理系女性を増やす! 理系女性育成啓発研究所とは?

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目次

1 はじめに

 本記事は、お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所所長の加藤美砂子先生に、理系女性を増やす取り組みについて2022年12月9日に取材した内容を記事化したものです。理系女性育成啓発研究所は、講演会やセミナーを通じて理系分野に興味を持ち活躍する女性を増やす活動をしています。

2 理系女性育成啓発研究所の始まり

 2015年4月に、文部科学省の国立大学改革強化推進事業として、お茶の水女子大学は奈良女子大学と連携して理系女性教育開発共同機構を設置し、7年間にわたり活動してきました。2022年4月からは、お茶の水女子大学独自の理系女性育成啓発研究所を発足させ、理系女性教育開発共同機構の成果をさらに発展させて女子生徒の理系分野への進路選択の促進や理系女性人材の育成を目的に活動しています。具体的には、女子中高生が理系分野に興味・関心を持てる機会および理系で学んだあとのキャリアパスを考える機会をつくる取り組みや、生徒の理系分野への進路選択に関して保護者や教員に向けた講演会やセミナーなどを行っています。どのイベントも無料で参加することができます。

3 イベントの紹介

 この研究所で開催している主な講演会・セミナー・シンポジウムを紹介します。

中高生向けの取り組み

 「リケジョ未来シンポジウム」はいわゆる理系女性ロールモデル講演会で、2015年から継続的に開催しています。社会で活躍している20代から30代の大学で理系分野を学んだ女性に理系に進学したきっかけ、中高生時代の過ごし方、大学での学び、現在の仕事などについてお話していただきます。希望者には講演会の後に登壇者と直接話せる時間を設けています。コロナ禍の前には東京だけでなく、全国各地でこのシンポジウムを開催していました。2020年8月からはZoomを使った完全オンラインの講演会とし、2022年6月からは対面とオンラインのハイブリッド方式に切り替えて現在に至っています。

 「先端科学セミナー」は大学の教員や研究所に所属する研究者が中高生向けに研究を紹介するセミナーです。

 「DXセミナー(デジタルトランスフォーメーションセミナー)」は完全オンラインでデジタルトランスフォーメーションについて大企業のCEOクラスの方にお話していただくセミナーです。DXをわかりやすい事例と共に紹介します。

 「フロントランナーセミナー」は理系女性ロールモデル講演会ですが、「リケジョ未来シンポジウム」とは異なり、長いキャリアを有するアカデミアや産業界で活躍されている方にお話ししていただきます。より専門的な研究の紹介も含まれます。

 「VR体験セミナー」はアバターでメタバースでのセミナーに参加します。難しそうな取り組みなので参加者は限られるのではないかと心配しましたが、蓋を開けてみるとゲーム好きな中学生が気軽に参加し、質問も多く、活気あふれるセミナーとなりました。セミナーを開催した空間は、大学の講堂を模してオリジナルに作成したメタバース空間です。本物の講堂を知っている参加者からは、本当に講堂にいるような気持ちになると好評です。

 「リーダーシップセミナー」では、自分で会社を作った女性社長の方に理系で学んだ後のキャリアパスについてお話していただきます。女性社長の方のお話は幅広いご自身の体験に基づいたものが多く、非常にアクティブな内容です。理系で学んだ後は組織に所属して働くという選択肢以外に、「起業」という道もあることを提示します。

 「グローバル講演会」は全面オンライン方式で行われ、世界で活躍されている海外在住の研究者、学内の外国人教員や留学生等に講演をお願いしています。理系で学んだ後にグローバルな舞台で活躍する研究者の様子や、海外の教育事情などをお話しいただきます。海外の研究室はダイバーシティーが進んでいることが多く、日本以外の研究環境にも目を向けていただきたいと思います。

教員・保護者向けの取り組み

 中高生向けの取り組みだけでなく、教員・保護者向けの取り組みも行っています。進路選択にあたっては保護者の理解が必要です。また、中学校や高校の先生たちも自信を持って理系進学を勧めていただきたいと考えています。先生が生徒と共に情報を探して共有し、生徒に寄り添って進路を考えることが大切です。そのため「女子生徒の理系への進路選択支援を後押しするために」という大きなテーマの下に講演会を開催しています。

 教員・保護者向け講演会では、理系の大学生の生活の紹介、最近の就職事情、中学や高校での生徒の理系への興味や関心を育てる工夫、理系大学の初年次教育の様子などを取り上げました。教員と保護者に特化した講演会を開催することで、女子生徒の周囲も理系への進路選択への理解を深め、応援団となることを期待しています。

4 お茶の水女子大学の強みを生かして

継続的な活動と豊富な人的資源

 2015年から、女子生徒の理系への進路選択の支援事業を開始しました。継続して活動を行なってきたことにより、お茶の水女子大学には女子生徒の理系への進路選択に関する講演会やセミナーを開催している組織が存在するということが認知されてきたように思います。長年にわたる継続的な活動の実績は非常に大きい強みです。本学は国立の女子大として、女性の理系人材を増やす取り組みを先導して行いたいと思っています。理系の女性人材を増やすことは、日本の未来を豊かにしていくことに繋がると考えています。

 お茶の水女子大学は、これまで社会のさまざまな分野で活躍する多くの女性を送り出してきました。この豊かな人的資源があるからこそ、さまざまな講演会やセミナーを行うことができます。大学の構成員や卒業生のネットワークを活用し、女子中高生にさまざまな視点から、理系への興味や関心を育てるお話をしていただきます。そのような点で人的ネットワークがあることは良いことだと思います。

5 今後の課題

理系への関心が薄い層に対するアプローチ

 今後の課題は、理系への関心が薄い層にいかにして「理系って面白いよ」とアピールするかです。将来どうしたいか迷っている方に「理系は面白い」と思えるような体験やお話を提供して、日本全体の理系女性の層を厚くしたいと考えています。また今後は、将来の進路を決めていない中学生を対象とした取り組みや保護者への理系啓発活動を増やしていく予定です。

6 プロフィール

お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所所長 加藤美砂子先生

専門は植物生理学。1983年お茶の水女子大学理学部生物学科卒業、1985年同大学院理学研究科修士課程修了、1988年東京大学大学院理学系研究科博士課程単位取得満期退学、理学博士(東京大学)。企業勤務等を経て、1995年にお茶の水女子大学に着任。現在、お茶の水女子大学の理事・副学長を務めている。

お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所のHPはこちら

http://www-w.cf.ocha.ac.jp/cos/

2023年2月19日時点のものです。

7 編集後記

 これから理系に進むかどうか迷う全国の女子学生、そして学生を支える先生にとって役立つ情報をたくさんお話しくださり、本当にありがとうございました。EDUPEDIAを通じて理系女性育成啓発研究所の活動を多くの方に認知していただければ幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 吉田悠真)

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この記事を書いた人

"取材"という活動に興味を持っています!
日本全国を巡るのが趣味です。

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