教員に長時間労働をさせない!現役教員の取り組み【田中まさお先生インタビュー】

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目次

 はじめに

この記事は教員の長時間労働に歯止めをかけるために裁判を起こしている田中まさお先生へのインタビューを記事化したものです。(取材日は2022年10月17日)先生は現在も埼玉県内の小学校で非常勤講師として勤務されています。
田中まさお先生は2018年9月に、長時間労働是正のために埼玉県教育委員会を相手取り、訴訟を起こしました。2021年10月に一審で敗訴したあと、2022年8月の控訴審での訴えも棄却され、現在最高裁に上告中です。
今回は田中まさお先生に、教員の働き方に関する現状や世間の変化、これからのご自身の裁判についてお話しいただいています。

また、EDUPEDIAでは、2019年にも田中まさお先生にインタビューし、記事にしています。その様子はこの記事をご覧ください。
https://edupedia.jp/archives/25322

 田中まさお先生をとりまく現状

訴訟を起こし半年経ったころ、テレビ出演をきっかけに、私の裁判を含めて、教員の時間外労働について取り上げられるなど、「教員に残業代が出ない」ということを知ってもらえるようになりました。今では、残業代を出せないのは給特法があるからだというところまで知られるようになりました。3年前までは給特法という言葉は認知すらされていませんでした。裁判を起こしたことにより、世間の認識に変化があるように思います。

実際に私の学校では、おそらく私の存在があるからだとは思いますが、退勤時間が早くなっています。校長が超勤4項目(*)以外の指示を出さないからです。私が裁判で、超勤4項目以外の指示を出さないように訴えているので、私の学校の校長は指示を出すことができません。各学校で教員がそのように訴えたら変わるかもしれません。そういう人が学校に1人でもいれば働き方は変わると思います。

*超勤4項目とは
(1)生徒の実習に関する業務 (2)学校行事に関する業務 (3)教職員会議に関する業務 (4)非常災害等やむを得ない場合に必要な業務 の4項目。

 教員の長時間労働について

多くの学校の教員が当たり前のように長時間労働をしていて、働き方を変えようとしていないように見えます。12時間くらい学校にいることが当たり前、というような風潮がある学校もあると思います。そのような状況下では長時間労働はなくなりません。

 命の次に大切なものは家族

何があっても自分を守ってくれるのは家族です。友達は相談にのってくれたり、気持ちが通じ合ったりすることがあるかもしれませんが、命を懸けてまで自分を守ってくれる存在ではありません。一方で、家族は命を投げ捨ててまで守ってくれる存在です。そう考えると、自分の命の次に大切なのは家族だと思います。
それにもかかわらず、教員は家族と過ごす時間を確保しようとしていないため、長時間労働が引き起こされるのではないかと私は考えています。教員は普段、自分の家族と生活する時間をとることができているでしょうか。学校に20時まで残っていたら、家族と一緒に夕飯をとったり、家族団らんの時間を設けたりすることは難しいでしょう。私の教え子で、非常に結婚率が高く、子どももたくさんいる世代があります。彼らとよく付き合いがあったので、結婚する人が多い理由を聞くと、「先生の影響だ」と言われました。私が学校で家族の話をよくしていたらしく、それを聞いて家庭を作りたいと感じていたそうです。教員が子どもに与える影響は大きいと思います。
そのような意味でも、教員が家族との時間を大切にすることが必要です。また、教員が家族との時間を大切にしようとすることで、教員がこれまでの自身の時間の使い方について見直すことができ、労働に対する意識も変わるのではないでしょうか。

 長時間労働をなくすための具体的な工夫

まず研修や研究授業を縮小することです。研究授業は、その準備や指導案の作成にも多くの時間を要します。その時間を勤務時間内にひねり出すことはなかなか難しいです。そのため、最小限にしています。
また、朝の電話対応をなくすために、欠席連絡を電子化しました。学校に家庭から連絡が届くようになっています。
さらに、休憩時間には学校全体での集まりを入れていません。例えば、20分休みなどの時間に縦割り班での遊びや、応援団練習をしないようにしています。ささいなことではありますが、そのささいなことを徹底することでメリハリがつくようになります。このようにすることで、少しずつ労働時間を短縮することができます

