教員の多忙化とは(斉藤ひでみ先生) その2

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作成者:安藝 航 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、様々な教育問題の内容や争点を知るための企画『Debate with Student』の第1弾として、教員の多忙化について、斉藤ひでみ先生へ2020年1月11日に行ったインタビューを編集したものです。斉藤ひでみ先生は、公立高校教員で、教員の長時間労働の一因として問題視されている給特法の見直しを求め、署名活動をされています。

その2では、多忙化を軽減するための措置についてお聞きしました。是非学生の方だけではなく、教員の多忙化に興味のある方もお読みください。併せてこちらの記事もご覧ください。
教員の多忙化とは(斉藤ひでみ先生) その1

2 給特法の具体的な改正案

1.残業を労働と認めること、2. 残業の責任の所在をはっきりさせること、3. 上限を超えた場合は管理職に罰則をつけること、4. 残業に対価を支払うこと、これらの改正があったら確実に残業が減ります。

実は3月に岩波ブックレットから書籍『迷走する教員の働き方改革——変形労働時間制を考える』(関連書籍参照)を出したのですが、そこで強調したのは、残業を自発的行為ではなく労働と認めてくれということです。「残業代をくれ」という訴えだけではないということです。現在は「残業を減らそう」と言っても法律上の残業は存在せず、自発的な行為として扱われます。「自発的行為を減らせ」なんて意味が分かりませんから、残業を労働と認めさせたうえで、労働に対価を要求する必要があります。残業が増えれば増えるほど残業代を払う必要が生じ、残業が月45時間を超えると管理職に罰金や懲役が科せられる緊張感があって初めて、管理職は残業を減らさなければと思うのです。

給特法は、「教員には時間管理がなじまない、また教員ならば時間外でも自発的にやりたいだろう」という大前提があります。しかし、今は給特法ができた頃と随分変わり、特にここ数年は教員もタイムカード等で時間管理をするようになりました。例えば、学級経営は時間で区切るものだと思います。保護者からの電話も、定時を過ぎたら留守番対応に切り替えてそれ以降は受話しません。「対価が支払われなくても際限なく対応する」というものではありません。校務分掌も部活動も同じで、17時を過ぎてやっていることには対価が支払われるべきです。定時後のテスト作成も同じことが言えます。

一方、授業準備は自発的に行う仕事として考えることもできると思います。授業準備は何時間やれと命じられるものではありません。ですから、教員の本来業務の核である授業の準備だけは、教員が自発的に行う仕事であり、定時内外を気にせずやる。授業準備以外の業務は残業代を支払う、というのが私の考える給特法改正案です。もちろん自発的に行う授業準備も無賃ではなく、その対価として教職調整額4%を引き続き給料に上乗せして支払えばよいと思います。

この改正案は、今の給料に残業代がプラスされるだけですので、教員にとって都合がよすぎると思われるかもしれません。ですから私は、教員の特殊性を否定し、給特法を廃止して世間全般の仕事と同様に、公立教員も労働基準法に完全準拠するだけでもよいと思います。

公立教員以外の職は、私立教員や国立大附属教員も含め、残業月45時間が罰則付きの絶対基準となっていくのに対して、公立教員の場合は、結局管理職が命じた労働ではないので、月45時間を超えても誰に責任や罰則があるのかわかりません。給特法によって残業代が出ない上に、管理職に対する罰則もつかないことになるならば、労働環境を適正化するためにも給特法は抜本改正か廃止する方がよいと考えています。

3 その他の措置

授業準備

仮に給特法を廃止した場合、授業準備も残業代を出すことで、残業代欲しさにいくらでも残業するということが発生してしまいます。そうならないために、残業で授業準備をする場合には、1時間の授業にどれほどの授業準備が必要かという共通了解を作る必要があると思います。1時間の授業に30分の準備が必要となれば、残業代支払いとしてはその分は認めるけれども、それ以上は私生活の時間としてやってくれ、とすればよいのです。もしくは、週に授業が何コマと決まっていますから、それに従って1週間に何時間の残業申請が可能という形を整えてもよいと思います。

ただ、給特法の改正であろうが廃止であろうが大事な訴えになってくるのが、授業準備はそもそも勤務時間内に入れるべきだということです。翌日4時間の授業があるとしたら、2時間の授業準備時間を勤務時間内に確保せよという訴えが大事です。まずはその時間で準備をして、残業で授業準備をしたい場合は果たして何時間まで申請可能なのか、という基準をみんなで議論したらよいと思います。

部活動

部活動についてはまず顧問を引き受けるかどうかの選択が認められるべきです。部活動の顧問をやりたい教員は、残業時間が増えることになりますが、その人にはその分の対価を払うべきだと思います。

部活問題の最終的な解決は地域移行です。具体的には、学校ではない外部団体が教員だけではなく広く市民から指導者を集めて運営するという形です。その際には、やりたい教員にもしっかり対価が支払われ、市民の中でやりたいという人にも同じだけの対価が支払われることになります。

