香りと言葉に着目した生活科の授業「カオリウム実験教室」とは(SCENTMATIC株式会社)

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目次

1 はじめに

本記事は、2021年12月21日に行った、SCENTMATIC株式会社の渡辺晋さんと佐々木真紀さんへの取材をもとに作成したものです。

SCENTMATIC株式会社は、香りと言葉に着目した新たな体験づくりを行っている企業です。

今回は、SCENTMATICが開発しているAIシステム「カオリウム」を活用した小学校低学年向けのプログラム「カオリウム実験教室」についてのお話を伺いました。(SCENTMATIC株式会社のHPは、こちらです。)

2 SCENTMATIC株式会社について

SCENTMATICが目指している世界観は、「世界にあふれる香りを日々の豊かさとして感じられる未来」です。香りはどこにでもありふれていますが、現代人は必ずしもその香りを意識し、享受しきれているわけではありません。例えばスマートフォンを使用している時は、画面を目で見て、音声を耳で聞くというように、視覚や聴覚が優位になっています。香りを日々感じられる豊かさとしてより享受できるようになれば、より素敵な世界になると考え、このようなビジョンを掲げています。

私たちが扱っている香りは、香水などの香りものに限らず、コーヒーやワインといった食べ物や飲み物、花など自然のものにも及んでいます。これらの香りがより人々の心を動かすきっかけになるにはどうすればよいかを考えています。少しかたい言い方をすると、私たちは「香りのビジネスデザイン集団」です。私たちは自分たちで香り製品を作るというわけではなく、香り製品を取り扱っている企業や学校など、香りで何かをしたいと思っている方々に対して、AIを活用したものをはじめとするITシステムを用いて、こうすればその商品や体験を実現できるのではないかと提案する形で、ビジネスをデザインしています。

3 香りと言葉

私たちはビジネスをデザインするうえで、「香りの言語化」というものを採用しています。漫画や歌は、絵や音楽に言葉が加わることで、それを見る人や聴く人がよりその世界観に浸ることができるようになっています。このように、言葉は人の感情をより動かしたり、想起する気持ちを加速させたりできるということに私たちは着目しました。言葉は、五感がもたらす体験を変えることができます。これを香りにも応用したら、何か新しい体験ができるのではないかという考えから、私たちの体験づくりが始まりました。

4 「カオリウム実験教室」について

「カオリウム」とは

「カオリウム」とは、「香りから言葉へ」「言葉から香りへ」変換する技術を搭載した、どのビジネスにも活用できるAIシステムです。例えばデパートで数ある香水のなかから1番好みのものを見つけたいときに活用できます。カオリウムは、お客さんが嗅いだ香りにどのような特徴があるかを言葉にして見せることで好みの香りを探す手助けをします。具体的には、お客さんがその香りを「清楚」だと感じたら「清楚」と書かれたボタンをタップすると、「清楚」という特徴を持った別の香りをまたカオリウムが教えてくれます。このように言葉と香りを行ったり来たりしながら、自分の「好き」を深掘りするという体験をつくりました。香りを言語化したり、言葉と香りを行き来したりすることで、これまでなかなか楽しみきれなかった、または理解するのが難しかった香りというものを、より身近に親しみやすいものとしてお届けします。

「カオリウム実験教室」ができるまで

私たちが香りを楽しむ人の裾野を広げることで、香りの市場はより拡大していくと思います。香りに触れる機会を増やすために一番良い場を考えていた時、小学校の生活科の教科書を編纂している総本山の愛知教育大学の野田学長にカオリウムを体験していただく機会がありました。その際に、ちょうど視覚や聴覚はあるが嗅覚のコンテンツはないと悩んでいた野田学長に、生活科にある「みつける・くらべる・たとえる」という単元の授業にカオリウムは最適ではないかと言っていただきました。学校教育は多くの人が体験するため、生活科の授業に香りを用いた活動を取り入れることは、楽しむ人の裾野を広げるという意味では最もよいと考えました。

「カオリウム実験教室」の目的

「カオリウム実験教室」の目的は、まずシンプルに自然の香りを楽しむことと、それに加えて日常にあふれる香りに対する感性を高めることです。香りの感じ方は人それぞれで、正解はありません。それを知り、香りを楽しむことを所作として学んでもらうことができればよいと考えています。また、人の感じ方の違いをお互いに伝えあう、コミュニケーションの楽しさを学ぶことも大事だと思っています。

「カオリウム実験教室」の流れ

導入:五感についての説明

小学校低学年向けのものなので、まず導入として、五感とは何かを伝えます。五感には視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の5種類があり、その中の鼻で感じた匂いが「嗅覚」という今回のテーマで、まずは匂いを自分の言葉で表してみる体験をこれからすると説明します。

香りを自分の言葉にする

グループに分かれてそれぞれのグループに3つの香りの瓶を配ります。グループ内で香りを嗅いで、ひとまず自分が感じた言葉をどのような言葉でも良いので発表してもらいます。その時は、子どもたちからは「臭い」や「花っぽい感じ」のような単純な言葉が出てきます。

