はじめに
本記事は、キッザニアが「生きる力」を育む上でされている取り組みと、学校行事としてのキッザニアの意義について、担当者の方にお話を伺ったインタビュー記事の前編です。
キッザニアは、今年で日本上陸20周年を迎え、長年にわたってキャリア教育とこども達の「生きる力」について探求されています。
前編では、こども達の「生きる力」を中心に、キッザニアが「生きる力」を育むために行う工夫や、東京・兵庫・福岡という3施設を超えた取り組み、そして20周年を迎えて変化した点についてのお話をご紹介します。
(取材は2026年6月30日に、キッザニア東京にて行いました)
キッザニアとは
キッザニアは、3歳から15歳のこども達を対象に、好きな仕事にチャレンジし、楽しみながら社会の仕組みを学ぶことができる職業・社会体験施設です。日本では、東京都(キッザニア東京)、兵庫県(キッザニア甲子園)、福岡県(キッザニア福岡)の3地域に展開しています。キッザニアでは、実社会の約2/3サイズの街で、こども達自身が好きな仕事を選び、企業や団体がスポンサーとなったパビリオンで本格的な体験をすることができます。また、働いた給料として施設専用通貨「キッゾ」が支給され、買い物や預金など経済活動を体験できる点も大きな特徴です。パビリオンでは、スーパーバイザーと呼ばれるスタッフが、「職場のちょっと先輩」という立場から、仕事の手順にとどまらず、その仕事の意義や本質を伝えています。
キッザニアを通して育む「生きる力」
Q. キッザニアがこれまでこども達の「キャリア教育」に注力してきた背景と、そこに込めた思いをお聞かせください。
「こども達が体験を通じて、それぞれの『好き』『個性』『得意』に出会い、自信を持ってこれからの未来を歩んでほしい」ーこれが、私たちがキャリア教育に注力する背景であり、キッザニアに込めた思いです。
社会の変化が激しく、未来の予測が困難な時代の中で、こども達がただ知識として仕事を学ぶのではなく、社会の仕組みを五感で体感することが極めて重要だと私たちは考えています。そのため、キッザニアでの「リアル」な体験の積み重ねによって、こども達が不確実な未来を生き抜く上で重要な「生きる力」を育むことを大切にしております。
Q. 「生きる力」というお話がありましたが、キッザニアでの体験を通して、こども達には具体的にどのような力が身につくのでしょうか。
私たちは、こども達一人ひとりが持つ可能性や個性を何よりも大切にしたいと考えています。そのため、特定の能力だけに焦点を絞らず、こども達が自由に新たな可能性に出会えるような、柔軟な場所でありたいと考えております。
その上で、キッザニアでは、こども達に身につけて欲しい力として「10 Values」を掲げています。これは、キッザニアがこども達に持ってもらいたいと考える「生きる力」の構成要素です。キッザニアでは多様なアクティビティを通して、主体的に思考・行動する体験を積み重ねることで、「主体性」、「やり抜く力」、「創造力」、「好奇心」、「責任感」、「自己効力感」、「自己肯定感」、「コミュニケーション力」、「協働力」、「論理的思考力」という10 Valuesを育むことを目指しています。
これらの力を育む上で、キッザニアでは「対話」を引き出せる環境づくりに注力しています。例えば、アクティビティの中で、「どのような意図で仕事に取り組み、どんなお客様を想像したか」を一人ひとりに問いかけ、自分の言葉で表現する機会を大切にしております。その際に、現場のスタッフ(スーパーバイザー)は、小さなお子さまに対しても一人の大人として向き合い、丁寧語でポジティブな声掛けを必ず行っています。この工夫によって、キッザニアでの体験をただ楽しい思い出で終わらせず、10Valuesを中心とした「生きる力」を向上させ、学びに還元する場となっています。
Q. こども達の「生きる力」を育てる上で、現在は AIや VRといったデジタル技術も進歩していますが、なぜキッザニアは「リアルな現実での体験」を重視しているのでしょうか。
実社会と同じ街の中で本気で仕事に取り組み、リアルな体験をしてこそ、こども達は主体的に動き、多様な学び・気づきが得られると感じているからです。
例えば、お客さまをお見送りする際に、こども達がキッザニアの中でコツコツ貯めたお金(キッゾ)や、キッゾで買ったものを見せてくれることがあります。ここから、自分の身体を動かす実体験から得たものだからこそ、お金の大事さにも気づいているこども達が多いと思っております。私たちは、このように実体験を通じて生まれる、いろいろな気づきを何よりも大事にしております。
