「学校の多忙化」の改善(業務改善)1 ~「残業の見える化」から始める

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進む多忙化

平成元年、「このところ異常に忙しくなってきている」と先輩教師がこぼしていたのを覚えています。以降、30年近くの時を経て、当時とは比べ物にならないほど学校の多忙化は進んでいます。児童生徒への対応も、保護者への対応も、年々難しくなってきています。平成に入ってからだけでも、学校では「○○教育」「○○学習」等と銘打った企画が次々と展開されています。防災教育・性教育・金銭教育・キャリア教育・食育・地域学習・外国語教育・総合的な学習・CAP・現場学習・アクティブラーニング・・・・・・それぞれが時代の要請であり、大事であることは現場もよく理解していますが、正面を切ってまともに取り組むには重すぎる負担です。「あれもするべき、これもするべき」「あれも子供のため、これも子供のため」と無定見にビルトアンドビルトを続け、ポジティブリストが長大化し、教育現場は正常な労働時間内ではとうてい収まらない仕事量を抱えてしまいました。本来は、スクラップアンドビルトをしなければならないはずです。
教員は基本的に善意で仕事量を増やす習性があります。そして
頑張ったらできた
→だから嬉しくてもっと頑張る、業務範囲を広げる
→そのうちに仕事が増えすぎて、
→あれっ?
→頑張らないとできない!
→仕事が回らなくなってくる
→回らないと余計に業務の遅延停滞が起こり、トラブル・混乱が広がる
→頑張ってもできない!!
→クラッシュ
というパターンをたどります。
“みんな”忙しいから、なんとなく今の働き方が異常であることに慣れてしまってどうも思わなくなってしまっている教員が多いと思います。トップダウンに慣れっこになって、上からかかってくる圧力が横(職員間)の同調圧力となって自縄自縛、身動きができなくなってしまっているという一面もあるでしょう。が、この記事を読むと、きっと「このままではマズイ」ことに気が付くと思います。行政側も現状ではマズイことを認識し始めたのか、やっと重い腰を上げ、今年(2017年)は「学校における働き方改革」に取り組む姿勢を見せています。
学校における働き方改革特別部会(第3回) 配付資料
また、現職教員がサイト
教働コラムズ
で、様々な提言や情報共有を行っていますので、是非ご参照ください。
学校関係者(行政~教員)の意識改革を進めるためにも、この記事をSNSでシェアしてくださるとありがたいです

多忙化解消という責任

このまま多忙化を放置していけば、本務である授業研究・授業準備のための時間が圧迫され、学校現場がますます混迷してゆくのは目に見えています。教育委員会・管理職であっても、ベテラン教員であっても、若年の教員であっても、未来の教員・未来の学校や児童生徒に対して責任があります(「今」は勿論のことです)。「このまま多忙化を続けるとどうなるのか」という課題に対してきちんと向き合っていくことが今現場にいるいる私たちの責任であると考えねばなりません。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授が渾身の書籍「教師のブラック残業」「ブラック部活動」を出版されています。下の著作は主に中学校の部活について書かれた本ですが、学校現場の多忙化の構造について鋭く迫った内容は秀逸です。

また、文科省学校業務改善アドバイザー・中教審学校の働き方改革部会委員(2017年現在)の妹尾昌俊氏も著書「「先生が忙しすぎる」をあきらめない—半径3mからの本気の学校改善」「先生がつぶれる学校、先生がいきる学校—変わる学校、変わらない学校 実践編【II】」等で、現場に寄り添い、多忙化について実に丁寧にレポートをしてくださっています。

先生がつぶれる学校、先生がいきる学校(妹尾昌俊:2018)【書籍紹介】

諸悪の根源は『給特法』

著書の中で内田准教授は「諸悪の根源は『給特法』」と言及しておられます。まさにその通りだと思います。「効率の義務教育諸学校等の教員職員の給与等に関する特別措置法」を略して「給特法」です。
教員には残業代を支払う代わりに、一律に給与の4%(教職調整額)を上乗せすることで教員の残業代は「チャラ」にされています。4%を時間に換算すると1日あたり19分程度です。休憩時間もろくにとれず、お持ち帰り残業も多数発生する中、割に合わないと言わざるを得ません。

そして、超勤四項目(限定四項目)

