がんに関する教育 小学生向け(豊島区教育委員会)

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目次

1 はじめに

 大人になってもなかなか学習する機会の少ない「がん」。しかし日本人の2人に1人は一生のうちにがんになると言われています。だからこそ正しい知識を小学生や中学生などの早い年頃から身に付けることは大変重要です。そこで、豊島区教育委員会は、自ら教材開発を行い、平成24年度より区立の小・中学校で「がんに関する教育」を開始しました。今回はその資料を提供して頂きましたので、その一部を紹介いたします。

【目次】

1、がんに関する教育のねらい・目標

2、学習指導要領との関連

3、教材の視点

4、教材の構成

5、指導上の配慮事項

6、指導案例(豊島区教育委員会作成)

7、資料

8、編集後記

2 がんに関する教育のねらい

A. ここでは以下の二つのねらいから将来のがん罹患率減少、健康な体作りを目標とします。

(1)子どもたちに「がん予防」の生活習慣に関心をもってもらい、がんになりにくい体づくりに取り組む。

(2)子どもが家庭でも話題に取り上げることで、「がん検診」や「がん予防」などの情報を普及啓発する。
⇒生涯にわたって健康な体づくり、将来に向けたがん罹患率の減少

B. 正しい食生活、適度な運動の実施等の正しい生活習慣が、がんを予防するのに有効な手段であることを学び、小学生のうちから正しい生活習慣を身に付けることを目標とします。

3 学習指導要領との関連

ここでは学習指導要領のどの部分が「がん教育」に関連しているのかを示すために、適応箇所を引用しました。

4 教材の視点

豊島区教育委員会が作成した教材では以下の9つの視点があります。

  • がんに関する正しい知識の普及
  • がん予防の対策
  • 生活習慣の改善
  • 食育の視点からの取り組み
  • 早期発見、早期治療の大切さ
  • 子宮頸がんなどの知識や対策
  • いのちの大切さを学ぶ
  • 親子で取り組むがん予防
  • 生涯学習

5 教材の構成

3の視点を踏まえて以下のような授業構成が提案されています。

① がんのことをもっと知ろう(がんという病気について学習する導入部分)

児童が「がん」についてどのようなイメージを持っているか確かめ、学習につなげます。
留意点:家族が「がん」の治療中、または「がん」により亡くなっている子供への心理的配慮が必要です。

② がんとはどんな病気?(がんとはどのような病気か学習する)

  • 年代別がんの発症率(男性は50歳から、女性は40歳から少しずつ増えることなど)
  • がんになる統計データ(日本人の2人に1人が一生のうちにがんになることなど)
  • 日本人の死亡原因の変化のグラフ(「がん」が日本人の死亡原因の第1位であることなど)
  • がん細胞の発生の仕方(人の体をつくっている細胞の中には、「がん」細胞になってしまうものがあることや、「がん」細胞が増えると「がん」という病気になること、一部の細胞から少しずつ増えること、「がん」細胞が血液の中に入り込むことなど)

以上のような点に触れ、「がん」とはどういう病気で、いつごろどのように発生するのか説明します。

留意点:たとえば日本人の死亡原因の変化のグラフを用いる際、「がん」で家族が亡くなっている子どもへの心理的配慮が必要です。

③ がんを予防するためには?(大人の「がん」の予防方法について学習する)

正しい生活習慣の大切さなどをクイズ形式で説明します(下記一例参照)。その後がん検診やワクチン接種の説明をします。説明を全て終え、がんについて内容から予防法まで理解したところで、児童が自分にできることと家族に対してできることを考えさせます。最後に今日学習したことを家族の話題とするように指導者から子どもに呼びかけます。

クイズ形式(例)

問題1:他人のたばこのけむりをすうと、肺がんの危険性は高くなる?

答え:〇

解説:がんにならないようにするためには、自分で吸わないことはもちろんのこと、他人のたばこのけむりも吸わないようにしましょう。
留意点:未成年者の喫煙は、法律によって、禁止されていることを説明するとともに、成人になっても、「がん」にかからないためには、「たばこ」を吸わないことが大切であることを確認します。

問題2:塩辛いものを食べすぎると、がんになりやすい?

答え:〇

解説:塩分の摂取量は、1日10g未満をめやすにしましょう。とくに、塩分を多くふくむ食品を食べるのは。週1回以内にしましょう(⇒塩分を多く含む食品の表を使うとより理解し、その食品を摂取しすぎないように注意することができます)。

また、食事のバランスの大切さを説明する。ここで野菜・果物不足にならないようにすることを確認します。(1日に野菜・果物を400gをめやすに食べること、給食は残さないで食べることなど)

問題3:運動不足になるとがんになりやすい?

