知識構成型ジグソー法による「永訣の朝」の授業

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作成者:Satoshi Arai (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この実践は、埼玉県立浦和第一女子高等学校の板谷大介先生の実践です。執筆いただいたものです。先生は知識構成型ジグソー法に基づく授業を行われており、知識構成型ジグソー法については知識構成型ジグソー法によるアクティブラーニングの実践の記事をご参照ください。
「永訣の朝」の教材は、筆者が平成27年2月に高知県立高知南高等学校に「出張授業」で伺い、実施するために準備したものです。高知南高校につづき、筆者はその後、この教材による授業を鳥取県立米子東高等学校でも実施しました(平成27年10月16日)。CoREFのHP「使い方キット」にも掲載されており、かなり汎用性があると思われるので、「これから一度ジグソー法の授業を試してみたい」という先生がいらしたらぜひこちらをお試しいただきたいと思います。

2 授業内容

教材

この授業に用いた教材はこちらからダウンロードできます。

ジグソー法による「永訣の朝」教材.docx

宮沢賢治「永訣の朝」『高等学校現代文B』(第一学習社)を使用した授業です。

授業のねらい

A,B,Cの資料の考察後、それらをつきあわせて検討することで「『いもうと』の死を悲しみつつも、彼女の思い、配慮、けなげさに作者は救われ、ある種の普遍的な尊さへと到達するよう祈るに至る」などのストーリーを読み取らせ、生徒が主体的に、平易ではないが優れた深い文学作品について主体的に読解を深められるようにするのが授業の狙いである。この後、生徒たち自ら「優れた古典的作品」に主体的に親しんで欲しい。

メインの課題(授業の柱となる、ジグソー活動で取り組む課題)

上記のように、「永訣の朝」というテクストから、作者が死にゆく「いもうと」のことを嘆いていること、しかし、その「いもうと」の配慮に接しそこに希望を見出すに至っていること、などを読み取らせるのがメインの課題である。

生徒の既有知識・学習の予想

生徒は、一度本作品を学習しており、作者についての概要、作品の語句、作品全体の意味の把握、等を一通り一斉授業にて学んでいる。こうした生徒が、上記の課題に対し、教材作成者の意図に即した回答に到達し、さらには、教材作成者、授業者の予想を超えるような多様で深い読解に到達してくれると期待する。

期待する解答の要素

以下の要素について話せるようになって欲しい。

  1. 「わたくし」は「いもうと」が死にゆくことを悲しみ、嘆いている
  2. そうした「わたくし」に、逆に死期の近い「いもうと」が配慮を示す
  3. それにより「わたくし」は救われ、希望をも感じて、「いもうと」の「けなげさ」がある種、世界の普遍的な尊く美しいもの、へと昇華されて欲しいと祈るようになる

ただし、上記に言及するだけでなく、さらに多様でユニークな気付き、一層深い読解に到達して欲しい。そして本時ではそうした部分をこそ、積極的に評価の対象にしたい。

各エキスパート活動

エキスパート活動A

次に挙げたⅠ群、Ⅱ群の語群を比べ、Ⅰ群、Ⅱ群のそれぞれで「わたくし」や「いもうと」のどのような心情、どのような様子が表現されていると思いますか。グループで話し合い以下に記しましょう。

Ⅰ群

  • 「あめゆじゆ・あめゆき」 
  • 「青い蓴菜もやうのついたこれらふたつのかけた陶椀」○「さつぱりした雪のひとわんを」
  • 「銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの/そらからおちた雪のさいごのひとわんを」
  • 「雪と水とのまつしろな二相系」
  • 「すきとほるつめたい雫にみちた/このつややかな松のえだ」
  • 「みなれたちやわんのこの藍のもやう」
  • 「やさしくあをじろく燃えてゐる」
  • 「この雪は…あんまりどこもまつしろなのだ」
  • 「このうつくしい雪」 

