後編「作文好きな学級を作るには?~なにわ作文の会に学ぶ作文教育~」

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『前編「作文が子どもと先生を救う?! 〜なにわ作文の会に学ぶ作文教育〜」』では、作文教育がもつ力を解説してきました。しかし、

何でも自由に書いていいよ、今から原稿用紙を配るからね。

これだけでは子どももどうすればよいかわからず、さらに作文を嫌いになってしまう懸念が生じます。そこで、後編では具体的に、誰でもできる作文教育の実践を紹介します。実践については、なにわ作文の会の皆様への取材のなかでも主に、小学校教員歴12年目の川添翔太朗先生に伺いました。

※作文に決まった指導方法や技術はありません。作文教育を実践する際は、目の前にいる子どもたちに寄り添うことを一番に考えることが重要です。また、先生方の個性によっても最適な実践方法は異なるので、指導はその場その時での判断となります。

以下の実践は、なにわ作文の会が受け継いできた大まかな手順などです。これを一つの参考にしていただければ幸いです。

目次

1 生活綴り方の実践イメージ

2 自己紹介の詩

新年度初日

突然ですが、新年度初日の子どもたちのことを想像してみましょう。担任の先生の発表や新しいクラスメイト、新しい教室と環境の変化にドキドキしているはずです。周りを窺いながら自分の居場所を探ろうとするような、そわそわした雰囲気が感じられるはずです。

この出会いのときは特に、子どもたちとの距離感が難しいかもしれません。しかし、なるべく早く打ち解けて、安心できる関係性を築いていきたいですよね。そのためにはまず、「この先生なら安心して自分の本当のことを話せる気がする」と子どもたちに感じてもらうことが大切です。だから、学級開きでは先生自身の生まれや家族、好き嫌いなどをよく話し、学級通信にも書いて伝えます。どんな先生なのかを知らせて、子どもたちの緊張を解いていきましょう。

2、3日目

先生がいろいろと語っていると、自分のことも話したいという子どもたちが現れてきます。そこで、次はみんなのことも教えて、と詩を使った自己紹介を提案します。これは、自分の好きな事や苦手な事、特徴などを短い詩にしてもらい、それを順番に読み合っていくという自己紹介のやり方です。このときに、「できた詩は全体で読み合うから、みんなに紹介して知ってもらいたいことを書いてね」と伝えます。

◎短い詩でも、子どもたちはそれを作るにあたっての自己決定が求められています。新しい先生や友達と出会ってすぐ、まだ人間関係ができていない4月の段階で、どこまで自分を出そうかということを無意識に考えているのです。

完成した詩を教室で読み合っていくと、子どもたちの方がお互いのことを知っているので、過去の話に花が咲きます。また、みんなが知らないことを勇気を出して書いてくれる子もいます。すると、「数年間付き合ってきたけれど、そんな趣味を持っていたのは知らなかった」、「あれは得意だから好きだと思っていたけれど実は嫌いだったんだ」というように、これまでとは違う友達の一面を発見できることがあります。こうして、自己紹介の詩は先生が子どもたちを知る機会になるだけでなく、子どもたちにとっても友達と出会い直すきっかけとなります。

3 読み聞かせ

次のステップは、日記の紹介です。なにわ作文の会がまとめた作文集『教室でいっしょに読みたい綴方―子どもたちの作文・詩』を読み聞かせして、同年代の子や最近の小学生の書いた作文を紹介していきます。読むタイミングは決めずに、朝の会や授業時間が余ったときなどの隙間の時間を活用しましょう。

◎面白くてくすっと笑えたり、あるあるといった共感につながったりする内容の作品を選んでみてください。子どもたちの中から自然と笑い声が上がり、盛り上がれば成功です。

読み終わったら、自分たちにも同じようなことがなかったかを聞いてみます。兄弟げんかや服の脱皮⁽¹⁾の話についての作文は、「私も同じことある!」といった反応を生み出しやすいでしょう。このようにして、読み聞かせを共感的に聞き、他人の体験を自分に近づけて考えることを繰り返します。このときに反応が分かりづらい子もいるかもしれませんが、それでもしっかり心には響いているはずです。したがって、話すことを強制はしません。話したい子を中心に、心地よくみんなで話を聞き合う時間を大切にします。

◎日常の実践としては、子どもの輪に入って遊ぶなど、一緒に何かをして子どもとつながっていくことも大事です。先生も、小学生の流行だけでなく、今向き合っているその子が関心を寄せていることに関心をもつことで、より人間味のある関係に近づきます。

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⁽¹⁾ 服を脱ぎ捨てた後の状態

4 自由作文

子どもから「書きたい」が聞こえたら

作文の本の読み聞かせを繰り返していると、5月のゴールデンウィークが明けたころには、子どもたちの気持ちが「本を読みたい」から「自分も書きたい」に変わっていくのを感じます。「書きたい」という子どもからの声を焦らずに待ち、それが聞こえてきた頃に次のステップへと移ります。

まずは、予告とテーマ決めをします。例えば、「来週に作文を書くから、それまでに自分の今一番書きたいことを決めておいてね」と予告して、模造紙と短冊を用意します。書くつもりの内容を決めた子どもたちから、それを短冊に書いて模造紙に貼ってもらうのです。子どもたちの気持ちは高まっているので、半数以上がすぐその場で短冊を貼ることが多いです。乗り気でなかった子も、友達の様子に促されて決まることもあります。さらに、「まだ一週間あるから書くテーマは変えてもいいし、そのときに一番書きたいことを書いてね」と伝え、書く意欲を温めさせます。

