徹底反復で漢字前倒し学習と都道府県名称暗記

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【学力の三層構造】

ご自分の学校の研究主題は何ですか。研究主任以上でなければなかなか答えられないかもしれません。以下の図は広島県尾道市の小学校の研究主題を抽出したものです。このようにどこの学校の研究主題においても思考力、表現力、論理的に説明する力、コミュニケーション能力などが言われているはずです。では、このように研究主題の中で示されている「力」とは、児童の学力のどこの部分に当てはまるのでしょうか。 

 
以下の図は陰山先生が提唱されている学力の三層構造です。学力とはまず底辺に「基本的な生活習慣」があり、その上に「基礎・基本読み書き計算」があり、その二層の上に「多様な学習」があるという考え方です。研究主題はこの「多様な学習」に当てはまります。したがって、いきなり研究主題に取り組むのではなく、根底に「基本的な生活習慣」と「基礎・基本読み書き計算」があることを意識しなければなりません。

 
「基本的な生活習慣」の習得は家庭の担う役割が大きく、その一方で「多様な学習」は学校の担う役割が大きいです。「基礎・基本読み書き計算」の習得は家庭と学校の両方がその役割を担います。このように学校と家庭で協力し合って子どもを伸ばします。

【47都道府県暗記学習】

 
小学校課程修了までには、児童に47都道府県の名称と位置を習得させなければなりません。小学校4年生の地理の学習指導要領には以下のように記載されています。

 
「実際の指導に当たっては,県の地図や地図帳を十分に活用することが大切である。例えば,地図から自分たちの市や県を見つける活動,市や県の位置を言い表す活動,47都道府県の名称と位置を地図帳で確かめ,その名称を白地図に書き表す活動などが考えられる。」

 
しかし、これだけでは到底習得できません。そこで、ICTを活用したフラッシュカードで学習します。以下の写真のように白地図を赤く塗り潰し、岡山県、広島県というように覚えてきます。これを毎朝の帯タイムで行います。社会の授業の導入にあたる5分間には行いません。なぜなら残りの時間が40分になってしまい授業が非効率的になってしまうからです。2ヶ月もあれば、児童は47都道府県の名称と位置を覚えます。月に一回プリントに書かせて、習得度をチェックします。

この教材は山根僚介著,『だれでも使える簡単パソコン素材集—徹底反復陰山メソッド~徹底反復で子どもの学力がぐんぐんのびる』 ,小学館(教育技術MOOK 徹底反復陰山メソッド) ,2007にも収録しています。

【漢字前倒し学習】

漢字前倒し学習は、1年間で学習する漢字を年度初めにすべて教えてしまう学習方法です。漢字学習を単元から独立して進め、新出漢字を短期間で覚えることで、漢字を覚える能力そのものを高めます。従来の覚え方だと、3学期に習う漢字を練習することができません。漢字前倒し学習をすることで、1年間に何度も繰り返し練習できる時間が生まれます。4月にすべての新出漢字を教えようとすると、国語の時間は漢字学習のみになります。最初のうちは5文字程度から始め、次第に数を増やしていきます。学習するうちに児童も次第に慣れてくるので、終盤は20文字でも学習できるようになります。こうしてゴールデンウィーク前には教えきります。漢字前倒し学習は、あくまでも教えることが目的です。覚えることに主眼をおいてはいけません。
 
初めて漢字前倒し学習に取り組む中学年は、漢字を短期間で大量に学習することに耐えられないかもしれません。したがって、初めて取り組む場合には、配当の漢字を半分に分けて、前半を4月に、後半を9月に学習すると良いでしょう。

 
漢字前倒し学習の弱点は、単元の深度を無視して教えるので、単元ごとのテストに非常に弱くなることです。そこで、単元のテストの1週間前に単元の漢字テストを行い、できなかった漢字のみを学習させます。(日本標準のテストに付属しているプレテストの裏面に単元の漢字が全部掲載されているので、これを活用しています。) http://www.nipponhyojun.co.jp/

【テストの役割】

 
学期末には漢字50問テストを行います。ここで、採点をして終わってはいけません。テスト結果の「集計」「診断」「治療」をすることが大切です。
 
まず小問別反応表を作成します。これをS-P表分析します。すると右端にたくさん間違えた漢字がわかります。次に50問テストで間違えた漢字を学習します。以下のテストは間違えた漢字のみが抽出された児童別のプリントです。日本標準の金ROMを使用すれば、これらの操作は簡単にできます。

<参考>
S-P表分析 私の忘備録
http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/test/sp.htm
日本標準 金ROM
http://www.nipponhyojun.co.jp/sinkan/soft/kinrom/index_kin.html


【「基礎学力」の向上ではなく「集中力」の向上】

 
音読学習や百マス計算、漢字学習などの活動を基礎学力向上に念頭をおいて取り組むと失敗します。あくまで集中力を向上させるためだと捉え取り組まなければなりません。子どもたちに一生懸命やれば伸びることを実感させてあげることが大切です。結果を折れ線グラフで表すなど、成長を自覚できるように可視化してあげます。


 
上記のような(月)〜(金)まで違うメニューに取り組むことは一番やってはいけない例です。毎日違うことをさせるのではなく、毎日同じメニューで同じことを繰り返し取り組みます。百マス計算の問題は最低でも1週間は変えません。また、問題が終わったからといって、何もしない時間を与えてはいけません。決められた時間は必ず集中を持続させます。
 
けれども児童にとって集中を持続させることは難しいことです。そのため教師は児童の様子に気を配る必要があります。明らかに無謀な量をいきなりやらせてはいけません。児童の今のレベルよりも少し上をやらせます。児童が少ししんどいと感じるような負荷をかけます。児童が「よし、頑張ろう」と意識して学習に取り組めるようにするのです。そうすることで、他の教科でも学習の効率が上がります。また、他の活動でも集中して行動することができます。これができて始めて、「多様な学習」が可能になるのです。

【編集後記】

 
都道府県名の暗記や漢字学習は児童にとってもつらいはずです。しかし、児童の「多様な学習」を育てるためには、これらの基礎学力は不可欠です。だからこそ、先生の適切な指導方法が大切だと思いました。また、発表を通じて、改めて積み重ねることの大切さに気がつけました。山根先生どうもありがとうございました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 下村 太郎)

【講師プロフィール】

山根僚介(やまねりょうすけ)先生
徹底反復研究会中国支部支部長

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (1件)

  • 「上記のような(月)〜(金)まで違うメニューに取り組むことは一番やってはいけない例」
    という所、けっこう肝心だと私も思います。短期集中と継続のバランスとよくしていく必要がありますね。
    県名は覚えたら下記方法でテストもしてみてください。いい結果が出ると思います。
    http://edupedia.jp/entries/show/598

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