【ブラック校則について考える】決定版 令和の校則 斉藤ひでみ先生・嶋﨑量先生 講演録

1 はじめに

この記事は2021年1月に行われた、みんなの学校安心プロジェクト主催「決定版令和の校則」を記事化したものです。この講演には、名古屋大学准教授の内田良先生、岐阜県の現職高校教員の斉藤ひでみ先生、熊本大学教授の苫野一徳先生、弁護士の嶋﨑量先生がご登壇されています。

本講演は、近年話題となっている「ブラック校則」について、議論をしたものです。本記事では斉藤ひでみ先生と、嶋﨑量先生の講演部分について、後日取材した際の内容を加筆し、まとめています。

苫野一徳先生の講演記事はこちらhttps://edupedia.jp/article/61778ce3f0b7e400009b1156

☆こんな人におすすめ

  • ブラック校則の問題について理解を深めたいという方
  • そもそも校則の問題について知りたいという方
  • 教員の働き方改革について知りたい方

2 「決定版 令和の校則」をおこなった背景

2021年1月以降、校則問題がSNSやメディアで議論されています。校則を見直そうという学校の先生はまだ多くはありません。しかし、このイベントに参加してくれた先生は、学校の校則に違和感を覚えている人が多いと思います。

今まで、校則問題の議論における矛先は先生方に向くことが多かったです。これからは先生のことばかりを責め、先生を内側に閉じ込めるのではなく、みんなで学校を変えていくという意識をもちながら校則を変えていけたらよいと考えています。イベントでは、高校生が「制服を変えた」という話や、先生方の「迷いがあって変えたいけれど、変えられない」というような意見があげられていました。こうした意見をもとに誰かを責め立てることなく、先生のみならず、生徒や保護者を含めたみんなで校則について考えていけたらよいと思っています。

3 斉藤ひでみ先生の講演

#学校ゆるくていいじゃん のきっかけ

まず、新型コロナウイルス感染症拡大期に私たちが発信を始めた#学校ゆるくていいじゃんというハッシュタグがSNSで物議を醸したという話から始めます。

新型コロナウイルス感染症が流行する前は、例えば授業中に水を飲むことは禁止というルールがありました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、常時換気をしなければならず、子どもたちは夏の暑い時期をクーラーが効きにくい環境下で過ごさなければなりませんでした。そこで、熱中症予防という観点もあり、授業中も水分補給が認められるようになりました。また、新型コロナウイルス感染症の影響で頻繁に洗濯をしたいという家庭に配慮して、私服登校が認められたケースもありました。

学校は新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、これまでの校則を緩和せざるを得ない事態に直面したのです。しかしその結果、学校は「荒れる」どころか、みんなにとってこれまで以上に過ごしやすい空間になったように私には感じられました。

一方で、私や内田良先生が感じていた危機感が「このまま何も行動しなければ、コロナ終息後にコロナ以前の学校、コロナ以前の校則に戻ってしまう」というものでした。そのようなことから、私たちは「過度な校則は緩めてよい」というメッセージだけでなく、「ゆるい部活があってもよい」「教員勤務もきつくなくてよい」というようなこれまでの主張をすべて含めて「#学校ゆるくていいじゃん」という発信を始めました。

運動に対する不満の声

しかし、当の学校の先生からは不評でした。それは学校の校則を緩くしてはだめなのではないかというもので、厳しい規律を守ることの重要性や、「困難校」での規律の必要性、ルールを守らない生徒が増える可能性などが指摘されました。私たちとしては、あくまで身なり指導や行事、部活を緩和する訴えのつもりで、望ましくない行動を看過するというものではありませんでした。私たちが「授業を聞かなくてよい」という主張をする気は決してありません。身なりや行事、部活を緩めることで、望ましくない行動につながるという先生方の恐れは分かります。しかし、果たして身なりの自由を認めたら本当に子どもが誰かを傷つけるように変わってしまうのか、一度考え直した方がよいと思いました。

#学校ゆるくていいじゃんのその先へ

今後はより具体的に、制服の選択制の必要性について訴えていこうと考えています。これは、制服は強制力のない標準服にして、制服に関する行き過ぎた指導をなくそうという主張です。そもそも、学校側に単一の服装を強制する権限はあるのでしょうか。校則というものは実は法的な根拠を有していません。法的根拠がないということは学校は身なりについて、いわば「自粛の要請」しかできず、「自粛の強制」はできないはずです。学校の権限や子どもの権利と合わせて校則の問題を考え直すことが「ブラック校則」問題の解決策になると考えています。

4 嶋﨑量先生の講演

子どもの権利について

日本で発効している「子どもの権利条約」で、「子どもの意見表明する機会を保証する」というものがありますが、日本の国内法ではまだ遵守されていないものがあります。国連からは、「子どもの意見表明する機会を保証する」部分が守られていないと何度も示されており、子どもは権利を有する人間として尊重しないという日本の伝統的な価値観により、子どもの意見の尊重が著しく制限されていることを引き続き懸念するとあります。

