合唱曲「この星に生まれて」の歌詞解釈

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1 この星に生まれて

多くの小学校や中学校の合唱曲として親しまれている、「この星に生まれて」を例にとって考えてみます。2部・3部と、いろいろと合唱用にアレンジされています。この曲は杉本竜一さんが作詞・作曲した楽曲で、NHK番組『生きもの地球紀行』の2代目エンディング主題歌として使われていました。同じ番組のエンディング曲「Tomorrow」「BELIEVE」も、杉本さんの合唱曲として頻繁に音楽会や合唱コンクールで歌われています。以下は私の超個人的な見解です。

抽象的な言葉

歌詞の中には「夢」「愛」「宇宙」「虹」などが出てきて、壮大なイメージがあるため、歌詞の内容が理解できていないと上滑りになってしまいます。合唱は「合わせる」ことが大事です。子供たちの間、あるいは教師の間にある程度のイメージの共有は必要でしょう。歌っている者の気持ちがバラバラでは、バラバラな歌になって「きれいごと」の唱和になってしまいます。

宇宙に風は吹いていない

歌詞の中ほどに「広い宇宙の 風に乗りながら」という言葉が出てきます。これが、何を示しているかがポイントの一つです。

よく考えてみれば、宇宙は真空なので風が吹いていません。太陽風が吹いているとか、地球も宇宙の一部なので、「地球に吹く風のことだ。気象の変化は太陽の影響がもとになって起こっているし、偏西風は宇宙の影響を受けていると言えるのではないか。」などという意見も、分からないではないですが、杉本さんの真意はそういった「物理的な風」を想定して詩を書いたのではないと私は考えます。「物理的な風」が吹いていないことを承知で敢えてこの言葉を使ってみたのではないでしょうか。

「宇宙の風」は「宇宙の法則」「宇宙の流れ」「宇宙の意思」と読みかえてみると、歌詞全体の意味が通ってくるのではないかと考えています。どうでしょうか?
「宇宙」にはこの星地球も、自然も、生き物も含まれています。そういう意味では、「自然の法則」と読み変えてもいいでしょう。

宇宙の法則には、

○厳しい自然(冬・地震・津波)と美しい自然(虹・白百合)○けんかとなかよし○食う者と食われる者○憎しみと愛○戦争と平和○弱肉強食と共存共栄

等、相反する事象が、同時に含まれているのだと思います。
自然は過酷な面も多々あるし、生き物(人間)は無慈悲な面を持っており、弱い者がつらい思いをすることは多い。この星で生きていくことはそう簡単ではありません。

歌詞の中に「虹」が出てきます。「虹」は「はるかな空」に輝いていて、夢にはそう簡単に届かない(いや、むしろ虹は近づくと逃げていく、届かないものの象徴であるかも)のが現実です。しかし、「宇宙の法則」には「愛=互いに他を大切に思う気持ち」も含まれており、それを捨てることがなければ夢と希望のある世界は実現できる。
作者が詩の中に綴りたかったのは、そんな考えではなかったのかと私は考えます。小学生の子どもに教えるときには、「「宇宙の風に乗る」ということは「大きな自然」の中で生きているという事だと思います。」というくらいの説明の仕方が妥当ではないかと思います。
ちなみに、スピッツの「ロビンソン」にも、「宇宙の風」が出てきます。

ルーララ 宇宙の風に乗る

生きもの地球紀行

番組自体が地球(この星)の大自然の厳しさ中で懸命に生きている生き物を追ったドキュメンタリーでした。このことからも、杉本さんの考えを推し量ることができるのではないかと思います。それぞれの種の生き物、その中のひとつひとつの命が、精いっぱい生きることが未来へつながっていく、そんな思いがあったのでは・・・。

夢の意味

歌詞全体を考えて、
Dreams come true together
のリフレインは何を指しているのでしょう。Dreamsは、個人が別々に持つ私的な夢を意味しているのではないのでしょう。ステーキを食べたいとか、サッカー選手になりたいとか、お母さんに大きな家を買ってあげたいとか、それぞれの夢をイメージして歌うのは、少し違うような気がします。Dreamsと複数形であり、「いくつか」の夢ではあるかしれませんが、みんなでかなえたいと思う事の出来る、「みんなの夢」であると私は考えています。

曲の題名「この星に生まれて」

この星に生まれた一つ一つの命に、存在理由、存在価値があり、個々が「生きる」ことを全うすることが、社会全体の幸福につながっていくという意味なのでしょう。

愛って何?

