「シン・学校改革」西村祐二著 ~教師の残業と給特法

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現場のリアル、給特法のリアル

この記事でご紹介する「シン・学校改革」(以下「本著」)には、著者である西村祐二氏(以下、「著者」)が関わってきた学校改革の経緯が書き記されています。現場の働き方改革がうまくいかない原因の一つである給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の改正の経緯に、著者は大きく関わってきています。校則の緩和に関する記述にも著者はかなりの紙数を割いていますが、それについては別の機会で触れたいと思います(長文になるので)。

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2000年を過ぎた辺りから年々多忙化が進行していく中、「何か、どうもおかしいな」と漠然と感じながら、現場の混乱は増大してきました。学級崩壊・モンスターペアレンツ・過剰対応・管理職の権限強化・・・時間感覚が麻痺してしまい、ベテランでさえも勤務時間や給特法の仕組みやその影響がどうなのかについて考える余裕を失ってしまっていました。若手教師や一般の方々が「学校現場でなぜこうも多忙の解消が進まないのか」を理解するのはとても難しいと思います。

著者は本著について「教員ではない読者にも向けて書いた」と述べています。読み進めると給特法の「何が何故いけないのか」がおおよそ分かってくると思います。学校の多忙についてただ説明的に書かれているわけではなく、実際に現場でどう困ったことになっているのかが、筆者の行動を通して詳しく描かれています。現場のみならず「国会やネットという『場外」」にまで闘いの場を広げてゆく著者の行動は実に興味深いです。給特法について書かれた著書は数多くありますが、筆者目線で語られる「現場のリアル」「給特法のリアル」を記した本著は必見です。

著者の記事は↓↓↓にも掲載しています。(「斉藤ひでみ」は西村氏の過去のペンネームを)

【ブラック校則について考える】決定版 令和の校則 斉藤ひでみ先生・嶋﨑量先生 講演録 | EDUPEDIA

働き方改革と給特法

2010年代半ばから「残業時間の上限規制」や「高度プロフェッショナル制度」等、働き方改革が国民的な課題として取り上げられるようになってから随分と時間がたちます。一般の働き方改革に引きずられるような形で「学校の働き方改革」の議論も進みました。様々な議論やいきさつがある中、現在も混沌とした状況です。給特法の「からくり」を以下にざっくり説明してみます(詳しくは著書をご参照ください)。

● 教職は特殊業務であるため、給特法によって「教師の残業の存在」は認められていない
● その代わりに給与に一律4%の調整額を増額する
● したがって教員の勤務時間外の労働については教員の自発的労働とみなす
● 勤務時間外に学校で働いていても、「学校滞在時間」「自主的労働」として扱われる
● 家に持ち帰ってしている仕事も「存在しないもの」という認識となる
● 残業が存在しないとされるため、現場の実態が明らかにされないし、数字としての共有もない→→→改善が検討されにくい
● 4%は1日当たり19分程度に相当する(月当たり7時間程度)
● 勤務時間を超えて働く時間の上限は月45時間と文科省はガイドラインで示している(えっ?残業はないという前提なのに?)
● 残業代が支払われることがないので、いくら業務を増やしても管理側は残業代対策をする必要がない
● 休憩時間が0分の教員も少なくないが、周りもそうなので感覚が麻痺し待っている

・・・これでは多忙化に歯止めがかかりません。

西村氏のチャレンジ

「シン・学校改革」の興味深さは、著者である西村祐二氏の驚くべき行動力にあります。著者は岐阜県の現役高等学校教諭です。労働問題は教職員組合を通して文科省と交渉するのが通例でしたが、筆者は組織を背負って活動しているのではありません。そこもまたユニークです。

● ツイッター(現「X」)での情報発信から多くの人との繋がりを持ち、「部活改革ネットワーク」「現職審議会」を設立
● ネットで「給特法改正を求める署名」を3万2千筆集めて文科省・厚労省に提出
● 書籍での「働き方改革」「学校の現状」に関する情報発信
● TV「聖職のゆくえ」への出演
● 国会での参考人招致
● 匿名から実名に切り替えて情報発信

