「理系女性が少ない」に立ち向かう―女子中高生の理系進路選択支援プログラム

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目次

1 はじめに

 本記事は、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下、JST)が実施する「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」の担当者であるJST理数学習推進部能力伸長グループの長尾星子さんに、理系女性を増やす取り組みについて取材した内容を記事化したものです。女子中高生の理系進路選択支援プログラムは、全国の大学や高等専門学校等が提案する企画を公募・採択することで、理系分野に興味を持つ女性を増やす支援をしています。この取材は、2022年12月5日に行いました。

2 日本では理系に進む女性が少ない

 大学等の高等教育機関に入学した学生のうち、日本におけるSTEM分野に占める女性割合はOECD加盟国中、最低となっています。特に、工学・製造・建築分野においては、加盟国平均が約26%であるのに対して、日本では16%です(総合科学技術・イノベーション会議「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」)。このことから、国際的にみて日本は理系分野に占める女性の割合が低いことが分かります。今働く女性の理系人材をサポートすることも必要ですが、同時に未来の理系人材も育てていかなければなりません。その中で、「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」未来の人材にフォーカスしています。

 女性の社会進出が進む中で、理系分野の女性の割合は非常に低い状況にあります。理系の専門人材になるためには理系の高等専門学校や大学、またその理系学部に進学する必要がありますが、その前段階の文理選択の時点で、すでに理系を目指す女性が極端に少なくなっています。そのため、まず理系の面白さを知ってもらおうと、プログラムに採択された実施機関によって、さまざまな活動が行われています。

3 多種多様な企画を採択 

 プログラムに採択された実施機関は、企画を通して理系分野の純粋な面白さを伝えることに取り組んでいます。また、自分の進路を考えるときに性別は関係ないということを伝え、女子中高生が不安なく進路を選べるようにしたり、保護者や教員に「理系分野で女性はどのように活躍しているか」といった情報を提供したりしています。実施機関で一番多いのは大学で、他の機関では高等専門学校などがあります。実施機関には各々の特色を生かした企画に2年間取り組んでもらいます。プログラムとして大事にしているのは、2年間の支援が終了した後も実施機関がイベントを継続して実施できるようにすることです。女子中高生・保護者・教員にアプローチし続けられるネットワーク・体制を2年間で作っていただくようにしています。 

 実施機関での取り組みは体系化されていて、実験やものづくり等の体験活動があります。通常では中高生が触れられないような専門的な機材に触れられる点は大きな強みです。実施機関によっては3Dプリンターを使ったり、新型コロナウイルス感染症が流行してからはPCR検査の仕組みについて扱ったりと、さまざまな分野に関するイベントを開催しています。実験の際は、ティーチングアシスタントとして実施機関の女子学生に入ってもらうことがあります。主に操作や手順が分からないときのアシストをしていただきますが、実験に慣れていたり、てきぱきと対応したりしている先輩を見ることは、参加者にとって大きな刺激になると思います。また、中学校や高校で出前授業をすることもあります。理系の学びを身近に感じてもらえるよう、学校で理科・数学の授業や理系分野の職業に関する授業をします。生徒たちが勉強している単元とリンクさせながら実施していることが多いです。

4 理系のロールモデルに出会う

 また、座談会やサイエンスカフェ等の小規模のイベントも開催しています。これらのイベントでは、既に理系分野で働いている女性や理系学部に進学した女子学生といった、いわゆるロールモデルに出会う体験・機会を設けています。自力でロールモデルを探すことは難しいので、学生とロールモデルをつなぐ仕事を実施機関が行うことは女子中高生にとって大きなメリットになります。理系進路を選択した先が想像できないという不安を取り除くため、実施機関にいる女子学生と参加者が少人数のグループを作り、そこで「中高生のとき、どのような勉強をしたか」、「どのように進路を決めたか」、「今の授業は面白いか」等を直接やり取りすることで、参加者が「自分もこんなふうになれそう」と感じられる機会となっています。また、実施機関が民間企業や研究機関と連携して、見学・体験イベントをすることがあります。内容としては、地域にある大きな工場の会社と連携して工場を見学させてもらったり、そこで働いている女性社員の方と懇談したり、入社時までの経験等を話していただくなどです。それにより、参加者に女性が活躍する場所や働きやすい場所が理系分野にもあるということを知っていただいています。さらに、感染症の流行からは学校に訪問することが難しくなったため、少しずつデジタル化を進めてコンテンツ制作も行われ、実施機関がホームページで実験動画や、ロールモデルのインタビュー動画を載せるなどしています。

5 教員にもアプローチを

 女子中高生や保護者向けイベントだけでなく教員向け研修会も開催しています。たとえば、琉球大学が実施した教員研修会では、実験器具の操作を学びつつ、教員自身に実験の面白さを知ってもらう研修を行いました。長崎大学では、現状の女性の理系分野での活躍状況をデータで示しながら、女子中高生の進路指導の際に配慮をお願いしたいことを提示して、意識・知識をアップデートしていただくような研修を行いました。

6 教員に向けて

 皆さまが住まわれている地域の実施機関の取り組みに参加していただきたいです。楽しむ生徒たちの顔や、ティーチングアシスタントの女子学生やロールモデルとして講演する女性社員の姿を見ていただくことで、進路指導の幅が広がると思います。それに加え、理系分野の幅広い職業や学問があると知っていただくことができます。最近では、オンラインで参加できる教員向けのイベントを実施機関も増えています。イベントに参加されたうえで、ぜひ学校の生徒にこれらの取り組み・イベントを紹介していただければ幸いです。

7 プロフィール

長尾 星子

国立研究開発法人科学技術振興機構 理数学習推進部 能力伸長グループ主査。女子中高生の理系進路選択支援プログラム事務局として、次世代の科学技術人材育成や男女共同参画社会の推進の観点から、理系を志す女子生徒を支援する取り組みを行っている。
プログラムHP:https://www.jst.go.jp/cpse/jyoshi/

8 編集後記

 全国の大学等の実施機関で創意工夫を施したイベントが行われていることを今回の取材を通して知ることができました。全国の女子生徒、そして生徒を支える先生にとって役立つ情報をたくさんお話しくださり、本当にありがとうございました。EDUPEDIAを通して「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」の活動を多くの方に認知していただければ幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 吉田・坂田・佐野・塙・崇田・角谷)

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この記事を書いた人

"取材"という活動に興味を持っています!
日本全国を巡るのが趣味です。

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