人生を切り拓く力の育成 ~学校現場で教科学習と探究活動の両輪を揃える~【冨髙雄介先生インタビュー前編】

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目次

はじめに

本記事は、西大和学園高等学校で行われているアントレプレナーシップ教育、AIP(アクション・イノベーション・プログラム)についてのインタビュー記事です。前編では、西大和学園高等学校教諭でアントレプレナーシップ教育推進主任である冨髙雄介先生への取材に基づき、AIPの概要やコンセプト設計についてご紹介します。

本記事は、2024年11月8日に行った取材を記事化したものです。

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AIPについて

西大和学園のAIP(アクション・イノベーション・プログラム)は、「自分の人生を切り拓く力の育成」をコンセプトとしています。私は進学校の教員として長年働いてきましたが、「机上の学力だけでは、今後の世の中を渡っていけない」という思いから、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育を学校に導入しました。

西大和学園は、かつてSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)の認定校でした。その取り組みが終了した後、学校長や管理職の先生方と話し合いを重ね、これまでSGHで培ったことを活かせないかと考えました。そこで、西大和学園では、進学指導だけにとどまらない新たな学びを生み出すべく、「探究活動」と「アントレプレナーシップ教育」に力を注いでいます。

西大和学園は全国でも名の知れた進学校であり、本来であれば進学実績を出すことが重要なポイントです。しかし、それだけではない力を育むことが、この学校の特色だと考えています。

2024年度、AIPは授業の一環として実施しています。このプログラムは学校の単位として扱われますが、希望制の授業であるため、卒業単位には含まれません。活動は毎週土曜日に2時間半から3時間の枠で行われており、年間で約30コマの授業があります。

西大和学園は1学年330名程度ですが、そのうち高校3年生は受験勉強のため参加が少なく、高校2年生が40名から50名、そして高校1年生は私が担任を務めている学年でもあり、学年の約3分の1にあたる100名以上の生徒(2024年度)が参加しています。

このプログラムは、私自身の理念に基づき、「自分で自分の人生を切り拓く力の育成」というコンセプトのもと、「思想家ではなく体現者を」「会社ではなく、社会を創る人材を」「自分自身の人生のブランディングを学力プラスαの高付加価値を」という思いで運営を行っています。

コンセプト設計の思い

私は西大和学園に勤務して10年になり、非常に多くの優秀な生徒たちを見てきました。東京大学や京都大学など、偏差値の高い大学に進学する生徒たちをたくさん送り出してきました。そうした卒業生と食事に行くことがあり、その際に感じたモヤモヤ感についてお話ししたいと思います。

例えば、大学に進学した卒業生と食事をしたとき、その子は大学の授業や講義、サークル活動、アルバイト、恋愛の話などを楽しそうにしていました。その話を聞いていて、私は思わず「それだけ?」と思ってしまったのです。もちろん、今の大学生活に一生懸命取り組むことは素晴らしいことです。しかし、もっとアクティブに挑戦し、社会に貢献できる方法もあるのではないかと感じました。

生徒が社会のリーダーとして活躍できる力を身につけるために、中高生のうちからどのようなことに取り組めるだろうかと模索していた中で、アントレプレナーシップという言葉に出会いました。学生時代に事業を立ち上げる経験を積み、失敗を恐れずチャレンジできる。そんな学びがアントレプレナーシップ教育を通じて実現できるのではないかと考え、本プログラムを設定しました。

AIPの中身の設計(詳細について)

AIPでは、マインドセットからスキルセットまで段階的に学びを深め、生徒に事業を立ち上げる経験をしてもらいます。

まず、外部の起業家などを招き、彼らがどのような思いで事業を立ち上げたのか、そのマインドセットを学びます。特に重要なのは、リスクを考慮しつつも、失敗を恐れずチャレンジし続ける姿勢を身につけることです。

次に、ビジネススキルを習得するために、基本的な思考法やフレームワーク、マーケティング、プライシング、プロモーション、マネジメントなどのスキルを学びます。授業形式は、教員や外部講師が一方向で教えるのではなく、双方向でのやり取りやワークショップを中心に進め、楽しみながら学べるようにしています。

