はじめに
この記事は、2024年2月9日に行ったフォスターホームサポートセンターともがきへのインタビューを記事化したものです。
この記事は前後編に分かれており、この記事は後編です。こちらでは里親子との関わり方についてご紹介しています。前編は里親制度の内容について書かれていますので、合わせてご覧ください。
里子・里親との関わり方
ーー学校になじめない里子には、教員という立場でどのようなサポートができますか?
子どもの声を聴く。何よりもこれが重要だと思っています。そのために私たちが大切にしていることが、チーム養育体制です。里子を真ん中にして、里親、先生、児童相談所や私たちのようなフォスタリング機関、養育家庭の会(里親会)と、みんなでその子どもを支えていくというのが基本的な考え方です。やはり、関係機関がそれぞれの視点から子どもを見つめ、足並みを揃えて温かく見守っていく姿勢が大事です。
対応に正解はないので、子どもの声に耳を傾けながら「どうすることがその子どもにとって一番良いのか」を考えていきます。先生方にお願いしたいことは、学校に来た子どもと関わり、その子どもの学校生活の様子をよく見ること、そして、子どもに相談されたことなどを必要に応じて里親に共有することで、ぜひ里親子とコミュニケーションを取り、チーム養育の一員になっていただきたいと思っています。
子どもの背景や特性に応じた関わりを
虐待は、子どもの脳にさまざまな影響を与えるという研究結果があります。例えば、夫婦間の暴力を何度も目撃すると目で情報を得る力に、暴言が飛び交う環境で育ったり暴言を浴びせられ続けたりすると聞く力に影響が出ることがあると言われています。そのような子どもたちは、先生が集団に対する指示を出しても何をしたら良いかわからなかったり、板書が頭に入らなかったりすることがあります。その時は、子どもの言動の背景には何か理由があるかもしれないと思って、子どもの声を聴き、個別的な配慮を心がけていただけるとありがたいと思っています。
里親家庭で暮らすことになった背景を理解する中で、子どもの能力面や発達面、理解度などの限界が見えてくる場合があります。そんな時には子どもへの指導ではなく、環境調整という選択肢もあります。子どもの様子で不安を覚えたら、それらを里親や関係者と共有し、チームで対応を考えてほしいと思います。
ーー周囲の子どもが里子という立場に違和感を覚えたとき、大人はどのような声がけをしていけば良いのでしょうか?
あるケースでは、子ども本人が「事情を説明した方が楽だ」と考えたため、先生や里親、児童相談所とも相談したうえで、「両親が亡くなって里親家庭で生活している」と事実の通りにクラスメイトに説明をしました。それは子ども自身が望んだことであり、年齢的にも自己判断ができたために行ったことです。
一方で、事情があって里親の家にいられなくなり、児童相談所が保護したことを、先生が良かれと思って児童相談所や子ども本人の了解なしに周囲の子どもたちに話してしまったというケースもありました。
里親家庭で生活をする子どもたちは、状況によっては実家庭に帰る、別の施設に移るなど、全く違う場所に行かなければならないこともあります。その際の説明についても、里親や児童相談所にご相談いただけるとありがたいです。
例えば、親子間で名字が違ったり顔が似ていなかったりすること、説明なく急な転校があることなど、周囲の子どもたちが里親子に「違和感」を感じるタイミングは多々あるかもしれません。しかし、里親家庭で生活していることを周囲に開示するか、しないかはケースによって異なります。子どもが安心して学校生活を送ることができるように、先生は里親子関係にあることを把握していると子ども自身にも伝えています。一方で、里親子の意向によっては、先生方に積極的に開示していない場合もあります。また、自身が里子であることを認識していない子どももいます。子どもが困っているかもしれないからと、先生がその場で周囲に開示してしまうことは大きなリスクがあります。
子どもが望んでいることをなるべく正確に捉えながら、「それによって子どもはどう感じるか」を軸にして考えていただきたいと思っています。これに関しては里親家庭に限らない話だと思うので、先生方はさまざまな技術をお持ちだと思います。
ーー里子が里子であるという理由で、いじめにまで発展してしまうケースはあるのでしょうか?
