なぜ、私が今、探究学習を学ぶのか。届けるのか。【平岡慎也さんインタビュー後編】

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目次

はじめに

本記事は、Project Based Learning(PBL)の先進校ともいえるHigh Tech High(ハイテックハイ)の教育大学院に留学され、教師教育の観点から探究学習のプロジェクトを進めている、平岡慎也さんへのインタビュー記事です。

後編では、教育やHigh Tech Highの教育大学院で学んだ背景、平岡さんご自身の探究的な学びの経験について伺いました。

この記事は、2024年9月28日に行った取材を記事化したものです。

★前編記事も合わせてお読みください。

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教育に関わろうと思った背景 

教育に興味を持った入口は、日ごろから弟に勉強を教えていたことですね。私は男4人兄弟で弟が2人います。弟に勉強を教えていると、「算数を教えたら、こう解けるようになった」というような成長が見られたり、教えることそのものが楽しいなという感覚がありました。

理想を実現する力を。

大学時代に塾でアルバイトをしていたときのことです。塾生向けに3泊4日のサマーキャンプを運営したのですが、何もかもがうまくいきませんでした。カレーを作ったり、天体観測をしたりと、ワクワクしてスケジュールを練っていったものの、子ども達の学びのために良かれと思って考えたことが何一つ実現されませんでした。この時、「良いことをしたいと思っていても、それを実現するための力がないとこんなにもつらいんだ、悲しいんだ」と感じました。私自身だけでなく、私の周りの大学生や社会人1年目くらいの人、その世代の中で、学生団体をやって活発に活動している人も、「上手くいかない」と追い詰められていた人が多くいました。そんな姿を見て、「どうしてこんなに良いことをしている人たちがバタバタ倒れていってしまうんだろう?」と疑問を抱きました。良いことをしたい、こういうことを目指したいということがあるのならば、それを実現するための技術、力、知識がないと、ギャップで心がやられ続けてしまうとわかりました。

しかし、かといって志を落とすべきなのかというと、それは面白くない社会になってしまうのではと思います。「こんなことを実現したい」という思いがある人がいるのならば、実現するための力をつけるような機会が社会全体で必要なのではないか、と考えました。だから、私はそのような機会を作ることに貢献できる仕事を一生やっていきたい、そのためには、広い意味で教育だなと考えました。

教師教育からのアプローチ

教育にもアプローチの仕方は幅広くありますが、私が特に興味を持ったのは、教師教育です。私自身数学の先生の経験があり、その時に1年で会う生徒は100人ぐらいでした。もちろん、100人と向き合うというのも本当に大事な仕事です。一方で、1人の先生が100人と向き合うとすると、私が100人の先生や先生の卵に良い影響を与えることができれば、その先には1万人の子どもたちにそれを届けることができます。そう考えたとき、私は、「パワーアップしたい」「視野を広げたい」「探究学習をしたい」という先生のサポートをしたいと思うようになりました。

High Tech Highの教育大学院を選んだ背景

まずは、自分が探究学習を学びたい

まず1つは、日本でも探究学習を進めるにあたって、まず自分が学んでみたいと思ったからです。小中高と学習指導要領が変わって、探究学習が今まで以上に取り入れられるようになってきました。私や今の先生方の学生時代には探究学習がなかったので、「探究学習って何?」という状況から始まります。もちろんいろいろな研究をしたり、先進的な国内の学校を視察したり、日々学んでいる先生方はたくさんいらっしゃいます。しかし、機会としてすでに学べる環境はあるのですが、私はさらにもっと学びたいという人たちが学べる先の開拓をしたいと思いました。

こう考えていた時、私は「Most Likely To Succeed」というドキュメンタリーを見て、「High Tech High」という探究学習が世界一進んでいるとされる学校があるらしい、と知りました。映画を見て、この学校でより多くの日本の先生がインスピレーションを受けたら、日本の探求学習がさらに面白くなり、加速するのではないかと考えました。絶対にHigh Tech Highに行かないといけないというわけではなく、オプションの一つとして、日本の先生がHigh Tech Highの教育も見られる機会を作れたら面白そうだと思ったのです。

