「特異な才能」と学校④ 保健室登校の子どもへの対応

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目次

はじめに

NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)では、文部科学省から「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の委託を受け、特定分野に特異な才能を持つ小中学生に関わる先生方に向けた勉強会と専門家への個別相談窓口を設けています。

本記事では、個別相談窓口に実際に寄せられた相談と、それに対する専門家の先生のアドバイスを取り上げます。

今回は、ギフテッド傾向がある保健室登校の児童への対応についてです。通常学級への参加を促すべきか、どのような声かけをすればいいのかなど、悩みを抱えている先生方は多いのではないでしょうか。

知見をご共有くださったのは、特別支援教育が専門で、ギフテッド研究のパイオニアである是永かな子先生(高知大学教授)です。

保健室登校の子への対応

相談者は、養護教諭の先生です。

ギフテッド特性があり、抑うつ傾向のある小学3年生の子が保健室登校になって半年以上が経ちます。

気が向いたら体育は通常学級で参加するものの、基本的には保健室で自由度の高い過ごし方をしていることから、他の児童や保護者から問題視されています。

学校としても、個別のプログラムを実施する人員的余裕がないので保健室登校を継続する限界を感じています。どうすればよいでしょうか。

この相談に対する是永先生の回答で特にキーワードとなったのは、「目的」「選択肢」です。具体的にみていきましょう。

何事においても、重要なのは本人が目的を理解していることです。

たとえばこの事例の場合、子どもに「別室は自分が学習しやすい方法を見つけるための場所」であることを伝えます。学校の目的が「学び」であるのは通常学級でも別室でも変わりません。その目的を達成するための手段が異なるだけです。

では、どのような手段があるのか、教員が子どもに提示することも大切です。

通常学級で学ぶこと、別室で学ぶこと、両方を使い分けること…子どもに選択肢を示し、その選択に応じて学びのための環境整備をしていきます。

別室であれば、デジタル教材もより活用しやすくなるかもしれません。今後の話し合いのなかで通常学級を目指したいという方向であれば、通常学級の環境づくりも考えましょう。

子どもが自分で選択できる機会を設けることは本人のニーズを満たすことにもつながります。

すべての人に同じものを同じ分量だけ提供する「均等」ではなく、同じだけニーズを満たす「平等」を目指しましょう。自分で自分の行動を決定できると意欲が高まるという良さもあります。

ただし、非同期発達(能力間のばらつきが大きいこと)をふまえると、子どもの選択がすべてではないことにも留意しなければなりません。

一度決めたルールも、状況によって本人と確認しつつ調整していく必要があります。言った/言わないという議論にならないように、ルールやその変更は文章で残し、本人と保護者に伝えることもよいでしょう。

このように、子どもが目的を理解した上で、目的達成の手段を選択できるようにすると、自分に合った学び方を見つけることができます。

万が一、子どもが別室で動画を見てばかりのときには、頭ごなしに怒るのではなく、「なぜこの動画を見ているの?」と説明を求めて目的を確認するといいでしょう。

動画を見ていること自体を悪いとするのではなく、「説明できないことは、いったんストップだよ」という声がけをすると、子どもに考えてもらう機会にもなります。

他の場面での応用

目的に対する手段を選べるようにすることは、さまざまな場面で応用できます。

たとえば、漢字学習で同じ字を繰り返し書くことが苦手だという声をよく聞きます。慣習やルーティンには従う意味を感じないからです。

そんなときに、漢字を習得するという目的を明確に設定し、それに対する手段をいくつか提示できれば、多様な子どもにとっての学びやすさにつながります。

 また、行事への参加もそうです。運動会で、クラスでダンスの出し物をするとしましょう。クラスが一致団結するなか、保健室登校の子どもが置いてきぼりになってしまうことを心配する先生方もいらっしゃいます(実際にこのような相談もありました)。本人も、自分があまり参加できていないことは認識しています。

そのようなときは、みんなに合わせる努力を強いるのではなく、どのような方法であれば参加できそうかを一緒に考えましょう

「好きなように」と言うだけでは困ってしまう子どももいるので、「ダンスはしなくてもいいから、音響担当はどうか」、「こんな方法があるよ」と具体的な選択肢を伝え、本人に選んでもらいましょう。

おわりに

いかがだったでしょうか。この記事が多くの先生方の参考になれば嬉しいです。アドバイスをくださった是永先生、ありがとうございました!

NPO法人ROJEのギフテッドプロジェクト「sprinG」では、専門家による特異な才能のある子どもと関わる教職員向けの勉強会と個別相談を実施しています。興味のある方は、ぜひ事業詳細ページをご覧ください。

今回アドバイスをいただいた先生

是永かな子先生

高知大学教職大学院 教授
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科学校教育学専攻発達支援講座修了博士(教育学)。
専門は北欧における特別ニーズ教育のシステムと実践、日本における特別支援教育や特別ニーズ教育の制度化。

NPO法人ROJE ギフテッドプロジェクトsprinG

ギフテッド特性があり、学校に馴染みづらいと感じている小・中学生やその保護者に向けた居場所づくりに取り組む。児童精神科医や特別支援教育を専門とする大学講師といった専門職と、教育に志のある大学生が中心となって運営している。

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