里親家庭で暮らしていることを公にすることで、子どもに不利益が生じたり、いじめに発展して嫌な思いをしたりするのではないかと不安を持つ里親の話を聞くことがあります。しかし、「里親家庭にいるから」という理由でいじめられるという話は聞いたことがありません。一方で、里子自身の経験や背景から、傷つきやすかったり、友人トラブルにつながりやすかったりするということはあります。
ーー周りの子どもに里親家庭で暮らしていることを開示した場合は、受け入れられるほうが多いのでしょうか?
単純に、子どもが「里親」という概念を理解していない場合があります。しかし、子どもは大人よりも柔軟で、その子が里親と生活しているとしても今楽しく遊べるならそれで良いと思っている場合もあります。大人の視点と子どもの視点はとても離れているので、何事も子どもの視点で考えていくことは大切だと思います。
里子自身が、仲の良い子どもにだけ里親家庭で暮らしていることを打ち明けることもあります。そのように子ども同士で考えながら話すことができるようになると、里子であるかどうかは関係なく、子ども同士の関係性が続いていくのではないでしょうか。
ーー先生はどのような場面で里親とコミュニケーションをとる機会があるのでしょうか? また、そのときにどのような話をすべきでしょうか?
制度説明や子どもの状況に応じた個別的な対応の依頼を目的に、私たちフォスタリング機関は毎年、里子の通う学校や保育所に訪問をしています。先生と里親の顔合わせの意味も込めて、里親が同行する場合もあります。そのとき、先生の方から「こんなときはどうしたら良いですか?」と質問してくださることが多いです。やはり、先生も里子と関わるなかで迷うことが多いのではないでしょうか。その際には里親と直接電話などでコミュニケーションを図り、授業内容について相談したり、子どもの様子を共有したりしてもらえると良いと思います。
里親宅での子育ては、妊娠・出産を経ての子育てとは違い、子どもがある程度育った状態で始まります。そのため、生活をしながらお互いの価値観をすり合わせていき、気づくことや知ることもたくさんあります。
一方で、中途養育だからこそ里親が分からない情報も多いです。例えば、母子手帳がない子どもは、学校に保健書類の提出が必要になったときに、予防接種歴などがわからず困ってしまいます。作品展示について相談を受けたこともありました。里子の作品が選ばれて美術館に貼り出されることになったとき、個人情報保護の観点から、名前を載せることができません。そこで、はじめから里子を選ばないほうがいいのかと配慮に悩む先生もいます。ただ、イニシャルだけなら公表できる場合もあるので里親に確認してみてください。家族に関する話題や生い立ちに関することなど、授業で扱う内容に心配がある場合も同様です。まずは里親にご相談いただき、必要に応じて児童相談所にも確認を取る流れが良いかと思います。
里親に特別な資格は必要ありません。当たり前の生活を当たり前にしてきた普通の方々です。「里親だからわからないだろう」とか、「里親だからできるだろう」とかではなく、ひとつの子育て家庭として接していただくことが、里親家庭への一番の配慮になると思います。
ーー里親子間でトラブルがあったときに先生にできることはあるのでしょうか。家庭の問題なのであまり踏み込みすぎるのも良くないと思いますが、どういった線引きで考えれば良いのでしょうか?