一週間後

ついに、作文を書くタイミングです。子どもたちと約束した日に、できれば2時間ほどまとめて時間をとり、書きたいことを書きたいだけ、書きたいようにさせます。

ここまでは段階を踏んで、大切にしていることはぶれないよう丁寧に進めていきます。その年その年の子どもたちの反応を見ながら、スケジュールありきでは進めないように注意してください。

信じて待つこと

書きたいテーマが見つからないまま書けない子には無理強いはせず、次回の自由作文の時間まで焦らず待ちます。書けないときがあっても問題ない、というくらいの気持ちでいましょう。最近あったことなどを話してもらったり、他の子どもたちの作文を読んでもらったりするだけでも良いのです。一年を通して継続して読み聞かせや友達の作文の読み合いをすることで、いつか必ず「自分はこの題で書きたい」と決めて自分から書くときが来ます。

これを実践するためには、子どもは元から力を持っており必ずできるのだと信じる必要があります。子どもの側に不足があるから支援や指導しなければならないという教育観ではなく、子どもに学び、挑戦しながら共に成長していこうという教育観をなにわ作文の会は大事にしています。

5 日記

子どもたちの書きたい気持ちが耕されてきたな、と感じたころから、日記を宿題にしてみます。理想は、溢れる気持ちや日々の気づきを自主的に表現してくれることです。この段階にまで子どもを導くことは難しいかもしれませんが、「宿題だから書いてきてね」と、ポンと背中を押してあげましょう。

ポイント

  • 誤字脱字のチェックをすることがあったとしても、書き直しまではさせません。
  • 書かれたものにマイナスの評価を与えないようにします。
  • 子どもに寄り添う読み方を心がけます。

声かけの例

  • 「楽しいことだけじゃなくて、嫌だったことでもいいよ」
  • 「無理してオチをつくらなくても、何でもない普通のことでいいよ」
  • 「書きたいな、知ってほしいなってことが見つかるといいね」

6 学級通信

書きかた

子どもたちの日記や作文を中心に、学級通信を作成します。基本的には個別に了承を取りませんが、多くの人の目に触れると気にしそうだと思った場合には、本人や保護者に掲載することについての了承を得ましょう。さらに、川添先生は毎回の学級通信に以下のような保護者向けのメッセージを載せる工夫をしているそうです。

お家の方へお願い

日記・作文では、子どもは書きたいことを書いています。文章の表現が変なこともあるかもしれません。分かりづらいことも文字がまちがっていることもあるかもしれません。でも、そういうところではなくて、これは何を伝えたいのだろう?中身にある思いに心を向けてもらえると助かります。あたたかく見守っていただいて何かあれば教えていただければと思います。
何より子どもの文章っておもしろいです。大人にない着眼点や発想、そんなこと書くってことや、大人にとっては当たり前でも子どもにとってはそうでないことなど、時には考えさせられることもありますが、お家の方とも一緒に読めたらなと思います。

子どもたちが一番表現したかったことを伝えることがこの学級通信の目的です。だから、形式などの技術的な観点から作文を否定されてしまうともったいないですよね。

そこで、掲載する場合には誤字脱字と既習漢字への変換を、元の文の雰囲気を壊さない範囲で行います。こうすることで、本人だけでなく他の読み手の学習にもつながるでしょう。

自由作文の後

まとまった時間をとって自由作文を書いてもらった後は、できるだけ早く、学級通信でそれぞれの題名と書き出しだけを紹介することをお勧めします。これを見ながらみんなでワイワイと話したり、気になる作文を読んだりして楽しむことができます。

7 読者の先生方へ

子どもを語ることのできる環境

日記や作文を媒介に、子どもたちの話を職員室でたくさんできると良いですね。先生同士がコミュニケーションをとりながら、皆で子どもを見ていくことも大切です。一人の子を他の先生たちがそれぞれどう見るのか、共有することで多様な見方ができるようになり、子どもへの理解が深まります。そして、子ども中心に学校が回っていくことを実感できるでしょう。

学び合いの場

さまざまな面でしんどいこともある学校現場だからこそ、先生がやりがいを感じ、喜びや希望をもって働くことが大事になります。自分の子ども観や教育観を確認する場として、また作文の実践報告や作品研究を行って皆で学び合う場として、なにわ作文の会に足を運んでみてください。

8 後編まとめ~学級で作文を書くステップ紹介~

後編では、誰でもできる作文教育の実践、ということで子どもたちへのはたらきかけをご紹介しました。
大まかな流れとしては、

日記・学級通信を継続しながら

  1. 自己紹介の詩
  2. 読み聞かせ
  3. 自由作文

に取り組むことでした。よりよい学級づくりのため、これを一例として取り入れてみるのはいかがでしょうか。状況に応じて、アレンジや工夫を加えていただければと思います。

9 出版物

『教室で一緒に読みたい綴方』

10 おわりに

本記事を通して、自己表現することで人間の生きる希望を育て、すべての子に目を向けることを可能にする作文教育の魅力をお伝えできましたでしょうか。今回ご紹介した内容を、皆さんの学級でもぜひ実践してみてください。

11 編集後記

最後までお読みくださりありがとうございました。取材を通して、子どもたちのやる気を自然に引き出すためには、丁寧に土壌を耕すことが大切だということを学びました。この記事が少しでも役に立てば幸いです。ぜひコメントをお寄せください。
例会では温かく迎え入れ取材にご協力してくださったなにわ作文の会の皆様、ありがとうございました!

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 山浦)

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この記事を書いた人

同志社大学 社会学部 教育文化学科
人々の交流する場や芸術の力を生かした教育への興味を中心に、学び活動しています。

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