里親ってなんだろう? 【フォスターホームサポートセンターともがきインタビュー前編】

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目次

はじめに

この記事は、2024年2月9日に行ったフォスターホームサポートセンターともがきへのインタビューを記事化したものです。この団体は、世田谷区の里親養育包括支援機関(フォスタリング機関)です。

この記事は前後編に分かれており、この記事は前編です。こちらでは里親制度の内容についてご紹介しています。里親子との関わり方について書かれた後編も合わせてご覧ください。

里親制度とは?

ーーまずは、制度の基本的な内容を教えてください。

社会的養護について

里親制度は「子どものための制度」であり、社会的養護の仕組みのひとつです。社会的養護とは、親の虐待や病気などにより親元で暮らすことのできない子どもたちを、公的責任で社会的に養育します。里親制度のほかにも児童養護施設や乳児院、ファミリーホームがあります。

  • 児童養護施設:社会的養護の必要な子どもを養育する施設。
  • 乳児院:社会的養護の必要な乳幼児を養育する施設。
  • ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業):養育家庭等で一定経験のある方が、事業届出のうえ、自宅で5人または6人の子どもを養育する事業。

里親制度について

世の中には、ひとり親家庭や祖父母が子どもを養育する家庭、同性カップルの家庭などさまざまな家庭の形があります。私たちは、その中のひとつとして里親家庭があるという考えをもっています。そのため、「里親だから」「里子だから」ということにはあまり縛られずに考えてもらいたいと思っています。もちろん、「里親子に対して、このように接してもらえると嬉しい」ということはありますが、里親子であることが理由で特別扱いになってしまうと、かえって里親家庭の人たちが私たちの意図せぬ生きづらさの中で生活をしていくことになるかもしれません。そういったことは避けたいですよね。

里親制度は複数に分類でき、主に「養育家庭「養子縁組里親」があります。実施機関はどちらも基本的に児童相談所です。一般的なイメージとして、「里親=養子縁組里親」と考える方が多いと感じていますが、実際にはそれ以外の形もあるのです。この2つの一番大きな違いは、法的な親子関係の有無です。

※児童福祉法上は「養育里親」という名称が使われていますが、東京都及び児童相談所設置区では「養育家庭」、「専門養育里親」も同様に「専門養育家庭」と呼んでいます。

養子縁組里親

前述のとおり、養子縁組里親は養子縁組を目的として養育する里親ですが、養子縁組のうち、「特別養子縁組」は原則として15歳未満の子どもと法的な親子関係になり、最終的に里子が戸籍に入るものです。養育に期限はありません。ただ、縁組の前に、一定期間里親として子どもを養育する必要があります。その間、養育の様子や里親の背景、子どもとの関わり方などを総合的に見て、縁組が適切かどうかを最終的に家庭裁判所が判断します。養子縁組が成立すると、親子として生活をしていきます。子どものことを考えると、なるべく早い段階で里親家庭に委託し、安心安全な環境を保障することが望ましいとされているため、概ね小学校に入学する頃には成立している家庭が多いです。

養育家庭

養育家庭は、18歳頃までの子どもを一定期間預かり、養育する制度です。あくまで子どもとは委託関係であり、いずれ子どもが実親のもとへ帰ることが前提になります。預かる期間はさまざまで、数日、数ヶ月という短期間の場合もあれば数年のケースもあります。里親家庭での生活を経て、18歳に達したところで自立し、大学進学や就職をする子どももいます。委託される子どもの年齢はより幅広い状況にあります。最近では、中高生の委託が増えている傾向にあります。

全国では、2022年時点で、里親家庭で生活している子どもの数が6,080人、そのうち養育家庭が4,709人(福祉行政報告例(令和4年度末))です。つまり、養子縁組里親家庭よりも養育家庭のほうが多く、さらに子どもの数に対して養育家庭の数が足りていないという現状があります。

配慮すべきシチュエーション

ーー里親に育てられた子どもの性格に特徴はあるのでしょうか?

里親家庭で暮らすということは、その子どもの家庭や家族に何らかの事情があるということです。その背景に目を向けることが大切です。例えば、虐待、親の病気、貧困など、家庭によってさまざまですし、重複している場合もあります。

人間関係への影響

温かいご飯が出てくる、「おかえり」と言ってもらえるといった、多くの人にとって当たり前である経験ができない子どもがいます。本来であれば、生まれ育つ家庭の中でさまざまな考え方や人との付き合い方、社会性などを学びます。しかし、当たり前の生活が保障されない環境によってさまざまな経験不足が生じると、「本当にこの人を信頼して大丈夫かな?」「約束したけれど裏切られてしまうんじゃないかな?」といった不安をもつようになり、さらには、「どうせ約束しても守られないんだったら、もう約束しない」「友達なんていらない」といった後ろ向きな考え方が形成されることがあります。

ただ、ひとえに「社会的養護の子どもだからこういった性格」ということはありませんし、そのような環境で育ったからといって、必ずしも「大人から見た困った子ども」に育つわけではありません。「自分はこういう親を見てきたけれど、こうならないように生きているんです」という子どもたちももいました。