Ⅱ群

  • 「みぞれ」   
  • 「おもてはへんにあかるい」
  • 「うすあかくいつそう陰惨な雲」
  • 「みぞれはびちよびちよふつてくる」 
  • 「蒼鉛いろの暗い雲」
  • 「みぞれはびちよびちよ沈んでくる」
  • 「はげしいはげしい熱やあへぎ」
  • 「みぞれはさびしくたまつてゐる」
  • 「とざされた病院の/くらいびやうぶやかやのなか」

エキスパート活動B

次に挙げた部分(作品のラスト)から、「わたくし」のどのような心情が読み取れますか、グループで話し合い以下に記しましょう(特に傍線部分に着目しましょう)。
◎「おまへがたべるこのふたわんのゆきに/わたくしはいまこころからいのる/どうかこれが兜率の天の食に変つて/やがてはおまへとみんなとに/聖い資糧をもたらすことを/わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」

エキスパート活動C

この文章の次のような表現上の特色から、「わたくし」や「いもうと」のどのような心情、どのような様子、が読み取れますか、グループで話し合い、以下に記しましょう。

  • 「(あめゆじゆとてちてけんじや)」が何度も反復されていること
  • 方言を用いていること
  • ひらがなを多く用いていることや、ひらがなと漢字の使い分け(「ゆき」・「雪」など)
  • ローマ字による表現「(Ora Orade Shitori egumo)」
  • 「……」による表現。
  • 三文字下げのカッコ、一文字目からのカッコの使い分け。

その他効果的な比喩が用いられている部分や印象に残るに残る表現をしている箇所など。

エキスパート活動で押さえてほしいポイント

エキスパート活動A

「あめゆじゆ・あめゆき」等が「いもうと」の「わたくし」への配慮、けなげさ、等を表したものであることを押さえたい。「ちやわん」が「いもうと」との思い出を表している点などにも気付きたい。また、「みぞれ」等が「いもうと」の死期の近いこと、不吉さ、「いもうと」の苦しみ、「わたくし」の嘆き、などを表していることを押さえたい。

エキスパート活動B

作品の最後の部分(「おまへがたべるこのふたわんのゆきに/わたくしはいまこころからいのる/どうかこれが兜率の天の食に変わつて/やがてはおまへとみんなとに/聖い資糧をもたらすことを/わたくしのすべてのさいわひをかけてねがふ」から、「わたくし」にとって「いもうと」の死がある種浄化されたものになっていること、さらに、それが普遍的な尊いものへと昇華するように祈るに至っていること、等を読み取らせる。

エキスパート活動C

一例として、「(あめゆじゆ…)」の反復表現が作者の「いもうと」のけなげな思いへの頻繁な想起であること、そしてそれが同時に読者への強調になっていること、など、さまざまな着眼点からの多様な読み、解釈を提出してほしい。

本時の指導

3 授業の振り返り

板谷先生が作成した詳しい振り返りシートは、こちらからダウンロードできます。

「永訣の朝」振り返りシート.docx

生徒の学習の成果

今回、埼玉県立浦和第一女子高校に勤務する授業者、教材作成者の板谷が高知県立高知南高校を訪問し、約100分で授業を実施するにあたり、CoREFの指導も受け、事前に「授業前課題」を高知南高校国語科、田中主幹教諭に生徒に実施してもらうことを依頼し、それらの生徒の回答をもとにCoREFの助言も受けながらエキスパート活動の課題を練り直した(田中主幹教諭には授業案の一部も執筆していただくなどさまざまなご協力をいただいた)。

具体的には、授業前は、授業案「期待する回答要素」欄の
1「わたくし」は「いもうと」が死にゆくことを悲しみ、嘆いている。
2 そうした「わたくし」に、逆に死期の近い「いもうと」が配慮を示す。
……までは一部の生徒が気づいているが、
3 それにより「わたくし」は救われ、希望をも感じて、「いもうと」の「けなげさ」がある種、世界の普遍的な尊く美しいもの、へと昇華されて欲しいと祈るようになる。
に言及している生徒はいなかった。

