支援現場から:養育が困難な状況にある家庭への向き合い方

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養育が困難な状況にある家庭への接し方がわからない、養育が困難な状況にある家庭とはそもそも何なのか知りたい方にぜひ読んでいただきたい記事です。見落としてしまいがちな、寄り添いの視点を思い出す契機となれば幸いです。

本記事は、2024年2月26日に行ったNPO法人バディチームの岡田妙子様への
取材を記事化したものです。

はじめにー編集者より

本記事は、養育が困難な状況にある家庭に関する支援、その家庭を取り巻く状況についての情報を記しています。
バディチーム様もご認識の通り、養育が困難な状況にある家庭には、さまざまな背景や程度の違いが存在します。
そのため、本記事に記されている家庭の例、支援方法、環境要因などは一般化できるものではありません

また、子どもに関する記述の際に使用されている言葉がありますが、これらは子どもへの評価を込めたものではありません。保護者が困難を抱える中で、より多くの支援・理解を得られるよう使用されている言葉です。
養育における個々の挑戦や困難がある、という観点から捉えていただけますと幸いです。(編集者)

目次

家庭訪問型の支援

NPO法人バディチームは、さまざまな事情や背景があって子育てが大変になっている家庭・里親家庭を訪問し、保育・家事・送迎・学習支援などを通じて親子に寄り添う活動を行っています。

NPO法人バディチームの主な活動内容

①子育て世帯訪問支援事業(養育支援訪問事業)
②里親家庭支援
③食の支援等運営管理
④民間との連携による「制度の狭間」への対応
⑤居場所関連事業                                2024年度現在

養育支援訪問事業から子育て世帯訪問支援事業へ

NPO法人バディチームでは①の養育支援訪問事業を長らく行なってきました。
これは国の児童虐待防止対策の予防的な事業という位置付けにあるものです。
誰もが希望すれば受けられる事業ではなく、より心配なご家庭を予防的な段階として自治体が判断した上で受けられる支援です。重要な事業なのですが、全国的に広がらない状況がありました。

この度こども家庭庁ができ、様々な施策が考えられました。
その中で、養育支援訪問事業をより充実させ、予防の段階でたくさんの家庭に支援を届けられるようにしようという動きがあり、2024年4月から子育て世帯訪問支援事業が始まりました。

養育が困難な状況にある家庭の背景

養育が困難となっている家庭は、さまざまな要因が複合的に絡み合っている状況にあることが多いですが、
主に大きく3つに分けて語られます。

1つ目の子どもの要因というのは、保護者にとって育てにくさがある、大変さがあるという意味です。
乳児期、未熟児、多胎児、発達障がいなどが例として挙げられます。

2つ目に保護者の要因です。
a)予期せぬ妊娠、若年妊娠などの妊娠出産のリスク 

b)保護者自身が虐待を受け、不適切な環境下で育ったなどの保護者自身の抱えるリスクがあります。
例えば、普通に清潔な室内環境を知らないことがあります。手作りの温かい食事を知らない、自分が子どもの時に優しい言葉掛けをされてこなかった方もいらっしゃいます。特に保護者自身が虐待を受けていたケースでは、保護者自身に経験や知識がないため子育てが難しい場合があります。

c)保護者自身の精神疾患や精神的な不調、身体疾患なども、子育てが困難になりやすい要因として挙げられます。

3つ目に環境要因です。
生活基盤が不安定で経済的に困窮していることなどが挙げられます。
しかし、富裕層であればリスクがないということではありません。経済的に豊かであっても、「子どものために」という思いからの行き過ぎた教育が心理的虐待となることがあります。

このような家庭に訪問し、時間をかけて保護者も受け止めながら寄り添っていくことがバディチームの役割です。

バディチームの訪問型支援では、こちらから訪問することで保護者の話し相手、相談相手になります
決して専門性が求められるということではなく、愚痴であったり、世間話だったり、推しの話ををする機会が少ない方もいらっしゃるため、お友達のような関係性を求められるようなところがありますし、家事や保育などの具体的なお手伝いをすることで、保護者の負担軽減にもつながります。
背景は様々ですが、いずれにせよ指導ではなく寄り添っていくことが非常に大切です。

養育が困難な状況にある家庭の背景
1:子どもの要因
2:保護者の要因
3:環境要因

家庭への支援の中で

Q:支援を行う上で、障壁となるような点はありますか?

A:この活動に関わってくださる支援者の方々の中には、ご自身も大変な経験をされた方がいらっしゃいます。
経験があるからこそ、保護者に対して非常に深く理解ができることがあります。
支援者がご自身の経験の話をすることで、家庭の方が「参考にできる、助かった」と思うことはもちろんあります。

保護者の中には人の話を聞く余裕がなく、話が重荷となり、「自分にはできない」と思ってしまう場合があります。そのため、支援の場ではまず保護者の話を聴く傾聴や共感を大切にしています。

これらの経験の話は非常にデリケートであり、慎重に対応すべきものであると思います。

私たちができること

Q:このような家庭に関心を持っていても、経験がなく接し方が分からないといった方が多いと思います。そのような状況で、できることはあるのでしょうか?