Global Teacher Programをパワーアップさせたい

2つ目の理由は、私が渡航前から取り組んでいたGlobal Teacher Programをパワーアップさせたいと思ったからです。

Global Teacher Programとは教育者のためのプログラムで、フィリピンとフィンランドの公立小学校に行って教育視察や授業をし、教育を探究するということを7年ほど行っていました。これはPBLで、現地で英語を使って子どもたちに授業するというプロジェクトを通じて教育を探究していく構成になっていました。これは割と私が思いつきで作ったといいますか、私自身が大学生の頃に休学して世界一周しながら海外の学校へ飛び込んで教育実習をしていた経験が基になっています。つまり、自分の経験を活かしたプログラムではあるものの、あまり体系立った理論で作られていませんでした。「私がこれをやって良かったと思っているからこういう要素を入れる」というような個人的なものが多く、もう1段階パワーアップしたいなと思っていました。「どうやったらこのプログラムがより深い学びの教育的なプログラムになるか」と考えていた時に、High Tech HighでProject Based Learningデザインという授業があることを知りました。この授業がプログラムのパワーアップに繋がるのではないかと思い、High Tech Highの教育大学院を選びました。

実際に今はHigh Tech Highで学んだことをGlobal Teacher Programに入れて、どんどんパワーアップさせています。

大学を休学して、海外の学校で飛び込み教育実習をした話

大学2年生の頃に大学の授業で、「フィンランドの教育はすごいらしい」「宿題やテストがない」ということを聞きました。私は疑い深い性格なので「本当なのか? テストも宿題もなしで、学力がそんなに上がるのか?」と思い、調べてみることにしました。しかし、インターネットは今ほど発達していませんし、12、3年前は本も今よりはるかに少なく、フィンランドの情報はありませんでした。だから、「これは行くしかない」と思い、大学を1年休学して、本来は6か月間行きたかったのですが、ビザの関係で3か月フィンランドに行きました。休学期間は残り9か月ぐらいあったので、「世界中いろんな学校を回ろう!」と思い、フィンランド、オーストラリア、ボリビア、インドなど世界27か国ほど回りました。各地でアポイントを取ったり、知り合い経由で入ったり、「教育実習をさせていただけませんか」とお願いしたりしました。見学だけ入れさせてもらった学校もありますし、フィンランドの小学校では6年生のクラスで3か月実習させてもらい、オーストラリアの小中高一貫校でも日本語教員インターンを約2か月経験しました。他にも多くの学校を見学しました。

フィンランドでは、基本的には授業見学をさせてもらうことが多かったです。例えば、音楽の授業を一緒に受けていました。フィンランドでは音楽の授業はギターやドラムをし、子どもたちと一緒にエイトビートを刻みながら練習をしていました。3か月もいると、「来週アジアの地理を社会の授業でやるから、何か話してよ」といった依頼されることがあり、授業も何度かやらせてもらいました。

学校訪問で心がけたこと

まずは数を打てば当たる作戦といいますか、百発百中というわけではないので、たくさんの学校に連絡をしました。

学校訪問をさせていただけることになれば、意識して「話していて気持ちいいな」と思ってもらえるような人を常に目指してました。例えば、挨拶は絶対に大事です。挨拶は世界共通言語ですから。先生が専門的なスキルを必要としないタスクをしていたら、「手伝っていいですか!?」と、元気よく話しかけることを徹底していました。先生が大量の色鉛筆を虹の色順に並べるみたいな作業をしていたら、言語も必要ないですし、大チャンスです。一緒に作業をしながら雑談していると、「そもそもあなたはなんでフィンランド来たの?」と聞いていただけて、話が広がります。そうすると、「面白いね。ちょっとうちのクラスで日本のことしゃべってよ」とつながっていくこともありました。チャンスは自分から広げないと広がらないので、元気いっぱいに、そして、気を利かすということを意識していたことが大きいのではないかと思います。

また、直接訪問する際は、忙しい時間帯を避け、子どもたちが帰った後など先生がある程度ゆったりしている時間帯にするなど、最低限のマナーを守ることも大切です。

学校自体が危険ということは少ないですが、世界各国の治安が良くない地域については自分で調べる必要があります。海外経験がない人が危ない国に「とりあえず行っちゃえ!」と行ってしまって、何か事故に遭うことは避けてほしいです。「海外に行く時は安全管理が大事だよ!」ということを伝えておきます。

