はじめに
本記事は、2025年3月に発売された
『「聞き合う力」「考え合う力」を鍛える授業』(小学館)
(リンクはこちら:「聞き合う力」「考え合う力」を鍛える授業 | 書籍 | 小学館)
を基に、著者である菊池省三先生へのインタビュー内容をまとめたものです。(取材日:2025年7月19日)
前編では、書籍と著者について紹介し、菊池先生へのインタビュー記事の前半を記事化しています。
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書籍紹介
本書籍は、「子どもたちを生涯幸せにする力を育てよう」という言葉を掲げ、学級が成長するために必須の基盤である「聞き合う力」「考え合う力」を伸ばす指導をテーマにした1冊です。
前半は、「今の学校現場では、4月当初、まず子どもたちが集まって輪になることさえ困難になっている」という指摘に始まります。そして、学級の成長を加速させる3つの「わ」(輪、話、和)について提案し、年間を見通した具体的な指導について解説していきます。
後半では、その指導ステップに対応した全国各地での飛び込み授業記録を示し、その分析を行っています。全国各地での年間300回を超える飛び込み授業の蓄積から生み出された知見は、読者に力を与えてくれます。
【インタビュー前編の内容】 著者の菊池省三先生に関して~現役時代と対話、コミュニケーション~
現役時代は北九州市の公立小学校で教鞭を執り、基本的に全教科の授業を行っていました。当時から、今で言う対話的・協働的な学びのようなものを通して、コミュニケーション力や話し合う力をどう伸ばすかが、勤務校の研究テーマになっていました。
ですから私も、国語科や学級活動、総合的な学習の時間等の授業を通して、子どもたちにそうした力を付けることを意識してきました。現在の私は飛び込み授業という形で、1時間のみで完結する授業を行わなければならないため、道徳の授業をすることが多くなっています。
現役時代も、授業の中だけで対話を大切にしていたわけではありません。物理的な時間配分でいうと、話し合いや対話に45分間注力し続けることは、よほどのことがなければありませんでした。しかし、朝から帰りの時間まで、コミュニケーション、話し合い、対話といった活動が常に入るよう意図し、圧倒的な量のコミュニケーションを子どもたちに体験させていました。コミュニケーション力は、とってつけたように授業時間だけで対話を行っても身に付く力ではありません。ですから、日常のさまざまな場面で対話や話し合いの時間を重視していました。
教室は人がたくさん集まっている場所ですから、対話することは当たり前すぎるほど当たり前なことです。教師と子どもの双方向的なコミュニケーション、子どもたち同士のコミュニケーションなど、学校生活の中で圧倒的な量のコミュニケーションを体験することは、多様な子どもたちが集まっている教室で学ぶことの一番の意義だと考えています。
話し手の指導がおざなりになっている
授業中、一部の子どものみが頻繁に発表を行い、その他の子どもが受け手に回ってしまう光景は珍しくありません。話し合いの授業を見学すると、話し手が長く話す一方で、聞き手が集中力を失い、学びから離れていく状況が多く見られます。
原因のひとつは、「発表する=正しいことを言う」という価値観が学校現場に強く根付いていることです。一部の「できる」子どもだけが延々と話してしまうと、他の子どもはその間延びした話を聞き取れずに、話し合いから脱落してしまいます。
彼らは授業についていけなくなると雑談をはじめ、それがエスカレートしていく。その状況に対して、教師が「静かに聞きなさい」と注意をする。そして学級が荒れていく。多くの学級で、聞き手の指導を行う一方で、話し手の指導がおざなりになっていることにより、このような状況に陥ってしまうのです。
本来、授業は話し手と聞き手の双方が育つ場であり、「どう話すか」「どう聞くか」を並行して学んでいく必要があります。雑談がエスカレートし、教師がそれを指摘することでより一層教室の空気が乱れるといった悪循環を生み出さないための一つの手立てとして、「ずばり一言で言いましょう」という指示が大切です。子どもたちにより簡潔に話させることで、話し合いにリズムができ、授業スピードも加速していきます。
授業動画を分析することで見えてくるもの
授業を録画し、それを分析して客観的に振り返ると、話し手への指導と聞き手への指導の偏りがより鮮明に見えてきます。教師は、自分の指導について考える際、えてして話し方は話し方、聞き方は聞き方というように分けて考えてしまう傾向があります。しかし実際の教室では、一生懸命友達が発言しているのに聞いていない子どもがいる、みんなが理解できるように話すことを求められるけど、どう話してよいのかわからない、その影響で話したくても話せない、といった事象が起きています。このような事象が積み重なって教室が荒れていくわけですが、そうした子どもたちに対しては、「どう話すか」と「どう聞くか」を、授業を含めた日常の中で、常に並行して指導していく必要があります。
本書は、全国各地での授業動画を何時間もかけてストップモーション分析し、それを基に執筆されているため、そうした指導のリアルについて、色濃く書かれています。
自らの授業について本書のような分析ができていないと、「話し手はこうあるべき」「聞き手はこうあるべき」「このような教室がよい」という薄っぺらい型にはまった、綺麗事の指導にとどまってしまうことでしょう。そうした意味で、例えば学級の荒れた状況を改善する上でも、本書は他の書籍とは一線を画す内容になっているのではないかと考えています。
子どもを見る「目」の大切さ
子どもを見る目。それが、教師に必要な不易の力ではないかと考えています。子どもを見る目がないというのは、教師としての覚悟がないということ、言わば子どもを育てる気がない、ということです。それは、教師としての働きがい、仕事をすることの楽しみを得られないということでもあります。
「子どもを見る」ことは、すなわち子どもをほめること、成長させることに繋がり、それこそが教師にとっての最大の仕事である、と考えています。
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今回取材をさせていただいた、菊池省三先生の他のインタビュー記事はこちらです。
自己紹介を中心としたコミュニケーション力の向上(菊池省三先生) | EDUPEDIA
戦略的に動かす学級経営(菊池省三先生) | EDUPEDIA
プロフィール

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰 菊池省三先生
「ほめ言葉のシャワー」「成長ノート」「白い黒板」「価値語」などの独自の実践により、児童の自尊感情を高める学級づくりをめざす。「菊池道場」主宰。文部科学省「『熟議』に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会」委員、高知県いの町教育特使、大分県中津市教育スーパーアドバイザー、三重県松阪市学級経営マイスター、岡山県浅口市学級経営アドバイザー、富士河口湖町立教育センター教育アドバイザーなどを歴任。主な著書に「学級崩壊立て直し請負人」(新潮社)「菊池先生のことばシャワーの奇跡」(講談社)「菊池省三流 奇跡の学級づくり」(小学館)「日本初!小学生が作ったコミュニケーション大事典 復刻版」(中村堂)「授業がうまい教師のコミュニケーション術」(学陽書房)「ほめ言葉手帳」(明治図書)ほか多数。
編集後記
今回のインタビューを通じて印象的だったことは、教室における話し手と聞き手の双方をバランスよく指導する菊池先生の学級運営に対する姿勢です。各教室の状況や各生徒に目を配り、理解することが求められるこの指導法が浸透するためには、学級運営に労力を割ける労働環境が整う必要があると感じます。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 西山真央)
子どもたちの成長の基盤となる力を養うために教室で圧倒的な量のコミュニケーションを行うということが印象的でした。単元においた対話だけでなく、学級として、ひとつの「わ」としての対話を促していく姿勢は不可欠なものだと感じました。
(編集:EDUPEDIA編集部 宮田華)

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