読書を推進するための工夫~子どもが楽しむワクワク読書とは?~

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作成者:Hana Yoneyama (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

アニマシオンクラブの前代表で、長年小学校の先生をされていた岩辺泰吏先生に読書の意義、学校や自宅での読書法等を中心にお話を伺いました。アニマシオンクラブは学校や図書館で使える読書指導メソッドを開発、普及している団体です。
(取材日:2020年6月16日)

2 子どもが本を読む意義

子どもが本を読む目的をどのようにお考えですか?

まず一番の目的は広い世界へいざなうということです。今は情報が溢れていて、子どもはあらゆる情報を簡単に手に入れることができます。しかし実際にはとても限られた世界の中に住んでいます。空想の世界まで入れると我々の世界というのはとても広いものですよね。子どもがこの広い世界を知ろうとしているか、ワクワクするような好奇心をもっているかということを考えると、今ある小さな世界で満足してしまっているように思われるのです。

本の世界にはあらゆるものがあります。読書というものは広い世界への窓です。読書を通してこの窓を開こうというわけです。窓を開いて風を通すことで、その風とともに広い世界へ踏み出していくことができるのです。

もう1つの目的は子どもがこの広い世界へ踏み出していくときの心のパートナーを得ることです。大人の旅と違って子どもの旅にはどうしても旅へと踏み出す勇気とパートナーが必要です。未知の世界だからです。本を読むことだって未知の世界への旅です。だから一緒に読んでくれたり、読み聞かせしてくれたりすることで旅の不安を乗り越える導き手となる大人のような、読書という冒険の旅へ一緒に踏み出していってくれるパートナーが必要です。

さらにその読書の世界では物語の中からもこれからの人生という旅を一緒に歩いていってくれるパートナーを得ることができます。読書から得た心の友は裏切りません。一生のパートナーとなって歩いてくれます。

3 近年の子どもの読書傾向

近年の子どもの読書傾向についてお聞かせください。

最近の子どもの好きな本ベスト10のほとんどは『ざんねんないきもの事典』などの類ですよね。要するに好奇心を満たしてくれるだけのテーマパークのような本が人気というわけです。消費文化的な本が子どもにとってその時々の欲求を充たしているのです。

それに対して『エルマーの冒険』や『冒険者たち』などの物語世界を好きな子どももいて、二極分化している傾向があります。

学年別に見ていくと、まず小学校に入る前から1、2年生の間はやはり基本的に絵本です。次に3、4年生が1つの山で、ここで本格的な物語の読書に入れるかどうかが大きいです。この時期を大事にしながら物語世界へいざなっていくことが大切です。テーマパークでの消費ではなく、空想的な想像力を育んでいくような読書が望ましいです。できれば『エルマーの冒険』や『ネコのタクシー』などの物語を月に2、3冊読み合いましょう。そうして培った力を踏み台にして5、6年生になったらハリーポッターのような冒険物でもいいのでファンタジーに入っていき、中高生になったら好きな作家やテーマの作品を自分で選んで読んでほしいです。

4 読書を推進するための実践事例

アニマシオンクラブが提供する指導例にはどのようなものがありますか?

アニマシオンの手法の特徴は少しゲーム的、クイズ的な方法を用いることです。

音読宿題の工夫

通常音読宿題では子どもに対して「今日はおうちで『ごんぎつね』のここからここまでを読んできてくださいね」と宿題を出します。その時にただスラスラ正しく読めるようにさせるだけでなくて、それを読んで何か友達に対する質問を1つ考えてきてもらいます。翌日、先生が「質問を考えてきた人はいますか?」と子どもに質問をします。そうすると、子どもが考えてきた質問による子ども同士の学び合いになります。先生が「明日は次のところを読んできてくださいね」と言ったときには、子どもは「よし。明日は友達をびっくりさせるような質問を考えてこよう」と思いながら音読をします。子どもは楽しくなるでしょう。

また、先生側からして一番簡単なのは「ダウトを探せ」です。これはどの子どもでも積極的に参加しやすい方法です。先生が「みなさんここからここまで読んできましたよね。今から先生が読むのでどこか間違ったらダウトって言ってくださいね」と言います。「ごんは、ひとりぼっちの小ぎつねで、しだのいっぱいしげった森の中に、あなをほって住んでいました」というところを、「ごんは、ひとりぼっちのきつねで、深い森のあなに住んでいました」と読みます。すると、子どもたちは「ごんは小さなきつねだったんだよ」とか、「しだのいっぱいしげった、じめじめした所にいたんだ」「ひとりぼっちだから、自分であなをほって住んでいたんだ」などと指摘してくれます。「意味のある間違い」であることが必要です。子どもは注意して聞いたり、どうしてそう間違えたらダメなんだろうかと考えたりします。そうすると先生が質問する時よりも子どもに何かを発見させることができます。

