【パネルディスカッション第1部】五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙の影に潜むものとは~』

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目次

1 はじめに

本記事は、2018年5月20日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙化の影に潜むものとは~』内で行われた、パネルディスカッションの内容を記事化したものです。
登壇者である内田良氏(名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授)、隂山英男氏(一般財団法人 基礎力財団理事長)、鈴木寛氏(東京大学、慶応義塾大学教授/文部科学大臣補佐官)、妹尾昌俊氏(教育研究家/中教審 学校における働き方改革特別部会委員)と、本フォーラムを主催するNPO法人ROJEの学生登壇者、横田和也の5名が、議論を交わしております。
 
第1部では、主に長時間勤務の原因の1つとなっている部活動や、学校改革の鍵を握る校長のあり方について取り上げています。

関連記事も合わせてご覧ください。

妹尾昌俊先生基調講演

内田良先生基調講演

パネルディスカッション第2部

内田良先生インタビュー

隂山英男先生インタビュー

鈴木寛先生インタビュー

妹尾昌俊先生インタビュー

【五月祭教育フォーラム2018】「教員の多忙化」記事特集ページ

2 パネルディスカッション 第1部

 持続可能な部活動のあり方

横田:まず先ほどの基調講演で内田先生にお話いただいた、部活動の問題について議論していきたいと思います。

内田:部活動については多くの人たちが楽しいと言っているので、持続可能な形で残していきたいと思うのです。今は、人や施設・場所などの資源の制約があるにもかかわらず、提供するサービス(部活動)があまりにも膨れ上がっています。ですから、部活動を縮小していく必要があります。例えば部活動改革の目玉になっている外部指導者が見つからないケースがありますが、「部活動を週6日以上やる設計」で探しているから見つからないんです。部活動を縮小してから外部指導者を探したり、顧問の先生を探したりすれば、無理ない形での部活動が実現するのではないかと思います。

陰山:「部活動をやりたい」という先生は一定数います。しかし、重荷に感じている先生もいますし、保護者の方も、過激になってしまった部活動の影響を受けている家庭もあります。

妹尾:社会性やコミュニケーション能力、粘り強さといった非認知スキルを高める上で、部活動の意義、効果は大きいと思います。ただ、その非認知スキルは部活動でしか培うことができないものなのでしょうか。授業中や学校行事でも、あるいは習い事や家庭生活の中でも非認知スキルを培うことはできるはずです。また、仮に部活動が効果をあげているとしても、それが年間を通して休養日もなく続けて良いということにはなりません。

内田:先ほど、部活動の規模縮小の話をしました。例えば「部活動には生徒同士や生徒と教師との絆をつくり、非行を抑止する効果がある」と言われます。しかし、週6日以上部活動が行われないと絆が生まれないのでしょうか。上限を決め、限られた時間の中でその意義を達成できないかと考えることが大事だと思います。

そして「休養日を2日設ける」というのは勝利至上主義のもとでの発想です。スポーツ科学における、「休養日を設けた方が強くなる」という考え方に基づいて、休養日を設けているわけです。つまり、「部活動の過熱を抑制する」という趣旨ではなく、「勝つために」規模を縮小させているわけですね。
根本的に部活動のあり方が変わり、試合をやるにしても全国大会のような規模の大きい大会は取りやめて、せめて地方大会までにして、勝利至上主義ではなく「楽しめる」部活動になれば良いなと思います。

横田:この点に関して、文部科学省でさまざまな教育改革に携わってこられた、鈴木先生のご意見をお伺いしたいと思います。

鈴木:私は文部科学副大臣の時に、スポーツ担当もしていました。2010年に「スポーツ立国戦略」を文部科学省がまとめ、2011年にはスポーツ基本法が成立しました。スポーツ基本法では、「スポーツをする・観る・支える」の3つの権利を「スポーツ権」と設定して、それを保障するために、部活動から「地域総合型スポーツクラブ」への移行を進めています。