海外での学校訪問の経験を経て

教職を取りきっていない状態の、本当に何者でもない大学生として海外の学校訪問をしていました。学校訪問をする中で痛感したのは、自分自身の専門性のなさでした。例えば、京都にはどんなお寺があるとか、京都出身でしたが、あまり知らなかったです。ですから、日本の勉強や京都の勉強は帰ってからし始めました。

平岡さんからのメッセージ

子どもたちに伝えたいこと

「それが役に立つか・立たないか?というのは、その場では絶対分からないから、興味を持ったものはそれが役に立とうと・立つまいと全力で楽しんで学んだらいいよ」

これは、講演会で私が高校生の時にかけてもらった、今も大事にしている言葉です。私がフィンランドで教育実習をしたときも、意味があるかは分からなかったですが、私がフィンランドに行きたいと思ったので行きました。結果論として、大学の時の原体験が、私の事業であるGlobal Teacher Programに繋がっているのです。当時はもちろんこんな未来を見越して行ったわけではありません。「役に立たないかもしれないけど好奇心に沿って行く!」ということを続けてきました。

海外教育実習以外にも、いきなりバイオリンを練習し始めてみたり、北海道をヒッチハイクで一周したり、よく分からないことをいろいろしてきました。役に立ったものもあれば、役に立っていないものもまだありますが、役に立つかどうかは二の次です。ひとまず、興味があるものは全力で!

先生も子どもたちも豊かに

まず、日本の先生はすごいです。特に、物事を分かりやすく整理して伝える力において、アメリカの先生よりも授業が上手いと思う先生が多くいます。また勤勉で、とても長い時間をかけて「子どもたちのために」と考えて、動いていらっしゃいます。世界中探しても、こんなに優秀な先生が揃っている国はなかなかないと思います。実際、最近のPISAの学力テストも日本の子どもたちのスコアは高いです。人口が多い先進国の中で、日本はトップクラスだと思います。

「先生はこれができていない」と声が上がることがありますが、まずは先生方が社会的に評価されてほしいです。先生方の頑張りが日本の高い教育力を支えているという認識が、もっと広がってほしいと思います。

そして、「先生が豊かな生活を送れるようになってほしい」と強く思っています。

今の日本には依然として、「先生=自己犠牲をして、子どもたちのために尽くさないといけない仕事」という風潮や文化があると思います。これは必ずしも悪い文化だ、とまでは思いませんが、その文化を先生方に押し付けるのは、先生がつらすぎると思います。ですから、私は先生だけでなく、他の人も日本以外の教育に触れ、「先生方にも自分の人生があるよね」「先生が豊かに生きながら、学校で深い学びを作るために何ができるかな」といったことを社会全体で議論が進めていけたらと思います。だから、私は海外にいろんな先生方を連れていくのです。例えば、フィンランドでは豊かなライフワークバランスが確立されており、本当に先生は楽しい、幸せと感じている人が多いです。午後2時頃に退勤して、3時に家に着く。家にはサウナがあって、家族とゆっくりできる。

先生方が、子どもたちのための教育も、自身の豊かな生活も追求していける形を考えていきたいですし、それを社会全体でサポートできることも目指していきたいと思っています。

プロフィール

平岡慎也

株式会社Stapia 代表取締役
1993年、京都市生まれ。立命館大学情報理工学部卒。
中高の数学教師を経て、High Tech High教育大学院で教育学の修士号を取得。
教育をテーマにした探究型留学プログラム「Global Teacher Program」の運営代表として、フィリピンとフィンランドの公立小学校、サンディエゴのHigh Tech Highと提携し、日本から延べ400名以上の参加者を引率している。
趣味は海外旅行。旅の経歴は、世界4周53カ国。

編集後記

私自身、平岡さんもご覧になった「Most Likely to Succeed」のドキュメンタリーを見て、探究学習に興味を強く持ち始めました。本取材を通して、実際のHigh Tech Highの様子についてもお伺いでき、より、探究学習的な学びの実践について知っていきたい思いが強くなりました。私自身、理想を高く掲げるあまり、現実とのギャップに苦しむことも多くありますが、自分自身が探究的に学んで理想を実現できる力を身に付け、それを周りの人も一緒に磨き合えるようにしていきたいと思います。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 下園)

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