ゲーム的、クイズ的な感覚を取り入れて一緒に教室にいる友達を取り込んでいくことによって誰でも参加でき、明日の授業が少し楽しみになる。個人で深く読むというよりも、このような方法で友達を心の中に取り入れながらやっていく。あるいは友達と楽しみながらやっていく。このように自分の中に他者を取り入れていくような学びや読書がとても大事です。

5 先生ができる具体的な指導法

子どもが読書をするきっかけ作りには何がありますか?

1つ目は本のある環境作りです。教室や家で手の届くところに本があるようにするということです。現在は休校により図書館が休館しており、残念です。その解決策として例えば、学校の入口に図書館の本を並べ、好きな本を持っていってよいとしている学校があります。今は大人も子どもも家でジーっとしています。そうした状況だからこそ「本を1冊持って帰ってもらおう」としています。

2つ目は見せかけでもいいので先生が本を好きであるということです。本の話をするときは嬉しい顔でいてほしいです。

3つ目は継続です。根気強い読み聞かせやブックトークをすることが大切です。はじめは絵本からでよいのです。次に『エルマーの冒険』など読むのに1週間ほどかかる連続物、『マヤの一生』などさらに深みのある連続物へと発展させていけばよいのです。そうすれば子どもは、明日の読み聞かせをすごく楽しみに待ってくれます。最後に犬のマヤが痛めつけられて必死に帰ってきて大好きな次郎の足の上で亡くなるとき、皆涙を流して聞いてくれます。そうすると先生もやりがいを感じ、継続することができます。

本の選び方でアドバイスできることはありますか? 

子どもの好き嫌いに介入することはできません。絵本ばかり読む子どもに物語を読みなさいというのは無理です。だから物語はどうおもしろいかを伝えるためにクイズをしたり、初めを読み聞かせて「この物語はその後どうなるでしょうか」と途中の絵を1、2枚見せ、物語の先を友達と一緒に想像させたりします。実際の答えは言いません。「続きは図書館へどうぞ」と言えば、子どもは図書館へ行きたくなります。

また、教室の雰囲気作りがとても大事です。例えば先生がいろいろな本を紹介してみるのです。100円ショップで買える小さなイーゼルに「今私が読んでいる本」と書きます。教室の机の上にこれを置いて、今読んでいる本をその上に置きます。1、2年生だったら「今日読み聞かせする本」と書いて立ててもよいと思います。先生が今読んでいる本を紹介すれば子どもは読書に関心をもってくれます。何か特別なことをしなくても、ほんのちょっとの工夫をするだけで子どもは先生と同じ本を読んでみたいなと思うようになります。

それから朝の会において友達同士で今読んでいるおもしろい本を紹介し合うこともできると思います。これを繰り返せば友達同士で「それ貸して」というやり取りが増えるはずです。友達同士の相互啓発の力は大人や先生よりもずっと大きいです。

学校で出される読書の宿題についてどう思いますか?

本を嫌いにすると思います。私も、読書競争をしたことがあります。読んだ本を積み重ねて、身長の分だけ読もうとさせました。しかし、あとがきのみを読んで読んだことにしていた子どももいました。それでは本当に本を好きにはなりません。

「本を読もうね」と言ったら宿題を減らすべきだと思います。学校全体で話し合いをし、例えば「9月は読書の月にしましょう。だからこの月だけは宿題を減らしませんか?」と提案をしましょう。毎月1回、先生方が「読み聞かせの部屋」としていろいろなコーナーを開き、児童は好きなコーナーに行ってお話を聞く時間をもっている学校もあります。このようにすれば子どもは必ず変わります。

自宅での読書において工夫すべきことはありますか?

