真面目な合唱曲の歌詞をどう子どもに理解させるか ~ 「小さな勇気」を例に

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歌詞解釈・曲の世界の実感は難しい

児童生徒用に書かれた合唱曲用の歌詞は、どちらかというと真面目でお堅い内容が多く、「がんばる」「あきらめない」「助け合う」「大事に思う」「感謝する」といった前向きで真面目なストーリーで仕立てられています。子ども達がこうした歌詞に真面目に向き合って、きちんと自分なりの解釈をして歌うというのは難しい場合があります。曲を音楽会や合唱コンクールに向けたで何度も歌う場合は特に、子ども達と共に歌詞解釈をする時間をとっていきたいものです。

美しい歌詞は、なんとなく耳障りよく聞こえてくるだけになって、表面的に流れやすい側面があります。折角何度も歌うし、場合によっては人前で披露するわけですから、できるだけ子ども達が歌の世界を理解し、実感(場合によっては実践)できた方が良いでしょう。

歌詞解釈に関しては、下の記事でも書かれていますので、ご参照ください。

合唱曲「この星に生まれて」の歌詞解釈

また、選曲時の留意点について、下の記事で書かれていますので、ご参照ください。

合唱曲の選曲について

「小さな勇気」を例に

「小さな勇気」という曲を例にとって、子ども達に歌の世界を理解させるプロセスを提案してみます。この曲の詩も、かなり真面目で高尚なので、例として取り上げてみました。

積み重ね・我慢・分け合う・つなぎあう・感じて動く・支える・大切・優しさ・届ける・受け止める・思いを寄せ合う・愛す・強くなる・守る・ありがとう

といった言葉が並んでいます。これだけ美しく真面目な言葉が並んだ曲を歌う歌い手は、相当に高尚でなければならない気がします。「それを知っていることが僕らの誇りなんだ」とまで言っています。こんな立派なことを「誇り」とまで思える集団というのは、なかなか稀なのではないでしょうか。

こういう歌詞をすっと受け入れられる素直な子どももいれば、あまりの真面目さに違和感を覚えるような子どももいるでしょう。平均的な現代の子ども達との実態ともかけはなれた【真面目さ】ではないかと感じています。誰かが「奪い合い~ 殺し合い~」とふざけて替え歌を作ってしまいそうです。

ですから、子ども達に歌わせるのであれば、歌の意味する所を理解させる必要があります。理解して、小さな勇気が発揮できるようになるまでにはなかなか難しいかもしれないけれど、作者が、「そんな集団になってほしいという願いをこめて作った曲なのでしょう」ということぐらいは、子ども達に伝えておけるといいと思います。あくまで、「作者の願い」であるという伝え方をすれば、自分たちの実態に会っていないといった違和感は緩和されるのではないかと思います。

「小さな勇気」って、何?

「勇気」が必要な時って、どんな時ですか?

と、何人かの子ども達に聞いて板書をしていきます。そうすると、

C:「ジェットコースターに乗る時」

C:「夜、一人でトイレに行く時」

C:「ボクシングで強い相手に立ち向かう時」

などを挙げる子どもが出てくると思います。出てこなければ、「こんな勇気のことも入っているのかな?」と、教師側から出せばいいと思います。

まず、それらをやんわりと排除しましょう。

この歌で歌われていることは、「ジェットコースターに乗る時」とか、「夜、一人でトイレに行く時」とか「ボクシングで強い相手に立ち向かう時」のことですか?と、聞き直してみましょう。

ここで、ちょっと子ども達は混乱すると思います。

T:「誰に対する勇気の事を歌っているでしょう」

C:「友だち・家族・見知らぬ人」

T:「そうですね、そうじゃないかと先生も思います。」

T:「つまり、自分のために、自分のことで出す勇気ではなくて・・・・」

C:「人のため。」

T:「そうですね。人のためです。人を大事にしようということを歌っているのではないかな。」

この曲が言いたいのは、

T:「勇気を出して人のために何かができるといい、そのためには我慢ができる強い自分が必要だ」

というような事ではないかと思います。利己ではなく、利他。そして、

T:「「大きな勇気」もアリです。この歌は、「小さくてもいいから勇気を持とう、勇気を出そう」と言っているのだと思います。」

愛って何?

