はじめに
本記事は、2023年7月2日に行った福岡教育大学の大和淳先生へのオンラインインタビューを編集・記事化したものです。教育現場での著作権をテーマに、教育目的で利用する際の著作権取り扱いの現状と児童生徒に向けた著作権教育の在り方についてお話を伺いました。
今回は、学校現場での教育のために利用する著作物の取り扱いや、その現状について解説しています。
本インタビューは2部構成になっています。ぜひ後半の記事もお読みください。
https://edupedia.jp/archives/33842
学校現場の現状
大学生に「中学校や高校で著作権についてどのように習いましたか?」と問いかけると、多くの学生は「覚えていない」や「著作権について習っていない」と答えます。「やったらダメと教わりました」という曖昧な反応も見受けられます。
その背景として、多くの教員の関心事が「どうやったら無断で使えるのか」「どうやったら違反にならないのか」という点、つまり、教育活動上の例外規定ばかりに集中していることが挙げられます。そのため、子どもたちに「やってはいけない」「やったら捕まる」と抑制的に教えることにつながっているのだと思われます。
理解して、使う。
著作権を理解する
法律には「こういった場合は無断で使っても構わない」という例外的な規定がいくつか存在します。そして、学校の教育活動では、そのような規定が適用される場面がたくさんあります。それ自体は便利なことですが、それらをひとまとめにして「教育のためだから勝手に使っても構わない」と拡大解釈してしまうと、「原則として教育の目的であれば自由に使える」や「条文にひっかかると例外的に許可を得なければならない」という原則と例外の逆転意識が起きてしまう場合があるのです。
著作権は、本来であれば「使ってもいい」「使ってはダメ」の判断ができるという作者の権利ですが、例外規定の条件下では作者は「使ってはダメ」と言えないのです。
「権利を制限している」
つまり、個人が持っている財産権や人格に関わる権利を、法律上、行使できないようにされているわけです。
だからこそ、このような例外規定を安易に拡大解釈するのではなく、他人の財産を借りるときには、作者に挨拶をするという著作権法の一番の基本を忘れないようにすることが大切です。その上で例外的に、一定の特別な条件を満たす限られた場合、許可を得なくてもいいという規定を有効に活用すればいいのです。例えば、耳の不自由な人のためにドラマや映画に字幕を付けたり、目の不自由な人のために録音したり点字にしたりという福祉的な配慮のための規定もあります。
著作物を使う
教員研修の場では、「このような方法で著作物を利用してもいいですか?」と講師に聞く教員もいます。しかし、利用の許可を出すのは作者です。研修会の講師が「いいです」や「ダメです」と言えるはずありません。
利用したい側が「あなたのイラストを私の学校で作品集の表紙に使わせてください。」という申し入れをして、その作品のイラストレーターが「いい」と答えれば使えるのです。また、「自分の作品を利用するライセンスを与える代わりにその代価をください」という返答の場合もあります。それも別に法律上、代価を払うことが決まっているわけではなく、当事者が契約の中で話し合って決めます。
学校現場では、「著作権料を払う必要があると言われても、そんな予算を取っていない」という声が上がることがあります。予算に組み込まれていないから払わなくて済むのであれば、電気代だって予算に入れなければ払わずに済ませられるのでしょうか。
「予算をとっていないから払えない」というのではなく、契約の当事者として交渉することが前提であることを認識した上で、利用する範囲を抑えるなどの条件を出しながら減額の交渉をするという考え方も必要です。
今後の取り組み方
最近は教員の多忙も社会問題になっています。その状況で「著作権に関する教員研修を全員が必ず受講せよ」というのは酷な話です。しかし、負担を軽減するために講座から削り、学ぶ機会をなくしてしまうようなことは避けなければいけません。関心がある人、研修を受けたいと思った人が受講できるような研修の機会を確保することが、設置者や管理職の姿勢としては必要かなと思います。
原則、例外規定に当てはまらない場合には許諾を得なければいけませんが、「授業のためにいちいち契約交渉をできない」という現場の声もあります。しかし、子供たちに対してより良い教材を作ろうとすると、例外規定の範囲ではおそらく作りきれない場合も多いと思います。
そこで、例外規定にあてはまらない利用方法についても、常識的な範囲であれば一括でライセンスがもらえる仕組みを作ればよいのではないかと思うのです。授業の中で必要な範囲であれば、個別に許諾を得る手間を省くことが可能になる仕組みです。そのため、教育機関が支払った包括的な使用料があらゆる著作権者に分配される仕組みを作ってくれるよう、教育関係者が著作権者に要望していくことが必要です。その際には、当然、教育関係者自らが著作権を尊重した行動をとれるようになっておく必要があります。
学校では日々たくさんの著作物を使います。音楽も小説も美術も映画も、全ての著作権の窓口を一元化できれば、かなり負担は軽減されるはずです。
まずは、教員自身が「無断で使うためにはどうすればいいのか」という意識から「了解を得るにはどうすればいいのか」という意識にステップアップしていくことが重要です。
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本インタビューは2部構成になっています。
後編では、著作権についての授業を展開するうえでの意識したいポイントなどを紹介しています。
ぜひ後編の記事もお読みください。
https://edupedia.jp/archives/33842
プロフィール
大和淳(やまと あつし)先生
福岡教育大学教授(大阪教育大学非常勤講師、愛知教育大学客員教授)
兵庫県出身。文化庁著作権課、文部省高等学校課、浦安市教育委員会、横浜国立大学大学院助教授、国立教育政策研究所総括研究官等を経て、平成28年4月より現職。
教育政策・教育行政とともに著作権教育をテーマに教育研究を行っている。
編集後記
著作者に許可を得る行為は、双方向性の「交渉」であることが印象に残りました。著作権というルールからその奥にある作者の存在を意識することは難しいですが、人と人をつないでいる制度であることを知ることで、著作権への理解が進むと思います。
本記事は、2023年10月現在の内容です。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 吉村里都)
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