著作権教育のススメ ~想像力を育てる~(大和淳先生インタビュー・後編)

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目次

はじめに

 本記事は、2023年7月2日に行った福岡教育大学の大和淳先生へのオンラインインタビューを編集・記事化したものです。教育現場での著作権をテーマに、教育目的で利用する際の著作権取り扱いの現状児童生徒に向けた著作権教育の在り方についてお話を伺いました。
 今回は、著作権についての授業を展開するうえでの意識したいポイントなどを紹介しています。

 本インタビューは2部構成になっています。ぜひ、もう一方の記事もお読みください。
 https://edupedia.jp/archives/34290

著作権教育ってそもそも何?

 身近なアーティストの音楽に関してクリエイターが権利を持っているのと同様に、子どもたちにも、夏休みに描いた絵や作文、絵日記のような著作物があり、その作品に関する権利は子どもたち自身が持っています。

 作った人とそれを楽しむ人が、お互いをリスペクトして尊重し合うということを教えるのが学校での著作権教育です。基本は「他人の物を使うときにはその人に了解をもらおう」という発想・思想からスタートするのだろうと考えています。

著作権教育のポイント

 著作権の細かいことが分からなくても、「人が何かを生み出した場合にはその作品には何らかの価値がある」ということをまず認識する必要があります。

 大学生を例にとると、卒業論文や課題レポートは書いた学生の作品です。もし、それを同級生がコピーして自分の名前で提出しようとしたら、「やめてくれ」と言えるのは当然です。その内容の正誤や、そこに経済的、学術的、芸術的な価値があるかどうかは関係ありません。少なくとも、元々の作者が苦労して考えたり、調べたりして、自分なりに表現したこと自体に価値があるわけです。

 人は、子どもから大人まで、それぞれ著作物を作っていて、お互いを尊重し合う立場にあるという発想にたって、他人の著作物を利用する場合にはその作者から許可を得なければならないのです。これは、プロであろうとアマチュアであろうと同じです。

著作権は難しい!?

 たしかに世間でも、著作権法は難解な法律であるとよく言われています。そのこともあり、「著作権は難しい」と言う教員も多いのは事実です。しかし、教員が法律をマスターする必要はありません。そうではなく、全ての教員が「他人の財産を尊重しよう」ということをベースラインとした意識を持つことが重要なのです。

著作権は怖い!?

 実は、法律の条文に「何々をしてはならない」という規定はほとんど書かれていません。「他人の物を使うときはその人に挨拶しよう」ということしか書かれていないのです。否定も禁止もされていないのにも関わらず、マスコミで著作権のことが話題になるのは、海賊版業者が何億円ももうけて逮捕されたというような事件が多いため、何となく怖い権利なのだろうと感じてしまいます。これが、子どもたちに対しても「著作権はややこしい/面倒くさい」と思わせてしまうような印象を生み出している気がします。

著作権教育のはじめかた

 教員が「A君は著作権を持っているからその権利を保護しないといけない」「このような(細かい)権利がある」などと説明する必要はありません。著作権の「著」の字も使う必要はなく、「作者はいろんな思いがあって苦労をしたり、工夫をしたりしてこの絵を描いたのだよね」のように、子どもたち同士で認め合うことを促したり、担任が創作の苦労や尊さを称えたり、他の子どもにもすすめたりするような声かけをします。

 学校では、理科で観察日記を書いたり、国語で文章を書いたり、図画工作や音楽で様々な表現をしたりする活動があります。だから、著作権だけを内容にした授業を組み立てなくとも、作品の尊さや作者への尊敬を学ぶきっかけは数多く存在します。そこで、様々な教科等の学習の場面で意識的に声かけをしていくことで、「著作権教育」が始まります。

小学校で著作権教育はできる?