そもそも1つの学校で、野球部とサッカー部とバスケ部とバレー部とテニス部と陸上部と……とさまざまなスポーツを、きちんとした指導者のもとで行うというのは不可能なんですね。地域総合型スポーツクラブにすれば、小学生・中学生・高校生、そして地域の人も混じって参加できます。部活動が大好きな先生は、自分の住んでいる地域で地域総合型スポーツクラブの代表になっていただくという形で、地域のスポーツ振興に取り組む人が育成されていけば良いと思います。

また、日本のおかしな点として、「1つの部活にしか入れない」という文化があります。1つの部活に忠誠心を誓うという、ある種の軍事教練文化ですよね。この文化があるために、運動部をめぐる不祥事が多発しています。こうした文化から脱却しないといけません。

 「熟議」やコミュニティ・スクールを通した部活動改革

鈴木:結局、教員コミュニティの中で「熟議」ができているかどうかが肝心なんです。部活動の指導をしたい教員とそれ以外の教員が、「生徒にとってより良い部活動のあり方とは何か」という観点で、腹を割って熟議をしていけると良いと思います。

妹尾:教員同士の熟議の際には、部活動熱血教師に対抗する「理屈づけ」を持つ必要があると思います。ここでは、3つの観点からお話をします。

部活動の効果ばかり取り上げるのではなく、今ある資源やコスト、優先順位をしっかり考えるべきです。授業や教員研修を犠牲にするのは本末転倒です。

その競技の経験者だというだけで、指導者になっても大丈夫なのでしょうか。例えばみなさんは英語の学習を経験していますが、英語の教師はできないですよね。「経験者なら指導もできる」という考え方を変えないといけません。

「生徒との絆や一体感ができる」「日ごろ授業ではついていかない子どもも部活動だと成長する」とおっしゃる先生もいますが、部活動を仮に時数カウントすると英語や国語より多いのです。それだけたくさんの時間かかわっているのだから、子どもがついてくるのはある意味当たり前なんですね。これは部活動指導の頑張りを否定するものではありません。「部活動の良さ」に酔わず、冷静に考えましょうということです。

鈴木:妹尾先生の「経験者だからといって指導ができるとは限らない」というご指摘は重要です。日本サッカー協会が公認する指導者のランクにはS級からD級までありますが、日本代表の選手でも、S級はなかなか取得できません。教育理論・指導理論や、日本のスポーツ政策をきちんと学び直す必要があります。選手としてのプロと指導者としてのプロは違うということを理解していただきたいです。

横田:ここまでの議論を踏まえて、内田先生はどのようにお考えでしょうか。

内田:妹尾先生がおっしゃったように、時間をかけて効果が出るのは当たり前ですし、一方で、先生方は十分な指導スキルがなく、また明確な制度設計もない状態で、部活動の指導をしています。例えば部活動の日数が週6日であったものを半分にして、外部指導者が学校を掛け持ちできるようにしたり、地域総合型スポーツクラブに統合したりするなど、部活動を縮小させ、質の良い指導者のもとで指導を受けることができる環境をつくるべきです。

横田:ありがとうございます。部活動を縮小していくという動きがある中で、今年の3月にスポーツ庁が通達した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」の効果について、妹尾先生はどのようにお考えでしょうか。

妹尾:1997年にも部活動に休養日を設けることを提案する報告書が出されていますが、その後、むしろ部活動は過熱化しました。今回もガイドラインは紳士協定のようなもので拘束力はなく、20年前と同じ轍を踏むか、改革が進むかは、これからのみなさん次第です。せっかく国がガイドラインを出したのですから、今まで無風・微風だった職員室を変え、部活動のことを考え直すキッカケにしましょう。また20年前と違って、保護者や地域の方もSNS等で情報発信できる時代です。「この学校・自治体は部活動のガイドラインを守っていない」と誰もが公表できる世の中になっています。持続可能な部活動のあり方を、みなさんで考えていきましょう。

鈴木:2017年4月から、コミュニティ・スクールの導入が努力義務化されました。今後は、「部活動のガイドラインと実際の活動が異なっている」ということが運営協議会の重要な議題となるでしょう。