このリアルな体験が成り立つための大切な要素として、「ユニフォームマジック」があります。キッザニアでは、本物の企業のロゴが入ったユニフォームを着て仕事を体験するので、自分が会社の一員であるという自覚を持って仕事に挑むことができます。ユニフォームに袖を通すことでこども達の意識が変わり、表情がキラキラしたものになりますし、「自分でもできる」というチームワークに関する自己効力感が高まってくると考えられます。
これまで、この様子を現場の肌感として捉えていましたが、キッザニアの研究部門がミシガン大学の経営学の先生と共同研究を行い、日本・メキシコ・韓国の3カ国でグローバル調査を実施しました。その結果、実際に「ユニフォームを見ると気持ちが切り替わり、自分は他のメンバーと協力してタスクをやり遂げられるというチームワークに関する自己効力感が高まることが統計的に明らかになりました。こうした確かな数値を根拠として示し、「キッザニア白書」にまとめています。
このように、「リアル」な体験の中で、ユニフォームを着用することで、こども達は会社の一員として自覚をもち、自己効力感を高めることができます。
だからこそ、実社会と同じ街の中で、本気で仕事に取り組んで社会の仕組みを五感で体感し、リアルな体験を積み重ねることで「生きる力」に繋がると考えております。
施設の外での取り組み
Q. キッザニアは、日本では東京・甲子園・福岡の3施設に展開されていますが、それ以外の地域にお住まいのこども達や地方の学校・先生方に向けて、どのような取り組みをされていますか。
- キッザニア白書・学校団体向けサイトお役立ちコラム
キッザニア白書とは、キッザニアに来場したこども達の体験効果を、大学や研究機関と学術的に検証した報告書です。2014年から2、3年ごとに調査を継続しており、その調査結果を、学会や研究会に加えて、「キッザニア白書」を通じて社会に発信しています。
お役立ちコラムでは、こども達の「生きる力」を育むキッザニアの取り組みに加えて、キャリア教育に役立つ最新情報をお届けしています。専門家の先生方と共に、ICT教育や探究学習、アントレプレナーシップ教育など、多様なテーマについてご紹介しています。
全体としては、「こども達に体験を通じた気づきを得てもらいたい、そしてキッザニアも共に成長したい」という思いが根底にあります。その中で、中学校や小学校の先生方に向けてはもちろんのこと、パートナー企業の皆さまに向けても、私たちがこのようにしてこどもを見守っているということを伝えたいですし、一般の来場の保護者の方々へ向けた思いもあります。
こうした思いのなかで、キッザニア白書・お役立ちコラムを通して、肌で感じたことを、専門家の方と調査を実施し、効果検証として表すことで、今後ご来場いただく先生方に自信を持ってお勧めできる点でキッザニアにとって大きな意義があります。25年度は「ユニフォームが与える自己効力感への影響」を調査しましたが、23年度 は「小・中学生時代のキャリアに関わる体験は大人になっても影響するのか」という研究をしました。キッザニアに来ることの意味を調査研究として後押しし、先生方に選択肢の一つとして広げていただけたらと思っております。そのための調査研究の部署があり、そこで進めているという経緯があります。
また、私たちは「リアルな体験」を一番大切にしており、日本上陸20周年を迎える歴史の中で、現場でこども達の成長や自信を引き出すノウハウを蓄積してきました。その時代時代に合ったこども達を実際に見つめ続けてきたからこそお届けできる、単なる知識ではない「生の声」や「リアルなところ」を発信できる点が一般的なメディア様との大きな違いであり、私たちが発信する意義だと感じています。
加えて、現場の先生方にキッザニア白書やコラムを通して、最先端のトレンドや現場のリアルなこどもの姿を知って、活用してほしいというのが私たちの思いです。これらは我々独自の調査ではなく、必ず大学の先生や有識者の方にお願いをして最先端のトレンドを得た上でキッザニアのリアルなスパイスを加えているという特徴があります。そのため、「自己効力感」といったさまざまなトレンドワードや専門知識を知ってもらうとともに、「では実際、現場のこども達はどうなんだ」というリアルな姿もきちんと伝えていきたいと考えております。