そこで、この3に生徒の注意が行くように、エキスパート資料を練り直した(この課題を資料Bとして独立させた。当初の資料Bに構想していたものは資料Aにまとめた)。これが功を奏し、多くの生徒が期待する回答、つまり上記3の内容に言及してくれた。

今回授業が成功したのは、生徒の状況を事前に十分に把握したこと、期待する回答(つまり「3」)を明確化し、それをもとに授業をデザインしたこと、の二つの理由によるところが大きい。
また、下に示した同欄の末尾にも生徒がさまざまな回答で応じてくれた。

ただし、上記に言及するだけでなく、さらに多様でユニークな気付き、一層深い読解に到達して欲しい。そして本時ではそうした部分をこそ、積極的に評価の対象にしたい。

今後、教材作成、授業デザインをしてゆく上で貴重なことを学ばせていただいた。

生徒の学習の評価(学習の様子)

多くの生徒がエキスパート活動で熱心に課題に取り組み、ジグソーで自分の知識を一生懸命他の生徒に説明し、皆で知恵をあわせようとしていた。その姿が非常に印象深い。
また、授業後の課題の回答の生徒達の取り組みへの集中、論述の迫力はすごかった。このように「書きたいもののイメージ」がすでに各自の頭の中にあると論述はかなりスムーズにいくのであった。「言語活動を充実させるにはどのようにしたらよいか」——そのひとつの解を生徒達が改めて見せてくれた。

授業の改善点

授業スタイルについて

今回、勤務校と異なる学校で授業を初めて実施した。こうした際、上記のように授業前の生徒の回答を見る、など工夫することが非常に重要だと認識した。
今回はCoREFの指導を受けたが、また同様の機会が、わたくしに、そして他の全国の先生方に訪れた場合、次回からは今回のノウハウを生かし、わたくしが指導を受けずに授業デザインをし、また他の先生方にも助言を出来るようにしてゆきたい。

課題や資料の提示

今回、わたくしの過去の教材群から、高知南高校の田中主幹教諭に教材選定を依頼した。そのようにして選んで頂いた「永訣の朝」を上記の通り、「期待する回答」が生徒から出るように組み替えた。こうした生徒の実態に適合した課題設定、資料提示が極めて重要で、そのために教材を柔軟に組み替える迅速な対応の大切さも認識した。

その他(授業中の支援、授業の進め方など)

今回の授業では、はじめて接する生徒達に授業を実施したため、エキスパート、ジグソーの最中、ずっと机間巡視等を行い、生徒が適切な方向で対話を行っていない場合に介入しようとした。実際数回、生徒に介入した。例えば、エキスパートAでプラスイメージの語(Ⅰ群)とマイナスイメージの語(Ⅱ群)のプラスマイナスを逆に取り違えていた班があったのでそれは修正した。このようなその場に応じた対応の重要性も学んだ。

4 実践者プロフィール

板谷大介(いたやだいすけ)
1966年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2000年4月より2011年3月まで、母校の埼玉県立浦和高等学校で教鞭を執り、その進学実績向上にも大きく貢献した。
2011年4月より、埼玉県立高校では男子校の浦和高校とともに進学校として並び称される女子校の浦和第一女子高等学校に勤務している。
CoREFとの連携による知識構成型ジグソー法の授業改善の取り組みには2010年より参加している。また、2013年からは一般社団法人日本アスペン研究所との連携で「高校生のためのアスペン古典セミナーin埼玉」のモデレーターも担当している。
著書に『古典が苦手な受験生に捧ぐ 板谷の古典文法』(2007,桐原書店)、『指板プリ古典文法 苦手撲滅108令』(2007,桐原書店)がある。
現在は、明治書院高等学校国語検定教科書編集委員(古文担当)を務めている。


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