【基調講演(内田良先生)】五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙の影に潜むものとは~』

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目次

1 はじめに

本記事は、2018年5月20日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙化の影に潜むものとは~』内で行われた、内田良先生の基調講演、『部活動の日常を「見える」化する』を記事化したものです。基調講演内で、内田先生はブラック化する教員の部活動勤務の実態と、その解決策についてお話されました。

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2 基調講演

今日のキーワードは「sustainable」です。

部活動を廃止するのではなく、いかにsustainableにしていくか。

部活動だけでなく、職員室もいかにsustainableにしていくか。

犠牲者の出ない、持続可能な在り方を考えていきたいと思います。

①「安全な組み体操」の誕生

私はもともと、学校事故について長く研究してきました。今日は組み体操の話をしに来たわけではありませんが、大事なのは、問題を提起した結果、国も自治体も動き、事故が大幅に減ったということなのです。

例えば名古屋市では、2015年と2016年を比較すると、組み体操の事故が9割も減少しました。ここが大事なのですが、組み体操を実施している学校は2割しか減っていません。組み体操はまだあちこちの学校で行われているにも関わらず、事故が減ったのです 。つまり、組み体操の魅力そのものは伝えつつ、犠牲者の少ない「安全な組み体操」が誕生したということです。

これに関連してYouTubeに10本ほど組み体操の動画を上げていますので、是非ご覧になってください。その名も「安全な組み体操」シリーズです。

②組み体操と部活動の共通点

私は大学教員ですが、高校で全国大会に出られるまでの力をつけた子が、大学では部活動を続けずに辞めていくのをしばしば見かけます。「えー、なんで!もったいないじゃん」と言うと、「もういいです」と。そこまで頑張った子が「もういい」と。悲しいな、と思います。sustainableではないのですね。

運動会も同じです。その日だけ盛り上がって、巨大な組み体操を作って、みんなで「あー、よかった!」と泣いて。そういう一時的な盛り上がりではなくて、できるだけ犠牲者を出さずにいかに続けていくかということを、本当は考えてほしいのです。

ここまで、部活動と組み体操の話を、関係性を含めて話してきました。

私は組み体操のときには、組み体操廃止論者と言われました。その前は、柔道の死亡事故についてデータを出して研究してきたのですが、柔道全廃論者と言われていて。最近は、部活動全廃論者と言われるようになってきました。私は今、働き方改革について取り組んでいます。きっと近いうちに、学校全廃論者と言われますよ(笑)

「ここを直してsustainableにしたい!」と主張しても、「お前は全廃論者だ!」と言って拒絶されてしまうのです。でも、見えてきた問題に蓋をすると、犠牲者を生み出しながら悪い伝統が続いていってしまいます。最終的には、どこかで誰かがつぶれてしまうのです。

そうならないように、今見えてきたこの痛みをみんなでシェアして、改善しながら全体をsustainableにしていく、という設計が必要です。

③マスコミが味方に?

今まで、教育問題においては、学校や教師をバッシングする風潮がありました。

博士論文で児童虐待について研究した私は、子どもが自殺したと聞くと、「家庭か、学校か」と考えます。しかし、多くの人ははまず「いじめだろう」と思ってしまいます。本当に隠蔽しているのは論外ですが、学校が真面目に調査しても、すぐには分からないこともあります。それでも私たちは「隠蔽だ!」と言います。答えは最初からできあがっているのです。子どもが亡くなった、原因はいじめだ、学校は隠すんだ——と。

かつて、マスコミは常に「教師バッシング」で学校に戦車を寄せてきていました。ところが、この2年くらいで異常事態が起きています。マスコミが戦車ではなく救急車を寄せてくれているのです。これは、僕の研究歴の中でも、本当に信じられない事態です。この頃、部活動問題のニュースを見ない日はありません。マスコミは、本当に頑張って動いてくれています。

④Twitterから動き出した部活動問題

部活動改革は、働き方改革を含めて、Twitterで盛り上がってきました。

ぜひ皆さん、Twitterをご覧になってください。先生たちの苦しい声がたくさんあります。

「異動初日。運動部が3つも割り当てられていて、もう決まってしまったからと言われました。主顧問1つ、副顧問2つ、帰ってから不安で泣きました。仕事を続けられるかどうか不安です」}(Twitterより)

このように、先生たちはTwitter上で泣いているのです。

下の画像の6名の先生方が中心となって「部活問題対策プロジェクト」をネット上で立ち上げ、活動してきました。この動きに、約1年前に立ち上がった「部活改革ネットワーク」や「教働コラムズ」も続くなど、部活動問題はのここまでの熱狂ぶりは、ネットを中心に生み出されたのです。