「愛だきしめて」という言葉と「愛を捨てないで」という言葉が出てきます。「愛」という言葉もまた、抽象的で広い意味とそれぞれのイメージの差があると思います。愛は、辞書で引くと、「大切に思う気持ち」と書いてあります。厳しさの中でもお互いを大切に思う気持ちがあれば、みんなが幸せに生きていける世界になるんだよと、作者は言いたいのだと思います。

色々な考えがあるにしても

作者が曲の解釈について語っていない限り、解釈が合っているのか間違っているのかは確かめようはありません。私は「この星に生まれて」を上記のように考えましたが、深読みし過ぎなのかもしれません。「宇宙の風」や「夢」「愛」という言葉をどう受け取るかによって、ずいぶん違った解釈が生まれる歌詞だと思います。この曲に限らず、歌詞に対しては多様な解釈、イメージが可能なのだと思います。また、私のように解釈したとして、スタッフ(学年の教師や音楽の教師、伴奏者)子どもにその解釈をどう伝えるかという事も、けっこう難しい課題です。意見やイメージが分かれる場合もあると思います。

ただ、最終的に合唱は指揮者(子どもが指揮者の場合は指導者)の考えを第一に優先すべきだと思いますので、指揮者は十分に歌詞解釈をして、それをみんなが共有できるイメージを作っていく必要があるでしょう。全員が全く同じイメージ、解釈を持つことは不可能であるとしても、ある程度のイメージを共有することは必要ではないかと思います。

「この星に生まれて」をどう子どもに伝えるか

さて、以上のような解釈をしたとして、それではこの歌の意味を小学生に対してどう伝えるといいのでしょうか。「この星に生まれて」は、小学生にとって歌詞解釈が難しいのではないかと思います。

サビである「夢」が「みんなの夢」であるとすると、「みんなで夢見る世界って、どんな世界かな?」と問いかけるといいのではないかと思います。小学生であれば、「世界」を地球規模・日本規模の世界ととらえるのもよいし、クラスや学年、学校といった規模をイメージさせてもいいと思います。

「世界というと、大きすぎるので、ひとりひとりの夢であっても、みんなの幸せにつながるような夢をイメージするならOKかな」といった、助言もあっていいと思います。
そこで、子どもたちには以下のように伝えてみました。
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作者の杉本さんがこの歌で言いたかったのはどんなことなんだろう。先月、先生はずっとこの歌の事を考えていました。

宇宙には風が吹いていないのです。宇宙には空気がないからです。作者のいう「宇宙の風」とは「宇宙の法則(きまりごと)」ではないでしょうか。つまり、「宇宙の風に乗る」ということは、「宇宙の力に動かされる自然」の中で生きていくことではないかと思います。「地球(この星)」や「河」や「海」という大きな自然も、宇宙の力で動いています。動物や植物、そして人間も、小さいけれど自然(宇宙)の一部です。自然(宇宙)の中で生きていくには、厳しい(きびしい)こともあります。人間社会で生きていくことも、たいへんです。

『この星の自然は厳しいけれど、「愛(大切に思う気持ち)」を持って生きていきましょう。一人一人の、だれかを少しでも幸せにする「夢」、だれかのためになる「夢」がつながり合うことで、幸せな世界が作られるよ。たとえそれが、小さな夢であっても、「夢」を持って生きていきましょう。この星に生まれた一人一人に、夢を持って生きていく意味があるんだよ。』

何度もこの曲を聞いていると、先生には作者がそんなことを言っているように思えてきました。
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これに合わせて、写真や映像も交えてイメージを膨らませるという方法もとってみました。プロジェクターで、宇宙の画像~苛酷な自然~苛酷な人間社会=戦争や涙~雄大な自然(河・雲)~美しい自然(虹)~平和な世界のイメージを順番に見せながら、イメージの共有を図ってみました。

小学4年生への説明でしたので、なかなかうまく話せませんでした。ちょっとは伝わったかな・・・・・

なかなか難しいとは思いますが、ある程度の解釈を共有できた上で声の波形を上手に重ねることができたとき、合唱は素晴らしい響きを生み出すことができるのではないかと思います。

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