しかし今は、全教員が無償で部活動をやらされている状態です。現状から理想に移るためには、まずは顧問を持ちたい教員とそうでない教員を調査し、やりたい教員については管理側が本務優先と指導能力を確認した上で、対価を払うことを条件にきちんと任命しなくてはいけません。顧問の選択権を認めるのと、指導する教員に対して対価を払うというのは矛盾せず、その両方を訴えていく必要があると思います。

やりたくない教員がみんな顧問を辞めて、やりたい教員のみが顧問をやることになれば、部活動の数も激減してそれがまた地域移行につながると思います。

市民とともに議論する

教育予算を増やす議論を進めるためには、教員だけで議論するのではなくて、市民と対話を重ね、その同意を得ていく必要があると思います。地域の方々に、学校の実態を知ってもらったうえで、公教育をどのようにすべきかという議論が必要です。学校の教員よりも地域の方のほうが真っ当な意見を出してくれることもあります。だからこそ現状について理解してもらった上で、市民を巻き込んだ議論を促していかないといけません。それが教員の労働環境を改善していくための糸口になると思います。

私は自分が暮らす岐阜県で、市民の方と対話を重ねる「教育茶話会」という試みを行っています。2ヶ月に一回は会議室を借りて、現職教員と地域の方が一つのテーブルを囲み、世間話をするように教育の今後について語り合う機会を持ち続けたいと思っています。

現場の雰囲気

やりたくない仕事について、無償の自発性を強いる現状に対して、「おかしいのでは」と教員が勇気を出して言う必要があります。今は「本当はやりたくない」「なんでこんなにやらされるんだ」と本音では思いながら、それを口に出さず、暗に周囲にもそれを強いるような同調圧力が生じることもあります。やりたい教員とやりたくない教員が不満を持たない形で共存できるような職場にしていくべきです。

そのためにはシステムと意識を変えていかないといけません。具体的には、過度な負担を受け入れた人には、相応の対価が支払われるようにすべきだと思いますし、「残業代云々ではなく、教師だったら子どものために何でもすべきだろう」と無償の献身性を求めるような意識も改められるべきです。今そこに着手しなければ、これからの時代、もはや教職は若者にとって魅力的な職業と見なされず、教員採用試験の倍率は下がる一方だと思います。

4 学生にむけて

私は一連の活動を通して、学校現場で声を上げるというのは思っていた以上に可能なんだと感じています。私も最初は、声を上げることで、嫌がらせや不当な人事や社会からのバッシングなどの不利益を被ることを恐れていましたが、実際にはそんなことはありませんでした。現職のままで現場を変えようと動くことは、腹をくくれば可能だな、というのが実感なんですね。だから今の状況をなんとかしたいと思う人がいたら、むしろそういう人にこそ教員になって声を上げてもらいたいです。旧態依然のやり方に対して「おかしいと思います」と言ってくれる若者がいることが、教育現場を立て直すことができる最後の希望だと思っています。幸いにも、若い方というのは自分で考えてドンドン動いてくれるから、心強いわけですよ。

もしも、「本当は教員になりたいけれども、ブラックだからどうしようかな」と悩んでいる人がいたら、「一度教員になってやれるだけやってみたら」と言いたいです。その結果、やっぱりダメだと思ったらそこから別の職業に移ることもできますし、どんな経験も一所懸命にやったことは無駄にはなりません。躊躇しているけれどもやりたいと感じているなら一度やってみるとよいと思います。

一方で、もしも「ブラックな環境は大変だから教員にならないことを決めました」という学生がいるとしても、それはそれでよいと思います。私自身は20代のとき全然違う仕事をしており、30才を過ぎてから教員になりましたが、その頃の経験が今に生きています。実際、多様なバックボーンを持った方が今の現場を支えていますし、おかしいと声を上げられるのは別の現場を経験している人が多いですから。

将来についてさまざまな悩みを抱えている学生がいると思いますが、悩みながらも一度現場に入ってもらいたいと思いますし、入らないことを決めたとしても、またいつかは教員になってもよいかなと思いながら時間を過ごしてもらえたらなと思っています。

5 プロフィール

斉藤ひでみ先生

岐阜県公立高校教員。本名、西村祐二。2016年8月よりツイッターで教育現場の問題を訴え始め、給特法の抜本改正、変形労働時間制の撤回を求める署名活動を行う。署名は国会や文部科学省へ提出、記者会見や国会参考人陳述で数々の提言を行なった。共著に『教師のブラック残業』(学陽書房)、『迷走する教員の働き方改革』(岩波書店)。ツイッターアカウントはこちら。(2020年1月11日時点のものです。)

6 関連書籍

教師のブラック残業~「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!

迷走する教員の働き方改革——変形労働時間制を考える (岩波ブックレット)

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【基調講演(内田良先生)】五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙の影に潜むものとは~』

8 編集後記

1人でも多くの方にこの記事を読んで頂き、教員の多忙化について考えて、行動につながってほしいと強く感じました。
(EDUPEDIA 編集部 編集・文責:安藝航/取材:安藝航、千葉菜穂美)

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