【戸川貴之先生インタビュー】探究的な教科授業の実践例紹介―教えない国語の授業―

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目次

はじめに

 探究学習と聞くと、生徒が自ら社会課題を発見し解決を試みる「総合的な探究(学習)の時間」を思い浮かべる方も多いと思います。一方で、いきなり社会問題を解決する大掛かりな探究学習は生徒にとっても先生にとってもハードルの高いものです。そこで、近年、国語や数学など通常の教科学習をより探究的な形で展開する、教科の探究化も重要視されています。

  今回EDUPAEDIAでは、先生方への調査をもとに、教科授業における探究をより広めるために、教員の抱えている探究授業を進める上での課題を分析しました。

 その中でも特に問題意識の強かった探究の資料不足と時間不足を解決するために、教科の探究化に積極的に取り組んでおられる3名の先生方による探究授業実践例を記事化しました。

 高校国語科の戸川貴之先生に、生徒主体の授業作りについて話を聞きました。先生は教えない授業方針と、生徒が探究的な学びに活用できるツールを紹介します。

この記事をおすすめしたい方

  • 授業時数の関係で教科授業を探究化することに難しさを感じている方
  • 教科授業の探究化の実践例、ノウハウを知りたい方
  • 探究授業に活用できるツールを知りたい方
  • 時間がないため、授業を改善したくても他校の授業見学に行けない方

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探究に必要な意識

 探究的な学びを実践するためには、生徒の「学びの責任は自分にある」という意識が欠かせません。教員を頼りにするのではなく、生徒自ら学びを広げるスタンスが重要です。評価されるからやるのではなく、自分がやりたいからやる。そして、そのプロセスが面白いと感じるからこそ、学びが深まると考えています。このようなことを教員が意識しながら授業を展開することが探究的な学びを行ううえで必要だと思います。

戸川先生が実践している探究的な学びの授業

教員が教えない授業とは

 指導書に書かれている文章の見解をそのまま生徒に教えることが国語の授業であると考えている教員も多いようですが、この解釈は本来の国語の授業の目的とは少し相違があります。国語科の学習指導要領には、「言語活動」と「話す・聞く・書く」を授業に積極的に取り入れることが求められており、生徒自身が活動する授業を作ることを推進しています。つまり、授業ではただ一つの正しい見解を教えるのではなく、生徒が文章をじっくり読み、考えて、出力する作業を取り入れることが重要なのです。

私の授業では、教員が直接教えるのではなく、生徒が自ら文章を読み解く状況を意図的に作り出しています。また、読んだ内容を他者に伝えるためにどうすれば分かりやすい文章を書けるかを考える時間をたくさん設けています。このように、教員が一方的に知識を伝達するのではなく、生徒自身が主体的に考え、その思考を他者に発信する機会を提供することが、私の目指す探究的な学びです。

授業方法

 基本的に、私の授業は生徒が授業を行い学び合うという形式をとっています。

 例えば、授業で『山月記』を扱う場合、生徒たちは4人組のグループで、それぞれの興味や関心に沿って学びを深めます。単元の最後には必ず15分程度の発表とそれに基づいた議論をクラス内で行うため、生徒たちは自分たちがクラスや外部の誰かに発表することについて真剣に探究します。

 教員がすることは、授業で扱う作品の一部分を提示し、生徒が行き詰まった時に少し助言をするだけです。また、全員の発表を直接見るのではなく、Miro上にまとめた内容をCanvaに貼り付け、他のクラスの発表内容も参照できるようにして、クラスの枠を超えた学びを促進しています。

※Miro:オンラインで共同作業ができるホワイトボードツール。リアルタイムでアイデアを共有したり、プロジェクト管理やブレインストーミングに利用できる。

https://miro.com/ja

※Canva:簡単に使えるオンラインデザインツール。テンプレートを使って、ポスターやプレゼン資料などのデザインを誰でも手軽に作成できる。

https://www.canva.com

生徒の探究的な学びを助けるツール

 戸川先生の授業で生徒が使用している情報ソースやツールとその活用の仕方を紹介します。

1. CiNii

 日本国内の論文検索に特化した情報ソースです。国立情報学研究所が提供するサービスで、膨大な数の日本国内の論文を参照することができます。同じ論文検索サイトのGoogle Scholarは世界中の論文を対象としていますが、CiNiiは主に日本国内の論文に焦点を当てています。日本語の論文が多いため、日本の学習者にとっては非常に使いやすく、効率的に検索が可能です。

https://cir.nii.ac.jp

2. Wikipedia

 かつては情報の正確性が低いと避けられていましたが、現在のWikipediaは多くのページが専門家によって執筆され、チェックも厳格に行われています。また、多くのページで引用元が明示されています。情報源としての信頼性には限界があるため、最終的な引用には適していませんが、調べ学習の初期段階での情報収集ツールとしては非常に優秀です。

