【中1道徳】「心の弱さ」を乗り越え、自己を高めるきっかけに〜『銀色のシャープペンシル』より〜

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目次

はじめに

どんな人でも自分の「心の弱さ」と向き合い、乗り越えていくことは難しいと思います。生徒たちも学校生活をおくる中で、勉強や友人関係、部活動など、さまざまな場面で困難に直面しています。その中で、自分自身の「心の弱さ」と向き合わざるを得ない場面があると思います。この授業は、中学1年生の3学期の中盤に差しかかる時に行いました。進級にともなう新学年への期待も高まる時期であるともに、新入生が入り『先輩』として見られること、少しずつ難しくなっていく勉強など、生徒にとってさまざまな不安を感じやすくなっている時期ともいえます。そこで、道徳の授業を通して、自分自身の置かれた環境を見つめ直すとともに、自らの生活を振り返ることで、「心の弱さ」を乗り越え、自己を高めるきっかけにしてほしいと思い、今回の授業を構想しました。

教材、あらすじ、授業のねらい 

・中学校1学年 道徳科 題材名「心の弱さを乗り越えるには」

・教科書 東京書籍 『新しい道徳』『18 銀色のシャープペンシル』

・内容項目 A(1)自主、自律、自由と責任

・あらすじ
主人公は、掃除中にごみの中から銀色のシャープペンシルを見つけ、自分のものにしてしまいます。それを授業中に使っていると、本当の持ち主である友人の卓也に見つかってしまいます。そばにいた友達に「盗ったんだろ」とはやしたてられますが、とっさに主人公は慌てて自分の物だと嘘をつきました。あとで教室に残った主人公は、こっそり卓也のロッカーにシャープペンシルを返します。しかし、帰宅しても気持ちは晴れません。そこへ卓地から電話が入りました。主人公は、卓也が文句を言うために電話をしてきたと考えましたが、「自分の勘違いだった。シャープペンシルが見つかった。疑って申し訳なかった」と話しました。謝る卓也に主人公は複雑な気持ちになり、あてもなく家を飛び出します。卓也に正直に謝ろうか、それとも、黙っていようかと気持ちが揺れ動きます。

・ねらい
心の弱さに向き合う主人公の気持ちについて想像力をはたらかせることを通して、自分の行動に対して責任をもち、自らを律することができる態度を育てる。

学級の様子

男子5名、女子8名、計13名の学級です。小学校からクラス替えがなく、ほぼ同じメンバーで構成されています。学級では、級友を思いやったり、励ましあったりするなど比較的穏やかな様子で和気藹々と過ごす様子が目立ちます。また、授業には前向きに取り組み、積極的に自分の考えを発表できる生徒が多くいます。しかし、一方で人間関係が固定化され、決まった人とグループで過ごす様子が見られます。道徳科や他教科の授業など、さまざまな教育活動を通して、分け隔てなく級友と関わり合い、多様な価値観を受け入れ、高め合ってほしいと思っています。

授業の実際

(1) 教材の世界観に生徒を引き込む工夫

さて、授業を始める際に、黒板の前にわざと私がシャープペンシルを落としました。「先生落としたよ・・・」「拾います・・・」と生徒が言ってくれましたが、あえて何も言わず、教室を出ました。その後、私は再び教室に入ります。教室を出る前に、黒板の右端には、

(設定)・誰もいない教室 ・シャープペンシルが落ちている

とだけ書きました。

ここで、私が教科書の内容と同様に、周りの様子を伺いながら、シャープペンシルをこっそりポケットにしまう様子を演じました。

この様子を見た生徒たちが次々と「盗んだ?」「だめじゃん」「拾って誰にも言わないの?」と呟きました。なんだか私が悪いことをしたような気持ちになってきます。ここで、私から、

「拾った人はどんな気持ちだったのかな?」と問いかけました。

一旦生徒はまず、自分で考え、その後、生徒同士で話し合います。熱心に生徒同士で話し合う様子から、シャープペンシルを盗ってしまった人の立場に入り込んでいる様子が見られます。その後、何名かの生徒を指名し、出てきた考えを黒板の左端に書き留めました。

(出てきた考え)
・一旦預かっておこう
・一個ぐらいとったっていいじゃん
・バレなきゃいいじゃん
・誰も見てないでしょ・・・。盗んでいいや。
・好奇心

さらに、ここで生徒に私からゆさぶりをかけます。この状況についてより深く考えることをねらい、「どうして、こんな気持ちになってしまったのか?」と問いかけました。

ある生徒が「悪意があった」という発言をしたことから、 「その悪いな~っていう弱い気持ちをどうやったら乗り越えられたのかな」と切り返して、本時のねらいを提示しました。