ーー里親子にとって気になりやすい言葉遣いがあれば教えてください。

里子にとっての親は里親か、実親か

やはり、「お父さん」「お母さん」という概念は子どもによってさまざまだと実感します。ある里子が、子どもたちの会話の中で、里親のことを「にせもの」と言ったことがありました。その子どもは、実親と里親を区別する意味で「にせもの」と言ったのかもしれません。

子ども自身が思っている家族の形があって、それは他の人と同じでない場合もあります。そのため、その子どもに関することはできる限り、子どもの声を聴きながら決めていくことが大切だと考えています。例えば、里親家庭で生活していることを周囲にどのように説明するかについて、「例えば、親戚のお家で暮らしていると言うこともできるよ」などと話してみるなどです。また、里親家庭で暮らす子どもは、里親の苗字を使うこともあれば、実名で生活する子どももいます。その選択の際も子ども自身の意思を尊重します。

実親のことを「本当のお父さん」「本当のお母さん」と言ってしまうと、「里親は本当の親ではないのか」「育ての親だって本当の家族じゃないか」という捉え方もできますので、「生みのお父さん/お母さん」と「育てのお母さん/お父さん」という言い方が適切かと思います。

実親の存在を認識したうえで里親家庭で暮らす子どももいれば、小さい頃から里親家庭で暮らしているゆえに、里親のことを実親同様に思っている子どももいます。そのため、里親のことを「お父さん/お母さん」と呼んでいる子どももいれば、「○○さん」と名前で呼んでいる子ども、実親と里親でそれぞれ「○○パパ/ママ」と呼び名を決めている子どももいます。両親に関することに限った話ではないですが、子どもによって状況が異なることが多いので、「里子だからこの言葉は使ってはいけない」と一概に言うことはできません

幼少期の記憶と記録

言葉の使い方以外で配慮が必要なのは、子どもの「生まれ」「生い立ち」に関することです。例えば学校の授業や宿題で、「名前の由来についてお母さんとお父さんにインタビューしてきましょう」「あなたが生まれたときどんな気持ちだったか聞いてきましょう」と言われると、困ってしまう子どもたちがいます。里親家庭で生活をしている子どもたちの中には、出生時や幼少期の情報が極端に少なかったり、名前の由来が分からなかったりする子どもがいるからです。乳児院で生活をしていた場合は、その間の記録や写真が施設に残っていますが、家庭で生活をしていた時期があったり、その後実親と連絡が取れなくなってしまったりすると、情報を得ることが難しいです。一方で、里親家庭で生活しながら実親と交流をしている場合や、児童相談所が実親と連絡が取れている場合には、児童相談所を通じて生まれた時のエピソードを聞くといったことができるかもしれません。過去の情報は子どもにとっては大事なルーツなので、扱ってはいけないことではありません。そのような話を扱う機会を大切にするためにも、里親に相談したうえで学校には準備期間を長めに設定するなど配慮いただきたいです。

数年前から、いろいろな家庭があるという理由で1/2成人式の形が変わってきていると聞きます。里親家庭の子どもは、例えば1/2成人式等の機会で親に手紙を書くときに誰に書いたら良いか悩んでしまうことがあります。行事の開催方法や事前準備に関しては、あらかじめ里親や関係機関にご相談いただき、時には臨機応変に対応いただけるとありがたいです。

里親は40~50代の方が多く、実親よりも年齢が高いことが多いです。子どものおじいちゃん・おばあちゃん世代ということもあります。血の繋がりがないので顔も似ていません。外国ルーツの子どもを日本人の里親が預かっている場合、肌の色すら違うこともあります。このような違いを他の子どもが指摘することは止められませんが、そこに対して腫れ物に触るような形でなく、その子どもがどう理解してるかを把握したうえでフォローしてほしいです。子どもが自分の背景を理解していれば「そうやって生活しているんだよ」と声掛けしても良いかもしれないし、自分の家庭が里親家庭であることを知らない場合は、どのようにフォローしたら良いかをその都度考えていきます。子ども一人ひとりを理解し、状況と背景に合わせて対応を検討する。それが答えになると思っています。

プロフィール

フォスターホームサポートセンターともがき

世田谷区内にある児童養護施設「東京育成園」を母体としたフォスタリング機関。世田谷区から委託を受け、里親さんたちが安心して養育し、子どもたちが温かい家庭で生活できるよう、様々な取り組みと包括的な支援を行っている。

詳細はこちら ▷ https://seta-oya.com/

編集後記

私自身、取材をさせていただくまでは里親制度についてほとんど知識がありませんでした。もしかしたら、今まで出会った人の中に里親家庭で生活している人がいたのかもしれません。そのような方々も一般家庭と同じように生活しているので、もし身近にそのような人がいても考えるタイミングがあったかはわかりません。今回お話を伺ってみて、「里子だからといって性格に影響が出るとは限らない」など、お聞きすることを考えていたときには想像していなかったお話が聞けとても学びになったとともに、「知る」ということが第一歩だと改めて感じました。この記事が、「里親子」という形に限らずさまざまな家庭の形について考えるきっかけになれば幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 丸山和音)

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この記事を書いた人

先生を目指す学生の方に向けた情報を中心に発信していきます。

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