これはとても難しいところだと思います。
ただ、「里親だから支援すべき」と考えるのではなく、「里親」の「里」の字を取っても同じように考えるべきだと思っています。里親子間のコミュニケーションに直接介入しないとしても、第三者だからこそ里親子それぞれがどのような思いをもっているかを感じることはできると思います。子どもを通してサポートしたり、里親に対する声かけのなかでサポートしたりなど、先生にできることはきっとあります。
親子間の葛藤やコミュニケーションの不安は、里親家庭であるかにかかわらず起こり得ることです。しかし、あえて「里親子だから」ということを取り出して考えてみたときに、「どんな葛藤が生じやすいか」を知っておいてほしいです。
例えば、ある里親は「里親であるからには、子育てできていないと思われたくない」という気持ちがあって、保育所に対してバリアを張って接していました。一方で、保育所側も「里親とどのように接したらいいかわからない」と思っていました。里親だからといって特別な接し方をする必要はないのですが、そのように考えてしまっていたのです。そのため、子どもを一緒に見守る立場であるにもかかわらず、うまくコミュニケーションがとれなかったことがありました。
子どもは里親に対して、我々が思っている以上に遠慮したり気を遣ったりしています。そして里親も、里親であるという責任感や不安を抱えて養育しています。里親子それぞれから先生に対して、お互いには言えない気持ちがぽろっと吐露されることがあるかもしれません。
子どもが先生に里親に対するネガティブな感情を話したとき、「そんなことはないんじゃない?」「それは違うよ」と否定してしまうと、子どもは「わかってもらえなかった」と感じてしまうかもしれません。これは里子に限った話ではありませんが、先生方に前提の知識がないと、子どもから出てきた表現に驚いて咄嗟に適切でない返しをしてしまうかもしれません。もし子どもがそのような発言をしたときには、「あなたはそう思うんだね」と受け止めてあげてください。
先生方へメッセージ
先生方は普段から子どもや里親を目の前に、いろいろなことを考えてくださっています。先生も、里親も、子どもたちも、困ることは多いと思いますが、その困り感をみんなで共有し、どうすることが子どものためになるのかと足並みを揃えていくことがとても大事です。子どもを支える大人が同じ方向を向いて、同じペースで歩んでいけることが、結果的に子どものためになると思います。対応に悩んだら私たちフォスタリング機関に聞いてほしいですし、里親、子ども、児童相談所とコミュニケーションをとりながら、子どもたちを見守ってくれると嬉しいです。
私たちは、先生方向けに、里親制度のことや子どもたちに配慮していただきたいこと、対応していただきたいことをまとめたリーフレットを作成しています。これは私たちがお願いしたいことを一方的に記載するのではなく、先生方や里親子の声を聞きながら制作しています。もしこの記事を読んで「協力したい」「ここはどうなんだろう?」と思ったらぜひ問い合わせていただきたいです。
私たちは「SETA-OYA」というホームページも運営しています。そこでは里親制度の普及のための情報発信を行っています。また、世田谷区は「里親子が暮らしやすい街は、きっと、あなたも暮らしやすい街。」というキャッチコピーのもと、里親子フレンドリーシティを目指した取り組みを行っています。
最も伝えたいことは、どんな子どもであっても、大人と同じように、それぞれの背景を抱えながら生活していることです。「里親と暮らしているから」ではなく、すべての子どもが同じように「子どもの権利」を保障され、子どもらしく生きられる地域を作っていきたいと思っています。
里親子フレンドリーシティが、まずは世田谷に、そして世田谷から各地域に、大きく広がっていくことを願っています。
プロフィール
フォスターホームサポートセンターともがき
世田谷区内にある児童養護施設「東京育成園」を母体としたフォスタリング機関。世田谷区から委託を受け、里親さんたちが安心して養育し、子どもたちが温かい家庭で生活できるよう、様々な取り組みと包括的な支援を行っている。
詳細はこちら ▷ https://seta-oya.com/
編集後記
大人になるにつれて肩書やレッテルが増えていき、その人を個人としてフラットに見ることは難しくなっていきます。里子を支えていくためには知識やスキルも必要ですが、「里親家庭で生活しているという理由でいじめられることはない」「子どものほうが大人より柔軟」という話があったように、子どもたちのような柔軟さも大切なのだと気付かされました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 丸山和音)
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