(2)授業の展開

授業の展開のうち、3つの場面を紹介します。

①強く言い切る理由
ここで、内容を理解するために、教科書を読み始めます。まず、主人公が級友と過ごす中で、シャープペンシルをとったのか?と疑われた際に、自分の物だと言い張る場面の心情を想像させました。「これは前に自分で買った」となぜ強く言い切るの?と生徒に問いかけます。生徒たちから出た考えは以下の通りです。

(生徒の考え)
・反射的に大きい声で言った。小さい声だとバレそうだから。バレたら友達に見放される。
・動揺、焦った気持ちから大きく言った。自分のことを疑われるのが怖いから否定した。
・大きい声で言ったほうが盗っていないと言う説得力を出せる。

生徒たちからは

「バレたらどうしよう、友達に嫌われる・・・」など、他者からの見られ方や人間関係という点を意識した発言が多く出ました。この様子から、普段の学級での生活でも、周りの生徒からどのように自分が見られているのかというのを意識しながら生活している様子がわかります。生徒がどのような気持ちで普段の学校生活を送っているのか、生徒の様子から感じ取ることができるのも、道徳の授業のよさです。

②主人公の気持ちに迫るための授業構成の工夫

次に、ロッカーにシャープペンシルを戻した時の主人公の心情を考えさせ、生徒間で確認し合います。また、その後、シャープペンシルの持ち主から勘違いだったと謝られた場面の主人公の心情について考えさせました。生徒からは「罪悪感がすごい」「申し訳ない気持ちでいっぱい」という言葉が出ていました。この流れの中、主人公の心情により迫り、さらに考えを深めることを目指して、

「謝る時にどんな声をかける?そのセリフを考えて記述してみよう」

と生徒に投げかけました。ここで、そのセリフをもとに、役割演技を行う予定でした。
セリフを大体の生徒が書き上げた頃合いに机間巡視をした際に、授業の流れを変更しました。それは、ある生徒が、「そもそも謝れないし・・・」と会話していたことや、同様の趣旨の記述をした生徒もいたことから、授業の展開を変更し、以下のように問いかけました。

「謝れるって人、どのくらいいる?正直に手を上げてみよう」

とクラスに投げかけたところ、正直に謝れるのは13人中、4人という結果でした。そこで、

「どうして、謝ることって難しいの?その理由を教えてもらえる?」

と聞き、班(3人)で話し合うことを指示しました。 そこで出たのが以下の考えです。

・謝った後にいじめられるのが怖い
・謝る勇気がない
・これからの人間関係が心配
・謝った後、悪い人だと言いふらされそう
・大ごとになってしまって怒られたくない
・せめられるのが怖いから隠し通すしかない

このように、自分の弱さと向き合い、正直に意見を表現することができた姿に胸が打たれました。さらに、自分の弱さをさらけ出して表現できた態度を褒めつつ、授業の終末につなげました。

③余韻をもたせた終末への展開

「じゃあ、自分が主人公だったらどんな行動をする?」と自分に置き換えて考えさせました。考えはノートに記述させます。それで出たのが以下の考えです。

・謝る(勇気を出して言う、手紙で伝える、しっかり言う 嫌われてもいいと思う)
・隠し通す
・さりげなく置く

などでした。

生徒に発表させた際には、肯定的な態度で考えを受け止めることに努め、決して否定的なことは言いません。また、正直に自分の考えを表明できたことを賞賛することを忘れません。自己と向き合い、本時の授業を振り返るためにも、私から総括するような話はせず、授業を終えました。

おわりに

道徳科の授業を行うにあたり、私は、『学級の現状をもとに授業構想を練る』ことを意識しています。生徒の実態に合わせ、それに沿った授業を作ることで、生徒が教材を手がかりにしながら内容項目について考えを深めることを通して、自己を振り返るきっかけとなるのではないかと考えるからです。よりよい学級集団づくりのために、今後も工夫を凝らした道徳の授業づくりに励みたいと思います。

参考文献

・中学校学習指導要領(平成29年度告示)解説 特別の教科 道徳編 2017年 文部科学省 東洋館出版
・中学校道徳科 ゼロからわかる授業づくり 藤永啓吾著 2022年 東洋館出版
・考え、議論する授業づくりの基礎スキル 丸岡慎弥著 2023年 明治図書
・道徳科授業づくりオムニバス 田沼茂紀 編著 2023年 東洋館出版

記事執筆者のプロフィール

根本太一郎
福島県双葉郡楢葉町立楢葉中学校教諭。
教科は社会科と美術科を担当。道徳教育推進教師。授業を通した『感動』を生徒にもたせるために、効果的なictの活用方法や、地域の歴史の研究、社会教育施設や企業訪問などを通した地域資源の教材化を行っている。趣味はマラソン、読書。社会科について若手教員の勉強会である、Social studies for Fukushima を運営。

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この記事を書いた人

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