はじめに
この記事は、2024年9月8日にNPO法人ROJE EDUCAREER(旧:教育と仕事フェス)が主催した第20回EDUCAREERイベント「教員になる? ならない? キャリアの軸を見つけよう」でのインタビュー内容を記事化したものです。
教員を志望する学生の多くは、教育実習を通して教職への思いを固めていきます。学生のうちにインターンシップなどで学校現場以外の教育の形に触れることは、将来教員になることを決めている学生にとっても貴重な機会となるはずです。本記事は、教育キャリアを考える学生が将来教育に関わっていく多様な方法を知り、自分の価値観に合った進路を見つけるきっかけとなることを目指しています。
イベントの登壇者には、株式会社クジラボの池田 孔俊さん、津田 迪加さんをお招きしました。株式会社クジラボは、「働くをひらく。」をミッションに、学校や行政、医療など社会を支える人のキャリアの支援を行っている企業です。特に、教員の方の相談が多く、現在2,000件以上の相談を受けているそうです。
この記事は前後編に分かれています。後編(本記事)では、学校現場や教育系企業のリアルについてご紹介します。前編ではおふたりのキャリア選択について紹介しておりますので、ぜひあわせてご覧ください。

教員の労働実態:光と影
「教員の残業時間や労働環境がブラックだという話をよく聞きますが、実際はどうなのでしょうか?」
津田:正直、学校や地域によって働き方にはかなり差があると感じています。私自身、これまでにいくつかの学校で勤務してきました。いわゆる研究校に勤めていたときには、朝早くから夜遅くまで働き、終電ギリギリまで働くのが当たり前でした。一方で、子育て世代の教員が多く在籍していた学校では、「早く帰る」ことを大切にする風土があり、遅くとも19時頃には退勤できるような雰囲気がありました。近年は、働き方改革の影響もあり、以前に比べて教員の勤務環境が少しずつ改善されてきているように感じます。
「有給休暇の取得状況はどうでしたか?」
津田:教員には年間20日の有給休暇が付与されて、次年度に最大20日まで繰り越せるんです。さらに、地域によって日数に変動がありますが、5日ほど夏季休暇があり、夏休みにまとめて休暇を取り、海外旅行に行く教員もいらっしゃいました。ただし、「夏休み=先生も休みっぱなし」というわけではありません。研修や教材研究に加え、中高だと部活動の指導もあります。
池田:民間企業の有給休暇は通常10日程度なので、教員の20日はかなり多いですね。
津田:そうなんです。でも、40日まで貯められることもあり、使い切れていない教員が多いのが現状です。ただ、最近はあらかじめ時期を決めて取得するように計画する「計画年休」という取り組みもあって、平日でも休みを取りやすくする工夫をしている学校もあります。
「実際、教員の忙しさはどうなのでしょうか?」
池田:データでは、教員の平均残業時間は、中学校で62時間、小学校で61時間、高校で58時間です(出典:実質的な残業時間が平均で過労死ラインを超過/日教組調査 (2023年12月13日 調査部)|労働政策研究・研修機構(JILPT))。しかし、実態は学校によって大きく異なります。
津田:そうですね。特に配属先は選べないので、そこが不安な点の一つかもしれません。
教員から民間へ:転職の壁と可能性
「イベントの参加者から、教員から民間企業への転職についての質問がありました。ファーストキャリアで教員になると、民間企業に転職しづらいという話を聞いたことがあるそうです。実際はどうなんでしょうか?」
池田:結論から言うと、教員からでも民間企業に転職できるケースはたくさんあります。リクルートやベネッセなどの教育関連企業はもちろん、教育とは関係のない業界に転職する人もいます。教員に限らずですが、20代のうちは未経験の業界職種への転職がしやすいです。30代になると、どうしても経験者枠での採用を希望する企業が多くなり、20代のときと比べて転職しにくくなる場合があります。
津田:30代を超えると全く違う業界は難しくなるということですね。
池田:そうです。でも、これは民間企業間の転職でも同じことが言えます。
教育現場vs企業戦線:キャリアの分岐点
「イベントの参加者から、『教員は業務に追われて大変だけどノルマがない。一方で民間企業は利益重視でノルマがあったり、数字に追われて大変だったり、会社の利益のためなら人をコマのように扱うイメージがある』という意見がありましたが、どう思いますか?」
池田:私の経験では、本当に会社によります。4社経験してきましたが、確かに人をコマのように扱う会社もありました。でも、人として尊重してくれる会社もあります。忙しくても、仕事の意義が明確で、やりがいを感じられる環境もありました。ノルマという言葉は最近あまり使わなくなっていて、代わりにKPI(Key Performance Indicator)や目標という言葉を使います。例えば、売上目標100万円を達成するために、月10件の営業アポを取るといった具体的な行動指標を設定するのです。