残業が19分余りしか想定されていない状況なので、管理職が教員に残業を命じられる場面は政令によって以下の四項目に限定されています。

イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

つまり、この四項目以外は命令できないので、四項目以外の職務は教員が自主的に残業してこなしていると見なされているのです・・・・これはおかしな話です。職務命令ではないとしても、管理職が命令・要請する仕事は多岐にわたり、それをこなすのに「勤務時間+19分の残業」では到底足りません。同僚が苦労してサービス残業に従事する中、たとえば中学校のクラブ活動・小学校のスポーツ活動を「課外活動なので私はやりません」と開き直るには相当の覚悟が必要です。教育活動は基本的にどれも「良いこと」として行われており、だからこそ膨張してきた経緯があります。忙しくしている同僚を尻目に、自分だけが定時に帰るというのは勇気がいる事なのです。

※「給特法」「超勤四項目」「休憩時間」などについては、内田准教授の「ブラック部活動」でわかりやすく述べられているので、是非、参考にしてください。

文科省・教育委員会・管理職の責任

管理職の責任については特筆すべき案件なので、下記にまとめていますのでご参照ください。
校長先生、職員室が学級崩壊状態です!~「職員室の学級崩壊チェックシート」付

「給特法」「超勤四項目」は、管理職の勘違いを引き起こしてしまっています。「超勤四項目以外の残業は教員の自由意志でやっている」とみなすのは、どう考えてもおかしいです。管理職には労務管理をする責任があります。何だかんだと仕事を命令・要請しておいて、「時間オーバーになっても知りません」ではすみません。管理職にはリーダーとして業務改善・業務内容の精選に取り組む責任があるのです。賃金不払い労働をさせているという自覚を持たなけらばなりません。これが果たせていない現状を、以下、列挙します。

(1)「給特法」と「超勤四項目」があるからサービス残業させても問題はないと開き直れると思っている。(労務管理の放棄)・・・多くのの管理職は「自分の若い頃はサービス残業当たり前でおまえらよりもっと頑張った」という妙な勘違いをしています。労務を管理する立場になっている自覚がないのです。
(2)サービス残業を美徳化し、サービス残業に熱心な人をひいきする(出世させる)。または、サービス残業に熱心でない人を認めない。
(3)業務改善に対して熱心でない。業務内容の精選の決断ができない。
(4)現在、サービス残業が大量に発生していることを認識しながら、新しい仕事(研究授業大会等)を持ってくる。
(5)サービス残業が発生していることは認識しているものの、それがどれくらい出ているのか、現状を管理職も教育委員会も数値を把握していない。・・・学期末や年度末の職員会議で、最後だけ「先生方には日ごろからご無理をかけております」云々と、謝辞を述べる校長が多いですが、謝辞で済ますことができる問題ではありません。
(6)労務管理・部下の安全配慮義務(健康管理)を放棄していても教育委員会が指導しない。

こうした管理職の認識・態度を是正しなければ、多忙化・ブラック化はなかなか動かし難い問題ではないかと思っています。そもそも「残業」「サービス残業」「超過勤務」「学校滞在時間(←悪意のある表現です。好きで滞在しているわけではない!)」ではなく、意識改革のため、「賃金不払い労働」と表現・自覚するべきです。

過労死ラインは80時間/月、100時間/月で産業医に報告義務

過労死ラインは80時間であり、「80時間というのは、労働安全衛生法での面接指導等の対象となるということです。」
考えてみてください。8時出勤、休憩時間なし、8時退勤を1か月(20日間)続ければもう80時間の残業、過労死ラインに到達です(「休憩時間なし」の方、多いですよね。すでにそれがおかしいのですが。)。そんな教員はざらにいます。給与が月30万円だとすると、300000円×調整手当4%=12000円です。これを80時間でわると時給150円になります。
さらに、9時退勤を1か月(20日間)続ければ100時間の残業となります。時給120円。「2017年6月1日より、月100時間以上の時間外労働をしている労働者について、事業者は速やかに産業医に報告することが義務化」されています(労働安全衛生規則第52条の2関係)。管理職も教員も、事の重大性を認識する必要があるでしょう。

なぜ業務改善なのか、その理由の本丸

業務改善が必要である理由について管理職の口からよく出る言葉が「子供たちと向き合う時間の確保」や「授業準備・教員の自己研鑽の時間の確保」です。もちろん、そういった時間も必要であることは教員も承知しています。しかし、それよりももっと大切なことがあるのではないでしょうか。業務改善の本丸が、「教員の賃金不払い労働状態の改善」であることは至極当然です。ここをすり替えてしまってはいけません。教員の献身的努力に依存し、「子供のため」という殺し文句でサービス残業を美談にしている状況がおかしいのです。