3. ドメインサーチ

 「ac.jp」をつけて検索することで、大学や研究機関が運営するサイトや論文のみを表示することができます。この方法は、信頼性の高い学術情報を探す際に非常に有効です。

4. Perplexity

 Perplexityは、検索に特化したAIツールで、ChatGPTのように対話形式で検索を行い、関連するサイトをいくつか探して、そこから得られた情報に基づいて回答を生成することができます。関連する情報を検索してから回答を行うため、誤った情報を提供するリスクが低く、より正確な情報を得ることが可能です。

5. ChatGPT

 ChatGPTに複数の論文を読み込ませることで、論文に基づいた回答を得ることが可能です。利用方法はシンプルで、ただ論文を読み込ませ、質問をするだけです。ただ質問するだけでは、不正確なことが多いですが、PDFをアップロードして質問することで、論文に基づいた正確な情報を得ることができます。

読者へのメッセージ

生徒が学び出すまで待ってみる

 受験や入試がある中、探究的な学びにシフトすることは難しいかもしれません。しかし、生徒は評価や試験がなくても自ら学ぶ力を持っています。だからこそ、彼らが学び出すまで待ってみてください。この「待つ」という姿勢が非常に重要だと思います。主体的な学びを促進するためには、「学ばない」ことを許容する環境が必要です。例えば、授業中に寝ている生徒がいた場合、もしその理由が「面白くないから」だとしたら、「どうしたら面白くなると思う?」と問いかけることが大切です。このようなアプローチは、生徒自身が学びを広げるきっかけとなります。

 一方で、「教えること」と「学ぶこと」のバランスも大切です。天才の発見や先人の研究の成果は自分で気づくことが難しいものが多くあります。それらについて「教わること」で、学びが始まる位置や広がる速度が大きく変わります。ただし、それらが「正解」となると、学びの足かせになる場合があります。 

 探究的な学びによる学力観は、「進む学び」、「深まる学び」という上下左右、二方向ではなく、360度、どこまでも「広がる学び」ととらえてみてはどうでしょうか教員や指導書が示す学びだけに価値があるのではなく、生きること自体が学びの連続です。その学びが学校で行われるものでなくても、教師が想定する(評価する)ものでなくても、価値がないわけではありません。学校教育の枠を超えた学びもまた、生徒にとって重要で意味のあるものであると考えています。 

プロフィール

戸川 貴之先生

大学卒業後、帯広北高等学校に勤務し、20年間教鞭をとる。その後、道立学校の教員として帯広柏葉高等学校に赴任し現在に至る。北海道教育大学釧路校において佐野比呂己教授に師事しながら、アイヌ民族の文学作品を高等学校国語科の教材として取り入れる可能性について研究している。オンライン・ICTを活用した同期・非同期の日本語国際交流を通して、国語の射程を日本人同士のやりとりではなく、世界と交流するものと再定義する可能性についても研究中。NPO独立教育政策研究所理事として主体的に学ぶ教育関係者たちと日々研鑽を続けている。主体的に学ぶことに問題意識を持ち、一番学ぶのが教師ではなく生徒となる、「業を授ける」時間ではなく、「共に学び合い価値の移動を起こす」時間を学校に生み出すべく、「生徒に学びを返」そうとして実践を試行錯誤している。

編集後記

 「生徒が学び出すまで待ってみてください。」という言葉が心に深く残りました。従来の「先生が主導する授業」から、「生徒が主体的に動く学び」へのシフトは、先生方にとっても大きな変化です。この新しい形の教育に戸惑い、「これでは学びが身につかないのではないか」「先生の役割がなくなるのではないか」といった不安を抱く先生も多いことでしょう。

 しかし、先生が一歩引いて生徒に学びを委ねることは、学習者の内発的動機に基づく探究学習を実現するための第一歩であると感じます。生徒の学びを信じて待つことで、従来の「教える側」と「教えられる側」という関係から、「共に学ぶ」関係へと変わる可能性が広がります。この変化は、学校での学びそのものをより深いものにし、生徒たちが自分の学びに責任を持ち、真の意味で主体的に学ぶ姿勢を育てる鍵となると思いました。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 韓璃穂)

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