子どもの貧困の現状と今できること

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目次

1 はじめに

この記事は、2017年5月26日に行ったNPO法人さいたまユースサポートネット学習支援教室運営代表である金子由美子先生への取材を記事化・編集したものです。元養護教諭である金子先生が、日々学習支援教室で子どもたちと接する中で感じた、子どもの貧困の現状、そして今学校の先生が貧困に苦しむ子どもたちのためにできることについて伺いました。

2 子どもの貧困の現状

〇子どもの貧困は見えない

2013年に生活困窮者自立支援法ができてからは、以前より子どもの貧困という問題が世間に注目されるようになりました。しかし、最近でも子どもの貧困についての講演をすると、涙ながらに聞く方がいます。そうした方々は、貧困状態の子どもは自分の周りにいなかったと言っていて、子どもの貧困がリアルではないのです貧困は余程のことがない限り見えません。小学生ならまだ汚い服を着ている子もいるかもしれませんが、中学生になって汚い服を着ていたらいじめにあうので、自分でなんとかして洗うようになります。

〇学校に行かないという選択

状況が深刻な子の中には学校に来ない子もいます。部活で着るジャージなどが買えない、修学旅行に行けない、クラスの子たちに笑われるという現実から逃れるためには、学校に行かないという方法が最も手っ取り早いのです。不登校や保健室登校の子どもたちの中にはかなりの割合で貧困層の子どもたちがいます。また、文部科学省の調査では1年間で学校を30日以上休んでいれば不登校としていますが、朝だけ又は夕方だけ学校に行っている子や保健室登校の子どもたちは不登校だとされていません。しかし、そういった子どもたちも勉強していないのでもちろん学力は保証されません

〇行動の背景には

「生活態度の悪い子や服装の乱れた子」をひとくくりにして見てしまう傾向が強いですが、その1人1人にそうなる背景があって、もしかするとその背景に貧困があるかもしれません。ボタン1つ、ネクタイ1本が買えない家庭もあります。だらしない服装をして、悪ぶることで制服を買えないことを隠そうとしているのかもしれません。しかし、その理由が分からないままであることがほとんどなので、「将来についてきちんと考えてないのか」「やる気がないのか」と言葉をかけられ、傷ついている子どもたちがいます。「やればできる」という言葉についても、「やれるならやっている」と感じる子もいます。

〇気にかけてくれる人がいない

貧困の家庭では、保護者が仕事をかけもっていて忙しく、子どもの変化に気付けなかったり、十分に子どもに目を配れていないことも多いです。小学生の時は担任の先生や上級生、同級生が世話を焼いてくれることも多いですが、中学生になると、学校の中で他人に関わって優しくするということが難しい状況になってきてしまいます。その結果、気にかけてくれる人が周りにいなくなってしまい、落ちこぼれていってしまう子も多いです。そうなると、現状についても、将来のことについても、あきらめてしまう子どもたちが急激に増えます

〇中退のリスク

また、たとえ中学までは学校の勉強についていけていて、高校に入学できたとしても、定期代や制服代など様々な経費が当然のようにかかります。保護者もそれを想定していないこともあり、子どもたちはアルバイトをしなければ学生生活が送れなくなり、結果高校を中退してしまう子もいます。塾にも行けないので、勉強にもついていくことも難しく、中退のリスクが非常に高いです。

3 学校の先生が今貧困に苦しむ子どもたちのためにできること

学校の先生が今、貧困の子どもたちのためにできることは子どもの貧困の現状を知ることです。子どもたちは発達していくうえで、おしゃれをしたい、みんなと一緒のことがしたいと思うようになりますが、貧困のためにそれができない子の中には、反抗や逸脱という形でしか自分の意思を表現できない子がいます。子どもたちの反抗や逸脱という表現の背景に何があるのか、立ち止まって考えてみてほしいと思います。家でサポートできていないことや子どもたちが親に言いにくいことは学校の先生に気づいてあげてほしいと思います。学校の先生が、子どもたちの心と体の発達のどちらの面に関しても応援できると良いと思います。
また、学校の先生にはリーガルリテラシーを身に付けてほしいです。リーガルリテラシーとは、法律の存在を知り、理解し、活用することができる能力です。学校としても、母子世帯や生活保護世帯への手当てを知った上で、修学旅行費などを学校で一時的に預かる、役所が学校側に直接振り込むシステムにするなどの工夫が必要で、すでに実践している自治体もあります。生活保護世帯が多い地域では体育館履きがない学校もあります。また、近年、家族の形が変わってきており、ひとり親世帯が増えています。しかし、当たり前のように家に父母がいることで成り立っている学校行事などもあります。このように学校行事や配布物、制服や教材、部活の道具について見直していくことも必要だと思います。知らないとそれを強制してしまいますが、当たり前だと思うことができない子もいますし、できない家庭もあります

4 学習支援教室

さいたまユースサポートネットの学習支援教室は、生活困窮世帯の中高生対象であり、一番の役目は親以外に安心できる大人がいるということを子どもたちに示すことです。また、学習に関してイメージがわかない子に対して、学生のボランティアとして本物の大学生を配置することで、子どもたちのロールモデルとしての役目を果たしています。子どもたちは皆、プライドを持っているため、学習支援教室に来ても、ゲームやトランプをやっている子もいますが、このような子どもたちの発信をどう受け止めるか、子どもたちとどう関わっていくのかが特に大事であると思います。まずは子どもたちと関係性を作って、少しずつ学力が上がるように工夫していくことを教室では基本としており、ゆくゆくは高校に行って卒業できるように学習支援をしていきたいと思っています。このために、ベースとして中学校の勉強についていけるような工夫と高校に進学できるような工夫の2本立てで学習支援を行っています。担任や学生ボランティアが、今日何人くらいの子どもたちが来て、どの子にどの教材が必要かを把握したうえで、最近の様子(どこができるようになったか)なども考慮して教材を準備し、教室に持って行っています。しかし学習面での支援以前に、家にいても一人の子どもたちに、家族がいないときにかまってくれたり一緒に考えてくれたりする人がいる喜びを感じてもらえたら良いと思っています。

5 実践者プロフィール

金子由美子(かねこゆみこ)
埼玉県公立中学校養護教諭として30年以上、不登校や性の問題に取り組み、多くの生徒や保護者から相談が寄せられた。平成28年4月から、さいたまユースサポートネット学習支援教室運営責任者として、学生ボランティアおよびスタッフを束ねる。(2017年6月30日時点のものです)

6 編集後記

金子先生にお話を伺う中で、子どもの貧困について知っている人はいても、それをリアルな問題としてとらえている人は少ないということを実感しました。日本の子どもの6人に1人が貧困に苦しんでいるという現状を多くの人がリアルな問題として受け止め、問題意識を持つことが必要であると思いました。また、自分のクラスに貧困に苦しむ子どもがいて接し方に悩んでいる先生もいると思うので、是非参考にしていただければと思います。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 中村美乃里)

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