体の満足だけでなく、心の満足も ~食育教育の実践(白井ひで子先生、田村栄美子先生、市尾公子先生)

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。

http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文 まとめのページ

https://edupedia.jp/entries/show/1049

2 体の満足だけでなく、心の満足も ~食育教育の実践

プロローグ

「今日の夜ご飯は、カップラーメンとおにぎりでした。」「夜ご飯は、ラーメンを食べに行こうと思っていたのですが、台風が来たので、カップメンとんこつ味をたべました。」

毎日、日記を書くことを宿題としてきた。「書くことは考えることであり、考えることは書くことである。」と・・・・・。

子供たちの日記を読み、赤ペンでその返事を書きながら、はたっと考え込んでしまう日記に出会う。前述の日記もそうだ。書くことに気後れしてしまう子供の中には、食べ物日記ならぬ食事記録を日記とする子がいる。毎日、夜食べたものばかりを書き続けた子もいる。そんなとき、ある先輩が言っていた言葉を思い出した。 “小学生は、体は小さいけれど生きることを学んでいる” 生きることの基本はたくさんあるけれど、生き続けていくためには、食べることは欠かせない。小学校高学年となる5,6年生で学ぶ家庭科の教科学習だけでなく、学校という学びの場で、系統的に学ぶことが大切なのではないだろうか。『早寝早起き朝ご飯』と声を大にして叫んできても、なかなか定着しないのは、食の大切さが浸透せず、食べることがおなかを満たすことだけで、心を満たすことに繋がっていないから、その重要性が伝わらないのではないだろうか。食べることが、心も体も満たすこと。そのことを心から実感するため、生き続けていくための支えになるためにも、正しい食育のあり方が求められている。そんな思いが沸々と湧き上がってきた頃『栄養教諭』が誕生した。

本校では、その栄養教諭と家庭科専科教諭による授業が展開され、年間を通しての担任・栄養教諭による食育授業、また外部講師を招聘しての授業が積極的にすすめられるなど、6年間を見通した『食の自立』を促す食育が展開されている。

第一章~小学校に入学した一年次

・グリーンピース・そら豆のさやむき

・地域の食文化「月見団子」

・ものの名前「やさいソムリエになろう」

小学校生活が始まって一ヶ月。給食で使う食材のグリーンピースのさやむきが食育の始まりである。食に興味を持つきっかけとなる第一歩である。絵本で出会ったことのある「そらまめくん」の世界も、担任による読み聞かせで馴染みは深い。季節の行事も、生活科の学習でお月見団子作りへと広がっていくのである。野菜ソムリエと一緒に、野菜の名前を覚え“ほうれんそう”と“小松菜”の違い、“レタス”と“きゃべつ”の違いを知る。野菜クイズを考えたり、やさいでできた団子を食べて、それぞれの味を知る活動もする。その団子が、50周年記念品の「六っぴー団子」になった。

近年、子どもたちに「味覚教育を!」と言われて久しいが、その教育を支えるのが『手でこねる』という活動だそうだ。一年生にとって、団子を作る、ということは、まさに味覚教育の始まりでもある。

第二章~二年次

・やさいは友だち

「ミニトマトりりこ」「小松菜こまろん」「さつまいも・里芋」「二十日大根」の栽培

・とうもろこしの皮むき

2年生になると、たくさんの野菜を育て、収穫し、それを調理することを大切にする。りりこは『ピザ作り』に、こまろん・さつまいもは『こまろん・ポテトケーキ作り』に、里芋は給食のメニューになる。自分で育てた野菜を食べる、という活動は、子どもたちにとっても魅力的な活動で、野菜が苦手な子も驚くほどの食欲ぶりを見せる。とうもろこしの皮むきでは、給食の食材を提供してくださる地域の農園の加藤さんから話を聞き、作り手との出会いを経験し、野菜への思いが広がっていく。

第三章~三年次

・すがたをかえる大豆「枝豆」  

・大根チャレンジ

・小麦の種まき・麦ふみ

生活科から理科・社会科という教科に名称が変わり、抽象的な思考も芽生え、健康に過ごすための食事を意識し始める学年として捉えている。植物のつくりと育ちを学ぶことで、より一層身近に感じるようになってくるのでは・・・と期待している。小麦の種をまき、麦ふみをし、成長を促すが、収穫は次の学年となる。子どもたちにとっては、初めて学年の中で完結しない学習に出会うことになる。新しい学年へと続く学習がどのように展開していくのか、わくわくどきどきの小麦作りである。

第四章~四年次

・小麦から食へ「うどん作り」

・海からの贈り物「八丈島から」

・西宇和みかんの収穫

4年生では、自分の住む東京都について学習する。台地で暮らす子供たちにとって、うどんは地域の伝統食でもある。「小平市に嫁いでくるときには、うどんが打てなければならない。」と言われていたことも、ここで知る。小平市在住の『小麦の会』の方々に支援していただきながら、2年間継続してきた小麦の学習をまとめる。また、海辺で暮らす人々(八丈島)の生活を知ることや、小平市ではなかなか収穫できないみかんについて、愛媛県よりみかん栽培農家に来ていただくことで、生活する場による食物の違いに気づき、地域の特産物についても、さらに、知識を広げさせることができる。