答え:〇

解答:子どものころから運動の習慣を身に付けましょう。大人になっても、運動を続けることが大切です。
適度な運動をする習慣を身に付けさせ、大人になっても運動を続けることの大切さを確認します。(1日60分運動・スポーツをすることなど)

問題4:お酒をたくさん飲むとがんになりやすい?

答え:〇

解答:お酒は1日あたり適量を守り、飲みすぎないようにし、飲まない人・飲めない人は無理に飲んではいけません。

留意点:未成年者の飲酒は、法律によって禁止されていることを説明するとともに、成人となっても「がん」にかからないためには、お酒を飲みすぎないことが大切であることを確認します。

問題5:痩せている人は、普通の体型の人よりがんになりにくい?

答え:×

解答:太りすぎも痩せすぎもよくありません。大人になっても、食事のバランスと運動を続けることが大切です。

問題6:「がん」はからだに異常が出る前に見つけて治すことができる?

答え:〇

解答:多くの「がん」は、早くに見つけて、早く治すことができます。「がん」は早い段階ではからだに症状が出ないことがほとんどです。からだに症状が出る前にがんを早期に見付ける方法として「がん検診」があります。(この質問はがん検診を受ける大切さの説明につなげやすい。)

(発展)

④ もしも身近な人ががんになったら(子どもたちに考えさせる)
がんの治療方法を説明します。治療には様々な痛みやつらさが伴うことも話し、「緩和ケア」が行われることを説明します。
実際にがんになった人の話を動画で子供たちに見せます。
もし身近な人が「がん」になったら、自分はどんなことができるか、どんなことをしてあげたいか考えることを促します。

6 指導上の配慮事項

がんについて指導する際に様々な配慮が必要となってきます。ここでは大きく6つに分類し説明します。

A 小児がんへの配慮

授業で取り上げるのは成人がんであり、小児がんではありません。小児がんは成人がんとは性質の異なるものです。学級に小児がん治療中、または小児がん既往歴のある児童がいる場合は指導を行う際、配慮が必要です。

B 家族が、がん患者またはがんによって亡くなっている子どもへの配慮

家族をはじめ、身近な人ががん治療中、またはがんによりなくなっている子どもへの心理的配慮が必要です。

C 生活習慣とがんとの関連性への配慮

この授業では、がんを予防するために生活習慣の改善を推奨する内容を取扱います。生活習慣の改善によって、将来がんになる可能性を低くすることができますが、完全にがんを防げるということではありません。

D がん検診を受けても見つからないがんもあることへの配慮

この授業では、がんを早く見つけて早く治すために、がん検診を受けることを推奨する内容を取り扱います。
がん検診によって、がんを早い段階で見つけ、治療することによって、がんを治せる可能性は高くなりますが、がん検診によってすべてのがんが見つけられるということではありません。

E 正しい情報、最新の情報の収集と活用

本教材は、国立がん研究センターの先生のご指導のもと、作成段階における最新の情報を参考にして、作成しています。現在も「がんに関する研究」は進められているため、今後関連する情報が更新されることが予想されます。そのため、常に正しい情報と最新の情報の収集・活用に努めることが必要です。

7 指導案

以下に、上記の内容を含めた豊島区教育委員会作成の指導案を掲載します。

8 資料

スライドpdf:添付ファイル

指導案pdf:添付ファイル

マニュアルpdf:添付ファイル

これらの教材についてのお問い合わせは、

豊島区教育委員会 教育総務部 教育指導課 まで
電話:03-3981-1146 ファクス:03-3986-9474

9 編集後記

日本で初めて、区内のすべての小・中学校で実施するために作成されたがんに関する教育の指導案を見て、自分も小学生時に習いたかったと思います。この指導案を踏まえた授業を受ければ、自分が「がん」にならないようにするだけでなく、「がん」を抱える人との接し方も勉強できるでしょう。
 三田豊島区教育委員会教育長のお言葉に「全国に発信することが必要であると考えています。」とありました。私も同感です。この豊島区指導案が全国に広まり、がんに関する正しい知識を身に付け健康な生活が送れる人や「がん」を抱える人に対し正しく接しられる人が一人でも多く増えばと思っております。
 最後に資料を提供してくださいました豊島区教育委員会教育指導課長の山本聖志様に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 荒井翔央)

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