楽しい授業って? 考える楽しさを目指して

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「勉強を楽しいと感じてもらいたい」「楽しい授業をしたい」

こう思って先生を目指す方もいるのではないでしょうか。私が先生を志望した理由の1つにもそんな思いがありました。もちろん、お笑いのような楽しさだけではなく、「ずっと分からないことが、あれこれ考えるうちにやっと分かった」「勉強したことが自分の生活と関係していることに気付いた」といった勉強することで自分が変わる(広がる)楽しさや嬉しさを大事に考えています。
 いつも上手くいくわけではありませんが、授業で子どもたちのそのような姿をみることが、私の大きな喜びの1つです。
 今回は、楽しい授業を目指す私にとって、「楽しい授業とは何か」について、改めて考えさせられたAさんとのやり取りを紹介します。

算数で概数のプリントをしている時のことです。
プリントは以下のような問題です。
——(問題例)——
1 四捨五入して、千の位までのがい数で表しましょう。
①5147→
②22673→

2 四捨五入して、1万の位までのがい数で表しましょう。
①75491→
②154839→

—————————
問題数は、大問2つで、大問1つにつき6問なので、合計12問ありました。
プリントの問題を解くには、位の考え方や四捨五入が分かっていないといけません。
手順としては、下の5つです。

私は、「千の位の数に・」「間に縦線」・・・というように、言葉で確認しながら、体で覚えられるように進めていました。
 Aさんは、初めはがんばっていたのですが、ややこしい手順のため途中で集中が途切れ、「ややこしい作業は苦手なんだ!だから算数は嫌なんだ。」と言ってイライラし出し、手が止まってしまいました。
 私は、あまり催促せず、Aさんのペースに合わせて声かけをしましたが、まったく進まなくなったので、気を和らげようと少し冗談を言うと、こう言われました。

「冗談を言って楽しませようとしないで下さい。勉強は真面目にやるものだから、楽しむものじゃないので」

ビックリ。Aさんにとって私の冗談は「ふざけていること」であり、勉強中には不要なものでした。私は良かれと思って言ったことが、子どもにとっては迷惑になることに気付かされました。
 私は「ごめんなさい」と謝り、それから冗談は言わず、黙々と上の手順に沿ってゆっくりAさんと問題をこなしていきました。「うー、ややこしい。面倒くさいなぁ。」と言いながらも、徐々にポイントを掴み、自力で問題が解けるようになってきました。すると、さっきは算数が嫌いだと言っていたAさんの思いが一転。

「なんだかやり方が分かってきた。概数が楽しくなってきたぞ。概数、好きになってきたかも。」

と嬉しそうに言いました。私は、「算数が分かる楽しさを感じられて良かった」と思いました。授業中の嬉しい瞬間の1つです。
しかし、嬉しさもつかの間、Aさんの口から衝撃の言葉が出てきました。

「おっと、楽しいと思ってしまった。ダメだ。勉強は真面目にしなくちゃ。」

私は、Aさんの意思の強さに驚き、一瞬、思考が停止しました。・・・数秒後、落ち着きを取り戻し、

「あ、そうか。でも、今の楽しいは、冗談でふざけてるんじゃなくて、勉強を真面目にやった楽しいだから、先生は良いと思うよ。」

と伝えました。Aさんは納得していませんでしたが、それ以上は何も言いませんでした。
そして、残りの問題が少なくなってきた時に、

「よし、もう少しで全問クリアだ。概数チャンピオンだ。」
と励ますと、Aさんに

「チャンピオンになんかなりたくない。普通に概数ができる人になりたいんだ。」

と言われました。「また変なことを言ってしまった、、」と思いながらも、初めに投げやりになっていたAさんからの前向きな言葉がとても嬉しかったです。

この時間に「勉強は楽しんでも良いんだよ」というメッセージが伝わったかどうかは分かりませんが、Aさんが「自分で問題が解けるって楽しい」と感じたことは紛れもない事実です。
 すぐには納得できなくても、「分からなくても誰かと一緒に乗り越えれば良い」「分かるって楽しいんだ」といった経験を子どもたちと一緒に積み重ねていきたいと思いました。

この出来事があるまで、「楽しい授業」は先生が提供するものだと思っていましたが、それは「楽しさの押し付け」なのではないかと考えさせられました。
 勉強の楽しさは人それぞれで、クラスの誰がどんな楽しさを感じるのかを丁寧にみとり、その楽しさを広げるサポートをするのが先生の役目なのかなと、子どもから学びをもらった1日でした。

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