1 はじめに 「生命の尊さ」に関する授業のポイント・注意点
本教材「どきどき どっきんぐ」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目D「生命の尊さ」に該当する教材です。ここでいう生命は、「連続性や有限性を有する生物的・身体的生命、さらには人間の力を超えた畏敬されるべき生命」とされています。
つまり、人間の生命はもちろんのこと、生きているもの全ての生命に尊さがあることを児童に考えさせ、気づかせていく視点が重要です。また、普段は見過ごされがちな自分自身の生命について考えさせること、自分自身の生命と家族・社会との関わりについて考えさせることで、生命の尊さについて考えを深めていく視点も重要です。
1年生の時期に「生命の尊さ」について考えていくのはとても高度です。なぜなら、生命は「あって当然のもので、普段は考えないもの」だからです。大人でも難しい内容で、「生命の尊さ」を考えながら生活している人は少ないでしょう。道徳の授業では、このような「当たり前」を問う場面が多く、教師の頭を悩ませます。
1年生に「生命の尊さ」というとても抽象的な内容を話し合わせるには、「具体的な生命」を認識させることが必要です。
小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳」の指導の要点には、
出典:小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳」P65
- 心臓の鼓動が規則的に続いている
- 当たり前のことで見過ごしがちな『生きている証』を実感させたい。
とあり、児童の日常生活から具体的な「生命」について考えることが示されています。
まずは、1年生が「生命」を「具体的なもの・身近なもの」として捉えさせるところから授業はスタートします。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名「いきていることのすばらしさ」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』『12 どきどき どっきんぐ』
- 内容項目 D(17)生命の尊さ
あらすじ
主人公がうさぎを抱っこした時に、自分とうさぎの心臓が重なったような感覚になり、心臓の鼓動が速くなる不思議な体験をする。また、主人公が家の前で転び、お母さんに抱きしめてもらった時にも、心臓が重なり合い、鼓動が速くなる不思議な体験をする。
ねらい
生きていることを喜び、生命を大切にしようとする心情を育てる。
3 授業の工夫

(1)「生命」の知識・経験を整え、児童全員が話し合えるようにする
道徳科の授業全般に言えることですが、授業の導入で大事なのは「児童を話し合いのスタートラインに立たせること」です。
授業が始まる段階では、児童全員が話し合いのスタートラインには着いていません。児童一人ひとりの知識や経験はバラバラです。
そこで、児童がそれぞれもっている知識や経験を洗い出していき、話し合いの予備知識を整備していくことで児童は少しずつスタートラインに着いていきます。
授業の構想を練る段階で、
「子どもたちは生命について、どこまで知っているのだろう?」
「〇〇がわかっていないと、深く考える話し合いはできないな」など、児童のスタートラインを考えると、導入でやるべきことが見えてきます。
本題材では「生命」が重要なキーワードです。
1年生が「生命」をどのように捉えているか? またどこまで知識があるのか?
児童の顔を思い浮かべながら、少し考えてみてください。
きっと「生命」に関する知識・経験はバラバラです。
- 「心臓の鼓動」を知っている
- 「心臓の鼓動」が速くなる時を知っている
- 「心臓」という言葉を知らない
- 心臓が動いている様子を見たことがある
- 心臓の断続的な鼓動によって生きていることを理解している
こうした「生命」に関する知識・経験がバラバラな状態を整えていきましょう。
T「みんなの体には心臓があります。どこにあるか知っているかな?」
C「胸のところにあるよ!」
C「体の外からは見えないけど、音がするよ!」
T「心臓に手を当ててみようか? どんな感じかな?」
C「トクン、トクンするよ」
C「ドキドキって音がする」
T「ずっと同じ速さなのかな?」「速くなる時はあるかな?」「ゆっくりの時はあるかな?」
C「走った時、ドキドキが速くなったことがあるよ!」
C「ママに怒られそうな時(悪い事をした時)、少し速くなった」
C「今は結構ゆっくりめだよ」
その他の補助発問
「心臓ってどんなもの?」」
「心臓って大切なの?」
「どうして心臓は大切だと思うの?」
こうした児童との対話を導入ですると、
・本時の内容が、心臓(生命)に関係する話だと児童が理解する
・心臓(生命)の知識・体験をクラス全員で共有する
児童の実態によっては、動画資料で心臓の鼓動を聞かせる(見させる)などをする方法もあります。いずれにせよ、話し合いのスタートラインにクラス全員が立ち、教材にスムーズに入れます。まさしく「導入=導き入れる」です。
(2)「生命」について広く、深く実感する工夫
東京書籍「どきどき どっきんぐ」の次ページには「ぼくらはみんな生きている」(やなせたかし)の歌詞が掲載されています。
「人間にも動物にも植物にも生命があるのでは?」と気づき始めている1年生に、「ぼくらはみんな生きている」の歌詞はさらに「生命」の見方を広げてくれます。
そして、時間が許せば、実際に外に出てたくさんの「生命」に触れるのもよいでしょう。
「それは道徳ではない! 生活科の授業だ!」という意見も聞こえてきそうですが、最初に示した指導の要点にある「生きている証」「具体的な生命」に立ち返って、児童に言葉をかけていくのが重要です。
「外に出ると気持ちがいいね! 生きているね!」
「虫さんも鳥さんも、みんな元気に生きているね!」
「ちょうちょが元気に飛んでいると、私たちも元気になるね!」
「太陽の明るさも、太陽が生きている証だね!」
そんな対話を児童とすると、教師も「生命」を実感でき、普段は当たり前にある「生命」を広く、深く考える一時間になります。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。
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