ちなみに、小平市は『ブルーベリー発祥の地』である。

第五章~五年次

・かぼちゃ作り

・お米の学校「六っぴかり」「ポン菓子」

・日本の水産業「育てる漁業Ⅰ」「栽培する漁業」「育てる漁業Ⅱ」「魚には骨がある」

・日本の林業「マイ箸作り」

・おやつを考えよう「カルビー食品」

・味覚教室「(株)味の素」

家庭科の学習が始まる。子供たちにとっては新しい教科の出会いであり、とても楽しみにしている。自立した生活をするための基礎学習の始まりであり、プログラムも多種多彩。そんな中、子どもたちが楽しみにしている調理実習で、伝統的な日常食として「ご飯と味噌汁」を作る。だしについても、味覚教室で学習を深める。

社会科では、日本の農業・水産業・林業について学習する。六小にある田んぼで、お米の学校が始まる。バケツ稲の栽培をした年もあるが、長野県から来てくださる講師の方にお世話になりながら、全員が米作りを体験する。

水産業の学習は4回にわたる。まず、育てる漁業Ⅰは、岩手漁連によるわかめの養殖。栽培する漁業は、鯛の養殖で有名な愛媛県愛南町『ぎょしょく』(実に、七つも漢字表記が変化する)、学習の最後に塩竃焼きも味わう。次の育てる漁業Ⅱは、淡水魚である鱒について学習し、照焼にして食べる。当たり前のことだけど、魚には骨がある。これは、お魚マイスターによる鰺の塩焼きで。改めて、日本は海に囲まれていることを実感する時間となる。

林業の学習では、都農林水産振興財団の方の指導で「マイ箸作り」をする。自分で作った箸で食べる給食は格別だ。たくさんの笑顔が広がって、食への関心が深まるのを感じる。

第六章~いよいよ卒業を迎える、六年次

・マイチャレンジ学習「酪農」「農業」コース

・食品の表示「ハーゲンダッツジャパン」

・小平野菜で作るお弁当

・地産地消、感謝「一風堂」

・伝えよう感謝の気持ち「フランス菓子『キャトル』」

家庭科の学習も2年目となり、自分の生活を創り出すために、小平野菜を使って一食分を作る(お弁当)ことに挑戦する。お弁当作りでは、肉・魚など生ものは使えない。五大栄養素も知り、ゆでる・煮る・炒めるなどの方法を駆使して、主食は半分・主菜六分の一・副菜六分の二の割合で、上手に弁当箱に詰められるように仕上げる。その弁当箱は、720ミリリットル。成長の過程であること、むやみにダイエットしてはいけないことも知る。食事は、おなかを満たすだけではないことを、自分で一食分作ることで確認する実習だ。

おやつ作りも経験する。どんなおやつを作るのかは、冬休み中の宿題である。何度か練習して、本番の授業に臨み、みんなで味わいながら、楽しいひとときを過ごす。

高学年になって、食のアンケートをとると、好き嫌いはあるが、食べることに意欲的で、食べられないものも減り、給食を残すこともほとんどないと答える割合が高くなってくる。体力もつき、それに見合った食事の量が必要であること。給食は、三食のうちの一食だけど、バランスよく食べることが、自分の体を作っている。みんなで食事すると、食欲も増す。感覚的につかんでいたことに、具体的な言葉や理論がつきはじめてくる年齢になったのだと思うことがたびたびある。

エピローグ

「食は文化である」と言ったのは、前任校の栄養士であった。「給食があるから学校へ行く。という子がいてもいいじゃない!!」といつも言っていた。本校の栄養教諭はこう言う。「野菜を食べることは、免疫力を高めること」「普段摂取することの少ない豆類を多く摂るために工夫されたメニューを増やす」。レンズ豆なる存在を知ったのも給食からだった。おなかさえ満腹になっていれば良いのではなく、食事をすることは心身のバランスを調整すること。そのために、毎日食べる三食のうちの一食を心豊かに食するためにと実践されている給食指導。また、児童の活動である給食委員会は、毎日、メニューの解説をし、低学年からでもわかりやすく学ぶために「赤」「黄」「緑」と分類した食材を伝え続けている。人間の体は、エネルギーのもとになるもの・体を作るもとになるもの・そして、体の調子を整えるものが必要であること。新学習指導要領で五大栄養素を学ぶことが必須となった現在、なぜ?から始まり、なるほど!!と感じることで、意欲関心が高まり、知識とする子供たち。この一連の学習で、学びの回路が整理され、確かな力がつくのではないだろうか。

本校の食育の柱は4つ。『食の大切さ』『人と人との繋がり』『生活への豊かさ』『食のふしぎ』。食への関心を高めること、食に関する実践力を培うことが、食のすばらしさに感動する子どもの育成になるのではないかと考えている。食べることは生きること。でも、おなかを満たすだけではない食べ方をすることが大事だと言うことをつかんでほしい。そのためにも、栄養教諭または家庭科専科教諭の力が頼もしい。自分の生活を創り出す子供を育成することが、我々大人である先を生きる者たちの努めなのではないだろうか。

そんな大人たちと出会うことで、子供たちが自立した学びをし、知恵ある生き方を知ることになることを信じて、さらに実践を深めていきたい。

3 講師プロフィール

栄養教諭 白井ひで子、担任教諭 田村栄美子、家庭科教諭 市尾公子

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

4 引用元

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『体の満足だけでなく、心の満足も ~食育教育の実践』,栄養教諭 白井ひで子、担任教諭 田村栄美子、家庭科教諭 市尾公子より引用

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」

http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。
他の受賞論文はこちら→( https://edupedia.jp/entries/show/1049

5 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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