A:まずは「話を聞くこと」です。

「大丈夫ですか?」「最近どうですか?」
「何か困っていることはありますか?」

などの声掛けで話しやすい環境を作りましょう。保護者が孤立している場合には、少しでも話せることは非常に力になります。まずは話を聞いて、保護者に「話しやすい人だな」と思ってもらう。

気兼ねなく話せるようになってきて、「この人は信頼できる」と感じてもらってこそ支援が始められます。そのような関係性を構築すると、困りごとや悩みごとを話しやすくなるので、まずは出てきた話をとにかく受けとめていくことが大切です。課題に焦点を早めに当ててしまうと、逆にうまくいかなくなることがあります。

課題そのものの解決より、信頼関係の構築を優先して意識してみる。

教員という存在

Q:学校現場に携わる人々の家庭に対する認識に課題を感じられますか

A:多忙な中でも子どもたちに温かい声かけをしてくれるなど、気にかけてくださる教員の方はいらっしゃいます。
一方で、問題家庭という見方をする方もいらっしゃいます。「子どもがかわいそう、親が悪い」と、親の問題であるという理解をされている方は少なくありません。こうした理解は、養育が困難な状況にある家庭に対する、特に保護者への厳しい眼差しに繋がります。

例えば、集金や提出書類の催促などで教員が指導的になることがあります。
言うことを聞いてくれない、書類が届かない、お金を払わない、子どもの持ち物がない、身に着けるものが洗濯されていない、ご飯をちゃんと食べさせていない状況などが実際にあります。しかし、そのような状況になってしまう事情や背景が保護者にあるかもしれません。そのような中で、あからさまに指導的になると保護者も拒否的になり、子どもを学校に行かせづらくなるという悪循環に陥ってしまいます。

子どものために、子どもの権利というところでも、絶対的な子どもの味方は必要です。ですが、まずは保護者も含めて受け止めてもらわないと障壁ができてしまい、保護者が学校に対して拒否をしてしまうことにつながります。

養育が困難な状況にある家庭の保護者、子どもにとって教員の存在は大きい。
保護者に接する際には事情や背景を理解しようとし、まずは受け止めてみる。

おわりに

Q:この記事をご覧になる方々に一言お願いします。

A:ー旦ご自身の先入観を伏せて、子ども、その保護者の方に声かけをしてみてほしいです。
「話を聞くよ」という姿勢で向き合っていただけると良いですね。
課題改善、課題解決に集中してしまいがちですが、状況を受け止めてからではないと先には進めません。
保護者の状況に思いを馳せ、大変だった過去を想像するような眼差しを持っていただけると良いと思います。

プロフィール

NPO法人バディチーム様

2007年設立。子育て支援・虐待防止を目的に、様々な事情で子育てが大変になっている家庭や里親家庭に訪問し、保育・家事・送迎・学習支援を通して親子に寄り添う「家庭訪問型」の支援を行っています。
活動エリアは主に東京都。

最近は市町村や児童相談所の助けが届いていない「制度のはざま」にある家庭への支援や、児童館や子ども食堂など多くの人が集まる場所にはなかなか行きづらいという家庭に向けて「小さな居場所事業」も開始。

訪問型と居場所型の両方の支援を通して、家庭の孤立を防ぎ、団体のビジョンでもある「子どもも大人も誰もが支え合い、みんなで子育てすることで子どもがすこやかに育つ社会」を目指しています。

HP : http://www.buddy-team.com/
FB : https://www.facebook.com/npobuddyteam
X  : https://twitter.com/NPObuddy_team

編集後記

今回は親子を取り巻く環境の中でも特に保護者に焦点を当て、日々ご尽力されているバディチーム様にお話を伺いました。子どもの養育に関して、保護者に厳しい目線が向けられることが少なくないため、保護者に寄り添う視点を持つ方々の支援は肝要です。

さて、ここで「外在化」という概念について少し触れたいと思います。
これは「ある特定の問題を、個人の内面に帰結させることなく、個人外部に設定することで問題に対する新たな視点を提供し解決を試みるアプローチ」です。私自身、このアプローチは養育支援においても有用であり、養育を取り巻く問題の所在を誰に問うわけでもなく、問題と個人のあいだに距離を設けることで新たな解決策が見えてくることもある、と実感しています。

お読みいただく皆様が、それぞれに必要な要素・知識を1つでも本記事から拾い上げていただければ幸いです。
改めて、バディチーム様をはじめとする養育支援に携わっておられる全ての方々に、深い感謝と敬意を表します。



(編集・文責:EDUPEDIA編集部 秋吉真弥)

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この記事を書いた人

秋吉真弥/EDUPEDIAライター
家庭教育や教員の多忙化、社会科教育に関心があります。

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