究極の言葉「愛」も出てきます。ついでに、愛についても、教えておくといいでしょう(ついでに教えることでもないですが)。「愛」という言葉もまた、抽象的で広い意味とそれぞれのイメージの差があると思います。愛は、辞書で引くと、「大切に思う気持ち」と書いてあります。確かに、自分が弱くては誰かを大切にすることなどできません。愛は、自己愛を除けば、基本的には利他的なものです。「いつか誰かを愛せるように」そのためには、「強くなってみせる」必要があるでしょう。自分のことで精一杯で自立もできなければ、思ったように人を愛する、つまり大切にする事は難しい・・・ですよね。

具体的なイメージに持っていく

T:「このクラスや自分の身近な人が勇気・・・小さな勇気でも大きな勇気でもいいので、・・・を出して人のために何かしてくれた人、人を大事にしてくれた人の事、思いだせる人、話してくれませんか?」

C:「○△◇◎●@##・・・」

T:「すごいね。」「そうだね。小さな勇気が支えてくれているんだね」

とてもよい事例が出てきた場合には、

T:「うーん、それは、小さな勇気と言うより、大きな勇気だったかもしれないね。」

と、大げさに褒めておきましょう。たくさんいい話を共有できるといいですね。「小さな勇気」が子ども達から発表されたら、大げさに褒めてあげるといいですね。自分たちも「小さな勇気」を持っていて、それを実現している場面を強調し、「その気にさせる」ことができればいいと思います。

小さな勇気がたくさん発揮されていて、それを認め合えるクラスであれば、ここのプロセスはうまくいくと思います。やや荒れ気味なクラスである場合は、「君たちに対して、先生は叱っていることが多いかもしれないけれど、本当は、けっこう小さな勇気を持って行動してくれているところも見つけているんだよ。ちゃーんと、いいところは見つけています。どう?友だちが小さな勇気を出して支え合っているところ、我慢しているところなんかがあったら話してみてくれない?」と、いいとこ見つけを促してみましょう。

具体例を挙げて共有する

時間があれば、

T:「誰かが勇気を出して人を大切にしている例を見つけてみて下さい」

と、「小さな勇気見つけ」のシートを作らせるのもいいかもしれません。「小さな勇気」を見つけて下記のようなB6の用紙に絵入りで描かせます。新聞記事などから見つけた子どもは、記事を貼りつけさせるのもいいと思います。具体的なイメージを供出し、掲示物として共有していくことで、歌う時のイメージが膨らんでくる事と思います。学校で・街で・家で・ニュースや新聞で見つけたこと等を、レポートして貯めていきましょう。

↓ これは、上の図のワードファイルです。
添付ファイル

◆電車でお年寄りの人に席をゆずったことです。

◆深いプールでおぼれそうになった時、お父さんが助けてくれた

◆ぼくがいやなことをされた時、○○君が「気にするな」と言ってくれた。

◆3歳の時にいじめられていた時に、あまり仲が良くない友達でもまもってくれた。

などなど、子ども達から「小さな勇気」事例が出てきました。

歌う直前に

音楽会や合唱コンクールの直前には、こんな話をしてあげるといいのではないでしょうか?

T:「さあ、お客さんの心にこの曲を届けることができるといいですね。聞いてくれた人の心の中に、人を大事にする気持ちを少しでも広げることができるといいですね。そのために、みなさんが、小さな勇気を持って「小さな勇気を」を歌ってくれるといいなと、先生は思っています。勇気を出して、いきましょう!」

たとえ、誘導的でも

かなり誘導的なやりとりになりますが、歌に関する理解はそこそこ広がると思います。少なくともほとんどなんの解釈も加えずに子ども達に歌わせてしまうよりは、ましではないかと思います。曲の最終決定権を子どもに託しているわけでもないし、そもそも合唱という形で、全員が気に行って納得した曲を選曲ができるというのは、おそらく稀なケースです。この曲に限らず、教師が選曲権を発動した以上、ある程度は歌詞を解釈し、曲の世界を実感させながら歌えるように持っていくことは必要だと思います。

そして、担任も一人で、子供と二人で、子供たちと一緒に歌いましょう。歌う時の担任の心持ちも大切だと思います。歌声にも、表情にも、愛をこめて。

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