津田:教員の場合、公立学校ではノルマのような概念はあまりないですね。でも、私立学校では生徒募集のノルマがあったり、学力テストの点数を上げるプレッシャーがあったりすることもあります。
池田:特に公立学校は自分で学校を選べないのが特徴ですよね。2年ほどで管理職が変わるので、学校の雰囲気がガラッと変わることがあり、これを「異動ガチャ」「管理職ガチャ」と言うこともあります。
津田:同じ学年を担当する教員も毎年変わるので、「学年ガチャ」もあります。でも、これのおかげで、誰とでも上手くやっていく力が身についたと思います。
最後に
「進路選択を控えた学生たちへメッセージをお願いします。」
池田:絶対に民間がいい、絶対に教員がいいという正解はありません。結局は、皆さん一人ひとりがどういうタイプの人間なのか、何に幸せを感じるタイプなのかが大事だと思います。自分にとって大事にしたいことは、将来変わってもいいんです。ただ、ファーストキャリアを選ぶときには、今回は何を大事にするのか、自分の価値観を軸にすることをおすすめします。
津田:自分に合うか合わないかは、実際に働かないとわからない部分も多いです。そのため、長期インターンシップなどを通じて、実際の仕事を体験してみるといいと思います。
「教員は社会を知らない」などと言われることがありますが、私はそうは思いません。授業を作るプロセスは、ビジネスを作るプロセスとよく似ています。子どもたちの課題を見極め、解決策を計画し、実行して、結果をフィードバックする。これはまさにビジネスの基本です。確かに、収益を考える視点は弱いかもしれませんが、問題解決のための基本的なスキルは身につきます。だから、もし教員という仕事にマイナスイメージを持っている人がいたら、そういった面も考えてみてほしいです。
「おふたりとも、貴重なお話をありがとうございました。教員と民間企業、それぞれの特徴や違いがよくわかりました。進路選択に悩む学生たちにとって、とても勉強になる内容でした。」
プロフィール
会社プロフィール
(株)クジラボは、教員一人ひとりが「自分らしいキャリア」を描けるよう支援する「教員特化型キャリア支援事業」を展開しています。私たちが提供するプログラムは、転職を前提としたものではなく、教育現場に残る・異動する・新たな挑戦をする――どんな選択でも、自ら納得して決められる力を育む「キャリアの自律支援」です。教員ならではの悩みに寄り添い、自己理解や価値観の整理を通じて、多様な働き方や生き方の可能性に気づくきっかけを提供しています。
▼各種アカウント
HP:https://kujilabo.jp/
X:https://x.com/kuji_labo
Instagram:https://www.instagram.com/kujilabo/
登壇者プロフィール
(株)クジラボ
池田 孔俊 さん
東京学芸大学A類保健体育科を卒業後、財閥系大手不動産会社を経て人材系企業にて新卒領域のキャリア支援に従事。法人営業も兼務し、ありとあらゆる業界、職種、規模の顧客を担当。在籍中にトータルで1200名以上の学生と500社以上の企業を支援。
第二子の誕生をきっかけに東京から地元への地方移住、フルリモートワークでIT企業に勤めつつ複業で採用コンサルティングやコーチングの仕事も請け負うパラレルワーカーに。
2023年に株式会社クジラボに執行役員として参画。先生のキャリア支援事業の責任者として立ち上げから従事し、これまで500名以上の先生方のキャリアに向き合っている。
(株)クジラボ
津田 迪加 さん
東京学芸大学A類国語科を卒業後、公立小学校教員を11年経験。半年の休職期間を経て退職し、現在はライターや編集業を中心に活動中。教育の現場で培ってきた傾聴スキルや言語化スキルを生かして、顧客の想いを最大化する企画・編集を行う。書籍の企画・編集や企業メディア編集に関わるほか、(株)クジラボで教員向けのイベント企画・運営を担当している。
主催団体
NPO法人ROJE EDUCAREERプロジェクト(旧:教育と仕事フェスプロジェクト)
「一人一人が納得して自身のキャリアを決められる」ことを目標に、大学生向けイベントの企画・運営を行っている、大学生によるプロジェクトです。私たちは教育業界のキャリアの面白さを広く発信し、多様な教育キャリアと出会う機会を創出することで、教育業界でのキャリアを歩みたいと思う学生を増やし、納得のいくファーストキャリアを選択してもらうことを理念に掲げています。
詳細はこちら▷EDUCAREER(旧:教育と仕事フェス) | NPO法人日本教育再興連盟(ROJE) (kyouikusaikou.jp)
編集後記
今回のイベントで、「教員か民間企業か」という選択について、現場を知るおふたりから貴重なお話を伺いました。
学校現場特有の文化や、企業によって大きく異なる民間企業の実態など、それぞれの道の特徴が浮き彫りになりました。また、「授業づくりはビジネスと似ている」という津田さんの言葉は、教職の新たな価値を教えてくれました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 濱田愛実、馬渕空、丸山和音)
コメント