横田:鈴木先生、「コミュニティ・スクール」とはどういうものなのか、ご説明をお願いします。

鈴木:コミュニティ・スクールでは、「学校運営協議会」を公立の各小学校・中学校に設置します(高校でも一部で導入されています)。メンバーには教員のみならず、地域の住民、保護者、教育の専門家が入り、学校の教育方針や運営方針を決めます。また、学校運営協議会の委員だけで議論が進むのではなく、保護者や地域の方・若い学生など学校を応援するボランティア集団がいます。

 学校改革の鍵を握る「校長」

陰山:この議論の中で、大きく誤解をされている部分があると思います。日本の学校制度は、文部科学省が出している学習指導要領を頂点として、上意下達でがちがちに縛られているというイメージがありますが、実際には最も分権化が進んでいます。ですから、「政府にガイドラインさえ出してもらえれば現場が変わる」ということはないのです。すべては現場の判断で決まります。現場の誰が決めるかといえば、校長です。教育課程は校長の責任のもと、学校で編成するという大原則があります。

妹尾:「大ボスは文科省ではなく、校長」という話はよくしています。例えば、運動会の開催の有無や内容は校長の裁量で決めることができます。ある小学校では運動会を午前中で終わるようにしたところ、好評だったそうです。問題は、そういうことを考えられない・実行できない校長がいるということです。頑張った校長をきちんと評価することを考えないといけません。今はともすれば、部活動や研究指定を受けたといったことで実績をあげ、無難に学校運営をしている校長が評価されてしまっています。

また、学校運営の基本方針について承諾する権限があるコミュニティ・スクールを活用して、有識者や地域住民・保護者の意見を取り入れたり、学校の教員の方々の本音を引き出したりできる場にしていきたいですね。ある中学校のコミュニティ・スクールでは、部活の意義はわかるけれど、数か月前に生まれた自分の子どもの面倒をほとんど見れないのはつらいと、ある先生は話してくれました。

横田:校長の評価制度の問題の話がありましたが、行政として、今の校長のあり方を改革する動きはあるのでしょうか。

鈴木:日本は制度改革過剰症に陥っていると思います。制度改革は最小限にしないと、きちんと運営している学校で余分な仕事が増えてしまいます。「部活動をやりすぎなのではないか。でも、その話を持ち出して揉めてもなぁ」など、校長自身悩んでいるはずなので、生徒や保護者の声を聞いて、実態を把握し、現場での熟議を通して物事を決めていけば、部活動のあり方を変えることは可能だと思います。

陰山:この4人の中で校長経験者は私だけですね。校長になる人は少ないです。若い頃、教育研究に一緒に取り組んだ仲間でも、校長になった人は私以外にいませんでした。これは日本人の中に、「校長にならない先生」が「いい先生」という意識がどこかにあるからではないでしょうか。しかし、実際に多くの学校を回って見ていると、「いい校長」なら「いい学校」になるんです。「校長先生がいいところ」はものすごく伸び、地域の信頼が厚くなり、保護者の協力がどんどん入ります。
余談ですが、福岡県では「自校昇任」という制度があります。その学校の先生が教頭に昇任したり、校長に昇任したりします。ですからうまくできあがった学校システムが継続されます。これはいい制度だと思います。しかし、他府県でそうした事例は聞きません。やろうと思えばすぐできるわけですから、広まればいいと思います。また、今後の方向として教育長が指名すれば校長になれるシステムになると良いと思います。しかし今は、「校長の昇任試験」を受けないといけないという壁があります。

鈴木:昇任試験制度はやめていいと思います。校長になってから研修すれば良いんです。

妹尾:校長らの役割として重要なのは人材育成です。校長や教頭が先生方の授業に入っていき、具体的な授業改善の必要性を提案するべきです。まず先生方が授業の改善について本気で考えることになれば、部活動を過度にやる暇もなくなるはずです。

内田:部活動に限らず働き方改革全般の話になりますが、校長から保護者向けに、例えば「部活動は土日休み」「17時以降は電話に出ない」など、先生の働き方や部活動のあり方について、保護者に理解を求める手紙を出すということがあります。いずれにしても、校長を教育委員会や行政、世論がどうサポートしていくかが大事だと思います。