カオリウムで香りを表す言葉を見る

「カオリウムという機械があるから、それでどのような言葉が出てくるか見てみましょう」と言って、香りを表す言葉の候補を見ます。

カオリウムに出てきた言葉から3つ選んで発表する

カオリウムに15個くらいキーワードが出てくるので、自分が「これだ」と思う言葉を1つの香りに対して3つ子どもたちに選んでもらいます。その時カオリウムに出てくる言葉は、「甘い」「リラックスする」「かわいい」「うきうきする」などです。3つ選んだら、1人ずつ発表してもらいます。

  • グループで同じ香りを嗅いでいても、選んだ3つの言葉がすべて同じになるということはほぼありえないです。そうするとみんな同じ香りを嗅いで同じ言葉を見ているのにもかかわらずこれほどにも感じ方が異なるものだということをまず学ぶことができます。
  • 低学年向けのカオリウムの授業では、「嫋やか」「芳醇」「レトロ」といった難易度の高い言葉は外しています。しかし、知っている言葉だけではなく、香りと合わせて言葉も覚えてもらいたい意図で、「大人っぽい」「色っぽい」のような少し難しい言葉も残すようにしています。

自分たちの嗅いだ香りが何の香りだったかを知る

瓶の香りがどのような種類の香りだったかを教えます。

  • 花や葉、木の根から抽出、木そのもの、色々な種類の色々な香りがあって、その材料や原料も色々なものがあるのだということを学びます。

最後に、小さな香りのボトルをお土産で渡して、どういう風に感じるかを家で家族と比べてくださいと言って終了です。

体験した子どもたちや参加者の声

以前カオリウムのプレ実施を行った際に、「ラベンダーの香りは好きだけど、答えを言われるまでラベンダーの香りって分からなかった」「最初からラベンダーの香りと知っていたら、別の言葉を記入していたと思う」と言っていた子どもがいました。最初から持っていた意識と実際に嗅いでみて出てきた言葉に違いがあること、また普段からラベンダーをリラックスできる香りと認識していると、ラベンダーの香りと知っていてその香りを嗅いだ場合、リラックスに関連した言葉しか出てこないことが分かりました。「一度その香りの名前を取り払って香りを嗅いでみると、全然違うワードが出るのだということに気づけたのは新しい体験だった」と他の参加者の方にも言っていただくことができました。

生活科以外でカオリウムを生かすことができる教科・活動

生活科以外では、国語の授業において、季節の香りから感じられる言葉を出して物語を作るという授業で活用できると思います。例えば夏休みと聞いて思い浮かぶイメージや言葉を突然子どもたちに出させると、似たようなイメージや言葉が多く出てきてしまいます。そこで、香りを嗅いだうえで物語を書くことによって、人それぞれ出てくるイメージや言葉が異なり、色々な作品が出来上がってくるのではないかと思います。

また、お互いの感性の違いを知る、ダイバーシティーという観点から総合的な学習の時間にも生かせると思います。人は生まれながらにしてそれぞれ香りの感じ方が違います。また、人生経験によっても香りの感じ方は異なります。他者が生まれながら持っている香りの個性や人生経験で得た香りの個性を知ることが、ダイバーシティーへの理解に繋がっていくと思います。

5 今後のカオリウムと学校教育の理想

公立小学校で広く採用していただいて、より多くの子どもたちが香りの感じ方の違いや楽しみ方などを体験できるようになってほしいです。子どもの香りに対する反応は、「臭い」と「よい匂い」の2つに大別されてしまう印象を受けます。これでは強い香りや知らない香りと出会った時も、この2つにしか分類できません。カオリウムの授業で様々な香りを嗅ぎ、様々な表現・言葉を覚えていくことで、新しい香りと出会った時に、それを自然に楽しめるようになっていってほしいです。これからは、カオリウム実験教室とはまた違う形でのカオリウムを活用した教育プログラムも展開していきたいです。

6 全国の先生方へメッセージ

私たちは、普段は子どもたちに接することが少ないので、子どもたちの感性や癖みたいなものがあまり分かっておらず、「こういう風にしたら聞いてもらえる」という感覚も掴めていません。大人が楽しいと感じるものは私たちも実感して作ることができますが、子どもがより楽しむためにどうなるべきかに関しては、常に子どもたちと接している先生方から、一緒に授業や活動を作っていくうえでたくさんアドバイスが欲しいです。子どもの注意の引き方や、興味を持ってもらえるキーワード、どのタイミングで何をすれば動いてもらえるかなどを授業や活動に入れ込むことができたらよいと思っております。また、学校によって雰囲気が異なるので、その学校に合った進め方を先生方と話し合って授業や活動を展開していきたいです。

(SCENTMATIC株式会社のHPは、こちらです。)

7 編集後記

今まで気づくことができなかった香りと言葉の良さに気づき、新たな授業の可能性を見出すことができた取材でした。子どもたちの豊かな感性やコミュニケーションを引き出す楽しい授業が多く実践されることを願っています。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 川村)

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