学校でよくある宿題に、音読宿題があります。何度も繰り返し音読させることが多いですが、毎日繰り返すと、保護者も子どもも飽きてしまいます。それなら、3回目からは自分の好きな本を保護者に読んであげたり、互いに読み聞かせしたりする方がいいと思います。そうすれば「保護者に本を読んであげる」という目的ができ、本を借りる楽しみが増えます。保護者と学校が繋がることができると思います。

一番大事なことは、保護者が担任の先生のやることを理解しバックアップすることです。近年は、保護者による学校や先生に対する批判が多いです。保護者は先生が一生懸命やっていることに対して援助はしても、そのことを通して先生が何をしようとしているかは理解しようとはしません。特に、本を好きな子に育てるというのは根気のいる仕事です。だから先生を応援しようと思うなら、「今日は先生どんな本を読んでくれた?」「おもしろい本だったなら今度図書館から借りてこようか?」「同じ作者の本を探してこようか?」といった声かけをすると、子どもは必ず伸びていくでしょう。

6 まとめ

読書を通してどのような子どもに育ってほしいですか?

人生を歩む上で問題が生じた際、自ら解答を求めなければなりません。友達が解答を教えてくれるのであればよいですが、そうではないことの方が多いです。本の世界がいろいろな解答、希望、生き方、世界への興味を与えてくれます。

このコロナウイルスによる自粛期間はとりわけ人との付き合いやおしゃべりが閉ざされ、孤立した状態になりやすいです。読書はある意味孤独な作業であると同時に、心を広げる作業でもあります。読書を通していろいろな人と心の会話をし、世界を探検することができます。

世界中で、不安のあまり自粛に従わない人を攻撃するなどの事態が発生しました。そうではなくて科学的に正しく対処し、人の心や痛みや悩み、喜びを共有していくような心の想像力が必要です。文学によって他者と連帯していくような心を育んでいくことが大切だと思います。

多忙な先生が読書に時間を割くことができないときはどうすべきですか?

先生は本を全部読む必要はないのです。子どもに協力してもらえばよいのです。子どもと一緒に歩けばよいのです。子どもたちのずっと前を歩く必要はありません。5年10年とかけて自分という“教師”をつくっていくのです。仕事で疲れていると「自分は何者だ」という問いを失ってしまいます。疲れた先生になると怒るだけの先生になります。そうではなく本を語る先生になってほしいです。

読書指導をする現場の先生に対して一言お願いします。

初めの一歩が大切です。子どもは必ず先生の手を離れます。小学校の先生は中学校に上がった子どもを指導することはできず、中学校の先生も高校に上がった子どもを指導することはできません。世の中に一緒に出ていくことはできないのです。しかし、心の友として存在すれば一緒にいることができます。先生の役割は、子どもが自分の道を拓けるように励ますことです。そのためには本の世界を知る機会を提供することが大切です。

あまんきみこさんの『車の色は空の色』の中に、優しいタクシードライバーの松井さんが登場します。しかし、「松井さんは優しいドライバーだね」で終わりではありません。

作品は人のいろいろな生き方、触れ合い方を教えてくれます。作品を読むことは広い世界への窓です。つまり、歴史であれ理科であれ算数であれ、教材はその世界に踏み込むための入り口にすぎません。その教材で全てを教えることはできないのです。

『ごんぎつね』では人間と動物の間で生じる、言葉が通じない者同士の悲しさが描かれています。「他者とどう理解し合えるか」という問題は『ごんぎつね』に限らず世界中で起きています。だから『ごんぎつね』を授業で扱うことは現代の世界へ踏み込んでいく第一歩となるのです。「そこから先は自分たちで新美南吉さんの本をもっと読んでこの世界をもっと知ってね」と導いて背中を押すのです。

読書指導は子どもが広い世界へ踏み出すために必要な希望と勇気を与える、最もよい最も確かなものです。先生たちはそのことを踏まえて、根気強く指導していくべきだと思います。

子どもが本を読む一番の動機は、「先生のように本をたくさん聞かせてくれるのはいいな」「私も先生のように本を読みたいな」というような先生に対する憧れです。学ぶ意欲、生きる力も、憧れが育てるのです。先生はそのような自覚をもって、子どもの前に立っていかなければなりません。

7 プロフィール

岩辺泰吏先生

1943年生れ。神戸大学卒。1967~2004年東京都小学校教諭。2010~2014年明治学院大学心理学部教授(国語教育)。1997年より読書のアニマシオン研究会を結成し今日に至る。主著『ぼくらは物語探偵団~まなび・わくわく・アニマシオン』『はじめてのアニマシオン~一冊の本が宝島』(以上、柏書房)『子どもの心に本をとどける 30のアニマシオン』『楽しむ・うたがう・議論する~アニマシオンで道徳』(以上、かもがわ出版)他多数

8 著書紹介


9 編集後記

読書の大切さを改めて考えることができました。この記事が先生方の読書指導のお役に立てたら嬉しいです。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 来間れいな、米山)

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