小中学校 総合的な学習の時間は何をする? 創造性を育む実践例

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目次

1 はじめに

 この記事は、2022年11月2日に行った、金山光一先生へのインタビューを記事化したものです。金山先生は現在早稲田大学にて特別活動論を教えていらっしゃいます、小中学校の教員や校長としての経験を積まれた金山先生に、小中学校での総合的な学習の時間における実践方法や、話し合い教育について伺いました。

2 総合的な学習の時間の授業におけるテーマ決めについて

先生の実践例

 初めて校長として赴任した小学校は、学校のそばに川、山、海があるなど、自然体験をしやすい学校でした。総合的な学習の時間における活動の一環として子どもたちがその自然を守っている地域の人と一緒に清掃することもありました。

 次に赴任したのは、自然と全く縁のない都心の学校でした。そのときに総合的な学習の時間に何をしようかと考えたとき、子どもたちに多様な人との関わりを持たせたいと考えました。大人は皆、子どもたちに自分の思いを伝えたくて仕方がないはずです。だから、遠慮しないで大人のところに飛び込むように子どもたちに促すと、子どもたちによいチャンスが巡ってくると思います。

 その次に赴任した学校では、専門家に学校にお越しいただき話をしてもらいました。例えば、テレビ局のアナウンサーを呼んだことがあります。そのキャスターは東日本大震災が起こったとき福島に取材に行きました。そのときがれきの山を歩いているおばあさんに聞いた、「何を探していますか?」という質問が、人生の中で一番失敗した質問だったそうです。ここで子どもたちに「おばあさんは何を探していたのでしょうか?」と問いかけ、話し合いを行わせました。子どもたちはテレビや位牌、骨や墓のようにさまざまな意見を出しました。このような話し合いこそが、総合的な学習の時間において自然体験や多様な人との関わりなどのテーマとなる材料がなくてもできることです。

 総合的な学習の授業において一番大事なのは子どもたちがどれだけ多くの人と知り合いになることができるかということです。だから私はトカティブな子どもを作っていくという思いで授業を行っています。子どもも先生も、対面かオンラインかに関係なく授業で積極的に話すのは面白く、頭を使う授業だと思っています。

トカティブとは

 トカティブとはすぐに人と友達になり、多くの友達を作るということです。これは人との話し合いを通じて、さまざまな考えを得て、自分の多様性を広げるのに大切なことです。私は子どもにできるだけたくさん恋愛して、できるだけたくさん失敗しろと言っています。そうすることで人を見極める力が付き、それが学力になります。

3 他教科との連係について

 私は自然体験が好きなので、理科や社会に関連させることが多かったです。例えば、神奈川県全県を対象とした水の学習をしました。また、東日本大震災が起こったときは震災について子どもたちに徹底的に話し合わせ壁新聞を作成させました。災害の様子を映像で見せるだけでは、子どもたちの感情に訴えかけることは難しいです。話し合いを通してこそ、子どもたちはさまざまなことを学びます。例えば壁新聞に用いるのに不適切な言葉に気がつき、子どもたち自身でルールを作り出します。これは社会だけでなく国語の内容とも連係しています。

 以前、小学生と保護者を大学に連れていき大学生と一緒に授業を受けてもらったこともあります。《三匹のこぶた》裁判などのクリティカルシンキングの授業でした。この授業もキャリア教育や国語の内容と連係していると言えます。

 また、国語との連係において、新見南吉が書いた物語を用いることが多々あります。物語を読んだうえで「ここの場面についてみんなはどう思う?」といった問いを子どもたちに投げかけます。総合的な学習の時間では、このような国語との連係が一番やりやすいのではないでしょうか。

※《三匹のこぶた》裁判についてはこちら

4 話し合いを促すうえで考えていること

 男女の仲をよくして話し合いをさせたり、子どもに授業の内容を劇にさせたりすれば、話し合い活動は案外簡単にできるものです。

 中学校で社会科を教えていたとき、私は黒板に書いてある知識を子どもが写すだけの授業はしたくありませんでした。そこで授業にディベートを取り入れたのです。例えば、中学一年生にアメリカの社会について教えるときは、銃社会やフリーズ事件を題材にディベートを行いました。それらのディベートを通して実態や歴史を包括して学ぶことができるのです。

 教育委員会が特別活動の授業での話し合い活動を求めてきたときには、運動会の応援合戦に子どもたちの興味が最も向いていたので、応援合戦をテーマに学年縦割りのグループで話し合いの活動をさせました。すると子どもたちの興味関心に沿ったテーマだったこともあり、とても盛り上がりました。最後には、普段は落ち着きのない子どもが応援団長となり、校長や教育委員会の前で見事な発表をするまでになりました。

5 創造性とは

 日本人は賢いですが、創造性に関しては海外に遅れをとっていると思います。画一的な答えを求めることが第一優先とされている日本の学校では創造性の教育が十分にできていないことが原因の一つであり、それは大きな課題であると言えます。

 まず土台となる①知識があって、知識を②体験によって確かめることが大事です。実際に自ら体験することで、知識を、自分の中に響く、信頼に足るものにできます。

 体験ののちに必要なのが、③ディスカッションです。同じ知識や体験でも、人によって見方や感じ方はさまざまです。そこで、なるべく多くの体験や人との交流を通して、自分の中に総合された知識としてのアイデンティティを形成します。そのための話し合いが必要です。ここで子どもたちは、他者への思いやりや他者と協働することの大切さも学びます。

 ディスカッションの次には、④プレゼンテーションがなくてはなりません。子どもたちが、自分の知識や能力をアウトプットする場としてのプレゼンテーションを通して、世の中に働きかけようとする。これが「話し合い」によって得られる「創造性」だと私は思っています。

6 プロフィール

金山 光一様

 早稲田大学商学部を卒業後、小学校や中学校で教員を勤め、その後数々の小学校で校長として勤務していた経験がある。現在早稲田大学で特別活動論を教えている。(2022年11月3日時点のものです。)

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8 編集後記

 経験豊富な先生が、総合的な活動のあり方やそこで培われる子どもの創造性をどのように捉えていらっしゃるのかを取材を通して伺うことができました。総合的な学習の時間が学校のカリキュラムに設定されている意味について、改めて考えていただける記事になっていると思います。 片岡祐

 「子どもの記憶に残る授業とは自分で考え自分で話した授業だ。」という先生の言葉が印象的でした。総合的な学習の時間のテーマを闇雲に探すのではなく、総合的な学習の時間の持つ意味やその学習を通して子どもに何を感じて欲しいかを最初に考える金山先生の姿勢に感銘を受けました。 川手舞羽

 実際に校長として勤務なさっていたときの先生の実践方法を具体的に聞くことで、小学校の総合的な学習の授業をどのように進めていたかを鮮明にイメージすることができました。また、取材の中で垣間見えた、どんな人にも「トカティブ」を求める先生の姿勢は勉強になりました。 上楽乃愛


(編集・文責:EDUPEDIA編集部 片岡祐 川手舞羽 上楽乃愛)

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