「教育基本法」にも第1条に教育の目的についての表記があり、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた、心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならないとあります。これに従って校則があるべきだと考えます。子どもの権利条約や憲法から示してお話ししましたが、子どもの権利や自由を尊重しなければならないと思います。

校則に教育目的は本当にあるのか

公立の学校では、校則によって、権利を縛っているというように法律家は認識しています。学校だから治外法権があるというわけではなく、子どもの制約が当然に許されるわけではありません。原則として自由なのが当たり前で、縛るほうが例外なのです。また、教育目的があれば校則で子どもを縛ってもよいという意見もありますが、目的があったとしても手段がどれでも許されるというわけではなく、目的達成のため最小限度でなければなりません。

また、手段を選ぶときに、「子どものため」という題目だけでは許されません。子どものためと制約を続け、介入を続けると、かえって子どもが失敗しながら成長する芽を摘んでしまっていることになるでしょう。今その場でよいということではなく、将来のことを考え、公正で民主的な社会の担い手としていろいろな意見を踏まえて、どういう教育がなされるべきかを考えていきましょう。

校則による人権侵害

子どもの権利条約第5条によると、子どもが権利を行使するにあたって保護者が指示・指導を与える責任、権利、義務が尊重されねばなりません。さらに第18条によると、子どもに対して、第一次的な養育責任を負っているのは保護者になります。どういう私生活を過ごすのかは保護者と本人が決めることですが、それに学校は介入してよいのでしょうか。これは学校による人権侵害の常態化と捉えてよいと思います。

子どもたちはいずれ社会に出ます。そのときに、職場の理不尽に抗ったり、加害者にならないようにしたりする力は教育でしか養えないと思います。

教員の働き方への影響

校則問題においては、教員は不合理を押しつけてしまう側になります。しかし、働き方に関してはそうではありません。不合理な長時間労働、休憩なしの労働が何でも「子どものため」と理由づけられてしまっています。また教員の私的な活動に関しても、「教員らしさ」の押しつけから不条理を正当化されて萎縮してしまっています。

子どもたちの人権侵害が常態化しているのと同時に、子どもたちを縛る教員に対しても、使用者から労働者(教員自身)への人権侵害への感性を麻痺させる影響が出ていると思います。他者の人権侵害(対生徒の自己決定や私生活の介入)に鈍感であると、自身の人権侵害(対教員の長時間労働やパワハラ)にも鈍感になるのです。教員への人権侵害が常態化していること、子どもたちへの人権侵害が常態化していること、これはいわばパラレルのような関係にあるのかもしれません。

5 プロフィール

斉藤ひでみ氏

斉藤ひでみ(さいとう・ひでみ)
岐阜県高等学校教諭。2016年8月より「斉藤ひでみ」名で教育現場の問題を訴え続け、国会や文部科学省への署名提出、国会での参考人陳述等を行う。共著に『教師のブラック残業』(学陽書房)、『迷走する教員の働き方改革』『#教師のバトン とは何だったのか』(岩波ブックレット)、『校則改革』(東洋館出版社)。ドキュメンタリー「聖職のゆくえ」(福井テレビ)出演。本名は西村祐二。

嶋﨑量氏

嶋﨑量(しまさき・ちから)
弁護士、神奈川総合法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事。労働者側の立場で労働問題に取り組む。とくに教員の労働問題、若者の労働問題、ワークルール教育の推進に関心がある。著書に『5年たったら正社員!?−無期転換のためのワークルール』(旬報社)、共著に「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)、『迷走する教員の働き方改革』『#教師のバトン とは何だったのか』『「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)などがある。

苫野一徳氏

苫野一徳(とまの・いっとく)
哲学者・教育学者。熊本大学教育学部准教授。熊本市教育委員。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。著書に『どのような教育が「よい」教育か』『勉強するのは何のため?』『教育の力』『「自由」はいかに可能か』『子どもの頃から哲学者』『はじめての哲学的思考』『「学校」をつくり直す』『ほんとうの道徳』『愛』『NHK100分de名著 苫野一徳特別授業 ルソー「社会契約論」』『未来のきみを変える読書術』(筑摩書房)、などがある。

6 関連記事

☆斉藤ひでみ先生の記事を読みたい方

☆みんなの学校安心安全プロジェクトの過去イベント記事

☆苫野一徳先生の記事を読みたい方

7 編集後記

学校の校則のあり方が教員の働き方そのものにも関わるという考え方には新しさと面白さを感じました。校則問題は根強く残る問題でありますが、少しずつ解決に近づいていくとよいと感じます。また、この記事が学校現場にとって、校則問題について考える一つのきっかけになれば幸いです。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 千葉)

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プロフィール写真(斉藤ひでみ).jpg

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