陰山:あまり議論に上がりませんが、「地方議会」も学校現場に大きな影響を与えるファクターです。学校に関する地域住民や保護者の不満が地方議員の耳に入ると、教育委員会に伝わり、そこから学校現場にアンケートや通達が出されることになります。「地域住民・保護者→議員→議会→教育委員会→学校現場」というつながりがあるため、議会の果たす役割も大きいのです。私は「校長会で議会の傍聴へ行くのはどうですか」と提案しています。学校現場と議会の関係性を知れば、教育委員会の通達の意味が分かり、うまく学校の運営を進めることができるのではないでしょうか。

3 登壇者のプロフィール


内田良先生
福井県出身。名古屋大学経済学部を卒業後、同大学院教育科学発達研究科に進み博士号を取得。2006年には愛知教育大学の講師となる。2011年より名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授に就任し、現在に至る。専門は教育社会学。自殺、体罰、教員の部活動負担・長時間労働などの学校リスクについて研究している。ウェブサイト「学校リスク研究所」を主宰。ヤフーオーサーアワード2015受賞。著書に『ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)ほか。(2018年5月20日現在のものです)


隂山英男先生
兵庫県出身。岡山大学法学部卒。
兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。
以後、文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員会委員長などを歴任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授に就任。
現在、陰山メソッド普及のため教育クリエイターとして活動、講演会等を実施するほか、全国各地で教育アドバイザーとして教育現場に関わっている。著書として「 子どもの頭が45分でよくなるお父さんの行動」(PHP研究所)「だから、子ども時代に一番学習しなければいけないのは、幸福です」(小学館)「学力は1年で伸びる!」(朝日新聞出版)ほか。(2018年5月20日現在のものです)


鈴木寛先生
兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。慶応義塾大学助教授を経て、2001年参議院議員初当選。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ、文化、情報を中心に活動。
2014年2月、東京大学教授、慶応義塾大学教授に同時就任。私立・国立大学のクロスアポイントメント国内第1号となる。
2015年2月より文部科学大臣補佐官も務める。 著書に『「熟議」で日本の教育を変える』(講談社)、『テレビが政治をダメにした』(双葉新書)、『熟議の ススメ』(小学館)ほか。(2018年5月20日現在のものです)


妹尾昌俊先生
徳島県出身。京都大学大学院修了後、2004年から野村総合研究所にて学校や行政のマネジメント改革、戦略づくりなどに従事。
2016年に独立。文科省や全国各地の教育委員会、校長会等で学校マネジメント、働き方改革、地域協働などをテーマに研修やワークショップを行っている。
2017年からは学校業務改善アドバイザー(文科省委嘱、埼玉県、香川県、横浜市等多数)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」委員、NPO法人まちと学校のみらい理事としても多方面で活動している。
著書に、『変わる学校、変わらない学校ー学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道』、『「先生が忙しすぎる」をあきらめない—半径3mからの本気の学校改善 』、『思いのない学校、思いだけの学校、思いを実現する学校』ほか。(2018年5月20日現在のものです)

横田和也

鹿児島県出身。ラ・サール高等学校・中学校卒。現在東京大学教養学部2年に在籍。本フォーラム主催団体であるNPO法人ROJEでは先生のための教育事典EDUPEDIAに所属。言語教育に興味があり、将来は中高英語科・国語科教員を志望している。(2018年5月20日現在のものです)

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (1件)

  • 民主党政権がズッコケなかったら部活動の総合型地域スポクラ移行が進んだかもしれない?そう簡単なことではないけど…
    コミュニティスクールで部活動がガイドラインに合致しているのかどうか、学校を外周から見ている地域住民の目にどう写ってるのか、そういう熟議はされて欲しい。ただ、地域住民はガイドラインを20年間守らなかった部活動で我が子を鍛えられた保護者だった人たちであり、地域における学校の役割は部活動だとお考えかもしれない人たちである。「ガイドライン?そんなもの、どうにかごまかせ!」とハッパをかけてこられそうな気もする。

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