読解力と人間関係~イメージ化導入までの経緯~(岡篤先生)

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作成者:横山 尚人 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~読書と読解~ 755号~762号」から引用・加筆させていただいたものです。

岡先生が「イメージ化」を読解指導の中心に据えることにしたきっかけとなる出来事の紹介と共に、問題行動と読解力のつながりについて実感された事例をご紹介します。

イメージ化について詳細は

をご覧ください。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

■「海の命」

「海の命」という文学教材があります。太一という主人公と瀬の主であるクエとの関係を描いたものです。当然、クエはこの教材にとって重要な要素です。最初に写真を見せて説明しました。そして、音読練習もクラス全体でもやり、宿題でも1週間ほど続けて出していました。

イメージ化のきっかけを与えてくれたのは、ある女の子でした。

■「クエって…?」

太一とクエの関係についての話になったときに、ある女の子が
「なんや、クエって魚か!
と大きな声で言いました。
「何だと思ってたんだ?」
「漁師の道具かなんか、かなって」
自分でもおかしくなったようで、笑いながら言いました。
周りの子も
「最初に写真、見せてもらったぞ」
「教科書にも書いてあるやろ」
と大笑いしながら、つっこんでいました。

本当に驚きました。単に、忘れていたとか、聞いていなかったというなら分かります。私の説明を聞いておらず、教科書の解説を見ることもないまま、ということ自体は充分考えられます。しかし、今回は、音読の宿題を1週間先行し出していました。音読をしていれば、ある程度の解釈は自然にできると思っていました。まして、クエが魚か道具かは、挿絵もたくさんあることですし、ストーリー上からもはっきりしています。言葉・文章からのイメージを広げず、ただ文字をたどって読んでいたのだろうと考えました。

私は、このときに2つのことを学びました。

 ①音読だけではだめ

これまで、音読さえ徹底すればある程度読解につながる、あるいは、読解を行うための素地はできると考えていました。しかし、今回のような女の子の場合、毎日1対1で音読を聞いてもらっていたにも関わらず、大きな勘違いをしたままだったのです。音読と読解の間には、大きな段階がある子もいるということです。

 ②トラブルの多い子どもの普段の言動・人間関係と読解力の関係

この女の子は、暴言暴力の絶えない子でした。育ちがとても複雑で、最初に聞いたときは、ドラマの世界のようだと感じたのを覚えています。それほど、過酷な幼少期を過ごしていました。虐待による深い傷を受けていたのです。気持ちの安定が少なく、やけにハイになってはしゃいでいたかと思うと、次の日は、朝から一日中机に伏せたままということもあります。授業中も指示すると「はあ?意味分からんし」と返ってきます。もちろん、友達のトラブルも日常茶飯事です。

この子の様子を見ていると、「問題行動」「虐待の後遺症」という言葉が浮かびます。しかし、「クエって、道具かと思った」という発言で、この子の言動を読解力という視点から見ることを思いつきました。

もしかしたら、友達との間でも今回のクエの場合ような勘違いがあり、それに気づかぬままの言動が誤解を生んでいる場合があったのかもしれません。授業中の「意味わからんし」も教師を挑発するためだけではなく、読解力不足のために、本当に「意味がわからない」と思って言っているときがあったのかもしれません。そう考えると思い当たることがありました。

■表情や態度から気持ちを想像するということ

その子がクラスの子とトラブルを起こしました。相手の子は、とても悲しそうな表情をしています。その女の子は、もうふてくされています。
「なんも、してないし。遊んでただけや」
「ほら、この子の顔見てごらん。自分では面白がってやったことが相手の人をこんな風にしたんだぞ」
「…」
少しは考えている様子です。
「言葉で言ったことだけじゃなくて、相手の態度や表情からも気持ちを想像しないと」と言うと、ほとんどの子はうなずきます。その後、それができるかどうかは別です。
「遊んでただけ」
「何も言わないから、喜んでると思った」
という言い訳は通用しなくなります。しかし、その女の子から返ってきた
言葉は違いました。
そんなこと言われても分からん

この子の反抗的な態度はいつものことです。しかし、このときは、比較的素直に話を聞いていると思ったのです。だから、しぶしぶでも「わかった」と返ってくると思っていました。ところが、「そんなこと言われても分からん」と返ってきたのです。

 挑発ではなく、本当に「分からん」

ふてくされているのではなさそうです。つづけて言いました。「言ってくれないと、分からん」どうも、本当に「分からない」と思っているようです。相手の表情や態度から気持ちを想像するということが苦手なようです。それを素直に(?)認めるところがその子らしいところかもしれません。しかし、それではトラブルが多いのも当然です。

 気持ちを想像する

休み時間と授業中、あるいは運動場と教室といった具合に、友達の表情や態度から気持ちを想像するということと、登場人物の気持ちを想像するということは全く別の場面で行われることです。それまで同じこととして考えたことがありませんでした。

ただ、聞いたことはありました。校内研修の講師が友達の気持ちを想像することが苦手な子への指導の手立てとして、文学作品を読ませるということを言ったことがあったのです。そのときは、そういわれても、先の長い話だなという程度の印象しかありませんでした。「では文学作品を読ませることから友達の気持ちを考えられる子に育てよう」という気にはとてもなりませんでした。自分の文学の授業にそれほど力がないことも分かっていました。しかし、今回は目の前の子どもの実態があります。

■目の前の子どもの事実から始める

トラブルを頻繁に起こす子がいて、その子は友達の気持ちを考えることが苦手です。そして、その子は、文章からイメージを広げることもとても苦手なようです。さらに、私自身は物語教材の指導法について迷い続けています。となれば、当然、私の意識は物語教材の読解指導をイメージ化中心にとらえることに向きます。

読解指導でイメージ化を行う

新しいことでも珍しいことでもありません。ただ、迷い続けていた人間としては、女の子の事例により、イメージ化を中心に据えることの根拠ができたという点が重要でした。既存の指導法から1つを選ぶのは私にとっては難しいことでした。しかし、目の前の子どもの課題からイメージ化を中心にするのであれば、迷うことはありません。

方法が先にあるのではなく、子どもの事実から始める。こんな当たり前のことを再認識するのにずいぶんと時間がかかったものです。

【ご案内】イメージ化の詳細はこちらの記事から→

読解指導はイメージ化を中心に(岡篤先生) 前半」  「読解指導はイメージ化を中心に(岡篤先生) 後半

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

岡先生がイメージ化を中心とした読解指導に至るまでの経緯・背景についてご紹介しました。
授業実践の裏にどういった経緯や背景があったのかをお伝えことで、実践事例の紹介にも深みが増すと考えています。

今回は目の前の子どもの事実からはじめた実践でした。
「意味わからんし」の言葉の裏に、実は読解力が関わっているのかもしれない…新鮮な視点でした。

イメージ化について詳細は

をご覧ください。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 横山尚人)

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