現場が悲惨な状況にあるとは言い切れないため、もう少し正確に伝える必要があります。

そのため、学生さんにおすすめしたいのは、できるだけ多く現場の教員に会うことです。現場の教員に何人も会ってみて、「本当に学校はしんどいのですか。」「なぜ病休に入る教員が多くなったのですか」という疑問を率直に聞いてみてほしいです。つまるところ、学生さんと現場が、もう少し話し合う必要があると思います。それができない限り、教職離れは続くでしょう。この問題は簡単には解決できないけれど、生の実態をもう少し示したら良いのではないか思います。

③-1 別の角度から:「足し算の教育」の現状

「足し算の教育改革」は現場に何をもたらしているのか

現在の教育において、GIGAスクール構想や生成AIの導入など「足し算の風潮」を感じます。今行われている「足し算」の教育改革は、教育現場にどのような効果を与え、どのような問題を起こしていると現場の教員の方々は評価しているのか教えていただきたいです。

「消費者教育」「金融教育」などさまざまな「〇〇教育」が現場に降りてきて、パンク状態です。なぜなら、現場の問題意識から課題を考えたのではなく、上から一方的に課題が降りてくるからです。

課題があるのは社会の側なのに、それを解決する役割が学校教育に集中してしまっています。これは今に始まったことではなく、30〜40年前から同じ状況が続いています。

例えば、早稲田大学の菊池栄治教授が行った教員調査(*)では、行政の言っていることと現場の実態が食い違う点は9割以上という結果でした。今調査すれば、さらに割合が高まっているかもしれません。

学校はすでに問題を抱えすぎていて、「これ以上は無理」「もうしんどい」という状況が広がっています。

(*)

国立教育政策研究所の菊地栄治総括研究官(当時)らが実施した調査。全国の公立中学校の教員・校長約6千人を対象に、学校週5日制や総合学習の導入などを進める文科省の教育改革について尋ねた。結果、教員の97%が「もっと学校の現実をふまえた改革にしてほしい」と回答し、87%が「改革のペースが速すぎる」と答えた。また、改革の「方針のぶれ」や「机上の空論」といった手法への批判が最も多いことが示された。

(出典:「教師9割、改革「不満」 方針のぶれに批判 公立中を研究者調査」『朝日新聞』2002年9月22日。)

 「足し算の教育」 現場の声は届いているのか

ではこのような現状の中、現場の先生方が、例えばEDUPEDIAの記事を読んでいる先生方が、自らの実態を訴えるような仕組み、方法はあるのでしょうか? 

先ほどの#教師のバトン以外にはなかなかないのが現実で、報道の役割も問われます。2025年9月5日に中央教育審議会の次の学習指導要領についての論点整理が出ました。私たちは、このように教育機関が動き出したタイミングで現場の教員の声を記事にしてきました。

文部科学省は節目節目でパブリックコメントを集めていますが、政策の方向がほとんど変わらないのが実態です。かつては教職員組合が現場の声を行政に届けていましたが、組織率は3割を切り、その役割は弱まっています。中央教育審議会でも現場の教員が直接発言することは少なく、研究者からも「現場の声が届いていない」と批判が上がっています。教員と行政の間の詰まったパイプをどう開くかが大きな課題です。

海外では、研究者やNPOが現場の声をまとめて発信しています。日本でもそうした仕組みが必要でしょう。個々の教員ができることは限られますが、X(旧Twitter)での発信やオンライン署名など、方法はあります。重要なのは、一歩を踏み出すこと。私たちは、その方法を紙面で伝えていきたいと考えています。

③-2 別の角度から:公立高校と私立高校

公立高校と私立高校の「取り合い」構造は本当にあるのか

都市部において定員割れの公立が増える今、公立学校と私立学校が対立関係のように位置づけられている印象があります。こうした認識は正しいでしょうか。この2つの教育機関はどのような役割を果たし、どのように関係していくべきだとお考えですか。

学校段階でいえば高校の問題ですね。公立と私立の対立構図は都道府県によって大きく異なります。公立王国の県もあれば、東京のように中学から私立を受験する子どもが多い自治体もあります。中学入試から激しく競合しているのです。しかし、高校無償化でこれまで公立が安かった授業料の差がなくなると、公立の強みが薄れ、公私の教育内容の違いがより鮮明になってくる可能性があります。

一方で、あらかじめ協議して入学定員を分け合い、すみ分けが図られている自治体もあります。つまり、構図は地域ごとに違うと言えます。いずれにしても高校無償化を前に、公立が今後どう対応するのかという課題が突きつけられているのだと思います。