プログラムは2つの大きな軸に分かれています。1つは、「事業創出」です。生徒たちが自分のアイデアを形にすることを目指し、「こんなことをやってみたい」「これを作ってみたい」という思いを実際のプロジェクトとして具現化します。もう1つは、企業や自治体と連携して、実際の課題解決に取り組む「PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)」です。生徒たちは企業の課題解決策を考えることや地域の価値を生み出すことを目的に活動しています。

他にも、ルワンダやネパールへの「アントレツアー」を実施して現地の課題解決に取り組む活動や、地域の自治体や企業と連携し、地域貢献や企業の課題解決に取り組むプロジェクトも実施しています。

それぞれの活動の中で、商品化・サービス化の実現や大規模なイベント開催、企業と連携して新たな事業に挑戦するなど、生徒たちから多様なアイデアが生まれてきます。こうしたアイデアを基に、生徒たちは、マインドセットやビジネススキルに加えて、毎回の活動において、外部講師と1対1の対話を通して自分のビジネスプランをブラッシュアップしていきます。

こうして、AIPで学ぶ生徒たちは、自分のアイデアを形にし、実社会での課題解決に取り組む力を育んでいます。

プレゼンテーションについて

生徒の学びや挑戦を形にするため、プレゼンテーションの機会を複数回設けています。中間発表と年度末発表、さらに大和大学の施設を借りて、対外的な大規模な発表会も行っています。

プロジェクト進捗:中間発表としての期限設定

中間発表では、現時点での進捗を発表します。マイプロジェクトの期限の設定としては、10月末の中間発表までに小さくてもよいので何か明確にアクションを起こすようにと伝えています。例えば、高校1年生の最終目標が「100名を集めるイベントを開催したい」というものであれば、10月末の段階で10名規模のイベントを実際に開催してみるなど、ある程度の中間目標を定めます。そして、年度の最終目標として2月までにどのような結果を出すのか。高校2年生になったら、高校2年生の夏や1月には最終的にどのような結果を出すのか、というように、各月の目標を生徒たちにしっかり考えてもらい、教員だけでなく外部講師も含めて共有をしています。

もちろん、出てくる結果は生徒によってさまざまですが、このような目標設定やタスク管理が身につけられるように設計しています。

プレゼンテーションの目的

プレゼンテーションの目的は、学びを昇華することです。

プレゼンテーションにおいて重要なのは、話す側のスキルに加えて、聞く側の姿勢・参画度も重要だと私は考えています。多くの人は「話す側が重要だ」と思いがちだと思いますが、プレゼンテーションは、オーディエンスがいることで成り立つものだと考えます。したがって、私は生徒たちに、話す側の姿勢や目線、抑揚、プレゼン資料作成の注意点に加えて、聞く側の姿勢の大切さを特に伝えています。オーディエンスとしてどのように受け止め、どんな意見を出すのか。

私自身、話すときは考えながら話し、聞くときはもっと考えながら聞いています。質疑応答は数名しか当たらないことが多いので、限られた意見しか得られません。そのため、必ずフィードバックシートを用意し、生徒に他の生徒のプレゼンテーションについて「良い点」や「課題」、そして「今後の改善点」を記入させます。このフィードバックは、教員や外部講師も参加し、しっかりと行っています。これにより、話し手は自分のプランをさらにブラッシュアップすることができます。

また、プレゼンテーションの語源は「プレゼントすること」だと私は考えて生徒に伝えています。つまり、相手に何かを与えるということです。話し手は自分が話したいことをただ喋るのではなく、相手の目線に立ち、相手にどのような影響を与えるかを考えることが必要だと思います。生徒たちには、プレゼンテーションを聞いた後、相手がどう変わるか、どう思うかを意識しながら話すようにと伝えています。

質疑応答の際には、生徒がどれだけ臨機応変に対応できるかを重視しています。特に、外部講師からの鋭い質問や、予想外の意見にどのように反応するかを見ることを重要だと感じています。プレゼンテーションの内容以上に、この対応力を評価することも多いです。