このように、教育に関わるすべての方に、キッザニアとしてこどもの成長を見守っているという熱い気持ちを届けて発信していきたいという思いが、白書やコラムといったメディアの根源にあります。
- Out of KidZania
「Out of KidZania」とは、キッザニアの監修のもと、キッザニアの外に飛び出してその地域の仕事体験ができたり、企業とタッグを組んで仕事体験ができたりする取り組みです。
その地域ならではのお仕事を実際にこども達に体験してもらえるので、「こども達に地元の仕事について知ってもらいたい、良さを伝えたい」という自治体や地域企業の方々の思いと、キッザニアの思いがマッチして実現しています。また、企業さんからご依頼をいただいて、普段あまり聞き慣れないようなお仕事体験をすることもあります。また、1日〜複数日に渡って実際の職場でインターンシップを行う場合や、各種業界と連携したイベントを実施する場合など、普段なかなか体験できない仕事も含め、こども達の興味関心を広げるきっかけになればと思っています。最近、仕事体験もできるイベントも増えているなか、私たちだからこそ提供できる価値を改めて意識することも多く、キッザニアの企画・運営で培ったノウハウを一つ一つの仕事体験に落とし込み、こども達にとって学びや気づきにつながるように監修をしています。
- キッザニア オンラインカレッジ
「キッザニア オンラインカレッジ」とは、インターネットブラウザからキッザニアのエデュテイメントを体験できるツールです。
多様な仕事についての動画を見ることができたり、ワークショップに参加することができたり、どこにいても同じように体験できる機会を提供しています。これもキッザニアの施設内と同様、パートナー企業の皆さまと一緒に取り組んでおり、企業の思いなどを伝えられるコンテンツを作っています。
私たちの根底には、こども達の「生きる力」を育む機会を提供し続けたいという強い思いがあります。そのため、施設内での体験はもちろんのこと、住む場所に関わらず、すべてのこども達に同様の学びの機会を届けていきたいと考えており、私たちは常設施設(東京・甲子園・福岡)の枠を超えた全国での取り組みを推進しています。
日本上陸20周年を迎えて
Q. キッザニアが今年で日本上陸20周年を迎えられたとのことですが、20年を経て変化した点や、時代の変化に応じた工夫があれば教えてください。
キッザニアには開業当初から出展されているパビリオンもありますし、時代とともに新しくオープンしたり、リニューアルしたりと変化したパビリオンもあります。例を挙げるならば、5Gの基地局に関する仕事やゲームのプログラミング、パソコンを組み立てる体験など、デジタル化に伴った変化もそのうちの一つです。例えば、キッザニア福岡では出光興産株式会社様が現在力を入れている「有機ELの液晶画面を作る(研究開発)」のパビリオンをご提供しています。それ以外にも、これからの時代に求めら れる力に合わせて多様な職種をご用意しています。例えば、ロボットのシステムを組み立てるDX エンジニア、地球温暖化に関する新しい技術のプレゼンテーションや、証券会社での株の株式投資といった仕事があります。また、昔からあるヤマト運輸株式会社様出展の宅配センターでも昔はガソリン車だったものが今 はEV車になっていたりと、変わらずご提供している仕事にも、さまざまな部分で実社会の動きと合わせた変化がありますので、そういったところも楽しんでいただけたらと思います。
20年という長い年月の中で、キッザニアの街は時代の変化に合わせて、常に『社会のリアル』をお届けできるようアップデートを重ねてきました。しかし、『こども達の生きる力を育む』という私たちの根底の想いは、20年間ずっと変わっていません。 今では、『あの日の体験がきっかけで、この道を選びました』といった、キッザニア卒業生からの温かい声も数多く届くようになりました。 社会の『今』を映し出し、変化し続けるキッザニアという街を、こども達が未来を生き抜くための『巨大な実践の場』として、先生方にもぜひご活用いただけたら嬉しいです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 南さくら)

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