高校無償化が突きつける公立高校の課題

私は公立高校の出身ですが、私立校を見ると施設面などに差を感じました。やはり学費が大きな違いだと思います。その差がなくなったとき、公立校がなくなってしまう可能性はあるのでしょうか。

私立が高校無償化によって非常に優位な立場に立つかというと、それはそうかもしれませんが、私立が完全無償になるわけではありません。施設設備費などで費用を徴収するでしょうし、別のところで値上げをする可能性もあります。そのため、私立に行く生徒が必ずしもハッピーだとは言えないのではないかと私自身は思います。

ただ、おっしゃる通り、私立が有利になるということはあると思います。一番差があるのはトイレですよね。私も公立高校出身なので、東京の私立を取材すると、なぜこれほど差があるのかと考えさせられます。やはり予算が足りないことが大きいのではないかと思います。これをきっかけに、公立に何が必要か、また生徒にとっての魅力を考え直す良い機会ではないかと思います。

教員不足は公立と私立でどう違うのか

今のトピックに関連して、公立、私立を問わず教員が不足しているという話ですが、都市部では公立の方がより深刻なイメージがあります。この教員不足の問題は、公立と私立の格差を助長する側面を持っているのでしょうか? 

高校段階で言えば、大学進学実績が良く、偏差値の高い大学に進学するような私立は、潤沢な資金を持っているため、有利だと言えるかもしれません。ただ、実際に生徒集めに苦労し、非常勤講師の割合が多い私立もあります。非常勤講師に頼るということは、教員不足に直面する可能性が高いので、弱い立場の私立の方が直面していると言えるかもしれません。

文部科学省は公立の小中高校、特別支援学校の教員不足は調査しています。しかし、私立については実態がよくわからないというのが現状です。

公立高校対私立高校だけではない構図

ーさて、昨今私立の通信制高校が注目を集めています。通信制高校では、全日制の高校では不登校になってしまった生徒が、自分のペースで学ぶことができるというイメージを持っています。需要が増え続けることが予想される通信制高校は、今後の学校の形にどのような変化をもたらすのでしょうか。

通信制高校は高校生の10人に1人が通っています。通信制にも公立と私立があり、いま生徒が増えているのは、私立の、特に広域通信制(3以上の都道府県において生徒募集を行う通信制高校)です。

この形のウイッツ青山高校は、生徒をスクーリングとして本校に集める際、バスの車内での洋画鑑賞を英語の授業、神戸で夜景を鑑賞したことを芸術の授業としているなど、問題が指摘されました。広域なので、都道府県のチェックの目が行き届かなかったのです。これを機に文科省は、教員数や指導内容などを確認する実地調査求めるようになります。

現在では、学校に行かなくてもよく、近くのサポート校という塾に行けば単位がとれる形が不登校の生徒たちの受け皿になっています。不登校の小中学生は35万人を超え、通信制は生徒数が伸びています。授業や学校行事で同世代が集まる全日制とは大きな違いです。 

通信制高校の教員数は、一般的な公立高校や私立高校よりも少なく済みます。「生徒80人あたり1人以上」とされており、設備も一般の学校ほどには必要ではありません。

最近は公私の全日制ともに私立の通信制高校に生徒を取られているという声が多く聞かれます。「N高」のような通信制高校の需要が非常に高まっているのです。これは全国共通です。通信制高校の存在をどう見るかは大きな課題だと思います。

③-3:海外での状況

海外の教員不足の深刻さ

ー教員不足に話を戻します。海外でも教員不足は深刻化しているのでしょうか。そこで行われている政策や動き、改善の兆しがあるのかどうか教えて頂きたいです。

  海外の方が深刻だと思います。例えば、アメリカでは美術や音楽の教員がいないため「この学校ではやらない」と決めてしまうこともあり、日本では考えられない状況です。貧富の差が拡大し、貧しい地域ほど教育予算が集まらず、教員不足は加速しています。小さな政府志向のもとで教育や福祉が削られ、状況はますます厳しく見えます。

日本もそうならないとは言い切れません。以前は「安定しているから教員になれ」と勧められていたのに、今は逆です。社会全体で教員不足の問題にどう向き合うかを本気で考えないといけません

その他:外国籍の人々の増加

移民の増加と教育現場の新課題

先日、ドイツが教員不足と移民問題に直面しているという記事を拝見しました。日本でも移民が増えてきていますが、その中で学力低下や教員不足、移民の増加が複雑に絡み合い、新たな社会問題として教員不足がさらに深刻化する恐れはあるのでしょうか。