こうしたプレゼンテーションを通じて、計画力、文章構成力、伝える力、臨機応変な対応力を養っていきたいと思っています。

AIPのこれまでの歩み

最初の頃は、1年目には外部講師1人の方に参加していただき、その方と一緒に進めていました。しかし、資金が限られていたため、1人では回らないと感じ、「ビジネスコンテストに出ること」を思いつきました。コンテストに出場することで、出張授業やさまざまなサポートを受けられ、それを活用して全体の運営を進めていました。

1年目はコンテストであまり成果を得られませんでしたが、2年目に入ると「どうすればコンテストで結果が出るか」を企業の方と考えながら体系的に進めました。その結果、数回の受賞を果たすことができました。しかし、受賞はしたものの、実際にはそれを実装できなかったため、「これで良いのだろうか?」という疑問が生まれました。結局、机上の空論に過ぎないものが多かったと感じ、3年目にはコンテストのためにプランを作るのではなく、自身がやりたいことを軸に据えてプロジェクトを立ち上げる形に路線を変更しました。

生徒たちが本当にやりたいことを追求し、それを実現することが大事です。私は、やりたいことを実現させれば、高校生レベルのビジネスコンテストであれば十分に受賞できると考えています。今年もさまざまな生徒がいますが、コンテストを意識せずに、やりたいことを事業として立ち上げる経験を積んでいます。その結果、コンテストで受賞することができると確信しています。

現在のAIPの設計や私にとって、コンテストに参加する目的は2つです。1つ目は賞金を事業資金として活用すること、2つ目は対外的な知名度を向上させることです。コンテストという公の場に出ることで、ネットワークの拡大を図ることができ、今後のプロジェクト拡大につなげることができるため、この経験は非常に有意義だと思っています。

こうしてプロジェクトを拡大する過程の中で、多くの外部講師の方々に支援していただき、プログラムとして成長していきました。最初に参加していた方々を通じて、次にコンサルタントの方と繋がり、その方のサポートで生徒たちのプランが短期間で実現可能となりました。その後、探究教育を全国的に展開している方々に参加していただき、プログラムやカリキュラムのブラッシュアップを行い、現在の運営体制が整いました。

現在では、当プログラムに「入りたい」と申し込んでくる方が増え、私はその意欲的な方々とよくお話しさせていただいています。

探究と受験勉強について(進学校として)

「進学校で探究と受験勉強を同時に行うのは大変だ」というご意見をいただいた際に、探究活動を行ううえで大事にしていることは、「プロジェクトマネジメント×教科学習」という考え方だと伝えています。

全国の学校において、「受験勉強と探究学習の両立を図ることは難しいのでは?」という声を多くいただきます。しかし、探究学習を行うことによって身につけられるプロジェクトマネジメントが、受験勉強との両立も可能にしていくのではないかと考えています。マネジメント能力が高ければ、限られた時間内で結果を出すことができます。例えば、人的リソースやコスト、スケジュールやタスクの管理がしっかりできていれば、それを受験勉強にも応用できるはずです。受験勉強とは答えのある問いですから、マネジメント能力が高ければ、効率よく進めることができます。

また、「orではなくandという考え方が重要だと思っています。教科学習は、今後の学びの土台であり、土台がしっかりしていることは探究学習や受験勉強、その他の分野で生徒が活躍するために必要な要素だと思います。

しかし、机上の学習だけが、生徒の学びや成長を支え、加速させていくものなのでしょうか。

生徒たちを社会で活躍できる人材に育てるには、学校現場で教科学習と探究活動という両輪を揃えることが必要であると考えています。学力の土台を作る学習にしっかり取り組むことに加えて、生徒たちが自分の力で今後を決めていける、生きる力をどんどん育んでいける教育が展開できればと思います。

プロフィール

冨髙雄介 西大和学園中学校・高等学校 アントレプレナーシップ教育推進主任/社会科教諭

2014年、西大和学園中学校・高等学校に入社。2020年、高校3年生の担任・教科担当として、過去最高の合格実績に貢献する。2021年、アントレプレナーシップ教育推進主任に就任。「AIP(Action Innovation Program)」の立ち上げ、責任者としてプロジェクトマネジメントを行う。2023年、他校へも価値提供の幅を広げるべく、外部講演活動等も精力的に行う。2025年、NIKKEI THE PITCH SOCIAL ソーシャルインパクト賞受賞。

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