⑤「無風状態」の職員室

それにも関わらず、ネットで声を上げている方々も

「職員室が無風状態だ」

と言います。

「最近、微風状態になってきたかな。でも、まだまだ無風状態だ」

と言うわけです。

世論やマスコミの盛り上がりを先生たちは感じているのに、学校にはまるでいつもと変わらない姿がある、と。実際、職員室では部活動顧問の苦しみをシェアできません。泣こうものなら、「あなた、子どものために部活動をやらないというの?部活動やりなよ。それこそ教師だよ」と言われるわけです。そのような職員室文化が教えてくれるのは、実は、先生方は真剣に「子どものために」と頑張っていらっしゃるということです。だからマスコミや僕のような外部の人間が「ブラック」と言ったところで,反感を買ってしまう。先生方がどのような思いで,部活動を含め日々働いていらっしゃるのか。そこに寄り添いながら,部活動改革・働き方改革を進めていかねばなりません。

どのようにして本丸の職員室を動かしていくか、ということが大きな課題として残っています。私が怖いのは、マスコミが立ち去ることです。今日のフォーラムには市民の皆さんもたくさん来ていると聞いています。世間の注目が集まっているこのタイミングを逃してはいけません。

「私、好きでやっているんだけど」と職員室が世論に抵抗していると、マスコミや市民が立ち去った後、職員室の中は真っ暗になりますよ。もう誰も教師をサポートしてくれない、そういう時代が来たとき大変です。だから、今のうちに学校は変わらなければいけないのです。「子どものため」というスローガンから脱却して、教育者である前に労働者でなければならない、ということです。

⑥給特法について

部活動問題とは直接関係ないのですが、労働者という観点が出てきたので、教員の給料についても少しだけ話したいと思います。

教員の給料は普通の地方公務員と比べて月給で4%上乗せになっています。

この「教職調整額」と呼ばれる上乗せは、1966年度の教員勤務状況調査を元に定められました。当時の残業は週2時間で、今は週20時間です。持ち帰り仕事が多い教員は勤務状況が計測しにくいので、最初から2時間分残業代をあげて、後は好きにしてくださいというわけですね。

その後「給特法」という法律ができたのです。

これは何かというと、4%上乗せする代わりに残業代はなし、時間管理もしません、という法律です。残業代を払う必要がないと、何時間働いているか計測する必要もありません。今話題の「高度プロフェッショナル制度」にも通じるところのある「定額働かせ放題」です。

時間管理をしないと、残業時間が増えても気づきません。経営者、使用者の側も、残業を抑止する必要性が生じません。残業代を払わなくてよいのですから、「子どものために」と次々言っていくだけでよいわけです。先生たちは「子どものためだ」「私たちの使命だ」と際限なく頑張ってしまうのです。

その結果、歯止めなくずぶずぶと残業が増えていき、大変なことになってしまったのが今です。これからは法律を踏まえてどうしていくかというのが重大な議論になっていくと思います。

⑦制度設計のないグレーゾーン

ある中学生がネット上に疑問を発信しました。

「なぜ廊下を走るのですか?みっともなくないですか?」

これに対して中学生や高校生は

「当たり前でしょ」「あなた走るの嫌いなの?」

と返信しています。

部活動が始まる1分前まで、学校では「廊下は走るな」と指導していたはずです。

滑りやすいし、死角は多いし、廊下は間違いなく危険ですよね。しかし、部活動の時間になった途端にみんなで廊下を走り、それを学校が嬉しそうにWEBサイトにアップするわけです。もし事故が起きても「あなたが不注意だったからだ」と自己責任で終わり。

なぜ、部活動では廊下を走ることができてしまうのでしょうか。それは、制度設計がないグレーゾーンだからです。体育の授業で体育館に人が集まりすぎて、場所が足りないから廊下を使いましょう——とはならないですよね?

授業は学校のキャパシティと合うようにちゃんと設計されています。ところが、部活動は「学校でやる」ということだけが決まっています。それ以上は何も決まっていないのです。だから、いきなり始めようとするとまず場所が足りなくなります。

⑧足りない「専門性」 

先生たちは、「部活動」に関する授業を大学では基本的に学んでいません。運動部の顧問の約半数が、その競技に関して素人だということが分かっています。

つい先日、青森県で部活動の移動中のスクールバスが横転したという報道がありました。幸いにも大惨事には至らなかったようですが、顧問の先生が運転しており、大けがをされたそうです。その先生の運転技術やその地域の保険制度などについては詳しく分かりませんが、教員が土日に部活動の引率をする義務がないのは確かです。しかしやらざるを得ず、事故を起こしてしまい、教員の責任にされる、と。

こうした車の事故というのは数多く、部活動においての運転そのものを禁止している自治体も沢山あります。石川県では中学生が2人亡くなる痛ましい事故がありました。事故そのものは相手方が悪かったようなのですが、石川県ではその後、「安全運転講習会」が設けられるようになりました。そもそも制度設計が無いのだから土日の部活をやめよう、という方向にいけばいいのですが、講習をして運転が上手くなりましょうと——どこまでも矛盾に矛盾を重ねているのが部活動です。

先生たちは、部活動中に職員室に戻ることもあります。授業では「先生ちょっと忙しいから授業やらんわ」はありえません。ありえないことが部活ではありえてしまい、その結果として事故が起きるのです。

理科の実験で事故が起きたら、それは先生の責任でしょう。しかし、部活動中の事故について、先生はどこまで責任を負えるのでしょうか。

究極の事例としては、栃木県の高校で、山岳部が雪崩に巻き込まれて複数の死者を出した事故があります。犠牲者の中には素人ながら顧問だった教員も含まれています。全くの素人で雪山に登り、雪崩が来るのも分からず、子どもと一緒に亡くなった。果たして顧問の先生に責任はあるのでしょうか?