 労働時間が短縮されたことによる変化

 学校の変化

以前EDUPEDIAの取材を受けたとき(2019年)は、私の出勤時間は7時30分で、その時間には教員全員が揃っていることが当たり前でした。しかし、今では8時台に来る人がほとんどです。出勤時間が早い学校では、みんなが競うように早く出勤しています。競う必要がなくなるムードになると、出勤時間が遅くなっていきます。また、現在は学校全体の学力は向上しています。初めの頃は市の下位の方でしたが、今はもう上位のほうに向かっています。これだけ労働環境がよく、学力も上位の方だとすれば最高です。このように、労働時間の短縮と学力向上を両立させることは可能なのです。

 教員の気持ちの変化

労働時間の短縮と学力向上を両立できた理由は教員が穏やかになったからだと私は考えています。21時まで勤務しているような学校の教員は、内心穏やかではないことが多いです。一見楽しそうにしていても、教員自身も気づかないうちにストレスが溜まっています。長時間労働をしているとストレスのはけ口もありません。それに比べて、今の学校の教員は穏やかで楽しそうなので、やはり労働時間は短いほうがよいのです。8時間勤務ならば、8時間のなかでやれることを精一杯やればよいと思います。

 上告に向けて

世界各国と比較しても、今の日本の教員の働き方は明らかにおかしいです。12時間くらい働いて残業代がない、そんな国はありえません
今回の上告で大きく変えようとしていることは、残業代の請求をせずに勤務時間そのものに焦点をあてることです。私は勤務時間を年間1000時間程オーバーしていたのですが、弁護士に相談した際に「その勤務超過に見合うお金を請求するのですよ」と言われました。金額を計算すると200万円ほどなのですが、私に対して勤務超過に見合うお金を払ってしまったら、国は長時間労働をしている他の教員にも、それをキリなく払う必要が出てきます。「勤務を勤務として認めて残業代を払う」のではなく「勤務を勤務として認めて残業をさせないようにする」ということに固執して主張します。

 教員へのメッセ―ジ

現場の先生は教育に対しての視点を変える必要があると思います。これは仕事の簡略化にもつながると思います。子どもに対して、長時間勉強させて、復習ばかりさせてといった教え方をしている教員は、どこかで教員自身も似たようなことをやっているのではないかと感じます。私は子どものころから漢字や英単語を目で覚えていました。そのような習慣を身につけている人の考えや行動は、他の人よりも圧倒的に早いので、成長も早いです。私は周りの人たちと比べれば、勉強時間は10分の1程度だったと思います。その感覚を持って指導に当たってほしいです。

 教育現場をめざす学生へのメッセージ

私は生まれ変わって、もう1回人生をやり直すことが出来たとしても、また教員をやります。これだけ裁判をやって、文句を言っていますが、やはり生まれ変わってもやりたい仕事は教員です。これは若い人に言いたいことです。教員の仕事には、ブラックな部分もありますが、まだまだやれることはたくさんあります。自分の生きがいになります。それだけ魅力的な職業です。生まれ変わっても教員になるということは、自信を持って言えます。

 プロフィール

 田中まさお先生(仮名)

38年間、6つの学校で勤務してきた小学校教諭。
平成31年末には定年退職となり、令和4年度現在も再任用として勤務は継続しています。
定年退職を前に、これまで自分が経験してきた不合理なことを次世代を担う若い人たちに引き継いではいけないと思い、2018年9月、長時間労働是正のため訴訟を起こしました。

田中まさお先生のホームぺージはこちら▷https://trialsaitama.info/

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教員の多忙化に関する記事は以下の記事をご覧ください。

 編集後記

田中まさお先生に改めて取材させていただき、田中先生の根幹にある思いは変わらないと強く実感しました。また、できるところから労働時間を短縮していくことで田中先生が目指している学校や教員の働き方の実現に近づいていくと感じました。田中先生の思いや労働時間を短くする方法について、EDUPEDIAを通して多くの先生方に知っていただけたら幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 千葉菜穂美)

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