教員としての働き方振り返りシート~作成者の方々を取材しました~

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目次

1 はじめに

この記事は、2019年10月25日に教員としての働き方振り返りシートを作成した、杉並区教育委員会学校支援課の小林淳さんと、東京大学3年の田邊慎史さん、2年の菅原優さんにインタビューしたものです。また、実際にこのシートを使っている杉並区立天沼小学校教諭の向井亮介先生にもお話を伺いました。働き方振り返りシートは教員が短時間で自身の生活を振り返り、働き方を見直すきっかけを作ることを目的として作成されたものです。

働き方振り返りシートのURLはこちら(現在こちらのシートはサービスを終了しています。)Google

2 作成者インタビュー

Qどうして働き方振り返りシートを作ろうと思ったのですか?

田邊さん

私たち学生は体験活動プログラムという、大学外での貢献活動や就業体験を行うプログラムの企画をしていました。その際に業務改善アドバイザーでもある小林さんに相談したことがきっかけで始まりました。そこで、業務改善のシートを作ろうということになり、初期の方向性は、削減できる仕事をリストアップしていました。しかし、メンバーと話し合ったり、先生方に実際にインタビューしたりする中で、やはり人によって業務も違うし、やりたいことも違うということに気づいたのです。そこでまずは視覚化しようということになりました。だからこのシートは自分の働き方を見える化して、自分はこうやって働いてるのだなというのを改めて見てもらうものです。

Qではシートのコンセプトは自分の時間を自覚するということですか?

田邊さん

現段階ではそうですね。本当にざっくりと自分の時間の使い方を自覚するというコンセプトだったのですが、先生方に改めてお話を聞くと、現在と過去を比較して分かることもあるみたいでした。そこは反省かな、まだ足りてないところはあるかなとは思っています。全体的な傾向を見える化することがこのシートの一番のテーマなので、改善シートというよりは分析シートに近いですね。基本的には先生方の仕事をもう少し縮小するためになんとかならないかなという第1弾がこのシートです。

Q時間の入力とともに熱意の度合いを項目に入れたのはなぜですか?

菅原さん

先ほど田邊さんが話したように、業務改善のためにはまず時間を見える化するというのは大事です。しかし自分の好きなことや好きな業務に対して、先生方はそれほど負担感は抱いていません。たとえある業務にとても時間が取られていたとしても、それに対して熱意が高ければ先生の負担感としては問題がないということなのです。時間と負担感を一緒に表示することで、働いている立場からだとやはり気づきづらい部分だったり、普段必死にやってる分なかなか気づかなかったりするところに目が行くようにしました。円グラフで自分の時間の使い方をパッと見て、熱意が高くない業務にこんなに時間を費やしてるのだとわかった方が、見直したいと思えるような業務に気づくという面でも良いと思います。

Qこのシートに込めた先生へのメッセージをお願いします。

小林さん【自分でコントロールして早く帰る

教員にとって熱意のある業務は、学校に長く留まることの負担を消してしまう不思議なメカニズムです。熱意の高い業務を見える化出来たら、やるべきことはひとつ、自分をコントロールして早く退勤することです。
しかし、業務を減らすっていう行為そのものが真面目な先生たちには難しい、分かっていてもできないという状況なのだとしたら、今度はこの業務を減らしてませんかというのを作ってみようかなと考えています。私は、教員の働き方を改善するには、行政施策として落とし込むこと、先生が自分で自分の業務改善すること、そして最後に校長先生のマネジメントが大事だと思っています。実際に全国の教育委員会の皆さんや先生方にお話しさせていただく場合は、行政施策、改善シート、校長マネジメント例の三点を業務改善のトライアングルという言い方で伝えています。

田邊さん【あなたの状態はこうだと伝えたい

理想となるプライベートの時間は人それぞれ違うので、それに対する個人の状況が見れたらいいかなと思っています。画一的に〇時間以上働いていたら働きすぎというのは全然当てはまらないと、先生方に話を聞いていて感じました。その方がどう思っているかが問題であり、定量的に測れるものではないということです。それで悩んだ結果できたのが今のシートですが、これが完成形だとは思っていないです。

菅原さん【負担感を減らしてあげたい

例えば部活動に熱心に打ち込む先生の場合、もし熱意という項目がなかったら、部活にかなりの時間をかけていますよという感じの表示だけになってしまって、部活の時間を削ったらいいのではないかというメッセージになってしまうと思います。でも私たちはそのようなことが言いたいのではありません。先生方の話を聞いた感じだと、取られる時間が問題なのではなくて、負担感のある業務が先生を疲弊させていることが問題だとわかりました。もともと自分がしたいことで、楽しくかつ体力があるのなら、時間が長くても問題ありません。だからいかに負担感を減らすかが大切だと思っています。

3 働き方振り返りシートの使い方

入力画面

働き方振り返りシートの入力は、理想となるプライベートの時間の入力と勤務時間の入力の二つのカテゴリーに分かれています。

①理想となるプライベートの時間の入力

はじめに、理想となるプライベートの時間の長さとその内訳を入力します。睡眠時間、通勤時間、学校外での食事の時間、家族との時間、その他・趣味(大切にしたい時間)の5項目です。

