【インタビュー(鈴木寛先生)】五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙の影に潜むものとは~』

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目次

1 はじめに

本記事は、2018年5月20日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙化の影に潜むものとは~』終了後に行われた、鈴木寛先生へのインタビューを記事化したものです。

本記事では、主に現場の教員が「教員の多忙化」にどう向き合うかについて、鈴木先生のお考えを伺いました。

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2 インタビュー

○大切なのは“連帯するしたたかさ”

—「部活大好き先生」と「そうでない先生」が「腹を割って話す」にはどのような意識や戦略を持つことが必要ですか。

鈴木:「部活大好き先生」より「そうでない先生」の方が多数派だと思うので、コンセンサスをどう得るかという戦略については、ブラック部活動に問題意識を持っている先生方(「そうでない先生」)が連帯して行動するしたたかさが大切だと感じています。

   教員:「部活動について、このように思いませんか?」

   教員:「私はこのように思うのですが、○○先生もそう思いませんか?」

というように教員同士で連帯し、職員室でアンケートを取り、自分達の意見にコメントを貰うなどして、“私たちが多数派である”ということを明確にしましょう。その上で、

   教員:「今回の話で、校長先生や教頭先生と話す機会を設けませんか?」

という提案をするのです。詰まるところ、ノーマルやマジョリティーがサイレントであることが問題なのです。そのようなサイレントの声を浮き上がらせるためには、アンケートやコメントを無記名で行うという方法もあります。パネルディスカッションの際に妹尾さんが仰っていたことですが、SNS等で自分の考えや経験について投稿し、それに対して第3者から返信を貰うというように教員が連帯する方法は何通りもあるのです。

例えば民間企業では、自分の所属する課内で課題を発見した際は、

   社員:「自分はこういうことを考えているのだけど、どうかな」

と相談して賛同者を得て協力を仰ぎ、企画書を作成して自分の提案を通そうと行動します。そのようなプリミティブな知恵が、学校教員には足りないのではないでしょうか。


(写真)五月祭教育フォーラムにて参加者と交流する鈴木先生

—教員は自分の学校やクラスの課題を発見しても、一人で閉じこもりがちな組織風土があるということでしょうか。

鈴木:そうですね。賛同者や協力者を募り連帯するというのは、テクニックなのです。社会全体にアプローチする方法もありますが、まずは身近な教員と創発・共鳴し、今自分がいる場所—所属している学校やクラスを変えることから始めることも大切なのです。もし、職員室で机を合わせる同じ学年、または同じ教科の先生と積極的にコミュニケーションをとるスキルのない教員であれば、ぜひそこから脱却してください。

○学校内で“熟議”を!

—パネルディスカッションにて、教員の労働環境の改善のために福祉の専門家を入れること、教員数を増やすことを挙げておられましたが、具体的にどのようなことを行えばそのような状態が実現されるとお考えですか。

鈴木:厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査」によると、全世帯に占める児童のいる世帯の割合は、昭和61年の46%から平成22年には25.3%に減少しています。つまり子供や教育に関する予算の獲得が難しく、現在の行政では教員定数を増やすことは難しいのです。

「教員定数を増やす」ということは、PTA,校長会,日教組など右翼も左翼も関係なく決議できる問題なので、そのような決議案に対する署名を集めることが、教員定数を増やすための行政への働きかけとして有効なのではないかと考えます。組合活動のすべてを肯定するわけではありませんが、行政は組合が持ってくる署名を食わず嫌いで扱いません。署名はイデオロギーの問題ではないので、積極的にやってもいいと思うのに現状そうならないのは、やはり教員自身が思考停止になってるからではないでしょうか。

「署名」は世の中を変えていく上での基本的な手段です。そうであるのに公民や政経の知識を活かせていない社会科教員が児童・生徒に教科を教えていることに憤りを感じます。

—社会科の教員やこれから社会科の教員を目指している方にとっては頭が痛い話のように感じます。

鈴木:そうでしょう。人々が市民権を獲得するプロセスはフランス革命から学ぶことができます。また最近の出来事で言えば、なぜポーランドで革命が起こったのか、ベルリンの壁はどうやって崩壊したのか、アラブの春においてソーシャルメディアがどう機能したのかなど、私達はこれまでの歴史を“自分事”として学ぶことができます。教員は、ただ単にアラブの春を教えるものではありません。「歴史を自分事に置き換えると、その活用能力はこういうところにある」というのが、社会科の意義であると考えます。

