コロナ禍の幼児教育! 今とこれから【コロナと向き合う】

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作成者:松田 珠璃さん

1 はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大は教育現場にも大きな影響を与えており、対応に追われている先生も多いのではないでしょうか。EDUPEDIAでは、必要な情報が教育関係者に届くように、【コロナと向き合う】特集をはじめました。

今回は、コロナ禍の幼児教育についてご紹介します。

新型コロナウイルス感染拡大により、幼稚園や保育園は医療従事者の子どもなどの限られた人が通っていて、多くの子どもの学びが止まってしまうと懸念されている方もいらっしゃることでしょう。このことに関し、2020年7月11日に、文京区立お茶の水女子大学こども園の園長で保育学を専門にされている宮里暁美先生に取材しました。

文京区立お茶の水女子大学こども園について

[こんな方におすすめ]
・感染対策をしながらの幼児との過ごし方に戸惑っている方
・コロナ後の幼児教育の行方が気になる方
この記事をお役立ていただければ、幸いです。

2 コロナで子どもの発達に影響は?

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、友人との交流や外遊びをする機会を奪われた子どもも多いですが、子どもの発達にどのような弊害があると考えられますか。

子どもの発達への影響は、研究者の調査によって見えてきます。今回は、そのような一般的な回答ではなく、文京区立お茶の水女子大学こども園の園長として私が目の前の子どもから感じ取ったことをお話しします。

新型コロナウイルスへの対応で子どもの生活の仕方が変わったのは、3~5月だと思います。こども園にいると、保護者の仕事によって子どもの生活の変わり方が違うということをはっきり感じます。医療従事者の子どもなど、園に通い続けた子どももいますし、一方で2~3か月間ほとんど家で過ごした子どももいます。私がこども園に来る子どもと過ごす中で感じ取ったことは、子どもは情緒不安定になっているというよりは、報道や親が言ったことを新しい知識として得て真剣に受け止めているということです。周囲の大人が子どもたちにしっかりと今の状況を伝えてくれていたので手洗いやうがいをしなければならないことをとてもよく理解していました。

普段なら93人の子どもがいますが、今年の4、5月は20〜30人弱で過ごしていました。寂しさを口にする子どもはいましたが、比較的、穏やかに過ごしていました。6月になり、自宅で過ごしていた子どもが登園し始めると登園開始の1〜2日は様子を見て警戒しているような姿が見られました。しかし、次第に「いつも通りの生活がここにあるんだ」というのを感じ取り、調子を取り戻していました。発達に何か影響があるというよりは、新しい状況を子どもなりに理解し、それにうまく対応しようとしていた印象でした。

3 自粛中の家での過ごし方

新型コロナウイルス感染拡大の影響でこども園や公園などにも行けず、一日中自宅で過ごす子どももいます。このような状況下にあっても、園と同様に自宅で遊びながら学ぶためにできることはありますか。

子どもは創造的な遊びを好みます。積み木やブロックなどの既製の玩具で遊ぶのも良いですが、空箱をバラバラにして何かを組み立てるような素材遊びがより好ましいと思います。しかし、このような遊びをするとゴミが出るので、家庭によっては素材遊びが難しい場合もあります。ゲームなどの「受け身」になりがちな遊びを子どもに与えてしまっている家庭もあるかもしれませんが、子どもは何かを作っているときはとても楽しそうなので、そのような機会を作ることをお勧めします。子どもは食事の手伝いが大好きです。食への興味も湧くので、再びSTAY HOMEの時期が来たら試してみると良いと思います。

4 「人=コロナをもたらすもの」という恐怖は感じないのか

新型コロナウイルス感染拡大で人との接触を避けるように言われていますが、幼児期の子どもにとって、人にくっついて安心感を得ることは重要です。子どもが人を「感染症をもたらすもの」として恐怖心を抱いてしまわないようにできることはありますか。

こども環境学会の仙田満先生は、子どもにとって密は欠かせないもので、一律に感染症対策をするのではなく、年齢ごとの行動目標があるべきだと仰っています。感染症対策ばかりに目を向けるのではなく、子どもにとって何が必要なのかをしっかり考える必要を感じています。子ども同士が体を寄せ合ったり、笑い合ったり、追いかけあったりする。そのように互いを求め合い、楽しく遊ぶ生活の中にある「密」を奪ってはいけないと思います。