これでまず自分の理想となるプライベートの時間の入力は終わりです。
後に、プライベートの時間内訳が24時間の円グラフで出力されます。

②業務時間内訳と熱意度の入力

ここからが、学校の中で過ごしている時間(勤務時間)の入力です。[平均的な一日の業務時間内訳]および[業務への熱意]を5段階で入力します。平均的な一日の業務時間を入力してください。また、業務への熱意は、最も少ない場合を1、多い場合を5として評価してください。
授業、授業準備、生徒指導、部活動、生徒とのコミュニケーション、同僚との情報交換・打ち合わせ、会議、補講、調査やアンケート事務、保護者対応、教材研究、その他の12項目です。

後に、勤務スタイルがグラフで出力されます。

以上で入力は終了です。

働き方振り返りシートのURLはこちらGoogle(現在こちらのシートはサービスを終了しています。)

出力画面(入力結果)

入力結果が5つのグラフで表示されます。

①業務別割合

1つめは、一日24時間に対する業務別割合を表した円グラフです。色のついてるところが勤務時間です。12の業務別に色分けされています。このグラフから、一日のうちどのくらいの時間を勤務に当てているのか、また、各業務にどれくらいの時間をかけているのかがわかります。

②勤務時間内熱意別割合

2つめは、勤務時間に対する熱意度別の割合を表した円グラフです。5段階の熱意度で色分けされています。各業務にどれくらいの熱意度を持っているのか、また、負担感を感じる業務、感じない業務の割合がわかります。

③業務カテゴリー別勤務時間割合

3つめは、勤務時間に対する業務カテゴリー別勤務時間割合を表した円グラフです。業務カテゴリーとは、シート作成者が判断した「工夫してもかかる時間を調節できない業務」と「工夫すれば調節できる業務」の二つのカテゴリーのことです。調節できない業務をオレンジ色、調節できる業務を紺色で表示しています。

④プライベートの時間内訳

4つめは、プライベートの時間の内訳を24時間の円グラフで表したものです。何にどれくらいの時間をかけているのかがわかります。

⑤理想のプライベートの時間と勤務時間の合計

5つめは、理想のプライベートの時間と勤務時間、その合計を棒グラフで表したものです。プライベートと仕事にそれぞれどれくらいの時間をかけているのかがわかります。

最後に、入力時間から理想的なプライベートの時間を保つために何時間足りていないのかが表示されます。

4 働き方振り返りシートを使っている向井先生の感想

Q.シート使ったことで、何か変化はありましたか。

A.シートを実際に自分でやってみて、やはり自分なりに業務を減らしていく、悪い言い方にすると、切っていく部分も作っていかないと、この時間数は永遠に変わらないという自覚はしました。そのきっかけには確実になったとなったと思います。ただ、具体的にどの業務を削減できるかというような分析はまだできていません。

Q.シートが今後どのように変われば業務時間削減につながると思いますか。

A.複数回やった時に、過去の結果と比較できるようになると良いと思います。1回目にやったものと2回目にやったものに、その時の心理が微妙に表れると思っています。ただそれが1回目どうだったかが、2回目やる時点では思い出せませんでした。もしそこがわかるようになれば、前回から自分の心境が変わって、この業務が減ったなどということを自己認知できると思います。それがどの業務を削減していけるかという分析に繋がるのではないかと考えています。それが自分の働き方を見直すきっかけになるかと思います。

Q.そのほかにシートの入力をして何か思ったことはありますか。

A.初めてやるときは、毎日少しずつ違うので、どの塩梅で時間を入力すれば良いのかわからず、難しかったです。ざっくりとした入力にはなってしまいますが、複数回やることで自分の傾向がわかるのではないかと思います。

5 シート改善の方向性

田邊さん

A.向井先生の意見を受けて、今後複数回やった時に過去の結果と比較できるようにしていこうと思います。このシートによって最終的には何か削減して、先生が少し早く帰れるようになったら嬉しいです。また、このシートの最後に業務削減につながるEDUPEDIA の記事を載せる予定です。併せて見てほしいですね。

働き方振り返りシートのURLはこちらGoogle(現在こちらのシートはサービスを終了しています。)

6 プロフィール

小林淳さん

杉並区教育委員会 学校支援課 学校支援係長
文部科学省 業務改善アドバイザー

教員としての働き方振り返りシートを作成。
全国で講演会を行い、シートの普及と先生方の負担軽減に尽力されている。

田邉慎史さん

東京大学後期教養学部教養学科総合社会科学分科3年
長時間労働問題をきっかけに「働き方改革」に興味を持っていたが、「働き方改革」の目指すべき方向は時間削減ではなく、個々がやりたい働き方をしっかりと考えること、それを実現することであると考え活動している。

菅原優さん

東京大学2年
教員としての働き方振り返りシートを作成。

向井先生

杉並区立天沼小学校教員。
教員としての働き方振り返りシートを実際に使用し、学校現場の声を伝えている。

7 編集後記

先生自身の働き方を振り返るという視点はとても興味深かったです。作成者それぞれの教員に対する思いがシートにつまっていることをインタビューを通して感じました。シートの入力は短い時間でできるので、隙間時間に気軽にしていただけると思います。今後、より使いやすく改良されるということなので、長期的に利用していただけたら幸いです。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 並木未夢、柳瀬彩紀)

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • >具体的にどの業務を削減できるか    ターゲットは「熱意の低い業務」

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