等々を果たしてゆきます。著者は名古屋大学の内田良教授↓↓↓とも繋がりを持ち、共著も出版しています。豪華なメンバーです。

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現役の教員が実名でメディアに訴えるというのは、とてもハードルが高い判断です。ましては国会で。表立ってこれだけのレベルで働き方改革にチャレンジしようとするとたいへんなエネルギーが必要であったと思われます。
職員会議でちょっとした働き方改革について提案をするだけでも、様々な立場の教職員から様々な意見が飛び交うことになり、まとまりません。管理職の目も気になります。学校は営利団体ではないため「何が正しいのか」を論ずることが難しく、矢面に立つことは大変疲れる場所です。
例えば、部活動は大部分が勤務時間外のサービス残業です。「子供たちのために!」という正論に押し切られ、ほとんどの中学・高校教員は顧問を引き受けるのが慣例です。自分が引き受けない仕事は誰かに降りかかることになり、職員間にも同調圧力が作用します。しかし著者は声を上げます。「おかしいことは、おかしい」と。

西村氏の活動のエネルギーの源

著者の「声を上げ、行動する」エネルギーの源はどこにあるのでしょうか。
著者は教員として働き始めたころから、「授業準備ができないほどの忙しさ」や「部活同顧問の強制」や「生徒の部活動への強制参加」といった不条理に憤ります。著者は自分の職場レベルではなく、もっと大きな場所での改革に向けて動き出します。ツイッターで情報発信を始めたころ、著者はまだ匿名で活動をしていました。おそらく当時は確かな戦略があったわけではなかったと思います。それがどんどんと人を巻き込み、拡大・発展して国会での参考人招致にいたるまでになるのは、筆者の資質もあるだろうし、ある種の運命に導かれた部分もあると思います。運命を引き寄せる資質なのかもしれません。

多忙化を解消するために著者は超多忙に見舞われることになったでしょう。まさに身を削るような経緯であったと思います。個人的に楽をしたいだけならこんな活動はしないでしょう。矢継ぎ早にツイッターで発信し、著作を出し、様々な人とつながって活動するだけの力があるならば、著者が「一人業務改善(自分だけ早く仕事を終えてさっさと帰る)」をするのは容易だったのではないかと思います。そこを「みんなの業務改善(働き方改革)」と考えて、自分の学校での仕事を抱えながらチャレンジを続けてきたのだと思います。

著者にとっての働き方改革は「教師のため、学校のため、子供のため、社会のため」なのです。本著で引用される吉田松陰の

「僕は忠義をするつもり、諸友は功業をなすつもり」

という言葉に著者の信念が感じられます。

審議継続中

ちなみにこの記事を書いている2024年4月現在、給特法に関しての審議は継続中であり、報道によると、

「中教審の特別部会が、公立学校教員に残業代の代わりに支給している月額給与の4%相当の『教職調整額』について、10%以上に引き上げる案で調整している」

とのことです。
月間160時間(8時間×20日)働いたとして、手当が4%なら6時間30分、10%に上げてもらえるなら16時間の残業代です。1日当たりで16時間÷20日=48分なので1時間分の残業代にも届きません。であるのに残業の上限は月45時間です。地域や学校によっては働き方改革は進んでいますが、上限を超える教員がまだまだ多いのが実態です。果たして教員はこれで納得ができるのかどうか・・・。筆者は2024/4/19の中央教育審議会の特別部会の前日にはTBS「News23」に出演し、当日には「給特法のこれからを考える有志の会」として文科省内で記者会見を開いています。

本著の終わりに記された西村氏の想いに私も強く共感し、敬意を捧げたいと思います。

「人が人から学び続ける営みが、この国において持続可能なものになってほしい。」

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