⑨自主的なのに強制される?

部活動は授業とは違い、自主的な活動だと規定されています。

しかし実際には強制されている場合が多々あります。強制されていないとしても、実際に9割の生徒が参加しているような状況であれば、半強制的だと言えるでしょう。

ぜひ皆さんにはこの矛盾点を覚えて帰っていただきたいのですが、地域によっては部活動の大会を平日に入れるのです。そして授業を自習にします。

これは私からするとありえない話です。やってもやらなくてもいい部活動が授業を押しのけているのです。理由の1つは土日に会場を借りられないこと、そしてもう1つは土日に大会をやると先生も生徒も月曜日にクタクタになるからだそうです。もうね、矛盾に矛盾を重ねた状況ですよ。カオスです。

こうした状況は一刻も早く変えなければいけません。実は、職員室には部活動をやりたくない先生が半分くらいいるのです。しかし全員顧問制を採っている学校は実に9割に上ります。先生個人は「もういいや」と思っていても、総意として、教師集団として、みんなで我慢してやっているのです。ここを崩すのはあと一歩なんですよね。

⑩楽しいから、ハマる

私の『ブラック部活動』という本の帯に名前より大きく書いてもらったのは「楽しいから、ハマる」という一文です。

ある先生は部活が待ち遠しくて仕方なかったと言います。

素人ながらにテニスを勉強して指導した。生徒が少しずつ上手くなって試合に勝つ。そうするとみんな嬉しい。練習が増える。気がつけば県大会の常連校になって、もう元には戻れない——。

今までの部活動の議論は、その苦しさに焦点を当てたものが多かったように思います。でも大事なのは「楽しい」なんです。「子どものためにやってよかった」「卒業生がやってきて涙して、ああやっぱりよかった」、そこから逃げられなくなっていくわけです。

これは神奈川県が行った、部活動の理想の日数と現実の日数を調べたものです。
先生も生徒も「もうこんなにやらなくていいよね」と思っているのに、勝つためにやっているのです。

部活動の練習時間はここ10年、20年で増加傾向にあります。全員顧問制も拡大傾向にあります。10年ぶりに行われた教員勤務実態調査において、突出して増えたのは土日の部活動の指導時間でした。

週に2日は休養日を設けようというスポーツ庁のガイドラインが今年の3月に出ましたが、20年も前にガイドラインは一度出ているのです。その20年間で何が起きたかというと、ご覧の通りの過熱です。ガイドラインだけではどうにも動かないのです。もっともっと世論を動かして、制度設計をしていかないといけないのです。

⑪資源とサービスを考える

国語の授業が楽しいからといって、暴走することがありますか?

「今日の授業うまくいったわー、君たち、土日も学校に来なさい!」

こうはならないですよね?

それは、先生たちは学習指導要領と時間割の制約の中で授業を行っているからです。だから50分の中でいかに楽しくするかを考えるわけですよね。

ところが、部活動にはその発想がありません。「楽しかったからもっとやろう」となってしまうのは、そこに制度設計がないからです。

部活動には資源制約があるわけです。人、モノ、カネ。

サービスは資源に見合ったものにしなくてはならないのですが、現実の部活動というサービスは巨大化しています。働き方においても同じようなことが言えます。

じゃあどうすればいいかと言うと、全国大会に行くようなレベルの活動は民間のスポーツクラブに余計にお金を払ってやり、学校の部活動に関しては、大きな三角形を小さくして、学校あるいは地域でやっていくというような設計が必要だと思っています。

廊下の使用の問題にしても、週3日ずつ分け合えば解消するかもしれません。先生の側も、部活動の顧問をやりたくて仕方がない人は、週3日ずつ2つの部活を掛け持ちして毎日指導にあたっていただければいいのです。

資源制約とサービスのバランスという観点で考えなくてはいけないと思っています。

3 プロフィール


内田良先生

福井県出身。名古屋大学経済学部を卒業後、同大学院教育発達科学研究科に進み博士号を取得。2006年には愛知教育大学の講師となる。2011年より名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授に就任し、現在に至る。専門は教育社会学。自殺、体罰、教員の部活動負担・長時間労働などの学校リスクについて研究している。ウェブサイト「学校リスク研究所」を主宰。ヤフーオーサーアワード2015受賞。著書に『ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)ほか。(2018年5月20日現在のものです)

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