一方で、教育の場において、意図的に作ってしまう「密」については、今が見直すチャンスなのではないでしょうか。教育の場は、どちらかというと「密」を盛り上がりと捉え、「密」を求める傾向があるように思います。例えば、「人と関わる力を身につけさせたい」という考えのもと、大勢の仲間で力を合わせて行動することに価値を置くなど。確かに大勢の仲間で行動することで得られることも多くあります。しかし、不必要な密は避けるという観点から考えれば、一人一人の没頭を支える教育を作ることに重点を置き直す必要があります。お茶の水女子大学のこども園は倉橋惣三の一人一人を大事にする考え方のもと、教育を行っています。私は倉橋惣三の考えを今一度思い起こし、根本に立ち返れば良いのだと思います。例えば、1人が積み木で遊んでいると周りにいる子どもたちが集まってくるようなことがあります。自然に集まってくる子どもたちを「それ以上近づいてはいけない」という言葉で強制的に離すことはありませんが、人が集まりすぎているときには、保育者が積み木を置く場所を分散します。そうすれば、「離れなさい」と指示しなくても心地よい距離感が保てます。つまり、子どもが自ら興味を持って寄り添って遊ぶことは否定しませんが、あえて子どもを一箇所に集めるのはやめます。そして、人が集まりすぎたら場を少し広げるように保育者が環境を設定します。こうすることで、子どもも強制されることなく自然に距離感を保つことができます。

5 今後の幼児教育の行方は?

新型コロナウイルスの感染拡大で多くの保育園や幼稚園が休園しました。子どもの預かり先を失ったことで、多くの人が社会の中での幼児教育が果たす役割の重要性を改めて認識できたと思います。コロナ後の日本の幼児教育はどうなっていくと良いとお考えですか。

私はこれまでの10年と今後の10年は日本の幼児教育において重要な時期だと思います。これまでの10年間で幼保小連携が重視されました。加えて、今、私がいるこども園のように幼稚園と保育園の機能を併せ持つこども園というものができて、就学前の教育が小学校と一体になってきました。幼児教育がより充実し、学校教育と連携しながら意味を発揮するようになったのがこれまでの幼児教育の変化です。

これからは、新型コロナウイルス感染拡大を機に、一度根本に戻って教育を見直すことが必要なのではないのかと思います。新型コロナウイルス感染拡大の影響で分散登園が行われました。これまでの集団教育は一斉に登園、降園するイメージでしたが、それを時間差で行うことは、一人一人が落ち着いて行動するという意味で非常に効果的だったように思います。これは、感染症の対策で始めたことですが、ここで止めておかないで今後も続けていくと良いと思います。人によっては行事を見直さなければならない等、通常通りに園生活を送れないことを否定的に捉える人がいますが、私は新型コロナウイルスは教育を見直す視点をくれると肯定的に捉えています。しばらくは感染症対策を徹底しながら日常に戻っていく移行期間だと思います。上記の分散登園の例にもあるように、感染症対策として行っていることが思いがけない教育効果を発揮しています。きっかけが感染症対策であっても、新型コロナウイルス収束後も良いところは続けていくべきです。今後の幼児教育はどうなるという問いは今後の日本、世界はどうなるという問いと同じだと思います。新型コロナウイルスの流行を経験したことを強みに、これから歩んでいきたいです。

6 プロフィール

宮里 暁美(みやさとあけみ)
・専門分野:保育学
・所属/職位:人間発達教育科学研究所 教授(保育実践研究)
・平成28年4月開園した文京区立お茶の水女子大学こども園園長として園運営に携わり、「つながる保育」を主軸に置いた教育・保育活動を展開する。豊かな体験を生み出す環境作りを進めるとともに保育者の援助について検討し、こども園の教育・保育課程を作成、発信する。
・幼児教育・保育に関する教育研究の場として大学、いずみナーサリー、附属幼稚園と連携し、生涯発達を見据えた0歳児からの教育カリキュラム及び乳幼児教育・保育の質の評価方法を開発し、成果を発信する。

宮里暁美 人間発達教育科学研究所 お茶の水女子大学

(2020年8月現在)

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8 編集後記

確かに、新型コロナウイルスは私たちの生活に禍いをもたらしました。しかし、その禍いをどのように捉えるかは私たち次第です。これまでの日常にこだわりすぎず、今の状況をニューノーマルとして前向きに捉えていくことが重要であると感じました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 松田 珠璃)

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