ブラック化改善への突破口

そこで、最近になって大きな自治体で取り入れられている「出退勤記録の電子化」に一つの突破口があるのではないかと考えています。

大きな自治体では、ここ数年で職員証を磁気カードにして、出退勤時に「ピッ」と記録する機械を導入しています。この出退勤の記録を必ず公表するようにしてはどうかと思っています。公表された個々の学校の毎年の記録を委員会・管理職・教員・組合で共有し、分析・比較します。時給1000円とみても、どれくらいの残業代が各校で、各自治体で、全国で発生するのか計算してみるといいでしょう。他校のデータ、他の自治体のデータを誰もが見比べることができるようにして、自分の学校・自分の自治体の業務改善のできていなさを自覚する機会を設ける必要があります。このデータを基に業務改善をきちんとPDCAサイクルにのせるべきだと思います。教育委員会にはサービス残業が多い学校の校長を指導する義務を負わせるべきです。「学校のブラック度の見える化」です。エビデンスのなかった今までの状況から、エビデンスを労使が共有する状況へ変えていかねばならないと考えています。「出退勤記録の電子化」ができない自治体は、タイムカードを導入してでもサービス残業の実態を把握するべきです。
数字をつかんで物事を考えることができないというのが、文科省を頂点とする教育現場・学校関係者の弱点です。
先生がつぶれる学校、先生がいきる学校(妹尾昌俊:2018)【書籍紹介】
では、タイムカードの重要性について、
>>「体重計に乗らずにダイエットしようとする人がいるでしょうか?」
と、妹尾氏が問いかけています。ウィットに富んだ指摘ですね。
まず、ここから始めるのが一番だと思います。
そしてもちろん、体重計を見ているだけではダイエットは進みません。確実に働き方改革を進めるためには、文科省・教育委員会・各学校に「業務改善担当部署」を設置するべきです。文科省・教育委員会は責任者を定め、兼任ではなくできるだけ専任として確実な施策の実施ができる状況を作り出して欲しいです。

お持ち帰り残業

「出退勤記録の公開と共有」で管理職にプレッシャーがかかると、管理職は闇雲に学校に鍵をかける時間を早めて教員の追い出しにかかるかもしれません。管理職が自分の身を守るために仕事がある(業務改善ができていない)のに職員に「早く帰れ」とけしかけるようでは、教員のお持ち帰り残業が増えるだけです。学校でなければできない業務があるのに、鍵をかけられてはただただ教員は困るだけです。「出退勤記録の公開と共有」と共に、必要であるのが、「お持ち帰り残業の記録の公開と共有」です。これは自己申告制となりますが、必ず把握されなければならない数字です。

教師の本務

ちなみに、私自身は教師という仕事に身を捧げようと考えて教師になりました。「必要を感じて自主的に賃金不払い労働をすること」については賃金不払い労働であっても頑張りたいと思っています。しかし、「無定見・不条理に賃金不払い労働をさせられること」は避けたいです。

文科省・教育委員会・管理職・保護者・地域からの無茶な要求に、時間をかけることでなんとかこなしていると言うのが学校の現状です。しかし、多忙化はとどまることを知らず、無茶な要求に対応するうちに、
頑張ったらできた→頑張らないとできない→頑張っても頑張ってもできない
と、状況は悪い方向へ流れていきます。

教師の本務は授業です。そして、授業時間中にしっかりと力を付けられなかった子供たちを落ちこぼすことのないように学力保障に向き合わなくてはなりません。
学力保障については下記↓の記事をご参照ください。

学力保障 ~学校の荒れを防ぐための最優先事項

思い切った業務改善を行い、余裕がある中で授業準備・学力保障ができるように、学校は変わっていかなくてはなりません。子供たちをきちんと伸ばすことができたなら、トラブルもクレームも減ってくるだろうから、大きな業務改善になると思います。

下記↓の関連記事も是非ご参照ください。

「教員の多忙化」というキーワード の学習指導案・授業案・教材 一覧
【五月祭教育フォーラム2018】「教員の多忙化」記事特集ページ
「学校の多忙化」の改善(業務改善)1 ~「残業の見える化」から始める
「学校の多忙化」の改善(業務改善)2 ~学校の業務改善をどう考えるか
「学校の多忙化」の改善(業務改善)3 ~具体的な業務改善のアイデア
「学校の多忙化」の改善(業務改善)4 ~具体的な業務改善のアイデアICT編
「学校の多忙化」の改善(業務改善)5 ~成果報告
休憩時間(時間外労働)に関する管理職の義務違反について
学校評価(1) ~ PDCA→CAPDサイクルへ ~ 成果向上と多忙化の解消
学校評価(2) ~ まずは、漢字を評価するところから

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