このような歴史から学ぶと“連帯”がいかに基本的なことか分かりますね。したがって、教員は自分たちが抱えている問題があれば様々な人達の賛同を得て連帯することが大切なのです。かつ、自分が生活する環境の課題を発見し、当事者意識をもって解決していくということは、これからの児童・生徒に獲得させようとしている能力でもあります。

  • 理科,保健の教員:「残業したらどれだけ集中力が落ちるか」などの学会論文を持ってくる
  • 数学科教員:エビデンスを集める
  • 情報教員:分かりやすいチャートを作る
  • 国語科,社会科教員:分かりやすく、共感できるような説得力のある文章を書く
  • 図工教員:パワーポイントを作る

といったように、学校内で熟議をするための材料を揃えるという一連の過程で教員のPBL(※1)も上がります。学校でチームを組み、この学校をどうしていくか」という熟議をすることを諦めるような組織風土の学校は良いとは思えません。

※1…PBL(project-based learning):自ら設定した課題または与えられた課題を解決していく過程で、さまざまな能力の育成する学習。—コトバンクより引用


(写真)インタビューに答える鈴木先生

○コミュニティ・スクールの可能性

—色々な役割分担の中では、コミュニティ・スクールが教員の多忙化を救うカギになりそうですが、「地域」の実像が場所によって異なると思います。困難を抱える家庭の多い地域では、どのような働きかけをすれば多くの保護者に学校に参画してもらえるのでしょうか。

鈴木:コミュニティ・スクールにコミットメントする保護者も少ないですが、反対する保護者も少ないのです。かつ、困難を抱える家庭が多いか少ないかによってコミットメントが変わるものでもありません。意識が高い地域でも10割のコミットメントが得られないということは、地域住民の割合から考えて数パーセントのコミットメントを獲得するだけでも学校が動くということです。


(写真)インタビューに答える鈴木先生

—教員同士でも、コミュニティ・スクールに対する考え方や価値観が異なるという面があるでしょうか。

鈴木:考え方の違いというよりは、“見て見ぬふり”をしているか否かということではないでしょうか。“見て見ぬふり”をしている教員は、積極的に動いている教員に対して「意識が高い」と後ろ指を差します。教員自身がそのような意識高いことをすると、“見て見ぬふり”をして、“事なかれ主義”でやっている教員に揶揄される。そこで引いてしまう教員が多いです。生徒は先生の背中を見ています。それなのに職員室がこのような風土では、児童・生徒が勇気を持って何かを変えようとする主体性がどうして育まれるでしょうか。

教員自身が「教員の多忙化」を改善するための活動に尻込みするのではなく正面から向き合って、現状に苦しんでいる教員を連帯して助ける意思を持ってください。そういう動きに反対する保護者は説得するのです。

   教員:「もうできません。今このような状況です。」

   保護者:「そういうことになっていたのですね。」

全ての保護者がこのような理解を示してくださるわけではなく、モンスターペアレンツもいます。しかし、少数派または多数派の心ある人にどう届くコミュニケーションをするかを考えてください。国語教員が説得力のある手紙を書き、音楽や美術教員が見た人の心を動かすような動画をつくる。現場の教員の多くは「教員の多忙化」に問題意識を持っていても動いていないですよね。戦後食べるものもなかった時代は自分たちの問題に向き合って乗り越えようとしてきました。だから日本の教育はここまで、少なくとも小学校,中学校では世界トップレベルをキープしているのです。

現代の教員は、自己肯定感が低いのでしょうね。学生時代に教員養成課程のみ通過し、受け身で勉強してきた教員はやはり自己肯定感が低いですし、このような問題を自分事として意思をもつことも難しいのでしょう。そういった意味でも、教員養成過程や教員採用の問題が浮き彫りになりますね。

3 登壇者のプロフィール


鈴木寛先生

兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。慶応義塾大学助教授を経て、2001年参議院議員初当選。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ、文化、情報を中心に活動。
2014年2月、東京大学教授、慶応義塾大学教授に同時就任。私立・国立大学のクロスアポイントメント国内第1号となる。
2015年2月より文部科学大臣補佐官も務める。(2018年5月20日現在のものです)

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