 学習指導要領では、中学校の技術家庭科や高等学校の情報に「著作権」という言葉が出てきます。しかし、その技術家庭科や情報での著作権は、法体系を知識として学ぶものです。

 教科書に書いてあることを理解することは必要かもしれませんが、それができれば良いというわけではないのです。

 友達の作品を見て褒めることや、相手に対するリスペクトを教えることは、小学校の段階からできるはずです。

 さらに、小学校高学年や中学校であれば、本屋さんで買った本の背後には、書店や流通事業者、出版社がいたり、さらにその後ろに漫画家や小説家がいたりすることが理解できます。本などを自分が手に入れるまでのプロセスで多くの人が関わって商品化されていることに気付かせることも著作権教育でしょう。

 テレビ番組を観る、漫画を読む、図書館で本を読む、映画館で映画を観る、ネットで記事を見るという日常のさりげない行動から、その向こうにはコンテンツを生み出した存在がいるということを気付かせることができます。

 このように、発達段階に応じて工夫や味付けをしていくことは可能だと思います。

どんなふうに教えたら良い?

 法律の内容を教えなくとも、学校生活の中ではいろいろなコンテンツに触れる機会があります。そのときに「これを作った人はどんなことを思ったのだろうな」と考えられることが重要です。「自分の役に立った」という気持ちがあるからこそ、コピーしたり、ネットに上げたりしたくなるわけで、価値がないと思うものをわざわざコピーしたり、ネットに上げたりするはずありません。だとすれば、ネットに上げる際には、もとのコンテンツを作ってくれたことに感謝をする気持ちを持ち、作者に連絡を取るという段階を踏むべきなのです。「そういったことに気付くようになりましょう」と伝えることも十分に著作権教育だといえるのではないかと私は思います。

教える際の注意点

 多くの教員は例外規定に関心をもっています。クラスで教えているその30人の子どもたち全員が「将来学校の先生になりたい」と考えているのであれば、教員の関心事を子どもたちと共有するのも意味があるかもしれません。しかし、子どもたちは将来、映画監督にもなるかもしれないし、俳優になるかもしれない、コンピューターのプログラマーになるかもしれないし、コンテンツの配信業者の経営をするかもしれません。つまり、教員の関心事と子どもたちに学ばせたい内容とは必ずしも一致しません。

 将来、権利を生活の糧にして生きるのか、他人の著作物を利用することが多い立場で活躍するのか、多種多様な選択肢があるなかで、子どもたちに教えるべきことは何なのかをしっかりと理解し、どのような進路に進むとしても役に立つような学びを提供することがこれから大事になるという気がします。

最後に

「他人のものを借りるときには挨拶しよう」

 鉛筆を借りるとか、消しゴムを借りるとかいうときに、持ち主にひと言断りますが、著作権にはそれと同じ考えが根底にあります。例外規定も知っておけば便利かもしれませんが、本当に理解しておきたいことは、他人のものを尊重しようという気持ちを持つことが大切であるということです。つまり、他人の作品を利用するときは、その作者に敬意を払うことが著作権法の一番の基本なのです。

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 本インタビューは2部構成になっています。ぜひ、もう一方の記事もお読みください。
 https://edupedia.jp/archives/34290

プロフィール

大和淳(やまと あつし)先生

福岡教育大学教授(大阪教育大学非常勤講師、愛知教育大学客員教授)

兵庫県出身。文化庁著作権課、文部省高等学校課、浦安市教育委員会、横浜国立大学大学院助教授、国立教育政策研究所総括研究官等を経て、平成28年4月より現職。
教育政策・教育行政とともに著作権教育をテーマに教育研究を行っている。

編集後記

 著作権を子どもに教える場面において、著作権とはどのようなものか・どのようなときに気を付けるべきかに注目してしまいそうになりますが、なぜ著作権が存在するのかという原点に立ち返って考えた際に著作者の存在に気付かされました。
 情報機器が生活に不可欠な時代だからこそ、自他の権利について学ぶことは有意義になるのではないかと思います。

本記事は、2023年10月現在の内容です。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 吉村里都)

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