 まず確認しておきたいのは、日本の公立学校では外国籍の人が教員になれないという点です。これについて「不平等だ」とする院内集会も開かれており、ドイツなどとは事情が違います。さらに欧米は地方分権が進んでいますが、日本は義務教育を文科省が下支えする中央集権的な仕組みなので、欧米のように制度が簡単に崩れることはないでしょう。

 一方で、外国人の子どもは確実に増えており、教育をどうするかは多くの学校で大きなテーマです。現場の教員に聞くと、「外国人を入れるな」といった運動にはまだなっていないと聞きます。「この町に来て言ってみなさい。外国人がいなければ労働力が足りず、日本は豊かになれない」と返す市民もいます。私もそう思います。

これから少子化が進むにつれて労働力不足になり、外国人は増えてくるでしょう。その子どもをどう育てるか、高校入試や大学入試をどう設計するかは、すでに現実の課題になっています。これからの日本の学校にとって大きなテーマだと考えています。

④メッセージ

この記事を読む先生方と、教員を目指している学生にメッセージをお願いします。

教育という分野は非常に面白い分野だと思います。なぜならば、次の社会がここで見えてくるからです。教育とは「子どもたちにどんな社会を大人が手渡すのか」という大きなテーマを持っています。 そのため、厳しい現場で日々働かれている先生方が、そういう分野で極めて大切な仕事をなさっていることをお伝えしたいです。 そのために教員を増やして良い環境をつくることは欠かせないと思います。

かつて教員に対しては、校内暴力やいじめの隠蔽などで猛烈な逆風が吹いていました。しかし現在、社会が教員を見るまなざしは変わり、「かつてとは違う風が吹いている」と確かに感じます。また、教員の世界も変わりつつあります。例えば、他分野に比べて匿名を希望する方が多い教育分野において、自分の顔を出して、名前を出して、国会で意見陳述をしたり、プレゼンテーションをしたりする先生が出てきましたお話をうかがいますと、生徒も保護者も、社会を良くしようとする先生に「頑張って」と声をかけてくれているそうです。このような機会を逃さず、学校の状況を社会に伝え、共感を広げ、学校をうまく良くしていく方に、舵が切れないものかなと思っています。

声を上げる方法として、署名を行うことやX(旧Twitter)でつぶやくこともおすすめです。いずれも匿名で行うことができ、少しでも社会に変化を起こせるかもしれません。

そして学生の方には、自分の目で見て耳で聞いて、さまざまな学校があること、大変な学校ではこんな課題があるということを、できるだけ多く聞いてみたらどうかなと思います。私たち記者が学校の大変なところを書いているのは、それだけ課題を解決しなければいけないからで、それが全てだというようには書いていません。

例えば、学生さんもX(旧Twitter)で疑問を投げ掛ければ、手取り足取り、多くの先生が教えてくださります。「#教師のバトン」というハッシュタグをつけておけば、そんな先生とつながれると思います。

プロフィール

岡山県出身。1984年に朝日新聞に入社し、水戸、横浜支局、社会部、論説委員室で記事を執筆。現在、朝日新聞編集委員として教育分野を担当している。著書に「先生が足りない」、共著で「学級崩壊」「いま、先生は」「脱『学級崩壊宣言』」「失敗だらけの新人教師」などが挙げられる。

編集後記

教育現場、行政、保護者を含めた地域など、多角的な立場にいらっしゃる氏岡さんならではの視点や紡ぐことのできる言葉を伺うことができて、とても勉強になりました。盲目的に教育現場の窮状を嘆き、恐れるのではなく、自ら現場の先生方とお話をしたり、子どもたちと関わったりすることで教育に関する知識の偏りをなくすとともに、今自分に何ができるかを考えていきたいと強く思いました。(取材・編集・文責 野田)

今回の取材を通して、教員不足は単なる人数の問題ではなく、子どもたちや社会のあり方を映す鏡であると感じました。担任がいないことで戸惑う子どもたちの声は、これまでほとんど届いていませんでした。また、現場に過剰な課題が降り注ぐ「足し算の教育改革」や、学生の教職離れの背景には、現場の実態が正しく伝わっていない現状があります。教育は未来の社会を映す場であり、先生方はその担い手です。今回の取材を通じて、その現実を少しでも伝えられればと思います。(取材・編集・文責 松本)

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